【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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世界25か所の爆弾が止まった。

 アナウンスが流れた瞬間、俺の「空写」が捉えていた張り詰めた気配が、一気に弛緩していくのが分かったわ。
 
 緑谷くんはボロ雑巾みたいになっとるし、爆豪くんも肩で息をしとる。

 ……不細工な姿やな。けど、その不細工な執念が、俺の設計の「外側」にあった絶望をねじ伏せおった。
 
 俺一人の230mじゃ、この世界は守れへん。

 那歩島で思い知らされたはずやのに、オセオンの空の下で、また突きつけられた気分や。
 
 けど、収穫はあった。

 「12葉」の反動、反転術式によるリキャストタイムの計算、そして——個性の質が同じ双子でも、肉体の癖で読み分けられるという確信。
 
 俺の設計は、まだ広がる。

 この230mの檻を壊して、もっと遠く、もっと速い領域へ。
 
 ……さて。

 戦い終わりの湿っぽい空気は苦手やけど、この連中の「燃料」だけは、今のうちに記録しておかなあかんな。


キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性ございます。
ご注意ください。

お気に入り登録、感想、評価付与は直哉がより強さの研鑽に励むようです!より強くなっていくのでしょう!


第89話:映画編 ワールドヒーローズミッション「12葉の感触——設計の次の段階」

爆弾の解除が完了したのは、タイムリミットの三分前だった。

 

 世界25か所。全部が止まった。

 

 直哉はそれを、空写の変化ではなく、建物内のスピーカーから流れたアナウンスで知った。世界選抜ヒーローチームからの報告が、フレクトの本拠地の放送設備に流れ込んできた。

 

「……止まったわ。ほんま、ギリギリまで不細工なことしよる」

 

 直哉は扇子を開いた。

 

 床に座り込む緑谷。壁に背を預ける爆豪。レヴィアタンを制圧して戻ってきた轟。

 

 全員、ボロボロで見るに耐えない姿だ。だが——全員、生きている。

 

(……チッ、最後の最後で計算外の粘りを見せおって。まあ、死なれて後味悪うなるよりはマシか)

 

「設計通りや」

 

 独り言が、静かな廊下に落ちた。

 

 後処理が始まった。

 

 オセオンの当局が本拠地に突入し、エンデヴァーが指揮を執る。直哉は空写で建物内に残っている構成員の気配を追いながら、当局を誘導した。

 

「北の廊下に二人、まだ意識がありますわ。東の部屋に一人、戦闘不能。……さっさと片付けてもらえます?」

 

 クレア・ボヤンスが直哉の隣で透視を使いながら確認する。

 

「……正確ですね。見えてる通りです」

 

「空写と透視を組み合わせたら、情報の抜けなんて出えへんのですわ。効率よく動きなさいな」

 

「そうですね。あなたの個性——面白い使い方をしていますね」

 

「…個性やないけどな」

 

 クレアが「え?」という顔をした。直哉は「気にしんといてください。おたくらに説明しても理解できへんでしょ」と鼻で笑って次の気配を報告した。

 

 後処理は長引いたが、直哉は空写を展開し続けた。消耗はある。だが、反転術式が静かに身体を維持している。

 

 全ての後処理が終わり、直哉は本拠地の外に出た。

 

 オセオンの夜空が広がっている。空気はどこか、清々しいほどに清潔だ。

 

 直哉は建物の外壁に背中を預けて、右腕を確かめた。

 

 反転術式による修復はほぼ完了している。

 

「……12葉の負荷は、反転術式で一時間あれば七割回復できる、か。……実戦やと、やっぱり訓練通りにはいかへんな」

 

 動く相手を読み、捌きながら「極ノ番」を叩き込む。その瞬間の脳と腕への負荷。訓練の的を壊すのとは次元が違う情報の波。

「実戦は根が違うわ。……次はこの『ラグ』をどう削るかやな」

 

 独り言が夜風に消えた。

 

 緑谷が外に出てきた。

 

 両腕を吊った痛々しい姿だが、足取りは確かだ。

 

「禪院くん——一人で何してるの?」

 

「整理してた。緑谷くんみたいに、戦い終わってぼーっとするほど暇やないんでな」

 

「何を整理してたの?」

 

「今夜の設計の確認や。12葉を初めて実戦で使った。その感触を忘れる前に記録しておかなあかん」

 

 緑谷は直哉の横に来て、同じように壁に背を預けた。

 

