【完結予定】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。 作:まだら模様
アナウンスが流れた瞬間、俺の「空写」が捉えていた張り詰めた気配が、一気に弛緩していくのが分かったわ。
緑谷くんはボロ雑巾みたいになっとるし、爆豪くんも肩で息をしとる。
……不細工な姿やな。けど、その不細工な執念が、俺の設計の「外側」にあった絶望をねじ伏せおった。
俺一人の230mじゃ、この世界は守れへん。
那歩島で思い知らされたはずやのに、オセオンの空の下で、また突きつけられた気分や。
けど、収穫はあった。
「12葉」の反動、反転術式によるリキャストタイムの計算、そして——個性の質が同じ双子でも、肉体の癖で読み分けられるという確信。
俺の設計は、まだ広がる。
この230mの檻を壊して、もっと遠く、もっと速い領域へ。
……さて。
戦い終わりの湿っぽい空気は苦手やけど、この連中の「燃料」だけは、今のうちに記録しておかなあかんな。
キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性ございます。
ご注意ください。
お気に入り登録、感想、評価付与は直哉がより強さの研鑽に励むようです!より強くなっていくのでしょう!
爆弾の解除が完了したのは、タイムリミットの三分前だった。
世界25か所。全部が止まった。
直哉はそれを、空写の変化ではなく、建物内のスピーカーから流れたアナウンスで知った。世界選抜ヒーローチームからの報告が、フレクトの本拠地の放送設備に流れ込んできた。
「……止まったわ。ほんま、ギリギリまで不細工なことしよる」
直哉は扇子を開いた。
床に座り込む緑谷。壁に背を預ける爆豪。レヴィアタンを制圧して戻ってきた轟。
全員、ボロボロで見るに耐えない姿だ。だが——全員、生きている。
(……チッ、最後の最後で計算外の粘りを見せおって。まあ、死なれて後味悪うなるよりはマシか)
「設計通りや」
独り言が、静かな廊下に落ちた。
後処理が始まった。
オセオンの当局が本拠地に突入し、エンデヴァーが指揮を執る。直哉は空写で建物内に残っている構成員の気配を追いながら、当局を誘導した。
「北の廊下に二人、まだ意識がありますわ。東の部屋に一人、戦闘不能。……さっさと片付けてもらえます?」
クレア・ボヤンスが直哉の隣で透視を使いながら確認する。
「……正確ですね。見えてる通りです」
「空写と透視を組み合わせたら、情報の抜けなんて出えへんのですわ。効率よく動きなさいな」
「そうですね。あなたの個性——面白い使い方をしていますね」
「…個性やないけどな」
クレアが「え?」という顔をした。直哉は「気にしんといてください。おたくらに説明しても理解できへんでしょ」と鼻で笑って次の気配を報告した。
後処理は長引いたが、直哉は空写を展開し続けた。消耗はある。だが、反転術式が静かに身体を維持している。
全ての後処理が終わり、直哉は本拠地の外に出た。
オセオンの夜空が広がっている。空気はどこか、清々しいほどに清潔だ。
直哉は建物の外壁に背中を預けて、右腕を確かめた。
反転術式による修復はほぼ完了している。
「……12葉の負荷は、反転術式で一時間あれば七割回復できる、か。……実戦やと、やっぱり訓練通りにはいかへんな」
動く相手を読み、捌きながら「極ノ番」を叩き込む。その瞬間の脳と腕への負荷。訓練の的を壊すのとは次元が違う情報の波。
「実戦は根が違うわ。……次はこの『ラグ』をどう削るかやな」
独り言が夜風に消えた。
緑谷が外に出てきた。
両腕を吊った痛々しい姿だが、足取りは確かだ。
「禪院くん——一人で何してるの?」
「整理してた。緑谷くんみたいに、戦い終わってぼーっとするほど暇やないんでな」
「何を整理してたの?」
