「あなたはやりすぎた」と危険視され女神に排除された異能の騎士、取って付けた詫び転生の勧誘を拒否して女神を斬り殺してしまう   作:ますかるぽーね

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落ち延びた英雄

「……チビッ子、こいつの声が聞こえるのか?」

 

 セラがおもむろに聖剣に語りかけると、困惑気味だった勇者の顔が見る見ると真剣味を帯びたものへと変化した。

 

「うん、この距離ならバッチリね♪ ――あ、『信じられないです』ってことは、やっぱりこの勇者のおっさん以外に君の声は聞こえないのかな?」

 

「……マジで聞こえてやがる」

 

 勇者はガシガシと頭を掻いて、信じられないものを見たかのようにヒューガの方へと振り返った。言外に向けられる「マジでおたくら何者だよ?」という視線が痛い。

 依然としてヒューガには子どもの声などまったく聞こえないが、勇者のこの反応を見るに、どうやら聖剣に意思が宿っているのは事実のようだ。

 

「……とりあえず、まず先にそちらの事情とやらを聞かせてもらおうかしら? どうして賊のフリをしてこの教会に住み着いていたのか、死んだはずの勇者がなんでここにいるのか。――こちらの話は、それを全部聞いてからってことで」

 

 驚きを隠せない勇者の様子に騒然とするゴロツキたちを制するように、聡明なエルフが切り出した。

 ヒューガという用心棒に加えて翼竜を擁するこちら側に主導権がある。たとえ救世の英雄相手でも物怖じせず話を有利に進めようと思索する彼女の姿に、ヒューガは改めて唸らされた。

 

 

     *

 

 

「暗殺されそうになったから、殺される前にお屋敷の火事で死んだことにして帝都から逃げてきたぁ!?」

 

 幼い顔の元女神の口から物騒極まりない言葉が飛び出す。

 

「ま、ざっくり言やそういうこった。いろんなとこから目ぇつけられちまって、こう見えていろいろ大変なのよ、勇者っつーのも……」

 

 もはやただの子どもではないことは百も承知なのか、勇者はセラの言動に疑問を差し挟むようなこともなく平然と答えた。

 この順応性の高さこそ、数多の修羅場をくぐってきたであろう勇者の度量なのかもしれないと、本物の英雄に対する色眼鏡全開のヒューガは大いに感心した。

 

「まさか、商隊のみんなが言ってた勇者の屋敷の火事があなたの自作自演だったなんて……」

 

 驚きと呆れが半々といった顔で、ノエルの蒼い瞳が勇者を見つめる。

 

「勇者が死んだ噂が帝都の外にまで広まってるっつーことは、一応俺の作戦は上手くいったわけだ。――ハッ、ざまみろってんだ!」

 

 その言葉は、恐らくは暗殺を企てた首謀者に向けられたものなのだろう。

 

「何が『俺の作戦』ですか。考えたのはこのオレだし、あなた最初は『毒殺が恐くて勇者名乗ってられっか!』って猛反対してたじゃ……って、なんなんですか、このカオスな顔ぶれは!?」

 

 不意に教会の扉が開いたかと思うと、眠たげに目を擦って出てきた青年が盛大に眼鏡をずり落ちさせながら驚愕した。

 痩せこけた黒髪勇者、豪奢な出で立ちの赤毛剣士、純白ワンピースの金髪少女、若草色のローブに身を包む銀髪エルフ、極めつけとばかりに大きな翼のドラゴンまで後ろに控える。

 混沌(カオス)といって十分差し支えない、非常にバラエティに富んだ顔がそこには並んでいた。

 

「余計なこと言うんじゃねーよ、エミール……。つーか、どうせお前だろ? 俺が目ぇ覚ますまで盗賊のフリして凌げとか悪知恵吹き込んだヤツは」

 

「悪慈恵とは心外ですね……機転が利くと言ってほしいです。みんな人がよすぎるから、1人くらいドライな判断のできる憎まれ役がいたって罰は当たらないでしょう?」

 

 男は悪びれる様子もなく、やれやれとかぶりを振った。

 30前後といったくらいだろうか。粗野な男たちの中にあって、1人だけ明らかに雰囲気の異なる理知的な印象の青年。

 ヒューガには、どちらかといえばノエルと同じようなアカデミックな職に携わる者の匂いが感じられた。

 

「貴方は……?」

 

「オレはエミール。帝都の病院で外科医をやってる……いや、『やってた』が正しいかな? さすがに無断欠勤もここまで続くと首だってとっくに飛んでるでしょうし……ねぇ?」

 

 そう言って、医師エミールは嫌味っぽく勇者へと視線を向けた。

 

「あーあー悪かったって! お前が協力してくれなかったら、俺は今ごろ神の下へ召されてただろうよ。……ったく、感謝してるぜ、ダチ公」

 

「わかればいいんで、暑っ苦しいから離れてください。――まぁ、オレだって好きで付いてきたんです、今さら恨み言なんて言うつもりないですよ」

 

 調子のいいことを言って肩を抱く勇者から逃れようと、医師エミールは苦笑交じりにもがいた。

 

「どうやら、この医師が勇者の看病をしていたようだな」

 

「そうみたいね。あの痩せ細った状態でよく生きてると思ったけど、少し納得したわ」

 

「――おや? 君、どこかで会ったことがなかったかい?」

 

  ふと2人に視線を向けたエミールが、ノエルの顔を見て何やら訝しむように問いかけた。

 

 ――!

 

 ヒューガは咄嗟にノエルを背中に庇うように立ち塞がった。不埒なナンパ男から女性を守るのも立派な騎士の勤めだ。

 

「……お前、いくら女っ気がねーからって、30のオヤジが10代の嬢ちゃんに声かけるのは、俺はどうかと思うぜ?」

 

「オレはまだ29です! ――って、そうではなくて! べつに、こんなところまで来てエルフの女の子口説くほどオレは飢えてないですよ……」

 

「じゃあなんだ? ホントに見覚えあるっつーのか?」

 

 勇者の視線がノエルへと向く。

 

「……申し訳ないけど、私は全然覚えがないわ」

 

 ノエルはそれだけ言って、ヒューガの背に隠れてしまった。普段気丈な彼女も、突然男に言い寄られるのは慣れていないのかもしれない。

 

「……そっか。――すみません、どうやらオレの勘違いだったみたいです。以前執刀した患者の娘さんに似てたもんで、つい」

 

「なんだそりゃ……」

 

 勇者は気の抜けた声を漏らした。

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