「あなたはやりすぎた」と危険視され女神に排除された異能の騎士、取って付けた詫び転生の勧誘を拒否して女神を斬り殺してしまう   作:ますかるぽーね

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事情

「……ふむふむ、つまり君の相棒の勇者(おっさん)がうっかり帝都に蠢く虎の尾を踏んじゃったせいで、気づいた時には食事という食事に謎の毒を盛られるようになっちゃってて、このままじゃいつ死ぬかわからないって危惧した君の提案で、仲間のみんなに協力してもらって帝都から脱出できたまではよかったと。……でも、途中で肝心のおっさんが毒に侵されて意識失っちゃったから、仕方なくこの廃教会を住処にして、意識が回復するまでみんなで盗賊のフリして絶対に誰も近づけないように村の人たちを威嚇してた――だってさ、ヒューガ」

 

 ヒューガの見たこともない文字が、まるでまじないのように彫り込まれた聖剣 《クラウ・ソラス》の(ガード)に右手を添えて、セラがもう片方の手をブンブンと振ってこちらを振り向いた。

 どうやら、こちらがナンパだなんだと騒いでいる間も、ずっと聖剣に宿る存在とこうして直接対話を続け、ちゃっかりと情報を引き出していたらしい。

 突然現れて馴れ馴れしく語りかけてくる不思議な少女とすんなり会話が成立するあたり、聖剣に宿る意思も随分と話の分かる人格のようだ。

 

 ――なるほど、それならば連中……いや、彼らの不合理な行動も頷ける。

 

 わざわざ人気のない夜中にコソコソ作物荒らしのような非効率な食糧確保のやり方をしてまで、徹底して村人との直接的な接触を嫌った理由。

 勇者が意識を失い動けない状況の中、命を狙われる立場にある彼の存在は是が非でも隠し通さなければならなかったのだ。

 もし商隊のメンバーの耳にでも入ってしまい帝都で勇者生存の噂でも立てば、死を偽装して逃げ延びてきた今までの苦労がすべて水泡に帰してしまう。

 

「オレが寝ぼけてるんじゃなければ、あのお嬢さん……もしかして聖剣と喋ってます?」

 

「……ったく、あのおしゃべり骨董(アンティーク)、俺以外に直接話せる相手ができて浮かれてやがんな? ま、おかげで説明する手間は省けたけどよ……」

 

「あなたやあの方以外にも〝彼〟の声を聞ける人がいたとは、正直驚きですよ……」

 

「ありゃ間違いなくヒトじゃねぇけどな……。お前見てねぇだろうが、さっきそこのにーちゃんのつけてる腕輪から飛び出してきたんだぜ、あのちっこいの」

 

「扉を開けていきなり竜が睨んできた時点で、もういちいち驚くのも面倒になりましたよ、オレは……」

 

 医師エミールは、またずり落ちそうになった眼鏡のブリッジを中指で押さえながら乾いた笑いを漏らした。

 

「勇者ウィリアム殿、そちらの事情は概ね承知しました。――思い違いとはいえ、英雄相手への数々の非礼、まずはお詫びさせていただきたい!」

 

 ヒューガが胸に拳を当てて深く頭を下げると、人相だけは一人前にゴロツキが板についた勇者の仲間たちが一斉にざわついた。

 突然の謝罪に、当の勇者までもが目をぱちくりとさせて言葉を失っている始末。

 「本当に、あの刃のように威圧的な気を纏っていた剣士と同一人物なのか?」――そんな困惑ぶりがありありと見て取れる。

 

「はぁ……ええと、別に裏表とかないからあんまり警戒しないでちょうだい。悪人相手だとちょっと態度が苛烈になるだけで、むしろこっちの堅っ苦しくて腰低い感じのが普段の彼だから」

 

 見かねたノエルがため息交じりに、助け舟と呼べるか絶妙に怪しいフォローを入れる。

 

「貴族っぽいナリして教会の聖騎士みてぇなにーちゃんだな、オイ……。まぁ、なんだ? 思い違いっつっても実際賊の真似事してたのは間違いねぇんだし、お前さんが頭下げる必要なんかねーよ。むしろ俺のダチどもが1人もくたばってなくて感謝したいくらいだぜ……いや、マジで」

 

 勇者ウィルはまた頭をガシガシと掻き毟ってバツの悪そうな顔で礼を言うと、服の裾で拭ったひどく肌の荒れた手を差し出してきた。

 

「『ウィリアム殿』は帝都のお偉方相手してるみたいで落ち着かねぇんだ……ウィルでいい、俺のことはみんなそう呼ぶ」

 

「ヒューガ・レイベルです。……訳あって、あの小さいのと旅をしています」

 

「小さいのってゆーな!」と言わんばかりのジトーっとした視線を躱して勇者の手を握り返す。

 

 ――よく、この瘦せ細った腕であの大剣を振るうことができるものだ……。

 

「俺らの事情は……まぁだいたい、あの聖剣(デカブツ)がチビッ子にペラペラ喋ったとおりだ。うっかり中途半端にヤバいネタ掴んじまったせいで、めんどくせー連中に(タマ)狙われてるマヌケな勇者の成れの果てっつーワケよ。――んじゃ次は、約束どおりお前さんたちについて聞かせてもらおうかねぇ?」

 

 「まさか、あんなもん見せられてただの剣士たぁ言わねーだろ?」と、勇者は親指で金色の頭を指して苦笑する。

 しかし、細められた目蓋の奥に潜む瞳はこれ以上ないほどに真剣な色を帯びているように見えた。

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