「今夜の設計の確認や。12葉を初めて実戦で使った。その感触を忘れる前に記録しておかなあかん」
緑谷は直哉の横に来て、同じように壁に背を預けた。
「12葉——すごかったよ。エナが吹き飛んだの、見えた」
「6葉の倍の衝撃や。その分、右腕への負荷もアホみたいにデカいけどな」
「怪我は大丈夫なの?」
「反転術式で修復したわ。俺をお前みたいなボロ雑巾と一緒にせんといて」
緑谷は「よかった」と笑った。
二人でしばらく、夜空を見ていた。
「禪院くん——フレクトのところ、来なかったよね」
「そやな」
「……なんで来なかったの?」
直哉は扇子で軽く顎を叩いた。
「設計の問題や。反射の個性はあらゆるエネルギーを跳ね返す。俺の術式は理論上通るかもしれんけど、あの時の俺は12葉を使った後で呪力がカツカツやった。その状態でフレクトに向かっても、確実な有効打を入れられる設計が立たへんかったんや」
「設計が立たなかったから、来なかったんだ」
「そうや。……それに」
直哉は視線を落とした。
「君の『燃料』が見えてた。空写でやなくて、感覚としてな。あのアホみたいな状態の緑谷くんが、理屈やなくて燃料だけで動いとる。それが一番通る場面やと判断しただけや」
緑谷は直哉の顔を覗き込んだ。
「禪院くんって——僕のことを、ちゃんと見てくれてるんだね」
「空写で監視してただけや。勘違いせんといて…気色悪いわ。」
「あはは…でも、空写だけじゃないと思うよ」
直哉は返事をせず、鼻を鳴らした。だが——否定はしなかった。
爆豪が出てきた。
二人を一瞥し、「何してんだドブカス野郎」と吐き捨てた。
「整理してた。……お前も少しは脳みそ使って反省会でもしたらどうや?」
「あァ!? やんのかコラ!」
爆豪は「ふん」と鼻を鳴らし、直哉の隣に立った。図らずも三人が並んで夜空を見上げる形になる。
「爆豪くん——ディオとの戦闘、空写で追ってたわ」
「……何をだ」
「俺が教えた予備動作、すぐに合わせとったな。爆轟くん、口は悪いけど耳だけはええらしいやんか」
「当たり前だ。使えるモンは何でも使う」
「……君は『設計』で動けとるな」
爆豪が直哉を睨む。「何が言いてェ?」
「いや。感情だけで突っ込む馬鹿が多い中で、爆豪くんは情報を瞬時に処理して最適解を選べる。爆豪くんは数少ない『設計』ができる人間やと思っただけや」
爆豪は少しの間、沈黙した。
「……てめぇだって、最後は感情で動いてねェか?」
「設計が燃料で動くことと、感情が燃料で動くことは別物やない?俺は『感情が燃料で、設計が方向を決める』と思っとる。……爆豪くんの燃料は、俺よりよっぽど熱いわ」
「だから何が言いてェ?」
「爆豪くんの設計と俺の設計は根っこが違う。けど、向いてる方向が重なった時は——かなり『強い』ということや」
爆豪はしばらく直哉を見つめ、「…クソが。そんなの知ってるわ」と不敵に笑って視線を戻した。
輪が増えた。
轟が戻ってきた。「みんな外にいたのか」と淡々と言い、隣に並ぶ。
「轟くん——レヴィアタン戦はどうやった?」
「水流がデカかった。氷で封じるのに手間取った」
「傷は?」
「何箇所かあるが、まだ動ける」
「反転術式については俺専用やからな。自分自身で身体はしっかり管理せえや」
「ああ。気にするな」
四人で夜空を見ていた。
轟が「禪院——さっきの戦い、身体の癖で読んでたって本当か?」と尋ねた。
「そうや。個性の質が同じでも、人間の癖まではコピーできへん。呼吸、重心、関節の動き。それは個性やなくて『人間』を読むことや」
「……それって、個性のない人間でも読めるのか?」
「読めるわ。個性の気配がない人間は『空白』に映るけど、肉体の動きは投射呪法のフレームで見えとるさかいな」
轟は「そうか」と言って、どこか得心したように空を見上げた。
「……轟くん。俺の空写は、個性の有無なんて関係ない。その場に『いる』という事実だけを平等に読む。それだけや」
