ガンダムビルドダイバーズ 遥か遠き我が王国(エル・ドラド)   作:守次 奏

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諸事情で不定期投稿と相成りました


テレスコープの向こうへ

「とにかく、アリスは家で大人しくしていてくださいね。くれぐれも変な気は起こさないように」

「はい! アリスは大人しくお留守番しています!」

 

 昨日の一件があってから、学校に対して変に興味を持たれると困るから、私は念には念を入れて出発前にアリスへと言い聞かせていた。

 忘れ物は……多分ない。

 あとは鞄のチャックを閉めて、学校に行くだけ──

 

「そういえば、ケイコ!」

「どうしたんですか、アリス」

「寝癖が立ってます!」

「えっ嘘!? さっき梳かしたはずじゃ……ああもう、もう一度洗面台に……! ううん、手鏡で十分!」

 

 髪の毛を触ってみたけど、これといって変なところや違和感はなかったはずだ。

 制服のポケットに忍ばせている手鏡を取り出して、私は自分の顔を覗き込む。

 相変わらずの仏頂面をした白髪に赤い瞳の女の子がそこにいる。ただそれだけで、寝癖の類は見当たらない。

 

「もう、寝癖なんてどこにもないじゃないですか……アリス、わかりづらい冗談を言うのはやめてください」

 

 ダイバーギアの方を一瞥して、私は溜息混じりにいたずらっ子を諌めた。

 ただ、見る限り専用ダイバーギアには光が灯っていて、もう既にアリスはGBNへログインしてしまったのだろう。

 昨日完成したAGE-1も乗っかっているし。

 

 とりあえずは、新しいガンプラで満足してほしいものだ。

 他になにも異常がないことを確認して、私は改めて鞄のチャックを閉める。

 そして、いつもの通りに誰の帰りも待っていない家を出て、玄関を鍵で閉ざした。

 

 

 

 

 

 

「やあやあクラスメイト諸君、おはようござインパルス! ぷぷぷ」

 

 教室の喧騒を引き裂くように、場違いなしょうもないギャグと共に、背丈の低い黒髪の女の子が入室してきた。

 多くのクラスメイトは「なんだこいつ」とでも言いたげな視線を彼女──サカマキ・テンカに送る中で、私は少しだけ、安堵にも似た感情を抱いていた。

 しかし、しょうもないギャグを飛ばして呆れられているのにもかかわらず、肩で風を切って歩ける胆力には尊敬すら覚える。

 

「今日は学校に来たんですね、まーちゃん」

「やあやあリュセル、投資だけしてるのも飽きるものだよ。それに、今日はなんだか面白そうなことが起こりそうな気がしたからねぇ」

「……GBNでもないのにその名前で呼ぶのはやめてください」

「冷たいことを言わないでくれたまえよ、ぼくたちは友達同士じゃないか」

「はぐれ者の寄り合い所帯ですけどね」

 

 本当に数少ない、私の話し相手。

 それが、サカマキ・テンカことまーちゃんの存在だった。

 多分、席が近くなければ、お互いを一生遠巻きに見つめていたのであろうとわかっていて、傷を舐め合うように付き合いを始めた間柄でもある。

 

「しかしリュセル、今のきみはAVALON期待の新星なのだろう? さぞかし面白いことを連れ来てくれたのだろうねぇ! 期待の新星、青い巨星、黒い三連星……ぷぷぷ」

「期待の新星は二つ名ではありませんよ。それに、面白いことなんて──」

 

 苦笑と共にまーちゃんの冗談を受け流し、カバンを開けたそのときだった。

 

「はい! ケイコはAVALON期待の新星です!」

 

 そんなことを大声で叫びながら、ひょっこりと、鞄の中からアリスが顔を出す。

 一瞬、なにが起きたのかわからなかった。

 アリスは確かにダイバーギアを起動させて、GBNにいるはずで。

 

