白髪美少女の財布だったはずの俺、なぜか通い妻みたいに尽くされている。   作:おもちまるまる

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第2話

 

 次の週末。

 

「くそっ……なんでこんな時に……っ」

 

 今週は仕事でクレーム対応やらトラブルやらが立て続けに起きた。
 

 結局、全部を金曜日まで引きずってしまった。

 

 今日は兎姫の誕生日。

 勇気を持っておでかけを選択したことが仇となった。約束していた時間より、すでに二時間以上遅れている。

 俺は駅前へ向かって、必死に走っていた。

 

「はぁ……はぁ……っ」

 

 運動不足のせいか、仕事疲れか。
 

 息が異様に上がる。肺が焼けるみたいに苦しい。

 冬だというのに、身体はやけに熱い。
 

 頭がぼんやりとしてきた。

 

 どうして俺、こんなに必死になって走っているのだろう。

 

 どうせもうとっくに帰ってしまっているだろうに——。

 

「兎姫……っ!?」

 

 人混みの向こうに、見慣れた白い髪を見つけてしまう。
思わず、手を挙げた。

 

 なぜ、いるんだ。

 寒い中、俺なんかを待っている。

 

「ごめん、待たせた———あ゛ッ!?」

 

 次の瞬間。

 足がもつれた。

 勢いそのまま、前のめりに倒れ込む。

 

「おにいさん!?」

 

 驚いた声。

 そして、そのまま兎姫の胸元へ飛び込んでいた。

 

「わ、わ、っとぉ……!」

 

 兎姫は慌てながらも、なんとか俺を受け止める。
 

 俺は体重が全部かかってしまわないよう、必死に踏ん張った。

 

「……ごめん」


「いえ。役得ですね、おにいさん。……あれ?」

 

 微笑んでいた兎姫が、ふと首を傾げる。

 

「……身体、熱いですよ」


「え? ああ、走ってきたから……」


「そうじゃなくて……顔色も悪いし……熱っ」

 

 額に触れた白い手が、異様に冷たく感じた。気持ちいい。

 

 だけどその時、兎姫の表情が変わった。

 いやら、まるで仮面が剥がれ落ちたみたいに。あのふざけた笑みが抜け落ちたのだ。

 

「これ、ぜったい熱ありますよっ」


「はぁ? い、いやいや。ないって。ないない」

 

 慌てて首を振る。

 

「熱なんて、ほとんど出したことないし」

 

 健康なことくらいが取り柄だ。
 

 こんな日に限って熱が出るはずなどない。

 

「じゃ、行こう」

 

 兎姫から身体を離し、無理やり歩き出す。

 が、視界がぐらりと揺れた。

 

「あれ?」

 

 足元が定まらない。

 

「はは……もう酔っ払ってんのか?」

 

 笑って誤魔化しながら、なんとか踏みとどまる。

 

「……帰りましょう」

 

 低い声。

 振り向くと、兎姫がいつになく真剣な目で俺を見ていた。

 

「いや、今日は——」


「そんなこと、どうでもいいんです」

 

 きっぱりと言い切られる。

 強い意志が混じったような視線だった。

 

「……肩、お貸しましょうか」


「いらんって」


「じゃあ、手を引きます」

 

 返事をする前に、手を掴まれた。

 

 ぎゅっと。

 細い指。
 

 冷たいのに、じんわりと温かい。

 その感触に、逆らえなくなる。

 

「……ごめん。ほんと」

 

 気づけば、俺のアパートの前まで来ていた。
 

 手は、ずっと握られたままだった。強く、もう2度と離さないとでも言うかのように。

 

「いいんですよ。これくらい」

 

 兎姫は、やわらかく微笑む。

 

「それに……言ったじゃないですか」

 

 ようやく思い出したみたいに、少しだけ、茶目っ気を含ませながら。

 

「兎姫ちゃんをオトナの女性にしてあげてくださいって」

 

 ドアの前で、俺を見上げる。

 

「こんな時間に、年上の男性のお部屋に入っちゃうんですよ?」

 

 白い髪が外灯に照らされて淡く煌めいた。

 細められた真紅の瞳はまっすぐに俺を射抜いている。

 

「それって、とっても……オトナです♪」

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