白馬姉「私の弟は最強なんだ!」   作:ボックス

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 戦争が終われば、その後には事後処理が待っている。

 

 中華の勢力図は大きくその色を変える事になった。

 大きかったのは、冀州。治めていた袁紹が、財産没収の上で交趾の南端へと流刑に処され、コレに袁家の二枚看板と少数の手勢が付いていく事となる。

 同じく袁家である袁術は、先の連合の一件により逆に孫呉に乗っ取られる形で地位を失い、部下の張勲と共に青州の末端に追いやられる事となった。

 

 そして、心を折られる形で降伏を願い出た劉備はというと。

 

「みんなーーーー!準備は良いかなーーーー!」

「「「うおおおおおおおおお!!」」」

「それじゃあ、行っくよーーー!!」

 

 旅芸人(アイドル)をやっていた。

 

 より正確には、張三姉妹+αのような形で四人のアイドルグループとなっていた。

 これは、公孫賛の采配に因る所が大きい。

 元々、黄巾の一件が収まった後から彼女は張三姉妹を利用した民への慰撫と同時に情報収集の為の行動を起こすつもりであった。

 公孫賛が目を付けたのは、劉備の人を無意識的にでも惹き付けるカリスマ性。

 幽州内で行われたライブは人の口から他の州へと広がり、そこから続くのは多くの人の流入。

 経済というのは、人の流れがあって初めて成立するもの。彼女らの経済効果は目を見張るものがあった。

 因みに、そんな彼女らの護衛に抜擢されているのが、関羽と張飛だったりする。

 彼女らが生き残ったのは、状況と運の良さ。そして彼女ら自身が武人として最高位の肉体を有していたお陰でもある。

 関羽の場合、金棒の一撃を受ける瞬間彼女は全身の気の全てを防御に回した。その時点で一般兵では傷一つも付けることはできなかっただろう。

 そこから、一撃を受けた瞬間乗っていた馬がクッションとなり、更に雨でぬかるんだ地面が衝撃を吸収。得物を引き換えにする形で何とか生き永らえていた。

 張飛の場合は、単純に吹っ飛ばされただけである上、先の通り雨で緩んだ地面がクッションの役割を果たし、更に追撃を受けなかったお陰でどうにか生き永らえた。

 

 そんな過程を経て生き残った義姉妹の三人。

 彼女らが、再び戦場の武人として再起する事はない。

 世間知らずであった彼女たちは、世界を知った。夢だけでは、志だけではどうにもならない世界を知った。

 何より、今の生活が存外彼女らは気に入っているのだ。

 劉備の掲げた夢、皆が笑って暮らせる世の中。

 

 それは、もし果たそうと思うのなら武力を用いてはいけなかった。今になって、彼女はそう思う。

 

 少なくとも、今。歌って踊る彼女の前に居る人々は楽しく笑い喜んでいるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――それで?どういう事か説明してもらえるかしら?」

「ん?」

 

 机の上に目を向けていた公孫賛が顔を上げれば、不機嫌そうな蒼玉の瞳とかち合った。

 

「どうして私は、いいえ、()()()は生かされたのかしら?」

「どうして、か」

 

 筆をおいて、公孫賛は椅子の背凭れへと身体を預ける。

 今この部屋には、彼女とそれから未だに痛々しい包帯を至る所に巻いた病衣姿の彼女、曹操しか居ない。

 

「幾つか理由はある。一つは、政治的なものだな」

「政治、ね」

「ああ。()()が治めた兗州の治政は良いものだった。民への税も苦しくなく、還元も上手くいっていたし。あの天の御使いだったか?彼の提案も上手く盛り込まれていたからな」

「…………よく知ってるわね」

「私の耳目は広いんだ」

 

 ふふん、と笑う公孫賛に改めて曹操は目の前の彼女の底知れなさを感じていた。

 座る椅子に脱力しながら、息をつく。

 

「ふぅ……それで?政治的理由が、ソレ?」

「正しくは、民や兵への心象の問題だな。夏侯姉妹を筆頭に、華琳の部下は忠義に厚いものばかりだろう?そんな相手の恨み辛みを買うのは美味しくない。民からしても、自分達に良くしてくれる為政者は居た方が良いだろう?」

「…………まだあるかしら?」

「勿論。そもそも、私は天下に興味がない」

「…………そういえば、そうね。私塾の頃から、そういう話はしなかったもの」

「だろう?言っては何だが、私は幽州とそれから異民族への対応で手いっぱいだ。これ以上領地が広がっても、私が潰れる方が早い。なら、信用できる人間に丸投げする方が良い」

「麗羽や袁術は領地を没収したみたいだけど?」

「あの二人は、正直な所為政者としては宜しくない。冀州は重税に苦しんでいたし、袁術に至ってはそもそも自身が統治していた訳じゃなかったからな」

 

 名家として資産もあったが、同時に強権による課税による繁栄があった袁紹とそもそも政治が出来なかった袁術。

 どちらも、公孫賛から見れば為政者として宜しくない。下手に本拠地に戻せば、更なる重税で民を圧迫した上で何処かしらに喧嘩を売る姿が目に見えていた。

 故に追い払った。権力を奪った上で、流刑という形で遠方に勾留した。

 もっとも、これはかなりの恩情策だ。首を刎ねられなかっただけまし。

 そして、空白となった冀州。

 

「孫呉は、どうかしら?」

「頑張っているみたいだぞ?元々、彼女らの親である孫文台も手広く治めていたんだ。ある程度の手順書ぐらいはあるさ。私たちが北半分、彼らが南半分といった感じだ」

 

 勝ち馬に乗る形で連合を裏切った孫呉。

 元より、袁術軍の露払いのような立場で派兵していた彼女ら。

 公孫越からの襲撃をどうにかこうにか乗り切り。優れた諜報部隊を利用して、予めの守備陣を固めてどうにかこうにか連合軍の集合地点に集まる事が出来たのは彼女らの精強さを表していると言える。

