【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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ボロボロの泥まみれになって、ようやくあのデクくんが雄英に帰ってきた。
 空写に映るその気配は、今にも消えそうなくらいに細い。けど、芯の強さだけは相変わらず不細工なほど健在や。
 
 「毎夜の追跡記録」もこれでようやく最終回。……肩の荷が下りたわ。
 あとは、俺が立てた設計図通りに、あいつを休ませて、元の日常に戻すだけ。
 
 そう思っとったのに。
 
 翌朝、現場に現れたのは「偽物」やった。
 オールマイトの皮を被った、悍ましいほど肥大化した錬金の気配。
 空写500mの端に滲むその巨大な要塞と、連れ去られた少女——アンナちゃん。
 
 俺の設計に、また一つ、厄介なイレギュラーが混じりおった。
 「脳直結」を無理やり回してでも、この要塞の深淵まで視線を届かせなあかん。
 
 ……さて。
 眼帯の執事さんと、泣き虫な令嬢。
 この不揃いなピースをどう組み替えて、あの「象徴の紛い物」を解体したろか。

キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性ございます。
ご注意ください。

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第93話:映画編 ユアネクスト 「巨大要塞——空写500mの戦場」

緑谷が雄英に帰ってきた夜、直哉は空写でそれを確認した。

 

 毎夜追い続けていた気配が、ようやく雄英の敷地内に入ってきた。消耗している。かなり削れている。でも——生きている。動いている。

 

「……帰ってきた。ほんま、手のかかる奴やわ」

 

 直哉は窓の外を見ながら、扇子を静かに開いた。

 

 原作で言うところの黒デク編が終わった。あの夜の「毎夜の追跡記録・最終回」から、少し時間が経った。緑谷は今夜、雄英の中にいる。

 

(……ボロボロの不細工な姿で戻りおって。まあ、これでようやく俺の安眠が守られるいうわけや。設計通り、っちゅうことにしといたるわ)

 

 設計の外にある感情が、少しだけ動いた。直哉はそれを記録して、扇子を閉じた。

 

 明日から、また設計を動かす。

 

 翌朝。

 

 相澤から召集がかかった。

 

 ダツゴクであるギンジ——喰有銀次が街で暴れているという通報が入った。A組が対処に向かう。

 

 直哉は空写を展開しながら、現場に向かった。

 

 現場に近づくにつれて、ギンジの気配が空写に流れ込んでくる。

 

「……おかしいな。不細工な気配がさらに膨れ上がっとる」

 

 直哉は足を止めた。

 

 ギンジの個性の気配が——膨れ上がっている。通常のダツゴクの個性とは質が違う。何かで強化されている。ドーピングか、あるいは別の要因か。

 

「気配が通常の二倍以上ありますわ。個性が強化されとる。……相澤先生、これ、ただのダツゴクや思てたら足元すくわれますよ」

 

「分かった。慎重に動け」

 

 現場に到着すると、ギンジが街の一角を壊していた。

 

 緑谷が前に出た。交戦が始まる。

 

 直哉は空写でギンジの動きを追いながら、周囲の状況を読んだ。

 

 人質になっている少女がいる。ギンジがその少女を盾にしながら動こうとしている。緑谷が正面から制圧しようとしているが、少女の存在が制約になっている。

 

「——緑谷くん。ギンジの右足の重心が今、浮いた。0.3秒後に左に動く。その瞬間に少女から離れる——今や!」

 

 緑谷が「今」に反応した。ギンジが左に動いた瞬間、緑谷が黒鞭で少女を引き離した。

 

 次の瞬間——

 

 空気が変わった。

 

 直哉の空写が、全く違う気配を捉えた。

 

 巨大だ。

 

 空写の端から端まで、その気配が満ちている。500mの射程に入ってきた。いや——遠い。まだ500mより先にある。でも、気配の規模が大きすぎて500mの端に滲んでいる。

 

「——何や、これ。胸糞悪いほどデカいな」

 

 空から、男が降りてきた。

 

 オールマイトに似た見た目。でも——違う。肩の形が違う。動き方が違う。個性の気配の質が、オールマイトとは全く別物だ。

 

 男はギンジを一撃で吹き飛ばした。

 

 そして——少女を連れ去ろうとした。

 

