【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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夜明け前、一番眠い時間にあの「紛い物」が動き出しおった。

 空写550mの端っこで、錬金の気配が不細工にのたうち回っとるのが丸見えや。
 
 要塞そのものを武器にするなんて、発想だけは派手やけどな。

 俺から言わせれば、予備動作が丸出しのガバガバな設計や。

 右を動かせば左が疎か。左で刻めば右が止まる。
 
 「全部見えてますわ、お前のどん臭い予備動作」
 
 ジュリオくんにはアンナちゃんを連れて下がれ言うたけど、結局は共闘することになりおった。

 義足の執事に、泣き虫な令嬢。

 俺の「脳直結」が焼き切れる前に、この不自由なパーティーでどこまであいつを削れるか。
 
 12葉、18葉……そして、その先。

 術式の衝撃が個性の盾をぶち抜く快感、精々その身に刻んでおけや。

キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性ございます。
ご注意ください。

感想、評価付与、お気に入り登録は直哉がオールマイトのパチモンをボコボコしてくれます!


第94話:映画版 ユアネクスト「錬金の設計——物質と術式の衝突」

夜明け前に、ダークマイトが動き始めた。

 

 直哉の空写が先に感知した。

 

 550mの端——気配が収束している。錬金の予備動作だ。要塞の構造を変えようとしている。

 

「——動いた。ジュリオくん、アンナちゃんを連れて奥に下がれ」

 

 ジュリオが即座に動いた。アンナを連れて廊下の奥に移動する。

 

 直哉は扇子を開いて、前に出た。

 

 要塞の壁が変形し始めた。金属と岩が混ざり合って、通路を塞ぐような形に変形していく。

 

 直哉は空写でその変形の方向を読んだ。気配の収束点——錬金の意志が向いている方向。そこから変形が始まる。

 

「読めるわ。あんたの頭の中、スカスカやな」

 

 落花の情で壁を蹴る。高速で移動しながら、変形する要塞の構造物を避け続けた。

 

 ダークマイトが現れた。

 

「昨夜の続きをするか、学生」

 

「しますわ。その不細工なツラ、拝みに来てやったわ」

 

 戦闘が始まった。

 

 ダークマイトが錬金を展開する。要塞の構造物が武器に変わっていく。金属の刃。岩の塊。何かよく分からない合成素材の鋭角。

 

 直哉は空写でその全部の予備動作を読みながら、回避し続けた。

 

 錬金の予備動作——気配が物質に向く。その0.2秒後に変形が始まる。

 

「全部見えとる。どん臭い動きやな」

 

 投射呪法からの鏃の連続稼働…立体機動で天井を蹴る。そして鏃を爆破させた反動推進で横に跳ぶ。空虚呪法で固定節を生成して迫ってくる構造物を止める。

 

 昨日より動きが分かっている。錬金の動きの「癖」が見えてきた。

 

「——右手を使うときは大型の変形。左手を使うときは細かい変形の連射。……分かりやすすぎて欠伸が出るわ」

 

 ダークマイトの動き方の癖が空写で見えてくる。右手で大きな攻撃を作るとき、左手で牽制の細かい攻撃を同時に出す。

 

「それが分かれば——設計が立つ」

 

 鏃を六連射。鋭利な槍の形状を模ったそれらは、大型の変形が来る前の0.3秒に、ダークマイトの右手の動きを妨害するように射出した。鏃が右手の動きを乱す。大型変形の形が崩れた。

 

 その隙に直哉は密着距離まで詰めた。

 

「極ノ番…『積層残影』——12葉!」

 

 多重に重なった12葉が炸裂した。ダークマイトの胸部に直撃する。後退する。

 

「昨日と同じ手か」

 

「同じ設計を繰り返せる手なら繰り返す——それが設計やさかいな。あんたの学習能力、ミジンコ以下か?」

 

 直哉は再び後退しながら、空写を展開し続けた。

 

 十分が経った。

 

 12葉を三発入れた。ダークマイトのダメージは蓄積しているが——倒れない。

 

 直哉の消耗も積み重なっていた。脳直結で空写を550mで維持しながら、投射呪法・鏃・零駒・空虚呪法・落花の情・反転術式を状況に応じて同時に動かし続けている。呪力の消耗が速い。

 

「……12葉では削り切れへんか。タフさだけは本物並みやな、不細工な癖に」

 

 直哉は扇子を握った。

 

 18葉——オセオンの時で12葉の感触を掴んだ。その延長線上に18葉がある。今日の消耗状況で使えるか。

 

(脳が焼けるような感覚……けど、ここで止まったら俺のプライドが許さへんわ)

