森の奥深く、大きな屋敷にひとりで暮らす「世界の大魔女」。
人々に恐れられ、近づかれることを嫌っている……はずだった。

そんな彼女のもとに現れたのは、聖剣を携えた勇者と、その仲間たち。
勇者は剣を構え、意気揚々と突進し――そして毎回、吹き飛ばされる。

理由は討伐でも復讐でもない。
ただの、一目惚れ。

「断る!」を合言葉に、今日も続く勇者の求愛と、大魔女の全力拒否。
けれど、なぜか勇者だけが気づいていない“ある事実”があって……。

最強だけど不器用な大魔女と、一直線すぎる勇者が織りなす、
すれ違い全力型・ファンタジーラブコメディ。

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世界の大魔女と勇者

「あなたがこの世界の大魔女だな……」

 

 

扉を押し開き、入ってきた4人組の先頭にいた青年が剣を構えながら、こちらを睨む。

 

それにしても、開口一番がそれ?

 

魔女はため息を押し殺しもせずに、椅子に座ったまま、4人組を睥睨した。

 

 

「そうよ?何か用かしら?」

 

「そうか……」

 

 

青年が顔を伏せ、カチャリと剣を構えなおす。

 

あの剣で倒そうとしてくるのよね、きっと。

 

面倒ね……一体、私が何をしたというのよ…。

 

 

魔女の思った通り、その青年は剣を構え突進してくる。

 

魔女はもう一度大きなため息をついた。

 

ほんっっっと、めんどくさい。

 

 

魔女は右手を上げると、かるく虫をはらうような仕草をした。

 

 

「一目惚れです!好きです!俺と付き合ってく」

 

ドン!

 

「えっ!?」

 

 

慌てて手を下げるも、遅かった。

 

青年は壁まで吹き飛ばされ、頭をぶつけ気絶してしまった。

 

 

「え…?……え??」

 

 

何?どういう…?

 

気を失っている青年と、仲間であろう3人とを交互に見て、説明を……と目で訴えた。

 

 

 

伝承では、悪魔と契約した女が魔女となり、その悪しき魔力で人々に厄災を振りまくだとか。

 

突然変異として膨大な黒魔力を持つ女の子が産まれると、周囲の人間にとって災いのもととなる、だとか。

 

その他いろいろと悪役を押し付けられている。

 

けれども、実際はただ魔力が桁外れに多いだけの人間だ。

 

魔力の使い方がわからず、力が暴走し、物を壊したり人を傷つけたりしてしまう。

 

それで、魔力が多すぎる女性は魔女と呼ばれ、敬遠されてきた。

 

魔女も人から離れて暮らし、徐々に自分で魔力との折り合いをつけてきた。

 

けれども近年では、その考えが改善されつつある。

 

魔力の多い子が産まれたら魔女へ相談し、魔力の使い方を教えるようになっている。

 

が、いまだに魔女を疎ましく思う輩はいて、このように問答無用で武器を振るわれることはある。

 

 

 

この森の中の大きな屋敷に一人で住む魔女は、そういった輩との接触がわずらわしく感じた。

 

そのため、屋敷の周囲に目くらましの幻術をかけ。

 

屋敷内にも面倒な罠を仕掛け、魔女が暮らす部屋までたどり着けないようにしてあった。

 

なのに、この一行は、それらを物ともせずにここまでたどり着いてしまったようだ。

 

 

 

 

「あのぉ…」

 

僧侶らしき少女が、すぅっと手を挙げた。

 

「大魔女様は、彼のことは?」

 

「し、知らない…もしかしたら買い物に出た時、町ですれ違うくらいはしてるかもしれないけれど…。

 

覚えていない。

 

名前とかまったく知らない」

 

 

まだ若干動揺しながら魔女は首を振る。

 

 

「ですよね……」

 

「まあ、そんな事だろうとは思ってた……」

 

 

弓使いと推測される青年と、大きな盾を持っている騎士の青年が、それぞれ頭を抱え、天を仰いでいる。

 

「何なの……」

 

途方にくれた魔女の小さな声に、同情を隠さない3人。

 

 

「先ほど、こいつが言った通りですよ、一目惚れしたそうです」

 

弓使いの言葉に魔女はまた慌てる。

 

「い、いつ!?」

 

 

「半年くらい前、町で大魔女様が買ったお花、一枝零れ落ちたのを拾って声をかけた青年がいたのを覚えていますか?」

 

盾使いの言葉に魔女は少し考える。

 

「いた……かもしれない、そんな程度しか覚えていないわ。ごめんなさい……」

 

 

「いえ、仕方ないと思いますよ、半年も前の事ですし。

 

でも、その時、アレは大魔女様に一目惚れをしてしまったそうなのです。

 

もう、すごかったです。彼女こそ俺の運命の女性!って叫びまわって」

 

僧侶の少女が、呆れかえった目で気絶している青年へと目を向けた。

 

他の2人も頷いている。

 

