「あなたはやりすぎた」と危険視され女神に排除された異能の騎士、取って付けた詫び転生の勧誘を拒否して女神を斬り殺してしまう   作:ますかるぽーね

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ゴロツキ退治

「て、テメェは――」

 

「長生きしたければ口を開くな」

 

 廃教会へと続く街道の岐路で見張りに立っていたゴロツキを急襲し、俯せに組み伏せた首筋に抜き身の魔剣を突き付けながらヒューガは言った。

 先日ノエルを助けた時に彼女を取り囲んでいたうちの1人、あの中で一番体格に恵まれた大柄な男は、自らの絶望的な状況を理解したのか震え上がり、抵抗の意思がないことを伝えるように必死に首を縦に振る。

 

(お見事♪ でも、音も立てずにサッと木に登って頭上から仕掛けるなんて――)

 

(まるでレンジャーだとでも言いたいのだろう? 騎士らしくないのは私が一番理解している。……それより、まさかこんな夜明けから外に見張りの番を立てているとは少し驚いたな)

 

(結構な警戒っぷりだよねぇ)

 

(とはいえ、それをたった1人に任せる辺り、やはり素人臭さは否めないが……)

 

 城門にしろ、要衝の関所にしろ、不測の事態に備えて門番は複数人置くのが定石だが、ここに立っていたのは眼下に組み伏せるこの男だけだった。

 

(2人もこっちに回す余裕がないのかもね。それで、すっかり青くなってるそのオジサンどうすんのさ?)

 

(余所の家に挨拶に伺うのだ、手土産くらい必要だろう)

 

(……あー、うん)

 

 多分に「騎士道ってなんだっけ???」というニュアンスの含まれた相棒の呆れ声を受け流し、ヒューガは工房から拝借した麻縄で男の両手を後ろ手に縛り上げた。

 

「立て、私は貴様らの頭目に用がある。住処まで案内してもらおうか」

 

 

 *

 

 

「あ、あのぉ……剣士の兄さん……きょ、今日はどういった御用向きで……」

 

「長生きしたくないのか?」

 

 恐る恐る後ろを振り返りながら尋ねる声に一言返すと、ゴロツキは「ひぃっ!」と呻き、それっきり口を開こうとも後ろを振り返ろうともしなくなった。

 

「貴様らの(かしら)が私の〝提案〟にどう首を振るか、すべてはそれ次第だ。今のうちに祈りは済ませておけ」

 

(ヒューガ、もしかしてこういうの慣れてる?)

 

(……慣れてはいない)

 

(経験はある、と。ま、平民騎士から近衛を目指そうなんて思ったら、任務の選り好みとかしてらんないよね……。とくに、君みたいな生い立ちや能力だと尚更さ)

 

(……相棒の理解の早さに涙が出そうだ)

 

 ヒューガは断罪人のような冷酷な顔を崩さず、心の中で苦笑を漏らした。

 

 そうしてゴロツキに先導させること暫し。やがて木々に囲まれた道が開け、尖り出た鐘塔が一際目を引く建物が姿を現した。

 手入れがされず所々朽ちてしまってはいるが、帝都の台所を支えていたというプリュイ村のかつての繁栄を偲ばせるに足る立派な教会建築だった。

 

「助けを求めようなどと妙な気は起こすな」

 

 希望を見出すように教会を見上げた男に釘を刺すと、そのまま正面扉を開けさせて、その大柄な身体を盾にするように中に押し入った。

 

「聞こえるか、賊どもの頭よ! 私はヒューガ・レイベル、プリュイ村で世話になっている旅の剣士だ」

 

 ヒューガは薄暗い礼拝堂によく通る声で呼びかけた。

 

「今日は折り入って頼みがあり参上した。手土産もある、話を聞いてもらえないだろうか?」

 

 チャーチベンチに寝転がり薄い毛布に包まっていたゴロツキたちが一斉に飛び起き、こちらに注目した。

 〝手土産〟の男を含めて7人、先日蹴散らした連中の顔はその中にすべてあった。

  

「ヤンの兄貴!? ――って、その白マント野郎は!!」

 