「——待て!」

 

 緑谷が黒鞭を展開した。男——ダークマイトが錬金を発動した。黒鞭が変形した構造物に絡め取られた。

 

 直哉は空写でダークマイトの個性の気配を読んだ。

 

 (錬金——物質を変換・操作する個性…AFOから与えられたものやない。恐らく本来の個性や。個性の気配の根が、一本だ。せやけど——その一本の根から出てくる力が、膨大や)

 

「物質変換系の個性——けど、規模が異常や。オールマイトの紛い物のくせに、ええ力持ってんな」

 

 ダークマイトが少女を抱えて、空中に要塞を展開し始めた。

 

 錬金の力が、空中の構造物を急速に組み上げていく。金属と岩と何かよく分からない素材が混ざり合って、巨大な要塞が形成されていく。

 

 A組が飲み込まれた。

 

 要塞の内部は、暗かった。

 

 直哉は鏃の連続使用…立体機動で壁を蹴りながら、空写を展開した。

 

 500m。精度優先。

 

 でも——要塞の規模が大きすぎる。500mでは全体が把握できない。中枢がどこにあるか、ダークマイトが今どこにいるか、完全には読めない。

 

「……チッ、射程が足りへんわ。こんな不細工な箱庭に閉じ込められおって」

 

 独り言が暗い廊下に落ちた。

 

 那歩島の後、現時点の空写の射程は500mを超えた。でも「超えた」というだけで、安定していない。精度優先モードで230m。それ以上は——伸びるときと伸びないときがある。

 

 コントロールできていない。

 

「……脳直結と組み合わせたらどうや。俺の脳みそ、もっと酷使したろか」

 

 直哉は考えた。

 

 反転術式脳直結は、甚爾くんとの戦闘で初めて実戦成立した。空写などの長時間の術式維持による脳への負荷を、脳直結でリアルタイムに修復する。それによって焼き切れなどを防ぎ、空写の維持時間が大幅に伸びた。

 

 同じ原理で——空写を「より遠くに伸ばす」ときに生じる脳への負荷も、脳直結で補えるかもしれない。

 

「試す価値はあるわな」

 

 直哉は反転術式脳直結を起動した。

 

 脳に術式のエネルギーが流れ込む感触。神経回路が冷却される。

 

 その状態で、空写を限界まで伸ばした。

 

 500mの端が——伸びた。

 

 530m。540m。550m。

 

 脳への負荷が上がる。でも——脳直結がリアルタイムで補っている。限界が伸びている。

 

「……届くわ。これなら要塞の中枢まで覗き見れる。俺の設計から逃げられる思うなよ」

 

 直哉は空写を550mで安定させながら、要塞の構造を読み始めた。

 

 廊下を進んでいると、男と出会った。

 

 右目に眼帯。義手と義足。クールな外見の男が、廊下の中程で立っていた。

 

 空写で読む。個性の気配——「因子相殺」。個性因子を相殺・抑制する系統の個性だ。戦闘向けではないが、特定の状況では非常に強力だろう。

 

「……禪院直哉。雄英1年A組や。おたく、こんなとこで何しとるんです?」

 

「ジュリオ・ガンディーニ。——アンナを追っている」

 

「アンナ——さっきの連れ去られた女の子か」

 

「そうだ」

 

 ジュリオは直哉を見た。

 

「お前は何をしている?」

 

「ダークマイトを追っとる。それとも正確には——この不細工な要塞の構造を読んでる、言うた方が正しいかな」

 

「読む?」

 

「空写という個性の技があるんですわ。気配を読む力。今、この要塞の大体の構造は見えとります」

 

 ジュリオは少しの間、直哉を観察した。

 

「……信用できるか」

 

「信用? そんなんどうでもええですわ。設計を共有できるかどうかは、これから確認すること。今は同じ方向を向いとる——それだけで十分やないですか?」

 

 ジュリオは「…まぁ…そうだな」と言った。

 

 二人は並んで進み始めた。

 

 ダークマイトと最初に交戦したのは、要塞の中層部だった。

 

 空写でダークマイトの気配を追っていた直哉が、「この先に来る」と判断して待ち構えた。

 

 ダークマイトが現れた。

 

「——また会ったな、学生」

 

