「あなたはやりすぎた」と危険視され女神に排除された異能の騎士、取って付けた詫び転生の勧誘を拒否して女神を斬り殺してしまう   作:ますかるぽーね

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プリュイ村

「おかえりノエルちゃん、帰りが遅いから心配したよ。――おや、そちらのお方は?」

 

 やがて林道を抜けて村の入り口に着くと、ピッチフォークを抱えたたくましそうな農婦がこちらに気づいて声をかけてきた。

 田舎の農村、まさにそんな印象が相応しい牧歌的な風景が夕焼けとともにヒューガたちを出迎える。

 

「心配かけてごめんなさい、ロジーヌおばさん。彼はヒューガ、街道の方で例の賊に絡まれてたところを助けてもらったの。村に通しても大丈夫かしら?」

 

「ノエルちゃんの恩人さんならもちろん大歓迎よ。見たとこ随分と立派な格好だけど、ひょっとしてどこかの貴族様だったりするのかい?」

 

「遠い国の地方領主の末息子らしいけど、継ぐ領地はないのに軍人になるのも嫌で、剣の修行とか理由つけて諸国漫遊を続けてるんですって。うっかり路銀を盗まれて文無しで森を彷徨ってたって言うから、わたしの工房で助手としてしばらく面倒見ようかと思うんだけど」

 

(なんか世間知らずのおマヌケ貴族ってことにされてるー!?)

 

(文無しは事実だからな……。ここは彼女のフォローに乗せてもらうしかあるまい)

 

「そりゃあ構わないけど……んふふ、ノエルちゃんったら、あんたも隅に置けないねぇ」

 

「え? ああ……ふふっ、そうね。この際だし、わたしも目指してみようかしら……玉の輿とかいうの」

 

 ノエルはそう言って、後ろに控えるヒューガを意味ありげな流し目で見やった。

 

 ――っ!?

 

(うわぁ……すっごい破壊力。あれは自分のカワイさ完全に理解(わか)ってやってるね……)

 

 「おやおや!」と、ロジーヌと呼ばれた農婦の品定めするような視線に耐えかね、ヒューガは一歩前に出て姿勢を正した。

 

「お、お初にお目にかかります、マダム。(わたくし)、ヒューガ・レイベルと申します。世間知らずな不肖の身に務まるか不安ではありますが、ノエル殿のお力になれるよう誠心誠意力を尽くさせていただきますので、これから何卒よろしくお願いいたします」

 

「おやまっ、マダムだなんて呼ばれたのは生まれて初めてだよ! こりゃどうもご丁寧に、あたしゃロジーヌってんだ。プリュイの村へようこそ、旅のお方。見てのとおりなーんもない小さな村だけど、よかったら気の済むまでゆっくりしていっておくれ」

 

 ロジーヌは気のいい笑顔でヒューガを迎えてくれた。

 

「それはそうと、ノエルちゃん。危ないんだから、あんまり連中の住処の方には行っちゃダメだよ? あたしらのために頑張ってくれるのはもちろん嬉しいけど、それでノエルちゃんが危ない目に遭ったら元も子もないでしょう。今日はたまたま親切なお方に助けてもらえたからいいものの、うっかり攫われでもしたらと思うと心配で心配で……」

 

「うっ……ごめんなさい」

 

 ノエルは申し訳なさそうにしゅんとうつむいた。

 

「わかればよろしい。採れたての野菜たっぷり分けてあげるから、ヒューガさんに何かおいしいもんでも振舞っておやり。若い男ってのは胃袋掴んじまうのが一番手っ取り早いんだ」

 

「ありがとう、ロジーヌおばさん。任せて、しっかり餌づけしてみせるから」

 

 ノエルは礼を言うと、心なしか得意げな表情で餌づけ対象を見上げた。

 

 ヒューガは敢えての言及を控えた。

 

 

     *

 

 

「ノエルせんせい、おかえりなさいっ!」

 

「そのにーちゃん、だぁれ?」

 

「せんせーのカレシ?」

 

 ノエルに連れられて村に入るや否や、幼い子どもたちが一斉に駆け寄ってきた。

 

「彼氏じゃありません。この人はヒューガ、森で拾った『助手』という大変珍しい生き物よ」

 

「じょしゅ……? ヒューガおにいちゃん、お手伝いの妖精さんなの?」

 

「ははは、残念ながら私は妖精(ブラウニー)ではないよ。縁あって、今日からノエル先生の仕事をお手伝いをさせてもらうことになったんだ。とはいえ、まだまだ未熟でわからないことだらけだ。これからみんなに教えてもらうこともたくさんあると思う。そのときは力を貸してくれると嬉しいな」

 

 ヒューガはしゃがみ込んで少女に目線を合わせ、右手を差し出す。

 

(君、そういう普通のしゃべり方できたんだ……)

 

(……お前は私をなんだと思っているんだ)

 

「うん、たくさん教えてあげるねっ!」

 

 少女は満面の笑みで握手に応じてくれた。

 

「なあなあ、ヒューガにーちゃんって強いの?」

 

 腰の剣を興味津々に見つける少年。瞳がキラキラ輝いていた。

 

 ――強い……か、難しい質問だ。

 

 騎士団の中でも、剣術においては()()()()()()()実力を誇っていた自負はある。

 けれど、そんな剣の技量も、あの《勇者》の――神の《奇跡》力の前ではまるで通用しなかった。

 守るべきものを守れない騎士に、強い弱いを口にする資格があるのか。

 単純な問い故に、ヒューガは回答に窮した。

 

「とっても強いわよ。30人もいた山賊たちを剣も抜かずに一瞬で蹴散らして、攫われちゃいそうになってたわたしを助けてくれたんだもの」

 

 ――ノ、ノエル!?

 

「ヒューガにーちゃん、スッゲー!!」

 

「正義の勇者様みたい!」

 

「カッコいいなぁ……」

 

 子どもたちの視線が、好奇心から憧憬へと瞬く間に変化していく。

 

「ああ、いや……」

 

 ヒューガは妙な居心地の悪さを感じたが、気分の悪い類いのものではなかった。

 

「でも、いくら強い人でも戦えば疲れておなかが空いちゃうの」

 

「ヒューガおにいちゃん、おなかペコペコなの?」

 

「そう、だから質問の続きは明日。みんなもおうちに帰る時間でしょう?」

 

「えー」

 

「よい子のお返事は?」

 

 ノエルが人差し指を立てて問いかけると、子どもたちは少し残念そうにしつつも素直に「はーい」と応じて、無邪気に大きく手を振りながらそれぞれの家に帰っていった。

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