大魔術師の幻影となる者   作:蓮太郎

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2.砕ける者

 

「くそっ、何でこんなことに…………」

 

 2番目の男性操縦者として監禁され、生まれて初めてまともにISに触る北川英二は悪態をついていた。

 

 採血やら画像検査やらで引き回された挙句、いきなりISを操縦しろという話である。

 

 まず第一に英二はISについて殆ど教育を受けていない。

 

 それもその筈、将来的に軍人やISに関わる人々くらいしか直に学ぶ機会がないのだ。

 

 映像馬鹿とはいえ一人で映画を作れるほど優秀な英二でも扱い方なんて全て分かる者ではない。

 

 出来る限り教科書や論文から知識を得たが、実際に扱うのとは勝手が違う。

 

「だからって、訓練も無しにいきなり試験は舐めてるだろ。しかも実戦形式…………」

 

 使ったこともない凶器を早速使えと無茶振りを受け、試験ISを装着するだけでも四苦八苦しているのに、ライフルやらを持って相手を撃てと。

 

 実物の銃器を持つことすら初めてなのに人を撃てというのか。

 

「サバゲーの経験を活かせるか?でも相手はIS学園の教師って聞いたし、死にはしない、よな?」

 

 ISの絶対防御という最後のシールドが命綱という事を知ってはいるが、実際に体験しないと分からない。

 

 最低限の動かし方を学び、訓練場へおぼつかない低空飛行で向かう。

 

 初めてだから不格好なのは仕方ないと割り切り、試験官が待つ訓練場へ降り立った。

 

「え、えっと、北川英二君ですね!」

 

「他に誰に見えますか?」

 

「あ、あう、でも他に男性操縦者は居ないし…………」

 

「もっとしっかりしてください」

 

 本当に試験官なのかと思ってしまうほどしどろもどろになっている女性を見て肩を落とす。

 

 本当に最低限の試験のつもりなんだなと思いながら改めて試験内容を確認する。

 

「シールドエネルギーが切れるまで互いに攻撃し続ける、それでどれだけの時間を耐えることが出来るか、でよかったんですよね」

 

「は、はい!そうです!なので遠慮せず私を倒そうとしてくださいね!」

 

 試験にしては物騒な言い方であるが、素人である英二にとって全力でぶつかれる。

 

 何かあった時が怖いが、今この瞬間に価値を見出さなければならない。

 

 世界初の男性操縦者はかの世界最強と名高い織斑千冬の弟という最高の後継人がある。

 

 それに対して英二は何もない。いつどこで誘拐されてもおかしくない、下手すると解剖されていた可能性だってある。

 

 そういう意味では感謝はしている。生きていなければ夢は追えないのだ。

 

『双方位置についたな。ブザーが鳴った瞬間に開始だ。心してかかれ』

 

 スピーカー越しに誰かの声が聞こえたが、それが誰なのかは英二は知らない。

 

 まさか、世界最強がこの試験を見ているだなんて思っても居ないのだ。

 

 いつでも射撃できるように構え、ブザーが鳴る時を静かに待つ。

 

 映画作りでも撮影開始の瞬間から動き出すために構えていることは多い。

 

 そのためライフルの引き金自体はいつでも弾けるようにはしていた、少なくとも英二はそのつもりだった。

 

 ヴィーーーーー、とブザーが鳴る。試験官に多少の躊躇いはあったものの引き金を引こうとしたその時であった。

 

 既に、試験官が目の前まで突撃してきていた。

 

 種を明かすとブザーが鳴った瞬間にブーストを吹かして急接近しただけという単純な話ではある。

 

 しかし、反射速度を差し引いても一瞬で距離を詰められるとは思いもしなかった英二は動けずにいた。

 

 がん、と構えたライフルをはじかれ大きく隙を晒した胴体に慣性を利用したタックルが炸裂する。

 

 悲鳴も上げる間もなく、ISの操作すら出来ずにぶつかられた勢いのまま壁へと激突する。

 

 試験官はタックルを決めた時点で離脱しており、常時照準を英二に向けていつでも射撃できるように構えている。

 

「…………あ、あのー?大丈夫ですか?」

 

 だが、壁にぶつかった時点で英二は動かない、いや動けなかった。

 

 あまりにも一瞬の出来事過ぎて脳が処理できていないのだ。

 

 思っているよりも衝撃はないが視界の移動や起こった出来事、そしてこれから起こることを即座に予測してしまった時点であがくことすら無意味と感じてしまったのだ。

 

 それから10秒もしないうちに英二が乗るISのシールドエネルギーが尽きたブザーが鳴りひびく。

 

「え?え?」

 

 まさか一瞬で終わるとは思っても居なかった試験官であるが、今更彼女のことについて紹介しよう。

 

 彼女は山田真耶、普段はおどおどしていてあがり症ではあるが、あの織斑千冬に一目置かれる程の腕前を持っている。

 

 あがり症が祟って先日に世界初の男性操縦者の試験をした際にずっこけて自爆するという大ポカをやらかしたという土台もあり、今回は逆に気合が入り過ぎて一瞬で終わらせてしまったのだ。

 

『…………真耶、後で話がある』

 

「ひえ、ひええええ!?」

 

 若干の怒気が込められた音声から滅茶苦茶叱られることを予見してしまった試験官は非常にビビって脂汗を滝のように流すが、壁にめり込んでいる状態の英二はどうでも良かった。

 

「これで試験って、これからどうするんだよ…………」

 

 勘違いとはいえ、IS操縦には最低でも一瞬で多くの動きが出来ないといけないことを見事に叩きこまれたことで戦意喪失し動く気力もなくなっていたのだ。

 

 その後、試験はこれだけという何とも言えない事態に多方面が苦い顔をするような結果で終わってしまい、情報統制のためにパソコンにすら触れることが出来ない英二にとってただ無意味に過ごす時間が入学まで増えるのであった。

 

 

 




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