 

「——使えるわ。設計に入れたる」

 

 ダークマイトが大規模な錬金を展開した。要塞の一角全体が武器に変わっていく。天井、壁、床——全部が変形し始めた。

 

「でかいな。無駄に規模だけは一人前か」

 

(所詮全て作り物…結局は紛い物や。こんなの個性を奪って虚勢を張っとるAFOと何も変わらん。しかもあのオールマイトに似せとるのがイラつくわ。…『あっち側』にいた平和の象徴は1人おればええんや。確実にその顔面潰したるわ)

 

 直哉は空写でその全体の予備動作を読もうとした。

 

 読みきれない。規模が大きすぎる。予備動作の気配が多方向から同時に来る。

 

「——全部は処理できへん。一方向に絞る」

 

 直哉は空写を絞った。ダークマイトの「意志の中心」だけを追う。

 

 錬金の意志——どこに向いているか。何を作ろうとしているか。

 

 収束点が見えた。

 

 ダークマイトの意志が一点に集まっている。そこから全方向の変形が派生している。

 

「意志の収束点——そこを先に崩せば、全方向の変形が止まる。単純な話や」

 

 直哉は鏃の反動推進で跳んだ。変形する構造物の間を縫いながら、ダークマイトの収束点に向かって近づく。

 

 空虚呪法で固定点を生成して足場を作る。そして鏃の足場付近での爆破で方向転換しながら加速する。

 

 収束点の距離——30m。

 

「今や!」

 

 直哉は扇子を構えた。

 

「瞬刻、二十四節、積層の理…」 

 

 その詠唱には確かな軽蔑や殺意が混じっていた。

 

 「極ノ番・『積層残影』18葉!!!」

 

 18葉が炸裂した。

 

 12葉より重い。明らかに違う衝撃が放出された。

 

 ダークマイトの意志の収束点——そこに18葉が直撃した。

 

 全方向への変形が——止まった。

 

 一瞬だけ。でも確かに、要塞の変形が止まった。

 

「——」

 

 ダークマイトが初めて、大きく体制を崩した。

 

「18葉——入った。……どうや、象徴の紛い物さん?」

 

 直哉は後退しながら、右腕の感触を確かめた。

 

 12葉より負荷が大きい。脳直結が補っているが——連続使用は難しい感触だ。「1発なら使える。連射には間が必要」——それは12葉と同じ構造だが、間隔が長い。

 

「18葉の感触——記録した」

 

 ダークマイトが立ち直った。

 

 でも——気配が変わった。

 

 直哉の空写が、異質な変化を感知した。

 

「——あれ、は。……気色悪い気配やな」

 

 ダークマイトの錬金の気配が——膨れ上がっていた。

 

 昨日より。今朝の戦闘開始時より。今この瞬間より。急激に、気配の質が変容している。

 

「アンナちゃんの因子——影響が強くなっとるな」

 

 アンナの過剰変容が、ダークマイトの錬金を強化している。その影響が今、加速している。

 

 ダークマイトの個性の気配が——複数の層に分かれ始めた。

 

「……個性の質が、複数に分裂しとる。一つの個性が、複数の効果に変容しおった」

 

 ナインの戦闘で経験した感触と似ている。でも違う。ナインは複数の個性を持っていた。ダークマイトは——一つの個性が変容して複数の効果を出している。

 

「根は一つ。でも表出が複数——アンナちゃんの因子の影響で、錬金の可能性が拡張されとるわけか。ほんま、寄生虫みたいな男やな」

 

 ダークマイトが腕を振った。

 

 今まで見たことのない変形が起きた。金属が液状に溶けて、高速の流体として飛んでくる。

 

「——液体金属か」

 

 直哉は後退した。空写で液体金属の動線を読む。でも——液状は気体に近い。固体の変形より予備動作が短い。

 

「読みが追いつかへん……ッ!」

 

 液体金属の一部が直哉の左腕に当たった。

 

 衝撃と熱。反転術式が即座に動く。皮膚への損傷を修復する。でも——衝撃で姿勢が崩れた。

 

「——まずいな」

 

 ダークマイトが追撃しようとした。

 

 その瞬間。

 

「——禪院!」

 

 ジュリオが来た。

 

 義足の推進力で高速移動しながら、ダークマイトとアンナの間に割り込んだ。因子相殺を発動して、アンナの過剰変容の拡散を一時的に抑える。

 

 ダークマイトの錬金の変容が——一瞬、落ち着いた。

 

「ジュリオくん——」

 

「今だ、禪院!」

 

 直哉は即座に判断した。

 

 ジュリオが因子相殺でアンナの影響を抑えている今——ダークマイトの錬金の変容が止まっている。

 

 今が入れ時だ。

 

 (ここや!また打ち込んだる!)