「……そうか。ありがとう」
エンデヴァーが現れ、四人を一瞥した。
「お前の空写、今夜は役に立った」
「当然ですわ。俺の設計に抜かりはありませんから」
「汎用性は高いな。だが、他のヴィランにいつ出し抜かれるかも分からん。気を抜くな。」
「…ハッ。そこらの有象無象に俺が負けるわけがあらへん。ちょい舐めすぎやないです?」
エンデヴァーは少し黙り、「そうか」とだけ言って去っていった。
「禪院くん……唐突でごめん。AFOのこと、どう思ってる?」
緑谷の問いに、直哉は少し考える素振りを見せた。
「…あいつは『設計』が深い。何十年も積み上げてきたもんがある。けどな……俺にできるんは、あいつの設計にバグを放り込むことや。奪われへん術式で、あいつの動きを削ってやるわ」
「……禪院くんは、遠くまで見てるんだね」
「設計の癖や」
「でも、燃料もちゃんとある気がするよ」
直哉は扇子を閉じた。
「……緑谷ぬんには分からんでええわ」
ロディがピノを連れてやってきた。
「……全部止まったってよ。親父の作ったキーが、役に立ったんだ」
直哉はロディを見た。空写に映る「魂」の気配が、今は穏やかだ。
「お父さんの『設計』が、最後に人を救ったってことや。胸張っとけばえけんやないの?そんな空虚なもん嬉しがるのもどうかと思うけどな」
ロディはその言葉に少し困惑しつつ苦笑を浮かべた。
直哉はそっとその場を離れた。緑谷とロディの間に流れる空気は、直哉の入り込む場所ではない。
(……空写230メートル。全体の一角しか見えへんかったけど、その一角では完璧に動けた。それが今夜の俺の全てや)
帰りの飛行機。
窓際の席で、直哉は右腕を動かし、設計を振り返る。
「空写の可能性が広がったわ。質やなくて『動き』を読む術式としての確立。……けど、230メートルじゃ足りへん」
戦場全体を見渡せないもどかしさ。緑谷が死闘を繰り広げている最中、正確な状況を読めなかった空白の時間。
「次は400メートル。距離優先モードの確立やな」
隣では緑谷が泥のように眠っている。包帯が解けかけている。
(……起こすのも面倒やな。休ませといたるわ)
通路に立つ爆豪が直哉を見た。
「まだ起きてんのか?ドブカス野郎」
「整理や。お前も12葉の衝撃、覚えとけ。次は爆轟くんの爆破と同時やぞ」
「……言われなくても分かってるわ!クソが!」
爆豪は自席に戻った。
直哉は窓の外、雲海を見下ろす。
「感情が燃料で、設計が方向を決める——今夜の燃料は、十分すぎるほどあったわ」
それが何の感情なのか、直哉はあえて言葉にしなかった。
禪院直哉は次の設計を頭の中で組み上げながら、静かに扇子を畳み、目を閉じた。
(……帰りの機内。
隣で爆睡しとる緑谷くんの寝顔を見とると、つくづく計算の合わへん奴やなと思うわ。
あんな無茶苦茶な出力で反射をぶち抜くなんて、俺の設計図には一行も書いてへん。
けど、爆豪くんや轟くんもそうや。
俺とは違う種類の「燃料」を持って、俺には見えへん飛び方で正解に辿り着きよる。
「感情が燃料で、設計が方向を決める」
俺がそう言うたんや。
あいつらの燃料が異常に強いなら、俺はその火力を100%活かせるだけの「より広く、より精密な設計図」を用意せなあかん。
それが、このクラスにおる俺の役割や。
空写230m。……狭いわ。
次は400m。距離優先モードの確立。
そして12葉を、呼吸するように連射できるようにならなあかん。
那歩島の砂浜で見えた限界。
オセオンの夜空で見えた外縁。
全部、俺が「最強の設計士」になるための地図や。
……あーあ。
次あんな無茶苦茶なミッションに放り込まれても、
「全部俺の設計通りや」って、涼しい顔で扇子仰いでやりたいしな。
……おやすみ、緑谷くん。
次やる時は、もう少しスマートに勝たせてやるわ)