最近、担当バのステイゴールドと距離が近すぎる気がする。
『私』に抱きついてきたとき、彼女はいつも羨ましそうな顔をする。
彼女からすれば、豊かな胸に顔を埋めるのが好きらしい。
ウマ耳がご機嫌そうに揺れ、ウマ尻尾もパタパタと動いている。
息が荒く顔が真っ赤になる時があるので、調子が悪いなら寮に帰るよう勧めるのだけどいつも拒否される。
「あんたはいつも柔らかいし、本当にいい匂いがするな…。」
そう言いながらいつまでも子供みたいにくっついている。
彼女はさりげないつもりだろうけど、割といろんなところを触られているように思う。
手はもう当たり前のように繋いでくるし、抱きしめた時腰に回された手が不埒な動きをしている時もある。
いくら親しいからといって、普通は体を触ったり抱きついたりはしない。
だけどいつも「女同士なんだから別にいいだろう。外国なら普通だぞ?」って言いくるめられてしまう。
最近は学園を抜け出す常習犯になって、寮の点呼を終えてから『私』のところにやってきては一緒のベッドに入って寝ていくのが日常になっている。
その、″寝る″とは言ってもそういう意味ではないのだけれども。
男の人とそういう関係になったことがない『私』としては、ステイゴールドと同衾するのが特別なことだとは全く思っていなかった。
軽い気持ちで合鍵を渡したのが良くなかったのだろうか?
表沙汰になる前に何とかしなければいけない、と思いつつ、手をこまねいていたある日のこと。
実家の母からお見合い写真が送られてきていた。
「学園のトレーナーとして働くのもいいけど、やっぱり女の幸せは結婚よ」と、いつもの決まり文句を添えて。
一応中身は確認したが、真面目そうな外見の男性が一張羅を着て写っていた。
同封された釣り書きにも、非の打ち所がない経歴が記されている。
…結婚、か。
学園内では暗黙の了解だが、トレセン学園の男性トレーナーはほとんどの場合担当バと結婚する。
トゥインクルシリーズを走り切る三年間の間に築かれた絆はかけがえがなく、お互いを唯一無二の存在だと認識するのだ。
ならば、『私』は?
女性トレーナーの場合、まず
絶対数が少なすぎる。
新人の『私』を含めても片手の指で事足りる。
そして『私』以外の女性トレーナーは全て既婚者で、サブトレーナーしかいない。
トレーナー業は激務なので、家庭を持っていれば担当を持つことはほぼ不可能に近い。
現状として、担当を持っているのは新人の『私』だけなのだ。
ならば、ステイゴールドがトゥインクルシリーズを走り切った後はどうする?
彼女のことはもちろん大事だ、流されてルール破りの常習犯と化してしまうぐらいには。
だけど、女性とウマ娘で結婚なんてできるわけがない。
そして彼女が引退した後、頭のネジが外れた『私』は次の担当を持てるのだろうか?
彼女のと日々が楽しくて、全く先のことを考えていなかったけれども。
もしかしたらそろそろ潮時なのかも知れない、一旦頭を冷やして考えてみるのもいいだろう。
そう考えた『私』は彼女に断りなく、自宅の鍵を新しく取り替えることにした。
次の日の黄昏時、『私』の自宅のドアを激しく叩く音がする。
「誰?近所迷惑になるからやめてください!…ってステゴ!?」
叩いていたのは私の小柄な担当バ、黒い髪と逆F字の流星、夕闇を溶かした瞳のステイゴールドだった。
普段いつも飄々として捉え所のない彼女だが、今日ばかりは勝手が違った。
とてもとても怒っている。そう、背後にゆらめく青い炎が感じられるぐらいに。
ウマ耳は怒りを示すように激しく震え、ウマ尻尾は逆立っている。
荒々しく部屋の中に入ってきて、飛びかかってきて『私』を追い詰めた。
「あんた、自分が何をやっているのかわかってるのか?」
「な、何って…。」
無意識のうちにお見合い写真を隠そうとした『私』の行動を見逃さず、素早くそれを取り上げた。
「…ふうん、T大卒のエリート様とお見合いか。散々私の心を持て遊んでおいて。」
ステイゴールドはあっという間にお見合い写真を引き裂いた。アルバム風に仕立てられていたそれは、人の力では引き裂くことなどとても不可能だ。
だけど、男性トレーナーですら敵わないウマ娘なら。
『私』はあっという間に床に押し倒され、ステイゴールドに組み伏せられてしまった。
彼女はウマ娘としては小柄だけれど、『私』とはそんなに身長差はない。
みじろぎできないぐらい強い力でねじ伏せられて、息をするのさえも難しい。
「私に無断で合鍵を変えた理由はあの見合い写真か?」
声音自体は冷静なのだが、彼女の青い炎は更に燃え盛る。
だからこそ、より恐ろしい。
「ち、違っ…、聞いてステゴ!」
言い訳しようとする『私』の口を、彼女は猛々しいキスで塞ぐ。
「散々あんたが私を追いかけてきたんだろう?私があんたを追いかけてなぜいけない?」
「だって…、ステゴとは結婚できないじゃない!」
思わず吐露した『私』の本音を聞いたステイゴールドの瞳に、爛々とした黄金色の光が宿る。
それは紛れもなく、獲物の肉を目にした獰猛な肉食獣のそれで。
「あんたは知らないだろうが、海外には同性同士でも結婚できる国がある。卒業までは我慢しようと思っていたが、もうやめた。今からあんたをくまなく喰らい尽くしてやる。」
「やめて!」
抵抗してもステイゴールドは全く頓着なく、『私』を食べ尽くした。
たまらなくなって泣き出しても彼女は何ら痛痒を感じないどころか、さらにいたぶるのが加速しただけだった。
何も考えられなくなって意識が薄れゆく時、彼女がひどく悲しそうな顔をしていたのを見たのが最後だった。
その後トレセン学園から一人の女性トレーナーとウマ娘が消えた。
ウマ娘なら誰もが夢見る、トゥインクルシリーズの道半ばで。
トレーナー宅の室内が多少荒らされた形跡こそあったものの貴重品類はそのまま残っており、事件性はないと判断された。
家族や学生関係者は二人を手を尽くして探したが、手がかりは全く得られなかった。
北海道にいる、香港にいる、ドバイにいるなどの噂が流れたものの行方は杳として知れなかった。
時が経つにつれて諦めが深まり、そういう事があったことすら忘れられていった。
数十年後、トレセン学園の付近で一人の老婦人と一人の小柄な老ウマ娘が並んで歩いていたのを目撃した者がいた。
その二人は、学園をひどく懐かしそうな眼差しで見つめていたという。
拙者ハピエン厨侍、はじめてかいたGLがヤンデレもので震える