偏在く悪夢の臨界点   作:ヤーナム野郎

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ブラボもブルアカも雰囲気でプレイしているため、筆者は詳しい設定を知らぬ。

そして物書きの経験もあらず。

だが、ブラボのクロスオーバー作品を読んで思ったのだ。狩人出すより、ゲマトリアとして凄惨な実験してた方がらしいじゃんね、と。



 明らかな矛盾や誤字脱字に関してはお気軽にご指摘ください。


1,目覚め

 陽の光が差さない路地裏は、湿った空気に満たされていた。

 剥き出しのコンクリート壁から突き出た換気扇が、店内の脂と熱気を含んだ生ぬるい息を吐き出している。錆びたパイプから立つ蒸気は細く、表通りの銃声は、ここでは低音に加工され、地面を伝う振動へと変換される。

 

 裏返したビールケースに少女たちが腰かけていた。

 裸電球が一本。きいきいと揺らぐ度に、二人の影が生きているかのように蠢いた。

 

「でさ、その占い師が云うわけ。"あんた前世で将軍だった"って」

 

 黒マスクで口元を覆う金髪の方が、落ち着きなく前髪を指で払う。三十秒に一度。同じ癖を繰り返す。

 

「どこの?ファミレス?」

 

 赤いバイクヘルメットの少女が嘲笑を含んだ声色で応じる。

 

「戦国だって。裏切られて斬られたんだってさ」

「似合わな。アンタ裏切る側じゃん」

 

 短い笑い。

 蒸気が、素早い野良猫のように二人の間を横切った。

 

「将軍様、今日の軍資金は?」

「ゼロ。使いすぎてウチの国財政破綻したわ」

「詰んでんじゃん」

 

 また笑う。

 中身のない軽い会話は女子高生の特権だ。二人の姦しいお喋りは実に健全であった。彼女らの腕に鈍く光る銃がなければ。

 

「失礼、お嬢さん方」

 

 突然の声に、二人が振り返る。

 男が立っていた。

 背が高く、線は細いながらがっしりとしており、均整のとれた身体つきと彫りの深い顔立ち、癖っ毛のある赤みを帯びた茶髪はやや無造作で、薄く口髭を蓄えている。

 大人。だが、その服装は生徒然としている。

 

「御免なさいませ。道を少々、お聞きしてもよろしいでございましょうか」

 

 困り眉の男は人付きの良い笑みを浮かべる。

 仮にこれが恋愛小説であれば、序章:運命の出会いとでも名付けられただろう。

 ──だが、ここはブラックマーケットだ。

 

「まじかよ、国債投資家がやって来たぜ」

 

 金髪が立ち上がる。既に獲物を狙う目だ。

 

「お兄さん、ウチらに投資してくんね?利子5000%で返すからさあ」

 

 ヘルメットの少女は安全装置を外し、遊底を操作する。・30口径の弾薬が滑らかに薬室へと送り込まれた。

 

 いきなり銃を向けられるとは思ってもいなかったのだろう。男は驚いたように目を丸くする。

 それから大きな手でポケットをまさぐり、顔を顰めた。

 

「あいにく、銭、今は持ち合わせございませぬ。」

「おいおい、そりゃないぜ。そんな高そーな服着ててよぉ」

「アタシらを騙そうったってそうはいかねえ。その服に付いてる銀鎖や時計は金になりそうだしなあ」

「銭の代わりに、品で、よろしければ、これを」

 

 男は少し考えて、ポケットから取り出した物体を少女の手に乗せた。

 

 それは赤だった。

 鮮烈な赤。光沢を帯びた半透明。粘性の糸が指の間に橋を架ける。

 形状は身体を丸めた胎児のそれ。

 

 見るべきでないもの。知るべきでないこと。

 

 蒙が啓く。

 

「んだ…こッ」

 

 顔を青くしてヘルメットの少女が男を見上げる。

 その視界に映ったのは、大斧を振り下ろす男の姿だった。

 分厚く、ざらついた刃がヘルメットを真上から叩き割る。

 少女が地面と接吻するのを待たずに、返す刀で柄頭が金髪の少女の顎を打ち抜く。

 力を失った少女たちの身体が、粘土状の地面に跳ねた。

 

 ◇

 

 悪夢の儀式に不備があったのか、あるいはロマのような偶然かは分からない。

 目覚めた時、男は波形ブリキ造りの小さな小屋に居た。

 ヤーナムとは、ひいては自分の知る世界と異なるのは、一歩でも小屋の外に出て、空を見れば明らかだった。

 透き通るような青い空。そこに浮かぶ巨大な円環。

 奇しくも、男は別世界(悪夢)へと至ったのである。

 