 

「黒のローブからわずかに見えた、燃えるような赤い髪と、静謐さを漂わせる深い湖の碧色の目。

 

麗しき顔の持ち主…。

 

ああ、あの人が森の奥深くに住まう大魔女の君なのか!」

 

「発せられた『ありがとうございます』の一声は、冷涼なる金の鈴の音のごとし。

 

その小さな唇は今にも開かんとする可憐な花のつぼみのようでもあった」

 

弓使いと盾使いは、それぞれ片手をあげながら歌いあげるように、のたもうた。

 

多分、あの剣を持った青年が繰り返し繰り返し、そう語っていたのだろう。

 

 

うわああああ、やめてええええ。

 

なに、それ、すごい恥ずかしいいいいい。

 

私を好き?なんの冗談?

 

だって、お化粧してなかったのよ?今だってしてないし。

 

着ているものだって、真っ黒のローブと、その下は町娘の着ている服よりも質素でかわいらしさのかけらもないような…

 

ってそういうことではなくて!!!!

 

 

魔女は両手で頬を抑え、椅子に深く深く沈みこんでしまった。

 

そんな彼女を、かわいそうなものを見る目で3人は見ている。

 

 

「こんなんでも、国一番の剣技の持ち主で、しかも聖剣を扱えるということで勇者の称号をもらった奴なんですけどね……。

 

それで、大魔女様へ告白しに行く!とアレが決心したのは、まあ、まだ良いですけれども」

 

まだ気絶したままの青年を、杖で指し示しながら僧侶がため息をつく。

 

まだ何かあるの…と若干、涙がにじんでいる目で魔女は顔少し上げた。

 

 

「『俺は勇者!剣の腕は世界一!その腕前をあのかたにお見せしなくては!』

 

と、なぜかそういう思考にぶっ飛びまして」

 

弓使いもため息をつく。

 

 

「『妨害幻術?多くの罠?俺の恋路は順風満帆とはいかない、それでこそ大魔女の君!待ってろ今行く!』

 

というような次第です、はい」

 

盾使いがしめくくった。

 

そして、横一直線にならんだ3人がそろって頭を下げる。

 

 

「ほんと、思い込み激しい奴でして、こいつの無礼、申し訳ありません」

 

「悪い奴ではないのです」

 

「できれば、ほんの少しでも、お付き合いの事を検討してもらえれば……」

 

 

魔女はプルプルと震えていた。

 

 

「で……出て行けーーーー!

 

お前ら、全員、出て行けーーーー!」

 

 

魔女の叫び声と共に、4人は屋敷の外に出されていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「大魔女、今日も来たぞ!俺とつきあ」

 

「断る!」

 

 

「大魔女、久しぶりだ!今日こそ俺と」

 

「断る!!」

 

 

「大魔女、今日は外は雨だった。俺とつきあ」

 

「断る!!!」

 

 

このような事を幾度も繰り返し、勇者は35回も大魔女のところへ足を運んだ。

 

僧侶、弓使い、盾使いは、勇者と同じ村出身で気心がしてているとの事で、付き合いが良いらしく、毎回一緒にやって来る。

 

いや、面白がっているだけなのだろう。

 

吹き飛ばされた勇者を回収して、運び出す役目もある。

 

 

12回目くらいの訪れの時に、僧侶たちは後方でこそこそと

 

「このお屋敷、ずいぶん…」

 

「というか、村の傍にできた門、あれさ……」

 

「あの門、俺たちにしか……」

 

とささやき合いながら、にまーとした視線を魔女へと向けていた。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「大魔女!今日こそ俺の思いを受け止めろ!」

 

「断る!!!!」

 

 

今日も魔女は勇者を片手をあげるだけで吹き飛ばす。

 

3人は今日も後ろで呆れ顔で彼らを見ている。

 

 

 

こんの……気が付け!

 

 

お前が拠点としている町、お前の生まれ育った村。

そこから、この屋敷の入り口へ瞬時に転移できるように術式を施した門を作ったのは誰なのか。

 

 

お前が最初にこの屋敷に来た時にあった、数々の罠や幻術。

あれらが解除され、お前たちのみ即座に私の元にこれるような仕様になっていることに。

 

 

どうして、こんな回数を重ねて尋ねてきているというのに、その理由に気が付かないのだ!!!

 

後ろの3人は、だいぶ以前から気が付いていて、苦笑いというか、生あったかい目で私を見てるじゃないか!!

 

こっぱずかしいったらありゃしない!!

 

というか、せめて花くらい持って来なさいよ!

 

なんでいつも剣構えて突進してくるのよ!!!

 

 

「魔女め!どうして俺を受け入れない! いい加減そろそろ俺と結婚してください!!!」

 

 

顔が真っ赤になっているのがわかる。

 

目も涙目だろう。

 

 

「お前なんか、世界で一番、大っ嫌いよっっ!!!」

 

 

 

ー了ー


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