【完結予定】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。 作:まだら模様
空写550mの端っこで、錬金の気配が不細工にのたうち回っとるのが丸見えや。
要塞そのものを武器にするなんて、発想だけは派手やけどな。
俺から言わせれば、予備動作が丸出しのガバガバな設計や。
右を動かせば左が疎か。左で刻めば右が止まる。
「全部見えてますわ、お前のどん臭い予備動作」
ジュリオくんにはアンナちゃんを連れて下がれ言うたけど、結局は共闘することになりおった。
義足の執事に、泣き虫な令嬢。
俺の「脳直結」が焼き切れる前に、この不自由なパーティーでどこまであいつを削れるか。
12葉、18葉……そして、その先。
術式の衝撃が個性の盾をぶち抜く快感、精々その身に刻んでおけや。
キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性ございます。
ご注意ください。
感想、評価付与、お気に入り登録は直哉がオールマイトのパチモンをボコボコしてくれます!
夜明け前に、ダークマイトが動き始めた。
直哉の空写が先に感知した。
550mの端——気配が収束している。錬金の予備動作だ。要塞の構造を変えようとしている。
「——動いた。ジュリオくん、アンナちゃんを連れて奥に下がれ」
ジュリオが即座に動いた。アンナを連れて廊下の奥に移動する。
直哉は扇子を開いて、前に出た。
要塞の壁が変形し始めた。金属と岩が混ざり合って、通路を塞ぐような形に変形していく。
直哉は空写でその変形の方向を読んだ。気配の収束点——錬金の意志が向いている方向。そこから変形が始まる。
「読めるわ。あんたの頭の中、スカスカやな」
落花の情で壁を蹴る。高速で移動しながら、変形する要塞の構造物を避け続けた。
ダークマイトが現れた。
「昨夜の続きをするか、学生」
「しますわ。その不細工なツラ、拝みに来てやったわ」
戦闘が始まった。
ダークマイトが錬金を展開する。要塞の構造物が武器に変わっていく。金属の刃。岩の塊。何かよく分からない合成素材の鋭角。
直哉は空写でその全部の予備動作を読みながら、回避し続けた。
錬金の予備動作——気配が物質に向く。その0.2秒後に変形が始まる。
「全部見えとる。どん臭い動きやな」
投射呪法からの鏃の連続稼働…立体機動で天井を蹴る。そして鏃を爆破させた反動推進で横に跳ぶ。空虚呪法で固定節を生成して迫ってくる構造物を止める。
昨日より動きが分かっている。錬金の動きの「癖」が見えてきた。
「——右手を使うときは大型の変形。左手を使うときは細かい変形の連射。……分かりやすすぎて欠伸が出るわ」
ダークマイトの動き方の癖が空写で見えてくる。右手で大きな攻撃を作るとき、左手で牽制の細かい攻撃を同時に出す。
「それが分かれば——設計が立つ」
鏃を六連射。鋭利な槍の形状を模ったそれらは、大型の変形が来る前の0.3秒に、ダークマイトの右手の動きを妨害するように射出した。鏃が右手の動きを乱す。大型変形の形が崩れた。
その隙に直哉は密着距離まで詰めた。
「極ノ番…『積層残影』——12葉!」
多重に重なった12葉が炸裂した。ダークマイトの胸部に直撃する。後退する。
「昨日と同じ手か」
「同じ設計を繰り返せる手なら繰り返す——それが設計やさかいな。あんたの学習能力、ミジンコ以下か?」
直哉は再び後退しながら、空写を展開し続けた。
十分が経った。
12葉を三発入れた。ダークマイトのダメージは蓄積しているが——倒れない。
直哉の消耗も積み重なっていた。脳直結で空写を550mで維持しながら、投射呪法・鏃・零駒・空虚呪法・落花の情・反転術式を状況に応じて同時に動かし続けている。呪力の消耗が速い。
「……12葉では削り切れへんか。タフさだけは本物並みやな、不細工な癖に」
直哉は扇子を握った。
18葉——オセオンの時で12葉の感触を掴んだ。その延長線上に18葉がある。今日の消耗状況で使えるか。
(脳が焼けるような感覚……けど、ここで止まったら俺のプライドが許さへんわ)