「はあ…道を聞きたかっただけなのですが」

 

 だというのに、何故殺し合いに発展したのだろうか。

 男は思わずため息を吐いた。

 未知との遭遇(ファーストコンタクト)は完全なる失敗に終わった。

 天を仰いでみても、状況は変わらない。

 

 目の前に転がる二人の少女に目を向ける。

 顔つきからして東洋人だろうか。知性を感じない言葉といい、隠すつもりのない強盗といい、この地域は治安が極端に悪いのだろう。スラムの可能性もある。

 

 だが、すぐに彼の興味はその手に持つライフルに移った。デコレーションの施された金属の銃。

 

 慣れない代物に苦戦しながらも、見様見真似で遊底を操作する。

 密閉構造、後装式、そして金属薬莢。あの時代の軍が実現出来ていない技術のオンパレードだ。

 男は引き金を引きたい衝動に駆られた。が、今はそれ以上にやる事がある。

 文明地にいながらも、気分はロビンソン・クルーソーだ。早急に(安全地帯)を作らねばならなかった。

 

 

「これは、凄まじいな」

 

 男にしては珍しい、純粋な驚きの声。

 それはスラムというよりも、街と呼ぶべき様相だった。

 大通りには屋台が並び、看板を掲げた常設店舗が整然と軒を連ねている。

 

 それらを埋めるのは人の波だ。

 頭上に円環を戴く少女が果物を選び、金属製のカラクリ人形が荷を運ぶ。傭兵らしき少女たち、機械頭の銀行員、串焼きを売る獣人。

 

 ──獣。

 

 懐に伸びかけた手は、しかし引き裂くような甲高い怒号で止まる。

 

「これはアタシが先に触ったんだ!」

「いいや、アタシが先だね!」

「ああ!?」「やンのかコラ!」

 

 見れば、露天の前でヘルメットを被った少女たちが言い争っている。周りも止めるどころか囃し立て、ヒートアップした二人はすぐに沸点へと達した。

 乾いた銃声。

 

「やりやがったな!おい、テメェら!あいつらをぶっ殺せ!」

 

 それを合図にヘルメットを被った少女たちが一斉に引き金を引く。

 忽ちに表通りは戦場へと変わった。

 装甲を纏った機械人が、様々な服装の子供たちが、皆一様に銃器を握り、馬鹿騒ぎに加わってくる。

 遂には戦車まで現れた。爆発音、薬莢が宙を舞い、悲鳴が重なる。

 

 銃弾が壁を抉った。

 屋台を粉砕し、パイプを破砕し、木箱に詰められた果物を生ゴミに変え、少女の身体を吹き飛ばす。

  だが、彼女たちはすぐに立ち上がった。血は散るが、致命傷には至らない。遮蔽物を使わず、平然と立って撃つ者さえいる。

 

 何だこれは。狩人だってここまで無法じゃない。

 人外一歩手前の血狂い共でも撃たれれば血は出るし、頭に当たればお陀仏だ。

 

 だというのに、目の前の少女たちは倒れない。死なない。

 

 死ぬことがないゆえに暴力が手軽に切れる手札になる。他者を傷つける事に躊躇いがなくなる。子供らしい癇癪の末、行われるのが銃撃とは何とも悪夢らしい。

 

 だが同時に、面白いと思ったのもまた事実だった。

 

 何十発と受けても倒れない者が居れば、数発で気絶する者もいる。機械人や獣人に比べて硬い。硬すぎる。

 技術ではない。もっと原始的な力の作用。

 

 神秘に似た何か、いや、世界が繋がっている以上神秘と呼んで差し支えないだろう。

 ならば、これらは私の研究対象だ。解体し、解釈し、理解し、利用しなければならない。

 

 獣人、意思持つ絡繰(神秘)、そして神秘を持った子供()

 神秘と獣性の対立。このアプローチならば、ヤーナムの知見も十分に通用するだろう。

 

 とりあえずは、住居を探さなければ。

 

 目の前の喧騒から目を背け、口笛を吹きながら男は通りをゆっくりと歩き始めた。




・不良の銃:
 ブラックマーケットに巣食う不良たちの得物。彼女らがなけなしの財をかき集め、己が虚勢と誇示のために継ぎ足し、飾り立てた改造銃。
 原型はかのAK-47。堅牢と信頼で知られた設計は、いまや派手な塗料に塗り潰され、過剰な装飾と無数のストラップに絡め取られている。
 飾りは多く、思想は軽い。
 だが引き金は、確かに引かれる。
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