「ほう、これはこれは……ELダイバーの後見人になっていたのかい、ケイコ!」

「わー、わー! 声が大きいです、まーちゃん! しかもこういうときだけわざとらしく名前で呼ばないでください!」

「リュセルと呼んでもケイコと呼んでも怒るだなんて、どっちで君を呼べばいいんだい、全く」

 

 ぷぷぷ、と含み笑いをしている辺り、困惑しているのではなく故意犯なのだろう。

 案の定とでもいうべきか、ひょっこりとカバンから顔を出して、笑顔を振りまいているアリスには注目が集まっている。

 ……ああ、もう。こうなるから用心に用心を重ねるべきだったのに。

 

「可愛いね。その子、ELダイバー?」

「いやELダイバー以外のなんだっていうのさ……」

「生き別れの姉妹ぃ……とかぁ〜?」

「スケールが違いすぎるでしょうが」

 

 案の定とでもいうべきか、学級委員とその取り巻き二人が真っ先に興味を示して私のところに歩み寄ってきた。

 黒髪を短めのポニーテールにまとめた女の子と、どことなく活発な印象を受ける金髪の女の子と、逆に大人しい印象を受ける紫がかった黒髪を腰の辺りまで伸ばした女の子。

 いつも三人組で行動していて、確か。

 

「えーちゃんもしーちゃんもあたしにいくら突っ込ませたら気が済むのさ……こほん。ジョウマエさん、学級委員としてその子をどうして連れてきたのか聞きたいんだけど……」

「勝手についてきたんじゃないの?」

「ハプニングだねぇ、びーちゃん……」

「んなわけあるかーっ! 大体、ELダイバーっていうのは……ああもう、また話が逸れた!」

 

 頭を掻きむしって、びーちゃん、と呼ばれた金髪の女の子は天を仰ぐ。

 なにを隠そう、この三人組の中で、えーちゃんと呼ばれる真面目そうな子が学級委員なのではなく、びーちゃんと呼ばれている金髪の子がそうなのだ。

 でも、なんにも考えてなさそうなえーちゃんと呼ばれていた子が言っていたことは、的を射ていた。

 

「いや……アリスは、その……勝手についてきたんです。私のカバンに密航して」

「はい! 気分はディーヴァを乗っ取ったグルーデック艦長でした!」

「はあ……」

 

 よくわからない例えで応じたアリスに、学級委員の子は困惑の視線を向ける。

 

「なになに〜? うわちっさ、可愛いー! かずえっちもそう思うっしょ?」

「そうだね、とっても可愛いね。ヴィヴィちゃんには及ばないと思うけど」

「またまた上手なこと言っちゃってー! 喜ぶぞー?」

 

 そうこうしている間に、私の周りには随分とたくさんの人だかりができていた。

 クラスメイトの名前なんてほとんど覚えてはいないから、正直誰が誰だかわからない。

 混乱している。困惑している。

 

 こんなときに頼りになりそうなまーちゃんは、含み笑いを浮かべながら傍観に徹していた。

 間違いなく故意犯だろう。

 私の数少ない友達だけあって、いい性格をしているなあ。殴りたい。

 

「アリスちゃんはAGE好きなんだー? あーしもこの前ね、AGE見ててガンプラ欲しくなったから買ってきたんだ! SDのAGE-2! ピンク色に塗ってみたやつ!」

「わぁ、とっても可愛いです! こんな風に等身が小さいガンプラもあるんですか、ケイコ?」

「なんで当たり前のように溶け込んでるんですか……」

「まあまあいいじゃん別に。というかジョウマエさん、GBNやってたんだ」

「アリスちゃんとの馴れ初めとかぁ、どんな感じ〜?」

 

 ああ、もう。

 誰がなにを喋っているのかわからない。

 ごちゃごちゃと混み始めてきた私の机周辺を一望しながら、私は頭を抱えることしかできなかった。

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