守護の騎士が至る道 作:匿名希望
ラキアは天の聖杯の剣を構え、カグツチの二対のサーベルと激しく刃を交える。
大剣と二対の細剣が交錯するたび、路地裏に激しい火花が散った。ガキン! ガキン! と金属同士がぶつかり合う重厚な衝撃音が響き渡る。
手数で圧倒的に勝るカグツチに対し、ラキアは何とか隙を見出し、一撃の重さで勝負に出ようとしていた。
だが、流石は『帝国の宝珠』の異名を持つブレイド。ドライバー不在とはいえ、その立ち回りに一切の隙がない。
二人は激しく刃を噛み合わせ、火花を散らしながら鍔迫り合う。
「やるわね……流石は『天の聖杯』のドライバー、と言ったところかしら?」
「っ……お前もバーンの差金か?」
(バーン……? なぜここでアヴァリティア商会の会長の名が……?)
ラキアはすかさず揺さぶりをかけた。
効果はあった。閉ざされた瞼の奥で、カグツチが僅かに眉をひそめたのを見逃さない。
(こいつは一瞬考えた。ならバーンと裏で繋がってるのは後ろの警備長を指示してる領事か……)
推測に裏が取れ、二つの点が線で繋がった。
(こいつは本当に、ただ偶然居合わせただけのブレイドだな……)
タイミングの悪さを、ラキアは心底恨んだ。
「その件に関しても、拘束した後に詳しく聞かせてもらうわ」
「やれるものならやってみろ」
「そう……なら、力ずくで!」
鍔迫り合いの力比べではラキアが押し込んでいたが、カグツチは瞬時にその力を受け流し、ぬるりと間合いを外した。
そして、体勢が僅かに崩れたラキアの隙を逃さず、両手のサーベルによる流れるような連撃を繰り出す!
「ラキア!」
ホムラの悲鳴のような声が上がる。
「くっ……!」
「お喋りしている余裕なんてないはずよ!」
手数を生かした容赦のない連撃。ラキアは完全に後手に回らされ、防戦一方に追い込まれる。
この連撃のテンポを崩さなければ埒が明かない。
剣と刃が激しくぶつかり合う渦中、ラキアは腹を括った。
多少の負傷を覚悟で、右手のサーベルを聖杯の剣で勢いよく払い飛ばすと、左手のサーベルを構えるカグツチの腕ごと右足で蹴り上げた!
───刹那。
払われながらも咄嗟に切り返された右手のサーベルが、ラキアの頬を掠める。
擬態の皮膚が裂け、赤い血がひとすじ滴り落ちた。
だが、蹴り飛ばされたカグツチの左のサーベルは空中を舞い、後ろで高括りしていたパスク警備長の足元へ突き刺さる!
「ひっ、ひぃぃっ!?」
情けない悲鳴をあげ、警備長が地面に尻餅をついた。
(今だ……!)
ラキアは即座に拳を握り込み、目の前のカグツチの顔面目掛けて突進する───しかし。
頭の中に、突如として人間界での『幸果』の弾けた声が聞こえた気がした。
『───女の子に暴力は絶対にダメ! ダメダメダメ! ぜーったいにダメだからね、ラキアン!』
(っ……!!)
直前で拳がピタリと止まる。
人攫いのグラニュートやストマック家の眷属、あるいはメツのような奴なら躊躇なく殴り飛ばせた。だが、目の前の凛とした女性ブレイドを全力でぶん殴るのは、流石に気が引けた。
やむなく拳を引いたラキアは、代わりに左手の聖杯の剣を返し、峰打ちでカグツチを弾こうとする。
だが、その一瞬の躊躇が命取りとなった。動作が遅れた隙に、手元に残ったもう片方のサーベルでガキン! と受け止められ、互いに反動で距離を取る結果となった。
「あら……意外と優しいのね? でも、戦いの中で甘さは命取りよ」
カグツチは地面に突き刺さっていたサーベルを引き抜くと、再び二対の刃を優雅に構え直した。
「ホムラ!」
「はいっ!」
ラキアはホムラと共に天の聖杯の剣を両手で握り締め、一気に高めた炎の斬撃をカグツチへ放った!