 曹操としても連合内で見るべき相手の一角として定めていたのが孫呉だった。それ故に、袁術の膝元で飼い殺しにされている姿は少々思う所があったり。

 

「噛み付かれるとは思わないの?」

「越に勝てるのなら、な」

 

 曹操の問いに、公孫賛は笑みを浮かべた。

 今回の一件で、公孫越の実力は広く知れ渡った。

 理外の怪物にして、剛力の化身。一騎当千にして、万夫不当。

 男に対する色眼鏡を持っていた者たちは、揃いも揃ってその顔面ごと色眼鏡を粉砕された上で脳をこんがりと焼かれてしまっていた。

 

 かくいう曹操としても、公孫越攻略の糸口はまるでつかめなかった。

 彼女含めた曹操軍の武闘派六名が挑んだ決戦。

 結論だけを述べれば、武器を全破壊された上に完敗。掠り傷の一つはおろか、毛筋の一本すら傷つけることできずに敗北を喫した。

 夏侯惇を越える腕力に、夏侯淵の動体視力で影をどうにか捉える速度。オマケに背中に目が付いているのかと思えるほどの、勘の良さ。

 個人の武威で、コレだ。更に、騎馬隊を率いれば連戦連勝。

 最早、勝ち負けを論じる必要性すらない程の必勝の星である。蛇足を付けるならば、幽州には公孫越のみならず趙雲を筆頭とした他陣営ならば筆頭を担える者が多数いる。

 

 不意に、曹操は喉の渇きを覚えた。

 まだまだ傷痍の身である彼女。当然ながら、体力の回復などまだまだてんで足りていない。

 

「――――お嬢様、お茶をご用意しました」

「ん?ああ、ありがとう」

 

 そのタイミングを狙ってやって来たのは、孫乾であった。

 まるで最初からその場に居たかのような自然さで、盆の上に用意した茶を公孫賛と曹操の前に準備していく。

 そして、特に話に入る事もなく一礼をして部屋を出ていってしまった。

 

「…………優秀ね、彼女」

「そうだな。私としてもついつい頼り過ぎてしまう相手さ」

 

 注がれたお茶に口を付けて、曹操は唸る。

 万能な彼女をして、敵わないと思わせる美味なお茶。渋さもちょうど良く、付け合わせに置かれた茶菓子も甘さを控えながら茶の味に負けていない。

 そつなく熟す、というのは難しい。それが、個人の内側の話ならば自分が満足すればそれまでだが、矢印が外部に伸びると毛色が変わって来る。

 何故なら、他人の感性で合格点を取らねばならないのだから。

 

「そういえば、その件の弟は何処に居るのかしら?」

「越か?アイツは、今呂布と一緒に幷州の平定に行ってる」

「幷州の?」

「ああ。あそこまで広い土地をこのまま遊ばせておくのは勿体ないだろう?押さえたら、そこを董卓たちに抑えてもらう」

「彼女たちは、都でしょう?」

「ああ。だから、麗羽の所や袁術の所から溢れた人員を都に送ったんだ」

「そういう事ね」

 

 納得、と曹操は頷き茶へと口を付けた。

 

 今回の連合敗北で、袁紹を見限った名士は多い。

 彼ら彼女らは、そのまま今回の勝利者である公孫賛や董卓へと詰めかけたのだ。尻の軽い事だが、名士といえども霞を食べて生きている訳ではない。先立つものが必要なのは、いつの時代も変わらない。

 しかし、公孫賛としては必要以上に名士を抱えこむのはご免というもの。弟の為の施策に口出しされればブチ切れ不可避であるから。

 

 そこで、彼女は一計を案じた。

 勝利した事で、董卓は都を離れる必要がなくなった。敵対勢力が軒並み潰れたのだから、それならば皇帝を支える立場を続ける事を彼女が望んだからだ。

 見た目は華奢だが、芯の通った彼女に対してその臣下たちはますます惚れ込んだのだとか。

 一方で、如何に素晴らしい心意気であっても物理的な人員不足はどうしようもない。

 反董卓連合が組まれた時点で、都には政治的な空白が幾つも発生していた。軒並み、彼ら彼女らは董卓を見捨てて逃げ出したからだ。

 この空白地帯に、公孫賛は在野の名士をねじ込んだ。

 当然、プライドの高いものは渋るのだが、話をした公孫賛の後ろで金棒をフルスイングする公孫越の姿を見ればその口も自然と噤まれていた。

 彼ら彼女らの弱点は、自分達の口の通じない相手なのだ。物理的な面では武人に勝てない以上、口八丁で丸め込む事が出来ない暴力の象徴は明確な弱点だった。

 

 茶器を置いて、曹操は肩を下ろした。

 

「一番の誤算は、やっぱり貴女の弟よね。うちの軍師が発狂してたわよ」

「はっはっは!だろうな。異民族でも、越の突撃を止められた奴は居ないんだ。万の軍勢を千の手勢で切り裂いていくのは見ていて爽快だぞ?」

「受ける側からすれば絶望じゃない。十倍の戦力差よ?本当に人間?」

「当たり前だろ?ああ、でも――――」

 

 そこで言葉を切り、公孫賛は不敵に微笑む。

 

「――――私の弟は“最強”なだけさ」

 

 

















ここまでの読了、感謝。ありがとうございます
正直、ダラダラと続けるのもどうかと思いますので今作は、これにて完結とさせていただきます
作中では明言しなかった部分や、ぼんやりしている部分は後々に裏話という形で投稿しますので興味があれば閲覧くだされば幸いです

では、連ねるのも野暮というもので、これにて
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