【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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反転術式が、一晩中俺の脳みそと右腕を叩き起こし続けおった。
 完全に回復したとは言えんけど、まあ、不細工な醜態を晒さん程度には動けるわ。
 
 「今日が最後や。設計通りに終わらせたりますわ」
 
 デクくん、爆豪くん、轟くん。
 ようやく真打ちが揃いおったな。
 
 三人の火力は一級品や。けど、そのまま突っ込ませるだけじゃ、あの「紛い物」の錬金には届かへん。
 誰がどこで、どの「瞬間」に全力を出すか。
 その「軸」を俺の空写が担う。
 
 脳直結、出力最大。
 空写550mの壁を突き破って、600mの深淵まで覗き込んでやるわ。
 
 「三秒後に収束点が一番浅くなる。……デクくん、合わせられへんかったら承知せぇへんで」
 
 感情を燃料に、設計を方向付ける。
 今日の俺の「全部」を、24葉・重の一発に収めて叩き込んだるわ。

キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性ございます。
ご注意ください。

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第95話:映画編 ユアネクスト 「24葉・重——今ある全部の設計」

反転術式が一晩かけて、直哉の消耗を補い続けた。

 

 完全ではない。24葉の後の右腕の負荷は、一晩では完全に回復しない。でも——動ける。設計を動かせる。

 

「……今日が最後や。不細工な紛い物の終焉、俺が描いたるわ」

 

 要塞の一角。直哉はジュリオとアンナと共に夜明けを迎えた。

 

 空写を展開した。脳直結と組み合わせて、550mを維持する。

 

 ダークマイトの気配——要塞の最上部。昨夜特定した収束点が、まだそこにある。

 

「収束点は変わってへん。設計通りや。どん臭い奴やな、一晩あったら逃げるなり何なりすればええのに」

 

 ジュリオが「今日の設計を聞かせてくれ」と言った。

 

「デクくんたちが来る。空写で感知してる——今朝、外から三つの気配が近づいてきた。デクくんと、爆豪くんと、轟くんや」

 

「三人が来るのか?」

 

「来る。そして——その三人が正面から動くとき、俺は空写で戦場全体を読みながら『今』を出し続ける。三人の動きの軸になる」

 

「お前は戦わないのか?」

 

「戦う。でも——今日の俺の本番は『今』を出すことと、最後の一発や」

 

 ジュリオは直哉を見た。

 

「最後の一発——24葉の先か」

 

「ああ。昨日は24葉でも倒れへんかった。それなら——24葉の先しか残ってへん。せやけど、右腕の状態では一発が限界や。その一発を、どこに入れるか——それだけを今日は考えとる」

 

「どこに入れる?」

 

「収束点や。ダークマイトの意志の収束点——そこに一撃を直撃させれば、変容した錬金の全てが崩れる。設計として、それが一番確実な終わらせ方や」

 

 アンナが「私は——どうすればいいですか?」と言った。

 

 直哉はアンナを見た。

 

「アンナちゃんは今日、ジュリオくんの側にいてくれ。過剰変容が暴走しないように——ジュリオくんが制御できる距離を維持する。それがアンナちゃんの設計や」

 

 (こんなところで女に構ってられへん。これでせいぜい大人しくしてくれや)

 

「でも、私のせいでダークマイトが強くなってる——」

 

「…アンナちゃんの個性は、アンナちゃんが選んで使ってるわけやない。設計の問題は、設計で解決する——アンナちゃん責任を感じる必要はない。……そんな不細工な泣き顔晒す暇あったら、俺の設計を信じなさいな」

 

 (えらいめんどい奴やな…いちいち俺の設計を狂わせようとせずに、俺に黙って従っとればええんや、泣き虫が…)

 

 直哉は内心で毒づきながら、アンナの反応を待った。

 

 アンナは少し黙った。それから「分かりました」と言った。

 

 デク・爆豪・轟が要塞に突入してきたのは、朝の早い時間だった。

 

 直哉の空写が先に感知した。三つの気配が要塞の外壁を突破した。

 

「来たな——合流するわ。ったく、騒がしい連中やな」

 

 直哉はジュリオとアンナを連れて、三人が向かってくる方向に動いた。

 

 廊下の角で合流した。

 