聖杯から放たれた赤き炎と、カグツチが放った蒼き炎が正面衝突し、路地裏に巨大な炎の柱が天高く打ち上がる!
凄まじい熱波が巻き起こる中、煙の向こうにカグツチは変わらず凛と立っていた。
「ドライバー抜きでこれか……!」
セイリュウの驚きの声にラキアも内心頷く。
「『帝国最強』は伊達ではない……そういうことだな」
「感心しておる場合か、ラキア! このまま手をこまねいておる気か!?」
「……」
(『変身』さえできれば……)
ヴラスタムギアを使えば圧倒できるという思いが脳裏をよぎるが、今のギアは完全ではない。ここで無闇に乱用するわけにはいかなかった。
一方、対峙するカグツチもまた、内心で強烈な戦慄を覚えていた。
(この男……強い……)
カグツチの胸中で驚愕が跳ね跳ねる。
目の前に立つ天の聖杯のドライバー───ラキア・アマルガ。
一個人の剣技、身のこなし、蹴り上げるという咄嗟の機転と判断力の精度が恐ろしいほどに高い。周りに転がっているスペルビア兵たちの惨状を見れば、一兵卒がいくら束になってかかろうと束手無策なのは明白だった。
(……これは、メレフ様のお力を借りなければ、私一人では足をすくわれかねないわね。油断ならない相手…)
ただし───ドライバーとブレイドとしての連携は、お粗末なものだ。そこを突けば崩せるとカグツチは確信した。
「貴方は個人として強力です。ですが……ドライバーとしては半人前もいいところね」
そう告げた瞬間、ラキアの背後からニアとビャッコが躍り出た!
「ならアタシが相手だ! こっちは二組だ!」
数的優位を生かして上空から襲いかからんとするニアとビャッコ。しかしその瞬間、背後に控えていたスペルビア兵の手から網状の物体が放たれた。
「ビャッコ!? うわっ!?」
バサッと音を立てて広範囲に広がったネットがビャッコとニアを完全に包み込み、二人は地面へと転がされる。
「はははっ! どうだ! 特製の『エーテル遮断ネット』だ! 大気からのエーテル流を断たれては、得意のアーツも撃てまい!」
態勢を立て直した兵士たちが放ったのは、対ドライバー、ブレイド用の捕縛兵器だった。
「ブレイドにも弱点はあります。その一つがこれ……力の源であるエーテルの流れを遮断されること」
自らに巻き付いた強固なネットを強引に引き千切ろうと暴れるニアだったが、エーテルを封じられた肉体では抵抗の術がなかった。
「逃げろ、ラキア! アタシたちに構うな、行け!!」
逃げられないと悟ったニアが、死に物狂いで叫ぶ。
ラキアに決断が迫る。すでに兵士たちの銃口は、次のネットを装填してラキアとホムラに向けられようとしていた。今捕まればホムラまで捕まってしまう。
「ラキア! 今は引くんじゃ! ドライバーとしての経験と知識の浅いお主では、この場での勝ち目はない!」
セイリュウが物陰から飛び出し、ラキアの肩へ飛び乗って叫んだ。
「……くそっ、行くぞ!」
苦渋の選択の末、ラキアは叫んだ。
「ホムラ!」
「はいっ!」
ラキアはホムラの手を強く引き、逃走へ転じる。
「逃しません!」
カグツチが二対のサーベルで空を切り裂き、再び蒼炎の壁を作り出して退路を塞いだ。
こうなったら仕方がない。ラキアがヴラスタムギアへ手を伸ばしかけたその時───!
シュバッ……!!
炎の壁の向こうから、筒状の謎の物体が飛来した。
ロケットのように飛んできたそれは、カグツチの頭上に通っていた巨大な水道管へダイレクトに直撃!
勢いよく破裂した水道管から、大量の水が豪快に噴き出した!