 

 直哉は鏃の反動推進で一気に詰めた。

 

「瞬刻、二十四節、積層の理」 

 

今回の詠唱は速く、確かな一撃を加えるための工夫が見てとれた。

 

「極ノ番・『積層残影』18葉!!」

 

 二発目の18葉。

 

 右腕への負荷が急増する。脳直結が全力で補う。

 

 18葉がダークマイトの胸部に入った。

 

 ダークマイトが大きく後退した。壁に叩きつけられた。

 

「——」

 

 倒れなかった。

 

 でも——起き上がるのに時間がかかっていた。18葉二発の蓄積が確実に入っている。

 

「……削れとるな。案外、中身は空っぽか?」

 

 ジュリオがアンナを抱えながら、直哉の横に来た。

 

「あと何発入れられる?」

 

「18葉なら、あと一発か二発やな。脳直結の消耗が限界に近いわ」

 

「24葉と言ってたものはどうだ?」

 

「24葉は——今日は一発だけや。……出し惜しみは嫌いやけど、これ使ったら俺の腕が使い物にならんくなるわ」

 

 直哉は右腕の感触を確かめた。

 

 18葉二発の後の右腕は、既に反転術式の修復が追いついていない部分がある。24葉を使えば——右腕がかなり厳しくなる。

 

「さやけど——設計として、24葉を使うべき場面がある」

 

「どんな場面だ?」

 

「ダークマイトの意志の収束点——そこが完全に露出した瞬間や。今日はジュリオくんの因子相殺が一瞬それを作ってくれた。でも——おたくの制御力には限界があるわな」

 

「そうだ。俺の因子相殺は、起点を失ってから精度が下がっている」

 

「なら——今日の24葉は、一番深い瞬間に一発入れる。それが今日の設計の全部。……外したらおたくらのせいやからな」

 

 ジュリオは直哉を見た。

 

「……お前は冷静だな」

 

「設計の問題として見てるさかいな。感情で動くほど俺は安っぽない」

 

「怖くないのか?」

 

 直哉は少しの間、考えた。

 

「怖くはない。でも——アンナちゃんに影響がある場面では、設計の精度を上げなアカンというプレッシャーはあるな。……お嬢ちゃんに泣かれるんは、寝覚めが悪い」

 

(ここで女に被害が出て、ジュリオくんに下手に動かれると詰みかねん。女の扱いとかめんどくさくて嫌なんやけど…しゃあない。必要経費や)

 

「それは感情ではないのか?」

 

「……感情が燃料で、設計が方向を決める。その燃料が今日は、アンナちゃんを守るという方向にある。それが設計を動かしとるだけや」

 

 (こう言っとけば、間違いはないやろ。せいぜい言葉という表面上の餌に釣られといてや…ほんまに滑稽やね)

 

 ジュリオは「そうか」と言った。

 

 アンナが「禪院さん——ありがとう」と言った。

 

「礼は後や。まだ終わってへん。……しっかり見とけや」

 

 ダークマイトが再び動き始めた。

 

 今度は——慎重だ。

 

 18葉二発を受けたことで、直哉の術式が個性の防御を通り抜けることを理解したのだろう。距離を取りながら、遠距離から錬金を展開している。

 

「距離を置きおった。……俺に詰められるんが、そんなに怖いんか?」

 

 直哉は空写でダークマイトの動きを追った。

 

 遠距離からの錬金——液体金属の射出、構造物の遠隔変形、要塞の天井を崩す大規模攻撃。

 

「全部読めとる。せやけど——距離があると入れる機会が減るな。……じれったい男やわ」

 

 どうする。

 

 直哉は考えながら、回避を続けた。

 

 鏃を牽制で射出しながら、ダークマイトの動きの「癖」を読み続ける。

 

 大規模攻撃の前に——一瞬、気配が引く。

 

「——!」

 

 直哉は気づいた。

 

 大規模な錬金を展開する前、ダークマイトの意志の収束点が一瞬だけ露出する。大量の錬金を動かすために意識を集中させる瞬間——そこで収束点が分かりやすくなる。

 

「大きい攻撃の前が入れ時や。……待ちくたびれたわ」

 

 直哉は鏃の牽制を続けながら、その瞬間を待った。

 

 ダークマイトが大規模な錬金を準備し始めた——天井全体を崩す気配が出てきた。

 

「来る——収束点が露出した!」

 