 緑谷がボロボロだった。一晩の戦闘と逃走の消耗が出ている。でも——目が生きている。

 

「禪院くん——!」

 

「デクくん、消耗しとるな。ボロボロの不細工な姿で戻りおって」

 

「大丈夫。でも——ダークマイトが」

 

「知っとる。昨日から戦っとった。収束点の場所も分かっとるわ」

 

 爆豪が直哉を見た。「一人でここまで戦ってたのか?テメェ…」

 

「ジュリオくんと一緒にな。三人が来るのを待っとった。君らの火力が設計には必要やったからな」

 

「なんで?」

 

「三人の火力と俺の空写を合わせた方が、設計として効率がええ。それだけや」

 

 轟が「状況を教えてくれ」と言った。

 

 直哉は簡潔に説明した。ダークマイトの収束点の位置。アンナの過剰変容の影響。24葉が入った手応え。今日の設計の方針。

 

「俺が空写で全体を読みながら『今』を出し続ける。きみらがそれに合わせて動く——そういう設計や。全体の動きの軸は俺が担うわ」

 

 デクが「分かった」と言った。

 

 爆豪が「俺が軸になるんじゃねえのか?」と言った。

 

「爆豪くんの爆破は最大火力を維持しながら動いといてくれや。軸になると火力が落ちる——設計として、爆豪くんにら全力で攻めてもらう方が効率がいい。余計なこと考えんでええねん」

 

 爆豪は少しの間、直哉を見た。「…チッ。ドブカス野郎……。分かった」

 

 轟が「俺はどうする?」と言った。

 

「轟くんは防御の軸や。三人の誰かが危険な局面で氷の壁を展開してくれ——俺が『守れ』と言ったら即座に動けるか?」

 

「できる」

 

「おおきに。期待しとるよ」

 

 ダークマイトとの最終決戦が始まった。

 

 要塞の中枢部——広大な空間。ダークマイトが待っていた。

 

 アンナの過剰変容の影響で、ダークマイトの錬金が最大化している。要塞の構造物全体が、ダークマイトの意志に従って変形できる状態だ。

 

「——空間全体が武器やな。無駄に派手やわ、センスのかけらもない」

 

 直哉は脳直結を最大出力で起動した。

 

 空写を展開する。550mを超えて伸ばす。脳直結が補い続ける。

 

 600m。

 

「——届いた。全部見えとるわ」

 

 空間全体の気配が見えた。ダークマイトの意志の収束点——要塞の中央部、天井から三分の一の位置。

 

「収束点、確認したで!」

 

 デクに向かって言った。

 

「左胸の奥、二十センチ——今のダークマイトの収束点の位置や。そこを狙えや!」

 

「分かった!」

 

 戦闘が始まった。

 

 直哉は動きながら、空写を全方向に展開し続けた。

 

 ダークマイトの錬金が多方向から来る。液体金属。固体の刃。気体化した金属の霧。錬金の変容は多様化していて、一つ一つの予備動作を読み続ける必要がある。

 

「——右から液体金属。轟くん、右に壁を張れ——今や!」

 

 轟の氷の壁が右から来た液体金属を受け止めた。

 

「——上から構造物が落ちてくる。全員前に——今!」

 

 三人が前に跳んだ。構造物が三人のいた場所を潰した。

 

「——ダークマイトが左側に収束点を動かした。爆豪くん、左から攻撃——今!」

 

 爆豪の爆破が左から炸裂した。ダークマイトが体制を崩した。

 

「——デクくん、今や!」

 

 デクが黒鞭と共に突っ込んだ。OFAのオーラが爆発する。ダークマイトに直撃した。

 

 ダークマイトが後退する。

 

「設計通りや——三人の動きが一つになってる。……ふん、案外悪くない眺めやな」

 

 直哉は空写を維持しながら、自分も鏃を射出し続けた。牽制。ダークマイトの動きを乱す。収束点を露出させるための圧力をかけ続ける。

 

 18葉を一発入れた。脳への負荷が上がる。脳直結が補う。

 

「——削れてる。もう少しや。その不細工な野望ごと潰したるわ」

 

 二十分が経った。

 

 三人全員が消耗している。緑谷の腕がまた限界に近づいている。爆豪の爆破の規模が少し落ちている。轟の氷の厚さが薄くなっている。

 