「クソッ! 貴族のくせに人質なんて汚い真似しやがって……!」

 

(あーあ、言われちゃった)

 

(……心外だ、無法者に誹られる筋合いはない)

 

「んだぁ? てめぇら、こんな時間にギャーギャー騒ぎやがって……」

 

「お、親分! 寝ぼけてる場合じゃねえっすよ!! 例の白マントの用心棒が、ヤンの兄貴人質にして乗り込んできやがったんすよぉ!!」

 

「――な、なんだってぇッ!? ……チッ、てめぇらは下がってろ」

 

 親分と呼ばれた野太い声の男が慌てて立ち上がると、子分たちを庇うように飛び出してきた。

 

(わぁ……クマみたい)

 

(……デカいな、膂力は申し分なさそうだ)

 

「貴様がこの連中の頭か?」

 

 優に2メートルあろうかという巨漢を前に、ヒューガは怯むことなく問いかけた。

 

「……いかにも」

 

「ならば話が早い、単刀直入に用件を言う。貴様ら無法者のせいで村は大変な迷惑を被っている。子分どもを連れ、即刻この教会から立ち退いてもらいたい」

 

「そいつは……聞けねぇ相談だ」

 

「誰が対等な相談をしに来たと言った?」

 

 人質の首筋に魔剣の刃を押し当て再度問いかける。

 

「や、やめろぉ!!」

 

 言葉よりも雄弁な通告に、巨漢の親玉は血相を変えて叫んだ。

 

(どっちが悪者かわかんないね、コレ)

 

(余計なことを言うな、やりづらくなる……)

 

「穏便に済ませられるうちにさっさと立ち退いた方が賢明だと思うが。私は決して気の長い方ではないぞ」

 

「…………」

 

 巨漢の親玉は額に脂汗を滲ませながら、しかし微動だにせず首を縦に振ろうとはしない。

 

「命が惜しくはないのか? そうまでして貴様らがこのような朽ちかけの廃屋にしがみつく理由が私にはわからん」

 

「て、てめぇにゃわからなくたって、こっちにゃ退けねぇワケがあるんだよッ!!」

 

 親玉の男の鬼気迫る形相を見るに、決してヒューガを見くびっている様子はない。

 むしろ本能的に実力差を悟り、本気で命の危機を感じているからこそ足が動かなくなってしまっているようにも見える。

 

(なんか思ってた展開と違ってきちゃったね……脅しじゃ退いてくれないかも)

 

(このままでは埒が明かん。ともかく、連中が自棄を起こして馬鹿な真似に出る前にこの大男を締め上げ、退っ引きならない理由とやらを吐かせるしかあるまい)

 

(……斬るの?)

 

(それは最後の手段だ。賊とはいえ、真っ先に子分を庇い私の前に立ち塞がったあの男の気概は捨てたものではない)

 

(仲間想いなヤツに深手は負わせなくない……と)

 

(……我ながら甘いのは百も承知だ)

 

「……そうか、よくわかった」

 

 ヒューガはヤンと呼ばれた人質の頭を魔剣の柄で殴り昏倒させると、用済みとばかりに動かなくなった身体を横に蹴飛ばして親玉を見据えた。

 そして、フッっと呼吸を整えた一瞬の間の後。

 

「え――」

 

 常人の目に追えぬ速度で一足に間合いを詰め、鞘に収めたミストルティンの先端が完全に虚を突かれた巨漢の鳩尾を捉え――

 

「ちょおぉっと待ったあああああああああああああああああああ――ッ!!!!!!」

 

 ――なにっ!?

 

 確実に捉えたはずの強烈な打突は、突如現れた白く輝く魔法陣によって阻まれてしまった。

 

(ホーリー・シールド!? 光の魔法なんて誰がっ!?)

 

 ――チッ、上か!