 直哉は鏃を爆破させた反動推進で跳んだ。

 

 天井が崩れ始める——その0.1秒前。

 

「今や——!」

 

「瞬刻、二十四節、積層の理」 

 

この詠唱には確かな力が込められていた。

 

「極ノ番・『積層残影』24葉!!」

 

 24葉の詠唱が口から出た。

 

 今まで使ってきた12葉・18葉とは別次元の重さが、術式に乗った。

 

 24葉がダークマイトの意志の収束点に直撃した。

 

 天井の崩落が——途中で止まった。

 

 ダークマイトが大きく吹き飛んだ。要塞の壁を貫いて、隣の区画まで飛んだ。

 

 轟音。粉塵。

 

 直哉は着地して、右腕を見た。

 

 脳直結が全力で稼働している。右腕の負荷が大きい。反転術式が急いで修復しているが——しばらくは次の大技は使えない。

 

「……24葉が入ったな。……あー、ほんま、不細工な要塞やわ」

 

 独り言が粉塵の中に落ちた。

 

 粉塵が晴れた。

 

 ダークマイトが——起き上がった。

 

「……倒れへんか。しぶといだけの紛い物やな」

 

 24葉が入っても、立ち上がった。

 

 でも——気配が変わった。ダークマイトの錬金の気配が、今まで以上に膨れ上がっている。

 

「アンナちゃんの因子——もっと強くなっとるな。……アンナちゃん、無茶しすぎや」

 

 空写でアンナの気配を確認した。アンナが苦しそうにしている。過剰変容が制御を超えて拡散し始めている。ジュリオの因子相殺が間に合っていない。

 

「ジュリオくん——アンナちゃんが限界や!」

 

「分かっている——俺の制御が足りない…!」

 

 ダークマイトの気配が最大化した。

 

 今まで見たことのない規模の変容が始まった。

 

 錬金の気配が——要塞全体を覆い始めた。

 

「まずいわ——要塞全体が武器になりおった」

 

 直哉は空写を最大限に展開した。脳直結で補いながら、要塞全体の変容を読もうとした。

 

 550m。ギリギリ全体が見える。

 

「……ダークマイトの意志の収束点が移動しとる。要塞の中心部、どこかに移動しおったな」

 

「どこだ?」

 

「まだ特定できてへん。……ッ、脳直結の消耗が限界に近いわ。あと少しで——」

 

 直哉の脳に、鋭い痛みが走った。

 

 空写の維持に限界が来た。脳直結が追いつかなくなっている。

 

「——空写が落ちる前に、収束点を特定せなあかん。……俺の脳みそ、仕事せえや!」

 

 直哉は最後の集中を空写に向けた。

 

 要塞全体の気配を追う。ダークマイトの意志の収束点——どこだ。

 

 見えた。

 

「——要塞の最上部。中心から少し右。そこが収束点や。……不細工な場所陣取っとるわ」

 

「分かった」

 

 ジュリオが動いた。

 

 直哉は空写が落ちるのを感じながら、次の設計を組み立て始めた。

 

「明日——全部出す。24葉のその先…今日の消耗が回復したら、次は最後の手を使うたる。今度こそあの偽物のツラをぶっ潰してやるわ」

 

 要塞が揺れていた。

 

 禪院直哉は、来たる最後の局面のための設計を、今夜から始めていた。




(……粉塵が舞う中、右腕の震えが止まらへん。
 反転術式を全開で回しとるけど、24葉の反動はやっぱり重いわな)

 「……倒れへんか。しぶとい男やわ、ほんま」
 
 (24葉を意志の収束点に叩き込んで、要塞の崩落を無理やり止めたわ。
 けど、あいつの気配は消えるどころか、アンナちゃんの因子を吸ってさらに醜く膨れ上がっとる。
 脳が熱い。
 空写を550mで維持し続ける負荷が、脳直結の冷却を上回り始めとる。
 視界の端がチカチカするわ)
 
 「……禪院さん、ありがとう」
 
 (アンナちゃんにそう言われて、少しだけ気分が良くなった。美人からの絶賛ほど、気持ちのええもんはないわ)

 「礼なんかええ。俺は俺のプライドのために、あの「象徴の紛い物」を否定したいだけや」
 
 (ジュリオくんも限界。アンナちゃんの制御も限界。
 そして俺の脳みそも、もうじきオーバーヒートや
 けど、収束点は見えた。最上部の右。
 明日はあそこに、今日以上の「重み」を叩き込んだる。
 ……さて、寝不足で肌が荒れる前に、この不細工な設計を終わらせにいくか。)
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