 直哉も消耗していた。

 

 600mの空写を脳直結で維持しながら、「今」を出し続けながら、鏃と18葉を使い続けた。呪力の残量が三割を切っていた。

 

「……あと一手や」

 

 直哉は右腕を確認した。

 

 反転術式が右腕の状態を修復しようとしているが——24葉・重を入れた後の回復は保証できない。右腕がどうなるか、分からない。

 

(ここで引いたら禪院の恥や。俺のプライドにかけても、これは通す)

 

「——今日、入れないでいつ入れるんや…!」

 

 答えは出ていた。

 

 ダークマイトが最大規模の錬金を展開し始めた。要塞全体を動かすような大規模変容。気配の収束点が——一点に完全に集まった。

 

「——今や。収束点が完全に露出した。待ちくたびれたわ」

 

 直哉は扇子を構えた。

 

 脳直結を全力で起動したまま。空写を600mで展開したまま。その状態で——決戦の指示出しを行う。

 

「デクくん——三秒後に収束点が一番浅くなる。全力で打て!」

 

「分かった!」

 

「爆豪くん——轟くん。俺が打つ瞬間に両側から圧力をかけてくれ。ダークマイトの注意を分散させるんや!」

 

「ブチかます!」

 

「……ああ」

 

 直哉は息を吸った。

 

 今日の設計の全部が、この一発に収まっている。

 

 空写で確認した収束点の位置。ジュリオくんとアンナちゃんを守りながら積み重ねてきた蓄積。緑谷・爆豪・轟との連携。

 

 全部が——この一発の設計に流れ込んでいる。

 

「感情が燃料で、設計が方向を決める——今日の燃料は、ここにある!」

 

(いつもの俺らしくないかもしれへん…せやけどな!俺だって決めたい時がある!絶対にこのパチモンの顔をぶっ飛ばすっていうなぁ!)

 

 直哉は扇子を強く握った。

 

「瞬刻、二十四節、積層の理…」 

 

 詠唱が空間に響いた。

 

 そこには全てを終わらせるための覚悟が備わっていた。

 

「極ノ番・『積層残影』24葉…重ぇ!!!」

 

 今までの全ての極ノ番と次元が違う衝撃が、ダークマイトの意志の収束点…そのオールマイトを模ったハリボテの顔面に直撃した。

 

 576発分の衝撃。

 

 ダークマイトが——吹き飛んだ。

 

 要塞の壁を貫いて。外壁を突き破って。外の空中に。

 

 同時に——デクが全力で打った。爆豪が両側から爆破した。轟が氷の壁で追い込んだ。

 

 四人の全力が、同じ瞬間にダークマイトに入った。

 

 静寂が来た。

 

 直哉は右腕を見た。

 

 動く。でも——重い。反転術式が必死に修復しているが、24葉・重の後の右腕は限界に近い。しばらくは全力では動かせない。

 

「……設計通りや。……ほんま、手のかかる奴らやわ」

 

 直哉は膝をついた。

 

 立っていられないほどの消耗ではない。でも——力が抜けている。呪力がほぼ底をついている。

 

 空写が——落ちた。

 

 600mを維持していた空写が、呪力の枯渇で維持できなくなった。世界が、いつもの「肉眼で見える範囲」に戻った。

 

「……空写が落ちた。……チッ、世界が急に狭なりおった」

 

 要塞が静かになっていく。ダークマイトの意志の収束点が崩れたことで、変形していた構造物が止まっていく。

 

 要塞の一角が崩れる音がした。でも——ゆっくりと。急激な崩落ではない。

 

 アンナの過剰変容が——収まっていく気配がした。ダークマイトの意志が失われたことで、因子の拡散が止まっている。

 

「——アンナちゃんの因子が落ち着いてる。……良かったな、お嬢ちゃん」

 

 ジュリオが来た。アンナを抱えている。

 

「終わったか」

 

「終わったな。おたくの主も、これで一安心やろ?」

 

 ジュリオはアンナを床に座らせてから、直哉の隣に来た。

 

「右腕は?」

 

「動く。せやけど——重い。反転術式で修復中。しばらく俺に仕事させんなや…これ以上仕事できひんわ」

 

「無茶をした」

 

「設計の範囲内や」

 

「……それが無茶だと言っている」

 

 直哉は少し考えた。

 