「——使えるわ。設計に入れたる」
ダークマイトが大規模な錬金を展開した。要塞の一角全体が武器に変わっていく。天井、壁、床——全部が変形し始めた。
「でかいな。無駄に規模だけは一人前か」
(所詮全て作り物…結局は紛い物や。こんなの個性を奪って虚勢を張っとるAFOと何も変わらん。しかもあのオールマイトに似せとるのがイラつくわ。…『あっち側』にいた平和の象徴は1人おればええんや。確実にその顔面潰したるわ)
直哉は空写でその全体の予備動作を読もうとした。
読みきれない。規模が大きすぎる。予備動作の気配が多方向から同時に来る。
「——全部は処理できへん。一方向に絞る」
直哉は空写を絞った。ダークマイトの「意志の中心」だけを追う。
錬金の意志——どこに向いているか。何を作ろうとしているか。
収束点が見えた。
ダークマイトの意志が一点に集まっている。そこから全方向の変形が派生している。
「意志の収束点——そこを先に崩せば、全方向の変形が止まる。単純な話や」
直哉は鏃の反動推進で跳んだ。変形する構造物の間を縫いながら、ダークマイトの収束点に向かって近づく。
空虚呪法で固定点を生成して足場を作る。そして鏃の足場付近での爆破で方向転換しながら加速する。
収束点の距離——30m。
「今や!」
直哉は扇子を構えた。
「瞬刻、二十四節、積層の理…」
その詠唱には確かな軽蔑や殺意が混じっていた。
「極ノ番・『積層残影』18葉!!!」
18葉が炸裂した。
12葉より重い。明らかに違う衝撃が放出された。
ダークマイトの意志の収束点——そこに18葉が直撃した。
全方向への変形が——止まった。
一瞬だけ。でも確かに、要塞の変形が止まった。
「——」
ダークマイトが初めて、大きく体制を崩した。
「18葉——入った。……どうや、象徴の紛い物さん?」
直哉は後退しながら、右腕の感触を確かめた。
12葉より負荷が大きい。脳直結が補っているが——連続使用は難しい感触だ。「1発なら使える。連射には間が必要」——それは12葉と同じ構造だが、間隔が長い。
「18葉の感触——記録した」
ダークマイトが立ち直った。
でも——気配が変わった。
直哉の空写が、異質な変化を感知した。
「——あれ、は。……気色悪い気配やな」
ダークマイトの錬金の気配が——膨れ上がっていた。
昨日より。今朝の戦闘開始時より。今この瞬間より。急激に、気配の質が変容している。
「アンナちゃんの因子——影響が強くなっとるな」
アンナの過剰変容が、ダークマイトの錬金を強化している。その影響が今、加速している。
ダークマイトの個性の気配が——複数の層に分かれ始めた。
「……個性の質が、複数に分裂しとる。一つの個性が、複数の効果に変容しおった」
ナインの戦闘で経験した感触と似ている。でも違う。ナインは複数の個性を持っていた。ダークマイトは——一つの個性が変容して複数の効果を出している。
「根は一つ。でも表出が複数——アンナちゃんの因子の影響で、錬金の可能性が拡張されとるわけか。ほんま、寄生虫みたいな男やな」
ダークマイトが腕を振った。
今まで見たことのない変形が起きた。金属が液状に溶けて、高速の流体として飛んでくる。
「——液体金属か」
直哉は後退した。空写で液体金属の動線を読む。でも——液状は気体に近い。固体の変形より予備動作が短い。
「読みが追いつかへん……ッ!」
液体金属の一部が直哉の左腕に当たった。
衝撃と熱。反転術式が即座に動く。皮膚への損傷を修復する。でも——衝撃で姿勢が崩れた。
「——まずいな」
ダークマイトが追撃しようとした。
その瞬間。
「——禪院!」
ジュリオが来た。
義足の推進力で高速移動しながら、ダークマイトとアンナの間に割り込んだ。因子相殺を発動して、アンナの過剰変容の拡散を一時的に抑える。
ダークマイトの錬金の変容が——一瞬、落ち着いた。
「ジュリオくん——」
「今だ、禪院!」
直哉は即座に判断した。
ジュリオが因子相殺でアンナの影響を抑えている今——ダークマイトの錬金の変容が止まっている。
今が入れ時だ。
(ここや!また打ち込んだる!)