「12葉——すごかったよ。エナが吹き飛んだの、見えた」

 

「6葉の倍の衝撃や。その分、右腕への負荷もアホみたいにデカいけどな」

 

「怪我は大丈夫なの?」

 

「反転術式で修復したわ。俺をお前みたいなボロ雑巾と一緒にせんといて」

 

 緑谷は「よかった」と笑った。

 

 二人でしばらく、夜空を見ていた。

 

「禪院くん——フレクトのところ、来なかったよね」

 

「そやな」

 

「……なんで来なかったの?」

 

 直哉は扇子で軽く顎を叩いた。

 

「設計の問題や。反射の個性はあらゆるエネルギーを跳ね返す。俺の術式は理論上通るかもしれんけど、あの時の俺は12葉を使った後で呪力がカツカツやった。その状態でフレクトに向かっても、確実な有効打を入れられる設計が立たへんかったんや」

 

「設計が立たなかったから、来なかったんだ」

 

「そうや。……それに」

 

 直哉は視線を落とした。

 

「君の『燃料』が見えてた。空写でやなくて、感覚としてな。あのアホみたいな状態の緑谷くんが、理屈やなくて燃料だけで動いとる。それが一番通る場面やと判断しただけや」

 

 緑谷は直哉の顔を覗き込んだ。

 

「禪院くんって——僕のことを、ちゃんと見てくれてるんだね」

 

「空写で監視してただけや。勘違いせんといて…気色悪いわ。」

 

「あはは…でも、空写だけじゃないと思うよ」

 

 直哉は返事をせず、鼻を鳴らした。だが——否定はしなかった。

 

 爆豪が出てきた。

 

 二人を一瞥し、「何してんだドブカス野郎」と吐き捨てた。

 

「整理してた。……お前も少しは脳みそ使って反省会でもしたらどうや?」

 

「あァ!? やんのかコラ!」

 

 爆豪は「ふん」と鼻を鳴らし、直哉の隣に立った。図らずも三人が並んで夜空を見上げる形になる。

 

「爆豪くん——ディオとの戦闘、空写で追ってたわ」

 

「……何をだ」

 

「俺が教えた予備動作、すぐに合わせとったな。爆豪くん、口は悪いけど耳だけはええらしいやんか」

 

「当たり前だ。使えるモンは何でも使う」

 

「……君は『設計』で動けとるな」

 

 爆豪が直哉を睨む。「何が言いてェ?」

 

「いや。感情だけで突っ込む馬鹿が多い中で、爆豪くんは情報を瞬時に処理して最適解を選べる。爆豪くんは数少ない『設計』ができる人間やと思っただけや」

 

 爆豪は少しの間、沈黙した。

 

「……てめぇだって、最後は感情で動いてねェか?」

 

「設計が燃料で動くことと、感情が燃料で動くことは別物やない?俺は『感情が燃料で、設計が方向を決める』と思っとる。……爆豪くんの燃料は、俺よりよっぽど熱いわ」

 

「だから何が言いてェ?」

 

「爆豪くんの設計と俺の設計は根っこが違う。けど、向いてる方向が重なった時は——かなり『強い』ということや」

 

 爆豪はしばらく直哉を見つめ、「…クソが。そんなの知ってるわ」と不敵に笑って視線を戻した。

 

 輪が増えた。

 

 轟が戻ってきた。「みんな外にいたのか」と淡々と言い、隣に並ぶ。

 

「轟くん——レヴィアタン戦はどうやった?」

 

「水流がデカかった。氷で封じるのに手間取った」

 

「傷は?」

 

「何箇所かあるが、まだ動ける」

 

「反転術式については俺専用やからな。自分自身で身体はしっかり管理せえや」

 

「ああ。気にするな」

 

 四人で夜空を見ていた。

 

 轟が「禪院——さっきの戦い、身体の癖で読んでたって本当か?」と尋ねた。

 

「そうや。個性の質が同じでも、人間の癖まではコピーできへん。呼吸、重心、関節の動き。それは個性やなくて『人間』を読むことや」

 

「……それって、個性のない人間でも読めるのか?」

 

「読めるわ。個性の気配がない人間は『空白』に映るけど、肉体の動きは投射呪法のフレームで見えとるさかいな」

 

 轟は「そうか」と言って、どこか得心したように空を見上げた。

 

「……轟くん。俺の空写は、個性の有無なんて関係ない。その場に『いる』という事実だけを平等に読む。それだけや」

 