「設計の範囲内と無茶は、俺の中では別物や。でも——今日の24葉・重は、設計の限界ギリギリやったのは確かやな」

 

 デクが来た。

 

 両腕がまた限界に近い状態だった。でも——笑っていた。

 

「禪院くん——『今』、ありがとう。全部、完璧だったよ」

 

「君たち三人が設計通りに動いてくれたさかいや。……まあ、及第点っちゅうことにしておいたる」

 

「でも、あの『今』がなかったら——特に最後の『三秒後』は、俺には読めなかった」

 

「あれは空写でしか読めへん。俺にしかできへん設計やった。君に自慢したところで分からんやろ?」

 

「……禪院くん、本当に——すごいや」

 

 直哉は少しの間、デクを見た。

 

「デクくんも、な」

 

「え?」

 

「24葉・重を入れた後、俺の『今』より早く動いてた。『三秒後』と言ったのに、俺の予想より0.1秒速かった。OFAの感覚が——俺の空写の先読みを超えてた。……ほんま、可愛げのない奴やな」

 

 デクは少し驚いた顔をした。

 

「……それって」

 

「デクくんの燃料が、俺の設計を超えた——そういうことや。それは君にしかできへんことや。……誇りに思っとけばええんやない?

 デクは「……ありがとう!禪院くん。」と言った。今度は小さい声で。

 

 爆豪が来た。

 

「ドブカス野郎——右腕、どうした?」

 

「24葉・重の後遺症や。動くが重い。……しばらく爆豪くんをぶん殴ることもできへんわ」

 

「……使えねぇな」

 

「使えない場面が少し続くが——設計として、今日の一発を入れるために呪力と右腕を全部使う判断は正しかった。悔いはないわ」

 

 爆豪は直哉の右腕を一度見た。

 

「…次は余裕を持って勝ちやがれ、ドブカス野郎!」

 

「次の設計の課題にするわ。爆豪くんこそ、もっと俺の『今』に正確に合わせてみたらどうや?」

 

 爆豪は「…ハッ。うるせえよ。ドフカスが!」と言って、離れていった。

 

 要塞から脱出する途中で、直哉はジュリオとアンナと並んで歩いていた。

 

 空写が落ちているので、周囲の状況は肉眼だけで把握している。

 

 久しぶりの感覚だ。空写なしで歩く感触。世界が「見える範囲だけ」になっている。

 

「……空写がないと、こんなに狭いんやな」

 

 独り言が出た。

 

 アンナが「禪院さん?」と言った。

 

「術式…個性なしで歩いとると、世界が狭く感じるってことや。不自由やな、人間いうんは」

 

「そうなんですか?」

 

「空写があれば230m——今日は脳直結で600mまで伸びた。でも今は肉眼だけや。十メートル先が見えたら広い方や」

 

「それって——空写がない方が、怖くないですか?」

 

 直哉は少し考えた。

 

「怖いというより——設計が立てにくい。全体が見えないと、最適な一手が選べへん。……まあ、君らが横におるから、迷うことはないけどな」

 

「でも今日は、空写がない状態でも歩けてる」

 

「……そうやな」

 

 アンナが「それって、すごいことじゃないですか?」と言った。

 

「空写がなくても、禪院さんはちゃんと歩けてる。全部が見えなくても、設計できてる」

 

 直哉はアンナを見た。

 

「——アンナちゃんも、今日の自分の個性の状態が全部見えてたわけやないやろ?」

 

「そうです。でも——ジュリオがいてくれたから」

 

「それや。全部が見えなくても、信頼できる設計がそばにあれば動ける。今日の俺には脳直結があって、ジュリオくんとデクくんと爆豪くんと轟くんがおった。……不本意ながら、な」

 

 アンナは少しの間、黙った。

 

「——ありがとうございます、禪院さん。なんか、楽になりました!」

 

「設計の話をしただけや。……礼を言うならジュリオくんに言えや」

 

 (うまく収まったな。真希ちゃんみたいな男まさりな性格やなくて扱いやすいわ)

 

 要塞を出た。

 

 外の空気が、久しぶりに清潔に感じた。

 

 直哉は空を見上げた。朝の空が広がっている。

 

 空写はまだ落ちている。呪力の回復には時間がかかる。でも——反転術式は動いている。少しずつ回復している。

 

