カードキャプターさくら 〜中身が限界オタクの私は、推し(知世)を泣かせたくなくて勇気を出す〜 作:ちいさな魔女
夜蛾は友枝小学校から離れた河川敷まで移動した後、さくらの元へ向き直る。広い場所へ移動したのは、これから行う事を人目に付きにくい所で試す為だ。
夜蛾「これからやる事は、君がカードを集めるのは何のためか、その覚悟はどんなものか、試させてもらう事だ。もし覚悟が失われたならば、カードを全て渡し、我々にカード集めを任せて引き返す事を勧める」
さくら「しません。戦いの覚悟は出来ています」
さくらは星の杖を構え、知世から借りた衣装のリボンを直しつつ、夜蛾と一定の距離を保つ。
すると、夜蛾が連れていた補助監督の一ノ瀬遥香が、呪文を唱えて周囲に帷を張り始めた。
一ノ瀬「ご武運を」
そして、さくら達は帷の中で戦闘態勢に入る。知世はビデオカメラで撮影を続けている。ケルベロスは知世の隣で息を飲む。
夜蛾「単刀直入に言おう。お前は何のために、カードを集めるんだ?」
さくら「カードを放ってしまったのは私です………それが危険な物だと分かったからには、皆に危険が及ばないよう集めたいからです」
さくらの言葉は本音だ。しかし、夜蛾の表情は険しいままだ。
夜蛾「『カードが危ない』?『皆を守りたい』だと?そんな模範解答はいらん!」
さくら「き、きびしい………」
さくらは夜蛾の怒気に、背筋が凍るような寒気を感じた。
夜蛾「呪いとの戦いは、いつか必ず大切な者との死が訪れる」
夜蛾が手を翳すと、周りに無数の可愛らしい見た目をした人形達が現れた。
さくら「お人形さんが!?」
さくらは能力を知ってたものの、敢えて驚いた。
夜蛾「呪骸。人形だが、私の呪いが込められている。そんなありきたりの答えでは、いつかお前は自分の不幸も大切な者の死も、全て他人のせいにするようになるぞ!」
さくら「違う!!そんな事するもんか!!」
夜蛾「口だけでは何とでも言える。納得の答えが聞けるまで攻撃は続くぞ!」
夜蛾がそう断言した時、呪骸達がさくらへ向かって飛び掛かる。
さくらは杖で呪骸の拳をパリィした。前世のゲームで見た、敵の攻撃に対して近接武器で弾くパリィだ。実際にやるのは初めてだが、影達の波状攻撃とは異なる集団攻撃にさくらは防戦がやっとだった。
さくら「ふえぇぇぇっ!?」
さくらはカードを使う暇すら無かった。カードを使えば一斉にはじき飛ばせるのに、カードへ手を伸ばす暇すらない攻撃の連鎖に慌て始めていた。
夜蛾「術師に悔いのない死など無い。今のままでは、自分が不利になると泣き喚く、周りへ理不尽に責任を押し付ける甘ちゃんとなるだけだ」
夜蛾の言葉を受け止めつつ、さくらはパリィしていくが、呪骸にも学習能力があるのか、さくらが攻撃を弾いた途端に背中から蹴りを食らわせた。
さくら「ガハッ!?」
さくらは背中からの激痛と衝撃に、視界がグラついた。吐きそうな感じもする。
夜蛾「どうした!!お前の覚悟はそんなものか!!」
夜蛾の言葉に呼応するように、攻撃は続く。ワニの呪骸が噛みつき、地面に何度もさくらを叩きつける。また、ゴリラの呪骸によって下顎からも殴り飛ばされ、オランウータンの呪骸に腹から殴られて吹き飛ばされ、樹木をへし折ってなお空中を数回転しながら飛び続け、河川敷に掛かる橋の柱に叩き付けられた。
さくら「ゲホッ………ガハッ!い、痛い………痛い……!」
地面に落ちたさくらは、激痛に涙を流す。怖いのは変わらない。痛みで涙も出て来る。鼻水も流れ出てくる。
夜蛾「君の覚悟とやらはその程度か。不合格だ。泣き叫ぶだけの子供に、この理不尽な力を持たせるわけにはいかん。カードは没収し、お前は高専で保護する」
さくら(弱い………私は………こんなに弱かったんだ。強かったなんて自惚れて………ただワムウやツェペリさんの真似をしてただけ………怖くて、痛くて………あっ)
さくらは、泣きながらもとある方向を見た。
それは、「さくらぁ!!」と叫ぶ心配な顔を浮かべるケルベロスと、ビデオカメラを震える手で撮りながらもさくらを信じて見守る知世の姿だった。知世の目には涙が浮かんでいる。本音は飛び出したいのだと、さくらは頭ではなく心で理解した。
さくら(そうだ………私は弱いよ。呪骸の群れに対応出来ず、一方的に殴られて…………でも!!)
