北宇治高校サックスパートにようこそ!   作:熱々の冷やし中華

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息抜きに書いたので投稿。評価高かったら続くかも。


Q.入学式で数年ぶりに幼馴染に出会った時の対処法

 京都府立北宇治高校。

 京阪宇治線の六地蔵駅から徒歩10分弱、お世辞にもなだらかとは言えない坂を登り続ける事でやっと辿り着く。

 進学実績は中の上くらい、部活は放送部が名を上げてる以外は特に特徴はない。いや、府内では珍しくセーラー服という特徴もあるが、生憎3年間は学ランにお世話になる自分には関係ないことだ。

 良くも悪くも普通の学校、それが北宇治高校だった。まあ、数ヶ月前に福岡から転校したばかりの自分が受験するには丁度良い所だったけれども。

 

 勢いに押されて渡された野球部のビラを片手に、諸先輩方による必死の部活勧誘を退け歩いていると、ある一点に視線が留まる。校舎へと繋がる階段にて吹奏楽部による演奏が始まろうとしていた。

 

 「新入部員の皆さん‼︎北宇治高校へようこそ!」

 

 ようこそ吹奏楽部へ!と大きく描かれた看板を持つ屈強な男子生徒と、大小様々な楽器を持つ女性陣達のコントラストを背景に、部長の様な風格をした赤眼鏡の美人な生徒が両腕を広げる。

 

 「輝かしい皆さんの入学を祝して!」

 

 そう言いながら推定部長は楽器を手に持つ生徒達へと振り返り指揮棒を構える。多分、演奏が始まるのだろう。

 この学校の吹奏楽部がどんなレベルなのかは知らないし、音楽に詳しくない自分でも名を知る大阪東照みたいな演奏ではない、多分。

 だけど、これまで声掛けとビラを渡すしかしなかった他の部活動に比べたらサービス精神旺盛な対応は個人的にはかなり好印象だ。

 なんていう部活批評をしていると同時に指揮棒が振り翳される。周囲に響いたのは『暴れん坊将軍のテーマ』だ。最近人気のアナ雪を退け、2015年にこの曲を持ってくるセンス自体は謎だが、聞き馴染みのある音が耳へすんなりと入ってくる。

 正直、演奏の良し悪しはあまり自分は理解出来ていない。けどなんと言うか、微妙に音が合ってないかの様な違和感が…あっ今変な「ピッ↑」って音鳴った。

 

 「……駄目だこりゃ」

 

 目の前のポニテ女子がそう呟く。割と毒舌というか酷い言葉ではあるが、周りにいる他の生徒は演奏を聴くのに夢中なのか俺以外気付いていない様だ。

 『声に出てますよ』と言いたくなる気持ちをグッと抑え、俺はクラス分けを見るために掲示板へと歩を進めた。

 

 

 △▼

 

 

 入学式やガイダンスも問題なく終了し、現在1年3組は生徒達しか居ない束の間の休息が訪れている。各生徒の動きは様々で、中学からの仲の生徒と駄弁る人、新しい友人獲得へと既に動き出している女子、宇治での知り合いが全くおらず何もせずに机で1人寂しく過ごしている生徒などがいる。ちなみに自分は後者だ。

 

 「席に着け‼︎高校生になって教室で馬鹿騒ぎするというのはあまり褒められた物ではないな…」

 

 唐突に現れた女性教師の一声によって、さっきまで騒がしかった教室は一瞬で静寂を取り戻す。次々と己の席へと戻っていく中、先生は目の前にいた2人の女子生徒を一瞥し言った。

 

 「なんだそのスカート丈は?すぐ直せ」

 

 はい、すみませんと言いながら女子生徒二人がスカート丈を調整する。周りにいる何人かの女子も同じ様な動きをしているのを見るに結構な人数が丈を調整してたのだろう。

 

 「えぇ、私がこの1年3組を担当する松本美智恵だ。まず名前を確認する。…浅井雄大」

 

 1番目の生徒を皮切りにクラスメイト達は名を呼ばれる度に返事をしていく。

 

 「……黄前久美子『はい!』…加藤葉月『はい!』」

 

 先ほど見かけた失言女子こと黄前さんが返事をする。珍しい苗字なのと先程の発言が相まって名前を一発で覚えれてしまった。……余計な事言われそうだしあまり関わらないでおこうかな。

 

 「川島……ん?りょく、き…?」

 「すみません…あの、それサファイアです。緑が、輝くと書いてサファイア……」

 

