「あなたはやりすぎた」と危険視され女神に排除された異能の騎士、取って付けた詫び転生の勧誘を拒否して女神を斬り殺してしまう 作:ますかるぽーね
「やっぱ、おかしいんだよなぁ……」
セラは腕を組み、工房の天井を見上げてぽつりと呟いた。
「ほら、手が止まってるわよ、助手2号。このリストの薬、全部箱詰め終わらない限り今晩のごはんはおあずけよ?」
ノエルはふたりの助手に的確に指示を出しながら、自身もクレマンから受け取ったリストの薬を引き出しから取り出してストックを数え始めた。
「ひぃ~ん! やっぱ2号ってボクのことだったのね……」
元女神は泣き言を言いながらも、意外にも手際よく目的の薬を探し出しては丁寧に梱包していく。
「まぁ、さっきから神さまがうにゃうにゃ唸ってる理由も、なんとなくわかっちゃった気はするんだけど」
「ホントっ!? ……ちなみにヒューガは?」
「そこで私に振るのか!? そ、そうだな……クレマン殿の商隊に関しては特段怪しい様子は感じられなかった。むしろ非常に好感の持てる
ヒューガは検品の終わった木箱を慎重に部屋の片隅に重ねると、息をつきながら答えた。
「正解っ! ……ズバリ言っちゃうとさ、《勇者》は火事なんかで死ぬはずないんだよ」
「――っ!」
セラの核心を突く一言に、ヒューガは堪らず手を止めて彼女を振り返った。
「考えてもみなよ? 千年に一度のとっておきの切り札が、もし火事どころか食あたりや落馬みたいな不幸なアクシデントで、役割を遂行できないままある日突然ポックリ死んだらどうなっちゃうと思う?」
「向こう千年 《魔王》が倒されず野放しになるってことでしょう? 祈っても一向に救われないんじゃ、人の信仰なんて枯れちゃって創造神の目論見も一瞬でご破算でしょうね」
「つまり、あらかじめ並大抵のことでは死なないように、神の《奇跡》という安全網が敷かれている……そういうことだな?」
あの《死神》が、その身を脅かすあらゆる攻撃を〝反射〟したように。
「うん……《魔王》も《勇者》も、並大抵の危機どころか、絶対に役割を全うできるように《
その前提に立つと、勇者ウィルの死の不自然さが浮き彫りになってくる。
「……だとするなら、考えられる可能性は2つってことになるのかしら?」
ノエルは再びリストと棚の引き出しを交互に確認しながら言った。
心なしか手つきに落ち着きがないのは、やはり勇者ウィルという自分の世界を救った身近な英雄、その核心に触れることだからだろうか。
「勇者ウィルは実は死んでなどいないという可能性。あるいは――」
ヒューガは相棒に視線を向けた。
「2つ目の可能性――そのウィルって勇者は、ボクたち創造神の切り札たる《勇者》の定義から外れた、自然発生的に生まれた『勇者と呼ばれてる土着の英雄』だった。……そのどっちかってことになるね」
セラもノエルにつられて梱包作業を再開しながら答えた。
夕食を目の前にぶら下げられた元女神はとても勤勉だった。
「せめて、その倒した魔王っていうのが
「そんなこと言われても、肝心の比較対象がないんだもの……神さまの造ったホンモノか、勝手に生えてきたニセモノかなんて判らないわよ」
「だよねぇ……。ちなみに、その魔王の力とかって何か知ってたりしない?」
どうにか答えを導き出そうと、セラは更なる情報を求めた。
「具体的にどういう力っていうのは私もよく知らないけど……闇の魔法を極めた男で、普通の武器では傷ひとつ負わせることのできない強力な結界を纏っていたって話よ」
「ふむふむ……そいつの出自とかは?」
「まったくの不明。どこの生まれで、どうやって育ったかも未だに判ってないらしいわ。今からちょうど20年前に突然現れて、あっという間に帝都を人の住めない瘴気の海に変えてしまった……というのが、記録に残ってる最初の出来事よ」
「……なるほどね」
セラは一旦自分の中での考えをまとめたいのか、それっきり黙りこくってしまった。
「人の住めない、というのは……? クレマン殿の商隊は、たしかその帝都から来たのではなかったか?」
「――ああ、ごめんなさい。そういえば言ってなかったわね。魔王が瘴気で汚染した『旧帝都』と今の『新帝都』って全然別の都市なの」
「なるほど、やむを得ず遷都したわけか」
「ええ、帝国政府は魔の瘴気でとても人の住める場所じゃなくなった帝都ブランシェールを放棄して、ずっと北にあるクロワゼリアっていう元々交易の中継都市だったところに新しく都を移したの。……ここからだと、馬車でもひと月くらいかかるわ」
ノエルの言葉には、どこかやりきれないような思いが滲んでいた。
「……そうか、いろいろと納得がいったよ」
それこそが、彼女がこの村を「見捨てられた」と言った理由。
プリュイ村は、帝都の移転に伴って新たな流通網から完全に孤立してしまったのだ。
「今は、あのクレマンさんみたいに新帝都の美食家貴族たちをパトロンにつけた商人の集まりが商隊を組んで月に一度買い付けに来てくれてるから、辛うじてどうにか村としてやっていけてる感じね」
「なるほど、たしかに国には見捨てられたのかもしれない。だが、決して忘れ去られてしまったわけではない……ということか」
商隊を編成して幌馬車で片道1ヶ月の長旅など、輸送コストを想像しただけで眩暈がする。
買い付けできる商品だって、自ずと長期保存可能なものに限定される。
そうまでしてでも手に入れたいと思わせるだけの魅力が、この村の品々にはある。
人々の記憶から完全に消え去ってしまったわけではない、何よりの証拠だ。
その原動力は、あるいは、かつて帝都の台所を支えていたという思い出の味への、抗いがたい郷愁のようなものなのかもしれない。
「はぁ……まったく、物好きなお金持ちの考えることなんて、庶民のわたしには全然理解できないけど」
ノエルはため息交じりにそう言うと、「晩ごはんの支度してくるわ」と言って足早に工房から出て行ってしまった。