「会いに行きましたわ。その不細工な顔、近くで見ると余計に腹立ちますね」

 

 直哉は扇子を開いた。

 

 空写でダークマイトを読む。錬金の予備動作——物質に意識を向ける瞬間、気配の収束点が物質の方向に向く。その0.2秒が予備動作だ。

 

「錬金の準備動作——気配が物質に向いた。……はい、回避」

 

 ダークマイトが腕を伸ばした。気配が廊下の壁に向いた——0.2秒後に壁が変形する。

 

 直哉は鏃を足下に展開した後起爆した勢いで跳躍し、その後天井を蹴って更に上に跳んだ。廊下の壁が鋭い刃に変形して、直哉のいた場所を薙いだ。

 

「——読んでいるのか?」

 

「全部見えとるわ。あんたのどん臭い予備動作」

 

 直哉は着地と同時に鏃を射出した。三連射。ダークマイトの胸部に向けて。

 

 ダークマイトが錬金で盾を生成した。鏃が盾に当たって止まった。

 

 でも——止まる前に、一発だけ盾の生成が間に合わなかった箇所から抜けた。ダークマイトの左肩に鏃が当たった。

 

「——厄介な個性か」

 

「個性やないですわ。あんなみたいな品質の低いパチモン…紛い物と一緒にせんといてや」

 

「個性ではない力——?」

 

 ダークマイトが鏃の当たった肩を見た。

 

「……これは珍しい」

 

 直哉は空写でダークマイトの気配を読み続けた。

 

 鏃が当たった肩の気配——個性の防御とは違う反応が出ている。「術式の衝撃」に、ダークマイトの個性防御が対応できていない。

 

「術式は通る——設計が立ったわ」

 

 直哉は扇子を持ち替えた。

 

「瞬刻、二十四節、積層の理」

 

 その詠唱は刹那の合間に紡がれた。

 

「…極の番・『積層残影』12葉!」

 

 12葉が炸裂した。

 

 ダークマイトが錬金の盾を展開した。でも——盾の「個性としての防御」は術式の衝撃を完全には受け止められない。12葉の衝撃が盾を通り抜けてダークマイトの胸部に入った。

 

 ダークマイトが——後退した。

 

「……術式の衝撃は、錬金の盾を通す。個性防御の外側にある力や。……ふん、案外脆いな」

 

 確認が取れた。

 

 でも——ダークマイトは倒れなかった。12葉が入っても、体制を崩しただけで立っている。

 

「……しぶとい。流石にタフさだけは本物に近いんか?」

 

 直哉は扇子を構え直した。

 

「今日の本番やないな——今日は設計の確認をしただけや。お疲れさん」

 

 ダークマイトが「ここで逃げるのか?」と言った。

 

「あくまで撤退や。設計の確認が終わった。無駄な呪力は使いたないんでな」

 

 直哉は鏃の反動推進で後退しながら、空写でジュリオとアンナちゃんの気配を追った。

 

「ジュリオくんが動いた。合流できるわ」

 

 ジュリオとアンナと合流した場所で、直哉は状況を整理した。

 

 アンナの個性「過剰変容」——自身の因子に適合する個性を強化・変容させる個性だ。空写でアンナの気配を読むと、その因子が直哉の周囲の個性の気配にも干渉しようとしているのが分かった。

 

「……あの子の因子、周囲の個性に干渉しとるな。迷惑な個性や」

 

「俺の『因子相殺』で抑えていた。でも——腕を失ってから、制御が難しくなった」

 

 ジュリオが義手の右腕を見た。

 

「因子相殺の発動起点が右腕やったんか。不便な設計やな」

 

「そうだ」

 

「——なるほど。それがダークマイトに利用されてる、っちゅうわけか」

 

「アンナの過剰変容が、ダークマイトの錬金を強化している。今夜感じた——錬金の気配が変質しつつある。アンナの因子の影響だ」

 

 アンナが「ごめんなさい」と言った。直哉はアンナを見た。

 

「謝る必要はないわ。アンナちゃんの個性が問題やない——それを利用しとる不細工な男が問題や。……泣き顔晒す暇あったら、俺の設計に乗りや。その方が雅な設計を描けるわ。」

 

「でも——」

 

「せやから設計の問題や。設計を変えれば解決できる。な?ジュリオくん」

 