 Oh…初っ端からとんでもない公開処刑を見せられてしまった。キラキラネームなんて出会う事はないと思っていたけど、実際目の前にいるとなると中々好奇心を抑えられないでいる。周りも同じなのかクラスの視線の殆どは川島さんに集中していた。

 緑に輝くでサファイア……緑だけでも良かったんじゃないかなコレ。

 

 「川島サファイアか…すまなかった、二度と間違えない」

 

 先生、多分それ死体蹴りです。これ以上彼女をいじめないであげて下さい。

 そんな感じでなんて事もない(?)ハプニングも過ぎさり名前確認はさ行を終えてた行へと移る。前3人の名前が読み上げられ、ついに松本先生の口から俺の名前が出された。

 

 「智晴瑛士」

 「はい!」

 

 

 入学式件クラスメイトとの顔合わせは午前中に終了し、午後からは解散という形になった。殆どの生徒達は新しく出来た友人達と帰宅、残っている生徒達も殆どが部活の見学の為に残っている層である。

 そんな中私こと智晴瑛士は何をしているのかと言えば____道に迷っていた。

 いや、別にふざけてこんな羽目になった訳じゃない。個人的に校舎の構造がどうなっているのか知りたくて適当に歩いていたらいつの間にか最上階にまで来ていたのだ。方向音痴と親によく言われているが、それとこれは違うと信じたい。

 上に行く階段は柵で塞がれているし、他に生徒がいる様子もない。先生が居れば万事解決なのだが、他学年はHR中なのか先程から人影の一つもない。先程から不穏な要素が続いているからかホラーが苦手だからなのかは分からないが、ついにbgmの様な幻聴まで聴こえ始めた。

 ふと廊下へと目をやると、中庭に繋がる窓が開いている。またもや階段を下って冒険するよりは、ここから飛び降りた方が些か戻れる可能性は高いかもしれない。

 

 「……あれ、もしかして詰んでる?」

 

 取り敢えず来た道を戻ろうか、と思っていると廊下の奥から様々な音が合わさって聴こえる。

 『音楽室』と書かれた扉の硝子から中を覗き込めば、大勢の女子生徒達が楽器を手に持ち小型の機械と睨めっこしながら音を出していた。さっきまで聴こえていたbgmらしき何かの正体はこれか。

 

 「智晴君も見学?」

 

 声をかけられて振り向くと先程教室で見た3人が意外そうな顔でこっちを見ていた。声の主は短髪の…えっと

 

 「加藤さんだっけ?」

 「うん、加藤葉月。こっちのポニーテールが久美子で、もう1人が」

 「あぁ知ってる。川島啊久或摩凛アクアマリンさんでしょ?」

 「緑です‼︎」「カスってすらいない‼︎」

 

 さすが関西、ツッコミのキレが良い。

 

 「まあそれは置いといて…加藤さんは吹奏楽部の見学?」

 「うん、高校生になったら新しい事始めてみたくて。智晴君も吹部の見学に来たの?」

 「いや、ここに来たのは大吉山より高く宇治川より深い訳があってだな……」

 「大して高くも低くもなくない?」

 「だって道に迷ってただけだし」

 「「「本当に大した事ないじゃん⁉︎」」」

 

 入学早々仲良いね君たち、おじさんは3人が羨ましいよ。

 さて、会話もそこそこに切り上げ見学組3人は早速ドア越しに中の様子を眺めている。どうやら加藤さんは何も知らない初心者らしく、経験者の黄前さんと川島さんが彼女の疑問に逐一答えていた。吹奏楽の事を何も知らない初心者の俺にも分かりやすく聞いているだけでも意外と面白い。

 

 「久美子がチューバより小さいって言うから〜」

 「あぁ〜ゴメン」

 「サックスもいいなぁ」

 

 3人がそれぞれ余所見していると、音楽室の中から誰かが目の前まで近づいて来る。唯一中を見ていた俺とその人の目が合う。

 そこに居たのは今朝の演奏の指揮をしていた赤眼鏡の美人先輩だった。まるで悪戯っ子の様に口元に指を立てて『静かに』とジェスチャーをしてくる。茶目っ気があって可愛いなと思いながら此方も親指を立てて静かに答えた。

 

 一足先に先輩の存在に気付いた黄前さんがジト目でこちらを見てくる。すまないな黄前さん、放置してた方が面白そうだったし俺は入学初日に先輩に逆らう勇気はないのだよ。

 

 「うわっ⁉︎」

 

 眼前に迫っていた先輩に驚き、加藤さんが尻餅を着く。慌てて黄前さんと川島さんが駆け寄る中、先輩は扉を開け俺達に向かって言った。

 