さくらは襲い来る呪骸へ向き直る。
さくら(此処で引き下がって、カードを渡して、元の日常に戻っても、知世ちゃんと本来の日常に帰れるの?カードキャプターになったのは………本当の気持ちは何のため?)
さくらは思い出す。本当の気持ちは何か。
さくら(そうだ………私は、知世ちゃんを護りたい!!知世ちゃんに撮ってもらいたい!!カードキャプターとしての私も、いつもの日々を過ごす私も、これからの私も撮ってもらいたい!!知世ちゃんの傍で、笑って過ごしたい!!そして………お父さんやお兄ちゃん、雪兎さんも、そしてこれから来る小狼君も、皆と過ごせる日々を守りたいんだ!!だから!!)
さくらは立ち上がると、呪骸を杖で薙ぎ払う。そして、杖で地面に叩き付ける。
夜蛾「………」
夜蛾は、呪骸を叩きつけたさくらの目を見た。小学生らしい純真さだけでなく、大人の持つ執着が混ざった凄み、そして何よりも感じるのは、正義の心から芽生える金色のオーラだった。
さくら「……世界平和なんて知らない!誰かのために死ぬなんて、真っ平ごめんだよ!でもね……!」
夜蛾「……ほう?」
さくら「私は、知世ちゃんが撮ってくれる『私』が一番好きなの!知世ちゃんが私に注いでくれる『愛』を、一滴もこぼさずに、最高のハッピーエンドでビデオに収めさせてあげたい!そのために邪魔な運命があるなら、私は地獄の底まで追いかけてでも、全部私の『カード』にしてやるんだから!!」
あまりに個人的で、不純で、しかし自分という存在を肯定しきる強烈なエゴ。それこそが、呪術師が「死」を前にしても折れないための「
夜蛾(……自分のために戦い、その結果として隣人を救うか……危ういが、借り物の正義よりよほど信頼できる)
夜蛾は手を上げる。すると、呪骸達がさくらから離れていく。ふっと口角を上げた。逸材を見つけてご機嫌だった。
夜蛾「……合格だ。お前は立派な呪術師、いやカードキャプターだ。おい、一ノ瀬。帷を上げろ」
一ノ瀬「はい」
一ノ瀬と呼ばれた女性は、帷を上げ始めた。
知世「さくらちゃん!!」
知世はビデオカメラを下ろし、さくらの元へ駆け寄る。さくらは橋の柱に寄りかかり、背中に壁を預けながら立ち上がる。
さくら「……知世ちゃん。心配掛けてごめんね」
知世「いいえ!さくらちゃんの勇姿……バッチリ収めましたわ!それに、さくらちゃんの言葉、嬉しかったんです!私、もっともっと素晴らしい衣装も撮影道具も、用意してみせますわ!」
さくら「うん………ありがとう、知世ちゃん」
ケルベロス「って、さくら大丈夫かいな!?怪我だらけや!!」
ケルベロスが心配しつつも、さくらは恐怖や痛みを乗り越えた強い勇者のような勇ましさを失わない。
夜蛾(これほどの逸材だったとは………現呪術界を根底からひっくり返す、光となるやもしれん。総監部は黙っていないだろうが心配は要らんだろう)
こうして、夜蛾という最高の後ろ盾を得たさくら。
この日、さくらは夜蛾との戦闘とSHADOWと戦って疲れた事もあり、大道寺家に泊まり込む事になるのだった。