「水……!?」
不意を突かれたカグツチが足を止める。
大量の水を頭からかぶった瞬間、カグツチの身体を包んでいた蒼炎が瞬時に弱まり、激しい水蒸気がシュウゥゥッ! と立ち上った。
それを見たラキアの目が光る。
(あいつ……水に弱いのか)
ブレイドにも属性と弱点が存在する。それをラキアは理解した。
「ホムラ! 奴の足元目掛けて一撃たたき込むぞ!」
「はいっ!」
二人は再び聖杯の剣を強く握り込み、全身のエーテルを注ぎ込む。
「合わせます……! バーニング……ソード!!」
ホムラの気合の入った叫びとともに、ラキアは大刺の剣を地面へ振り下ろした。
カグツチを直接狙えばニアたちを巻き込む。狙うは足元だ。
爆発的な炎が噴き出した水と激突し、あたり一面に視界を奪う濃密な水蒸気が爆発的に立ち込めた。
「引くぞ、ホムラ!」
「はいっ!」
「来い、爺さん!」
「ぐえっ!?」
ラキアは宙を飛んでいたセイリュウの首根っこを引っ掴むと、そのままホムラと共に水蒸気の奥へと躍り出た。
「逃すな! 追え! 追ええぇぇ!!」
パスク警備長の怒号が響く中、ラキアたちは深い煙の中へと姿を消していく。
(……そう、それでいいんだよ、ラキア。逃げ切れよ……)
楽園へ行けるといいな……。胸の中でそっと呟きながら、ニアはビャッコと共に兵士たちへ身を委ねた。
「この水流の中、何の影響も受けずにあの威力の技を放つとは……『天の聖杯』、やはり本物ですか」
それに……。
「
立ち込める水蒸気の中、カグツチは溜息を漏らすのだった。
♢♢♢
ラキアとホムラは、しつこく追ってくるスペルビア兵の気配を感じながら、必死に身を隠せる場所を探していた。
『───おーい! おーい!』
木製の荷物が積み上げられた物置のような路地裏で、どこからか二人を呼ぶ幼い声が聞こえた。
『こっち! こっち!こっちだも! 逃がしてあげるも!』
荷物の隙間の壁が押し開かれ、隠し扉の向こうから、黒くつぶらな目を持ったノポン族の少年が顔を出していた。
「お前……!」
ラキアには見覚えのある顔だった。
一瞬苦々しい思いが込み上げたが、背後からは足音が迫っている。今はとやかく言っている場合じゃない。
「はやく!はやくも! 急ぐも!」
大きな耳をパタパタと羽ばたかせ、二人を手招きするノポン。
「……チッ、仕方ない!」
ラキアとホムラは頷き合い、ノポンの少年の誘導に従って狭い隠し通路の中へ滑り込んだ。
直後、スペルビア兵たちがなだれ込んできたが、路地にはすでに誰もいない。
「くそっ! 探せ! まだそう遠くへは行っていないはずだ!」
「はっ!」
「増員を呼んでこい! 何としても見つけるんだ!」
足音が遠ざかっていくのを確認し、暗い通路の中でラキアたちは胸を撫でおろした。
「助けられたな」
「ありがとうございます」
「気にすることないも。いっつもイバり散らしている兵士に一泡吹かせられていい気分も」
ノポンの少年はそう言って満足そうに口角を上げる。
「助けたのはそれが理由か」
「もう一つあるも。完成したロケットカムカムをお見舞いしてやろうと狙っていたも。そしたら二人が追われて来たんだも。結果、水道管に当たっちゃったけど結果オーライだも!」
そうか、さっきの爆発もこいつが。
「トラだも。よろしくだも」
「俺はラキア・アマルガ。こっちはホムラだ。このアルスはセイリュウだ」
「よろしくお願いします」
こうしてラキアたちは、ノポンの少年・トラの手助けによってギリギリのところで難を逃れるのだった。
つづく
ついにトラの登場です。
そしてニアとビャッコの一時離脱…(泣)
ゼノブレイド2で一番好きなキャラクターが登場するのはまだまだ先…長い道です。
読みやすい文字数を教えてください
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