「……そうか。ありがとう」

 

 エンデヴァーが現れ、四人を一瞥した。

 

「お前の空写、今夜は役に立った」

 

「当然ですわ。俺の設計に抜かりはありませんから」

 

「汎用性は高いな。だが、他のヴィランにいつ出し抜かれるかも分からん。気を抜くな。」

 

「…ハッ。そこらの有象無象に俺が負けるわけがあらへん。ちょい舐めすぎやないです?」

 

 エンデヴァーは少し黙り、「そうか」とだけ言って去っていった。

 

「禪院くん……唐突でごめん。AFOのこと、どう思ってる?」

 

 緑谷の問いに、直哉は少し考える素振りを見せた。

 

「…あいつは『設計』が深い。何十年も積み上げてきたもんがある。けどな……俺にできるんは、あいつの設計にバグを放り込むことや。奪われへん術式で、あいつの動きを削ってやるわ」

 

「……禪院くんは、遠くまで見てるんだね」

 

「設計の癖や」

 

「でも、燃料もちゃんとある気がするよ」

 

 直哉は扇子を閉じた。

 

「……緑谷くんには分からんでええわ」

 

 ロディがピノを連れてやってきた。

 

「……全部止まったってよ。親父の作ったキーが、役に立ったんだ」

 

 直哉はロディを見た。空写に映る「魂」の気配が、今は穏やかだ。

 

「お父さんの『設計』が、最後に人を救ったってことや。胸張っとけばえけんやないの?そんな空虚なもん嬉しがるのもどうかと思うけどな」

 

 ロディはその言葉に少し困惑しつつ苦笑を浮かべた。

 

 直哉はそっとその場を離れた。緑谷とロディの間に流れる空気は、直哉の入り込む場所ではない。

 

(……空写230メートル。全体の一角しか見えへんかったけど、その一角では完璧に動けた。それが今夜の俺の全てや)

 

 帰りの飛行機。

 

 窓際の席で、直哉は右腕を動かし、設計を振り返る。

 

「空写の可能性が広がったわ。質やなくて『動き』を読む術式としての確立。……けど、230メートルじゃ足りへん」

 

 戦場全体を見渡せないもどかしさ。緑谷が死闘を繰り広げている最中、正確な状況を読めなかった空白の時間。

 

「次は400メートル。距離優先モードの確立やな」

 

 隣では緑谷が泥のように眠っている。包帯が解けかけている。

 

(……起こすのも面倒やな。休ませといたるわ)

 

 通路に立つ爆豪が直哉を見た。

 

「まだ起きてんのか?ドブカス野郎」

 

「整理や。お前も12葉の衝撃、覚えとけ。次は爆豪くんの爆破と同時やぞ」

 

「……言われなくても分かってるわ!クソが!」

 

 爆豪は自席に戻った。

 

 直哉は窓の外、雲海を見下ろす。

 

「感情が燃料で、設計が方向を決める——今夜の燃料は、十分すぎるほどあったわ」

 

 それが何の感情なのか、直哉はあえて言葉にしなかった。

 

 禪院直哉は次の設計を頭の中で組み上げながら、静かに扇子を畳み、目を閉じた。




(……帰りの機内。
 隣で爆睡しとる緑谷くんの寝顔を見とると、つくづく計算の合わへん奴やなと思うわ。
 あんな無茶苦茶な出力で反射をぶち抜くなんて、俺の設計図には一行も書いてへん。
 けど、爆豪くんや轟くんもそうや。
 俺とは違う種類の「燃料」を持って、俺には見えへん飛び方で正解に辿り着きよる。
 「感情が燃料で、設計が方向を決める」
 俺がそう言うたんや。
 あいつらの燃料が異常に強いなら、俺はその火力を100%活かせるだけの「より広く、より精密な設計図」を用意せなあかん。
 それが、このクラスにおる俺の役割や。
 空写230m。……狭いわ。
 次は400m。距離優先モードの確立。
 そして12葉を、呼吸するように連射できるようにならなあかん。
 那歩島の砂浜で見えた限界。
 オセオンの夜空で見えた外縁。
 全部、俺が「最強の設計士」になるための地図や。
 ……あーあ。
 次あんな無茶苦茶なミッションに放り込まれても、
 「全部俺の設計通りや」って、涼しい顔で扇子仰いでやりたいしな。
 ……おやすみ、緑谷くん。
 次やる時は、もう少しスマートに勝たせてやるわ)
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