 

 ヒューガは魔方陣の放つ鮮烈な光に視覚を奪われながらも、脳裏に湧き上がる()()を頼りに後ろへ大きく飛び退き間合いを取った。

 直後、ヒューガの立っていた場所目がけて音もなく鋭い斬撃が襲いかかり、敷き詰められた幾何学模様のタイルが砕け飛んで土煙を上げた。

 

「へぇ……いい勘してんじゃねーか、にーちゃん。それとも、頭のてっぺんに目でも付いてんのか?」

 

 魔方陣の逆光に晒された黒い影が、土煙の中ゆらりとこちらに向き直って感心したような声を上げる。

 右手に握られた両刃の大剣は、それ自体が淡く金色に輝いているように見えた。

 

「…………」

 

(ヒューガ、大丈夫!?)

 

(問題ない。……それより、他の連中と明らかに雰囲気が違うぞ。この男が真の頭目か?)

 

(おまけにあんな術まで使えるなんて普通の剣士じゃないよ。とにかく気をつけて、ヒューガ!)

 

(心得た)

 

 これまでのように手心などと甘えたことを言っていられる相手ではなさそうだ。

 異能を頼るまでもなく、大剣の男から放たれる強烈な《気》がビリビリと肌を伝う。

 

「だ、旦那ァ!? 目ぇ覚ましたんですかい!?」

 

「旦那、もう起きて大丈夫なんすか!?」

 

 余程慕われているのだろう。長椅子の影に隠れて縮こまっていたゴロツキたちまでもが、「旦那」の掛け声とともに、まるで救世主に縋るような顔で一斉に駆け寄ってきた。

 

「バカ野郎! あんだけギャースカ騒がれたら、おちおち寝てられるわけねーだろ。……つーか、なんだよこの状況は!? お前ら、なんだってあんなバカ強そうなにーちゃんとメンチ切り合ってんだよ、死にてぇのか!? つーか、そもそもこのボロい教会いったいどこだよ!?」

 

「あ、いや……その、これにゃいろいろ事情がありやして……いったいどこから説明したらいいか……」

 

「――って、んなもん後だ、後! とりあえず、この赤毛のにーちゃんと話つけねぇとそれどころじゃねーだろうが!」

 

 魔方陣の盾が光の粒子となって消え、逆光に隠されていた男の顔立ちが露わになった。

 炭のように黒々とした髪を無造作に伸ばし、血色の悪いこけた頬に無精髭を蓄えた中年の痩せ男。

 とても、たった今あの大剣で頭上から地面を抉る一撃を見舞ってきた使い手とは思えない、ひどくくたびれて弱々しい風貌だった。

 

(あのおっさん、他のヤツらに比べてものすごくやつれてない? なんか知らないけど今の状況もよくわかってないっぽいし……)

 

(だが、実力は別格だ。……無防備に立っているようで斬り込む隙が見えない)

 

(ただ者じゃないのはわかるけど、君がそこまで言うってことは……)

 

(少なくとも、ゴロツキ退治で気軽に出くわすべき手合いではないということだ)

 

 万が一にも、山賊の根城を突いて竜が顔を出すとは思うまい。

 

(勝てる?)

 

(……無血開城とはいかなくなるが)

 

 ここにきて、やはりノエルを連れてこなくて正解だったと確信する。

 

「あぁん……? にーちゃん……さてはあれだろ? なんか()()()やがんな?」

 

 ミストルティンを正眼にを構えて出方を窺っていると、痩せ男はヒューガの警戒を余所に無精髭を撫でながら訝しむような目で問いかけてきた。

 

 ――この男、まさか!

 

「精霊でもねぇ、かといって魔族みてぇな悪意も感じねぇ……なんつーか、よくわかんねー妙な気配纏いやがって。……お前さん、マジで何者(なにもん)だ?」

 

(ボクに気づいたっていうのっ!?)

 

「ハッ! 腕はガチでもすぐ顔に出ちまうあたり、やっぱ若いヤツは素直だねぇ。別に獲って食ってやろうってわけじゃねぇのよ、そう警戒しなさんなって」

 

 男はそう言って大剣を背中に納めたかと思うと、敵意はないとばかりに頭の後ろで手を組んで茶目っ気でも見せるようにウィンクを飛ばしてきた。

 ヒューガは緊張に喉を鳴らし、相手の真意を探るように睨みつけた。

 左腕の相棒は「うえぇ……」と嗚咽のような呻きを漏らした。

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