 「あれ〜?君たち、もしかして見学しに来てくれたのかな?さっ、入って入って!カモン、ジョイナ〜ス‼︎」

 「綺麗っ……!」

 

 その綺麗なお姉さんが原因で地面に座り込んでいるという事実を加藤さんは早速忘れている様だ。

 言われるがままに3人は音楽室へと入っていく。さて、自分には関係ないしそろそろ帰るかと音楽室に背を向けた瞬間、左肩に何者かの手が置かれて身動きが取れなくなった。

 

 「何かやってるんだい少年、音楽室はこっちだよ?」

 「すみません、俺は校舎迷ってここに来ただけの吹奏楽音痴の部外者なのでちょっと」

 「なるほどねぇ。つまり、君はここ音楽室に来る運命だったって事だ‼︎」

 「話聞いてました?」

 「至って真面目に聞いてたよ?けどね、普通は校舎で迷うなんて人いないの」

 「ぐうの音も出ねえ」

 

 ちくしょう断るにしては分が悪すぎる。ここは無理矢理にでも走って逃げ……この人滅茶苦茶力強いな⁉︎

 

 「ほら、さっさと音楽室入るよ。それとも何、お姉さんには言えない理由でも他にあるのかなぁ?」

 「女子が多くて気まずい‼︎‼︎」

 「いいね!思春期って感じの悩みだ」

 「ちょっとあすか!折角男子が見学に来てるんだからあんまり萎縮させないで」

 「見学じゃないです‼︎」

 「うえぇ!ゴメンね!?」

 

 5分後…

 

 「ごめんね、ゆっくり見て行ってね〜」

 「よろしく〜〜」

 

 そう言いながら美人先輩こと田中先輩は部長の小笠原先輩に無理矢理引っ張られながら練習へと戻って行った。結局、俺が折れる形で話は落ち着き、現在は黄前トリオと共に見学に勤しむ事にしている。

 

 「で、何で加藤さんは何で腕の模型なんか持ってるの?」

 「これ私のじゃなくて先輩のやつ」

 「本当に何なんだあの人……」

 

 見学と言っても特段何か楽器を触ったりする訳ではなく今の所はただ部員のチューニングを眺めているだけだ。川島さんはと言うと壁に飾られた集合写真を見ている。

 

 「府大会銅賞……なるほど」

 「智晴君はコンクールの制度知ってるんですか?」

 「前いた学校の友達がユーフォやっててね、その関係で少しだけ」

 「確か、久美子ちゃんもユーフォニアムでしたよね?」

 「うん、高校からは別の楽器にしようかなって。智晴君は?」

 「楽器がトランペットとユーフォニアム以外分からない」

 「あぁ……トランペットは倍率高いから頑張ってね」

 

 俺を憐れむ目で見るな黄前さん。そもそも吹部に入るなんて俺は一言も言ってないぞ。

雑談をしている間にも部活動は進んでいき、部長の合図で本日最初のチューニングが始まる。5秒ほど音が出された後に、部長は何処か困った様な顔をしながら言った

 

 「もう一回やろっか、チューナー使っていいから…」

 

 「…音が合ってなかった?」

 「え、そうなの⁉︎」

 「いや、何となくだけど違和感があった」

 「うん、智晴君よく気付いたね」

 

 加藤が頭に❔マークを浮かべながら黄前さんに質問しようとした瞬間に、音楽室の扉が音を立てて開く。

 入ってきた人物は綺麗な黒長髪を靡かせながら迷いなく真っ直ぐと部長の方へと近づく。

 その姿を見た黄前さんは声にならない様な声を出しながら驚きを隠しきれず口元を抑えていた。

 普段の俺ならその姿に対して何か疑問をぶつける余裕があっただろう。しかし、今の俺は黄前さんの事を言えないくらいには動揺していた。だって目の前の女子生徒はこんな所に居ない筈の存在だから。

 

 「すみません」

 「あっ、見学ですか?」

 「いえ、入部したいんですけど…」

 

 会うのは3年ぶりだ。記憶の中の彼女は小さいままだったのもあって、一人前の大人の背丈と体つきに脳がとてつもない違和感を感じているのが分かる。未だに声を出し続ける黄前さんによって此方に人がいるのに気付いたのか、彼女は此方へと振り返る。

 目が合う。その瞳と顔は記憶の中の彼女のままだった。

 

 「智晴くん……?」

 

 俺が福岡に引っ越す前、北宇治に住んでた頃の幼馴染兼トランペッター________高坂麗奈だった。

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