「……今日の設計は、終わった。……疲れたわ、ほんま」

 

 独り言が朝の空気に溶けた。

 

 今日使った術式を、フレーム単位で振り返る。

 

 脳直結×空写の組み合わせ——550mから600mへ。脳直結の出力を上げることで、空写の射程が伸びることが実戦で確認できた。

 

「脳直結の練度を上げれば、700mに届く。その先に1000mがある——次の設計やな」

 

 24葉・重——右腕の状態を確認しながら、消耗を計算しながら、最後の一発をどこに入れるかを決めた。「今日の全部を一発に収める」という設計が機能した。…あの『偽りの平和の象徴』の顔面を真正面からぶち抜いてやった。

 

(24葉・重の精度——次は右腕への負荷をもっと計算した上で使えるようにするんや。反転術式との組み合わせも改良するわ)

 

 (そして極ノ番…積層残影の段階的な使い方——6葉から18葉、そして24葉へと状況に合わせて段階を上げていく。それぞれの「今使うべき段階」を空写で読んだ状況から判断するんや)

 

(それが積層残影の設計や——層を重ねる術式やさかいな。層の使い方を選ぶのが設計の仕事や)

 

 緑谷が横に来た。

 

「禪院くん——また『今』を言ってくれる?次の戦いでも」

 

「次の戦いがどこかによるわ。俺が気分ええ時にな」

 

「でも——もし同じ戦場にいたら」

 

 直哉は少し考えた。

 

「……デクくんの燃料が本物やと思うさかい、俺は『今』を出す。それは変わらへん。……せいぜい、無様に燃え尽きんようにせえな」

 

「うん!ありがとう!禪院くん!」

 

「礼は要らへん——デクくんの『今』への反応が速いから、俺の『今』が意味を持つ。どちらかだけでは成立せへん設計や」

 

 デクは「…そうだね」と言って、笑った。

 

 直哉は扇子を開いた。

 

 呪力がまだ戻っていないので、空写は展開できない。でも——扇子を持つ感触は変わらない。

 

「次の設計を始める。……立ち止まっとる暇はないわ」

 

 空に向かって、独り言を言った。

 

「空写700mへ。脳直結の練度向上。24葉・重の負荷の最適化。墨色定着の実戦水準化——課題が積んどる。……最高やな」

 

 課題が積んでいる、ということは——設計の先が見えているということだ。

 

 直哉は扇子を閉じた。

 

 朝の空が広がっている。

 

 I・アイランドの夜から始まった。那歩島。オセオン。そして今日のこの場所。

 

 一つずつ、設計の外縁を越えてきた。

 

 次も、越える。

 

「頂点は俺や。……誰も追いつけへん場所まで、行ったるわ」

 

 誰にも聞こえない声で、直哉は言った。

 

「まだまだ、先があるわ」




読後後、ダークマイトを打ち倒した一撃が刺さったり、面白いと感じたら是非、ぜひ**【評価付与】や【しおり】**、お気に入り登録などで応援をいただけると嬉しいです。


(……空が、白んできたな。
 右腕が鉛みたいに重いわ。反転術式が悲鳴上げながら修復しとるけど、24葉・重の代償は安くない。
 呪力も空っぽ。
 あんなに鮮明やった空写の視界が消えて、世界がたった数メートルの肉眼の範囲に縮まってしもうた)
 
 「……狭いな、術式がないと」
 
 (せやけど、不思議と怖くはない。
 隣には、俺の完璧な設計通りに動いたキュリオくんとアンナちゃんがおる。
 前には、俺の「今」に0.1秒先んじて反応しおった、あのクソ真面目なデクくんがおる)
 
 「禪院くん、本当に……凄いや」
 
 (フン、そんなん当たり前やろ。
 俺の設計が、君の「燃料」に負けてたまるか。
 空写が落ちた今、世界は狭い。
 けど、その狭い視界の中に、次はどんな設計を描こうか。
 700m、その先の1000m。
 24葉・重の最適化。
 課題は山積みや)
 
 「頂点は俺や……まだまだ、先があるわ」
 
 (扇子を閉じる感触だけが、今の俺のリアルや。
 さて……泥みたいに眠る前に、次の設計の第一フレームを書き込んどくとしようか。)
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