 アンナは少し驚いた顔をした。

 

「設計?」

 

「アンナちゃんの因子の暴走を抑える方法——それを設計として組み立てる。俺の術式でできることは限られてるが、ジュリオくんの『因子相殺』が機能すれば抑えられる」

 

 ジュリオが「——そのために俺はここにいる」と言った。

 

 直哉は扇子を開いた。

 

 空写でダークマイトの気配を追った。550mの端——まだ要塞の奥にいる。

 

「……今夜の設計の確認はできた。術式は錬金に通る。12葉が入った。錬金の予備動作は気配で読める。そして——アンナちゃんの因子がダークマイトを強化し続けとる」

 

 直哉は状況を整理した。

 

「問題は——アンナちゃんの因子の影響が強くなるほど、ダークマイトが手に負えなくなる。設計を急がなあかんな」

 

 夜が深まった。

 

 要塞の一角で、直哉・ジュリオ・アンナちゃんが一時的に身を潜めていた。

 

 直哉は空写を展開しながら、脳直結の感触を確かめていた。

 

 550m。脳直結との組み合わせで、今日は550mを安定して維持できた。緑谷くんとの戦闘で初めて脳直結を使ったときより、精度が上がっている。

 

「……脳直結と空写の相性、実戦で確認できたわ。俺の脳みそ、案外タフやな」

 

 独り言が暗い空間に落ちた。

 

「空写を伸ばすときに生じる脳への負荷を、脳直結がリアルタイムで補う。これが安定したら——700mも見えてくるわな」

 

 ジュリオが「何を確認している?」と言った。

 

「術式の感触や。実戦で使いながら、設計を更新せなあかん。おたくらみたいに、ぶっつけ本番で動くほど俺は無責任やないんでな」

 

「戦闘中に設計を更新するのか?」

 

「常にや。動きながら読んで、読みながら設計を変える——それが投射呪法の根幹やさかいな」

 

 アンナちゃんが「投射呪法って、どんな力ですか?」と聞いた。

 

「世界を1/24秒のフレームで分割して、その中に書き込みをする力。気配を読む。固定を書き込む。衝撃を積み重ねる——全部、フレームの中の設計や。……お嬢ちゃんには、ちょっと難しかったかな?」

 

「フレームの中の設計——」

 

「アンナちゃんのお父さんが解除キーを作ったように、俺は設計を作る。目的は違うが——根は同じかもしれへんわ」

 

 アンナはしばらく直哉を見ていた。

 

「禪院さんって——不思議な人ですね」

 

「よく言われとるわ。変人扱いされるんは心外やけどな」

 

 ジュリオが静かに笑った。

 

 直哉は扇子を閉じた。

 

 空写でダークマイトの気配を確認する。550mの端——まだ動いている。

 

「明日——本番や。精々、俺の設計通りに動いてもらうで」

 

(全て俺の設計の上や…誰にもこのデザインは変えさせへん。絶対や…)

 

 独り言、そして心情が静かな要塞の一角に消えた。

 

 禪院直哉は、次の設計を頭の中で組み立てながら、目を閉じた。




(……要塞の片隅、暗闇の中。
 脳が焼けるような熱を、反転術式が無理やり冷やし続けとる。
 空写550m。
 デクくんとの私闘で掴んだ「脳直結」の感覚が、今この巨大な箱庭を読み解く唯一の鍵や。
 ダークマイト。
 あいつの錬金術は、この世界の「個性」の枠組みの中では無敵に近いかもしれん。
 けど、俺の術式は個性の次元にない。
 12葉の衝撃が盾を透過した瞬間、あいつの顔に浮かんだ「動揺」のフレーム——。
 あれが、俺の設計が正解やという何よりの証拠や。
 ジュリオくんの「因子相殺」と、アンナちゃんの「過剰変容」。
 この二つの矛盾した個性が、ダークマイトの力の根源であり、同時に弱点でもある。
 ……ふん。
 「不思議な人」なんて言われおったけど、不思議なんは俺やなくてこの状況や。
 令嬢を救うのは執事の役目かもしれんけど、そのための「道」を引くんは、設計士である俺の仕事やからな。
 明日。
 550mの解像度で、あの偽物の玉座を、フレーム単位で引き裂いてやるわ。)
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