直哉は鏃の反動推進で一気に詰めた。
「瞬刻、二十四節、積層の理」
今回の詠唱は速く、確かな一撃を加えるための工夫が見てとれた。
「極ノ番・『積層残影』18葉!!」
二発目の18葉。
右腕への負荷が急増する。脳直結が全力で補う。
18葉がダークマイトの胸部に入った。
ダークマイトが大きく後退した。壁に叩きつけられた。
「——」
倒れなかった。
でも——起き上がるのに時間がかかっていた。18葉二発の蓄積が確実に入っている。
「……削れとるな。案外、中身は空っぽか?」
ジュリオがアンナを抱えながら、直哉の横に来た。
「あと何発入れられる?」
「18葉なら、あと一発か二発やな。脳直結の消耗が限界に近いわ」
「24葉と言ってたものはどうだ?」
「24葉は——今日は一発だけや。……出し惜しみは嫌いやけど、これ使ったら俺の腕が使い物にならんくなるわ」
直哉は右腕の感触を確かめた。
18葉二発の後の右腕は、既に反転術式の修復が追いついていない部分がある。24葉を使えば——右腕がかなり厳しくなる。
「さやけど——設計として、24葉を使うべき場面がある」
「どんな場面だ?」
「ダークマイトの意志の収束点——そこが完全に露出した瞬間や。今日はジュリオくんの因子相殺が一瞬それを作ってくれた。でも——おたくの制御力には限界があるわな」
「そうだ。俺の因子相殺は、起点を失ってから精度が下がっている」
「なら——今日の24葉は、一番深い瞬間に一発入れる。それが今日の設計の全部。……外したらおたくらのせいやからな」
ジュリオは直哉を見た。
「……お前は冷静だな」
「設計の問題として見てるさかいな。感情で動くほど俺は安っぽない」
「怖くないのか?」
直哉は少しの間、考えた。
「怖くはない。でも——アンナちゃんに影響がある場面では、設計の精度を上げなアカンというプレッシャーはあるな。……お嬢ちゃんに泣かれるんは、寝覚めが悪い」
(ここで女に被害が出て、ジュリオくんに下手に動かれると詰みかねん。女の扱いとかめんどくさくて嫌なんやけど…しゃあない。必要経費や)
「それは感情ではないのか?」
「……感情が燃料で、設計が方向を決める。その燃料が今日は、アンナちゃんを守るという方向にある。それが設計を動かしとるだけや」
(こう言っとけば、間違いはないやろ。せいぜい言葉という表面上の餌に釣られといてや…ほんまに滑稽やね)
ジュリオは「そうか」と言った。
アンナが「禪院さん——ありがとう」と言った。
「礼は後や。まだ終わってへん。……しっかり見とけや」
ダークマイトが再び動き始めた。
今度は——慎重だ。
18葉二発を受けたことで、直哉の術式が個性の防御を通り抜けることを理解したのだろう。距離を取りながら、遠距離から錬金を展開している。
「距離を置きおった。……俺に詰められるんが、そんなに怖いんか?」
直哉は空写でダークマイトの動きを追った。
遠距離からの錬金——液体金属の射出、構造物の遠隔変形、要塞の天井を崩す大規模攻撃。
「全部読めとる。せやけど——距離があると入れる機会が減るな。……じれったい男やわ」
どうする。
直哉は考えながら、回避を続けた。
鏃を牽制で射出しながら、ダークマイトの動きの「癖」を読み続ける。
大規模攻撃の前に——一瞬、気配が引く。
「——!」
直哉は気づいた。
大規模な錬金を展開する前、ダークマイトの意志の収束点が一瞬だけ露出する。大量の錬金を動かすために意識を集中させる瞬間——そこで収束点が分かりやすくなる。
「大きい攻撃の前が入れ時や。……待ちくたびれたわ」
直哉は鏃の牽制を続けながら、その瞬間を待った。
ダークマイトが大規模な錬金を準備し始めた——天井全体を崩す気配が出てきた。
「来る——収束点が露出した!」
直哉は鏃を爆破させた反動推進で跳んだ。
