「あなたはやりすぎた」と危険視され女神に排除された異能の騎士、取って付けた詫び転生の勧誘を拒否して女神を斬り殺してしまう   作:ますかるぽーね

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翼竜と大剣

「ノエル、君には驚かされてばかりだな……」

 

 精悍なシルエットながら、強靱な筋肉と頑丈そうな鱗に覆われた翼竜の偉容に圧倒されながら、その背中から降りようとする雇用主に手を差し伸べる。

 可憐な容貌からは想像できない行動力の持ち主だとは思っていたが、まさか竜を駆って援軍に駆けつけてこようとは夢にも思わなかった。

 

「ありがとう、さすがエスコートも完璧ね。それはともかく……これでも自分のこと、助手よりはいくらか常識的な存在だと思ってるつもりなんですけど?」

 

 ヒューガの手を取って抱き留められるように地上に降り立ったノエルは、若干不服の込められた目で助手を見上げる。

 

(それはごもっとも……)

 

(……返せる言葉が見当たらん)

 

 存在自体が非常識の極北たる元女神と異世界人の騎士は揃って閉口するしかなかった。

 

「いきなりドラゴンとか言い出すから身構えちまったが、まだまだひよっこなリンドヴルムの幼体じゃねーか。――ったく……リックの野郎、ビビらせやがって」

 

 痩せ男がボリボリと頭を掻きながら、 こんなものはドラゴンの内に入らないとでも言わんばかりにぼやいた。

 

(これで幼体なのか……?)

 

(リンドヴルムはドラゴンとしてはかなり小柄な方だけど、それでも大人の個体はこの倍以上にはなるからね。この子は牙も大人みたいに鋭くないし、まだ子どもなのは間違いないよ)

 

(これが、さらに倍になるというのか……)

 

 動物の世話など、孤児院で飼っていた犬と鶏、騎士団の所有する軍馬くらいしか経験のないヒューガには、スケール感が違いすぎてイメージが追いつかず、「餌代が凄まじそうだ」などと半ば現実逃避のようなズレた感想しか湧いてこなかった。

 

「い、いや……アレ見てそんなこと言えるの、旦那やエルミナ姐さんたちくらいのもんですって……」

 

「お、おいリック!」

 

「――あ、やべっ!」

 

 仲間の1人に制止され、リックと呼ばれた小柄な男は慌てて両手で口を塞いだ。

 

「エルミナ? ……それって、もしかして《竜槍姫》のこと?」

 

 長い耳をピクリとさせたノエルは、失言を聞き逃しはしなかった。

 そして、この中でただひとり、竜を見てもまるで動じない飄々とした様子の不健康そうな男へと視線を移す。

 

「真っ黒な髪にその大きな剣……あなた、まさか――」

 

 ゴロツキたちが「終わった……」とばかりに一斉に顔に手を当て天を仰いだ。

 

「……勇者ウィル?」

 

 当の痩せ男だけは、やれやれとかぶりを振ってわざとらしく口笛を吹いていた。

 

(――この男が《勇者》だと!?)

 

(やっぱり火事なんかで死んでなかったんだ!)

 

 まさか、ゴロツキの住処をつついて《勇者》がお目見えするとは思うまい。

 とても信じられない思いだが、光魔法や先ほどまで輝きを帯びていた大剣、そしてセラの気配に勘付いていたことを思えば、むしろ状況証拠として十分すぎるくらいではあった。

 

「――まぁどうせ、これからそこのにーちゃんと腹割って全部話すつもりだったわけだし、べつに話す相手がひとり増えたって問題ねーだろ」

 

 「勘のいい嬢ちゃんのせいで、サプライズは台無しになっちまったがな!」と冗談交じり付け加えて、またカカカと笑う。

 

「わ、笑い事じゃないっすよ、ウィルの旦那……」

 

「悪ぃ悪ぃ、お前らにも随分と世話かけちまったな。……しかし、よく俺があの『堕ちた勇者』だって気づいたな、嬢ちゃん?」

 

 痩せ男――もとい勇者を自称する男は自嘲気味に笑ってノエルに視線を向ける。

 

「勇者がヴァンノール出身で黒髪がトレードマークなのは有名だし、前に博物館でその聖剣……《クラウ・ソラス》のレプリカの展示を見たことがあったから」

 

 持ち手を含めれば彼女の身の丈ほどもある大剣を指差して、ノエルは答えた。

 

「あー……あれか。本物の寄贈が無理なら、展示の目玉にするからせめてレプリカ用の型取らせろ! ってしつこかったんだよな……粘土塗れにされて、こいつもとんだ災難だったぜ」

 

 勇者はうんざりしたような顔で、まるで剣に語りかけるように言った。

 

(んー……?)

 

「……それに、さっきそこの人が《竜槍姫》エルミナの名前を出してピンときたの。勇者の仲間の彼女はリンドヴルムと契約してたはずだし、シエル――まだ幼いこの子を見ても驚かないのは不思議じゃないと思って」

 

 そう言って幼竜の首筋を撫でると、シエルと名付けられたドラゴンは「ギャウウ」と気持ちよさそうに鳴いて目を細めた。

その仕草だけ見れば犬や馬と変わらない印象なのだが、如何せん迫力がありすぎる。

 

「なるほどな。ま、あいつの契約竜……ブーラスクは会った時から立派な成体だったからな。何度も背中に乗せてもらって助けられたもんだぜ」

 

 心の底から昔を懐かしむように、勇者ウィルは空を見上げて言った。

 

「――ま、その話はこんらくいにしとくして、だ。待たせたな、剣士のにーちゃん。ネタ明かしが先になっちまったのは予定外だが、このかわいそーな勇者ちゃんの涙なしじゃあ語れない身の上話、ちょっくら耳を貸してくれねーかな? もちろん、そっちの召喚術士の嬢ちゃんも一緒にな」

 

 勇者はヒューガへと向き直り、軽薄そうな言葉とは裏腹に真剣な眼差しでヒューガを捉えた。

 

「…………」

 

 ヒューガは無言で頷いた。

 正直、今まで賊の頭目だと思い込んで散々貴様呼ばわりしてきた手前、この世界を救ったという本物の英雄を前にどういう態度で接すればいいのかわからなくなってしまった。

 

(あ、ちょっと待って! その前に……)

(なんだ?)

 

 

 確認する間もなく、バングルの太陽石が眩く輝きを帯び――

 

 ――まさか、お前!

 

「隠し事なしって言うなら、当然ボクも隠れてなんかいられないよねっ♪」

 

 黄金の艶髪をなびかせて、相棒の元女神は堂々と顕現を果たした。

 

「なっ――」

 

 ゴロツキたちは当然のこと、さすがの勇者までも呆気にとられ、目を瞬かせている。

 

「そ・れ・と……」

 

「お、おい!」

 

 ヒューガの静止をよそに、セラはトコトコ勇者の方へと歩み寄り、ジロジロと品定めするように眺め回した。

 勇者は眼下の金色の頭を指差し、ヒューガに向けて「な、なんだこのチビッ子???」という困惑の視線を送ってくる。

 

 ――何を考えているんだ、あいつは……!

 

「んー……さっきから男の子の声がするから不思議だなぁって思ってたんだけど、やっと見つけたよ」

 

 セラは聖剣と呼ばれた自身の背よりも高い大きな剣をビシッ! と指差し、得意げな笑みを見せて言い放った。

 

「正体は君だね?」

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