天井が崩れ始める——その0.1秒前。
「今や——!」
「瞬刻、二十四節、積層の理」
この詠唱には確かな力が込められていた。
「極ノ番・『積層残影』24葉!!」
24葉の詠唱が口から出た。
今まで使ってきた12葉・18葉とは別次元の重さが、術式に乗った。
24葉がダークマイトの意志の収束点に直撃した。
天井の崩落が——途中で止まった。
ダークマイトが大きく吹き飛んだ。要塞の壁を貫いて、隣の区画まで飛んだ。
轟音。粉塵。
直哉は着地して、右腕を見た。
脳直結が全力で稼働している。右腕の負荷が大きい。反転術式が急いで修復しているが——しばらくは次の大技は使えない。
「……24葉が入ったな。……あー、ほんま、不細工な要塞やわ」
独り言が粉塵の中に落ちた。
粉塵が晴れた。
ダークマイトが——起き上がった。
「……倒れへんか。しぶといだけの紛い物やな」
24葉が入っても、立ち上がった。
でも——気配が変わった。ダークマイトの錬金の気配が、今まで以上に膨れ上がっている。
「アンナちゃんの因子——もっと強くなっとるな。……アンナちゃん、無茶しすぎや」
空写でアンナの気配を確認した。アンナが苦しそうにしている。過剰変容が制御を超えて拡散し始めている。ジュリオの因子相殺が間に合っていない。
「ジュリオくん——アンナちゃんが限界や!」
「分かっている——俺の制御が足りない…!」
ダークマイトの気配が最大化した。
今まで見たことのない規模の変容が始まった。
錬金の気配が——要塞全体を覆い始めた。
「まずいわ——要塞全体が武器になりおった」
直哉は空写を最大限に展開した。脳直結で補いながら、要塞全体の変容を読もうとした。
550m。ギリギリ全体が見える。
「……ダークマイトの意志の収束点が移動しとる。要塞の中心部、どこかに移動しおったな」
「どこだ?」
「まだ特定できてへん。……ッ、脳直結の消耗が限界に近いわ。あと少しで——」
直哉の脳に、鋭い痛みが走った。
空写の維持に限界が来た。脳直結が追いつかなくなっている。
「——空写が落ちる前に、収束点を特定せなあかん。……俺の脳みそ、仕事せえや!」
直哉は最後の集中を空写に向けた。
要塞全体の気配を追う。ダークマイトの意志の収束点——どこだ。
見えた。
「——要塞の最上部。中心から少し右。そこが収束点や。……不細工な場所陣取っとるわ」
「分かった」
ジュリオが動いた。
直哉は空写が落ちるのを感じながら、次の設計を組み立て始めた。
「明日——全部出す。24葉のその先…今日の消耗が回復したら、次は最後の手を使うたる。今度こそあの偽物のツラをぶっ潰してやるわ」
要塞が揺れていた。
禪院直哉は、来たる最後の局面のための設計を、今夜から始めていた。
(……粉塵が舞う中、右腕の震えが止まらへん。
反転術式を全開で回しとるけど、24葉の反動はやっぱり重いわな)
「……倒れへんか。しぶとい男やわ、ほんま」
(24葉を意志の収束点に叩き込んで、要塞の崩落を無理やり止めたわ。
けど、あいつの気配は消えるどころか、アンナちゃんの因子を吸ってさらに醜く膨れ上がっとる。
脳が熱い。
空写を550mで維持し続ける負荷が、脳直結の冷却を上回り始めとる。
視界の端がチカチカするわ)
「……禪院さん、ありがとう」
(アンナちゃんにそう言われて、少しだけ気分が良くなった。美人からの絶賛ほど、気持ちのええもんはないわ)
「礼なんかええ。俺は俺のプライドのために、あの「象徴の紛い物」を否定したいだけや」
(ジュリオくんも限界。アンナちゃんの制御も限界。
そして俺の脳みそも、もうじきオーバーヒートや
けど、収束点は見えた。最上部の右。
明日はあそこに、今日以上の「重み」を叩き込んだる。
……さて、寝不足で肌が荒れる前に、この不細工な設計を終わらせにいくか。)