「あなたはやりすぎた」と危険視され女神に排除された異能の騎士、取って付けた詫び転生の勧誘を拒否して女神を斬り殺してしまう 作:ますかるぽーね
「…………マジかよ」
ヒューガとセラの口から語られた、ふたりの旅の紆余曲折。
それを聞いた勇者ウィルの反応は、まさに「然もありなん」だっだ。
とある帝国で皇女の護衛を務める近衛騎士――そんな〝地に足のついた〟己の身分開示まではいい。勇者も「その若さで近衛かよ……そりゃま強ぇわけだわ」と、感心を口にする程度の余裕は見せていた。
だが、そこから一転――女神の差し向けた《魔王》に敗れて命を落とし、自分を蘇生させて無理矢理 《勇者》に仕立て上げようとした女神本人を悪魔と思い込んで斬り殺したくだりの辺りから、勇者の瞬きの回数が如実に増えてきた。
そしてついに、妹との〝痴情のもつれ〟で力を奪われた元女神のセラと不名誉な同盟を結び、彼女の力の封印解放と皇女アシュリーゼの捜索のために異世界渡りをすることになったと語るころには、逆に瞬きの回数が如実に少なくなっていた。
「あー……」
瞬きの仕方を忘れた勇者の視線が、非常識なふたりを助手と呼ぶ雇用主の方へと向く。
「もしかして嬢ちゃんも……?」――そんなニュアンスが多分に含まれていた。
「私は正真正銘、この世界のただのエルフ。常識の埒外みたいなこのふたりと一緒にしないでちょうだい……」
ノエルは甚だ心外だとばかりに大仰にため息をついたが、この場の他の誰しもが、彼女も十分に常識の外側へと片足を突っ込んでいる存在だと認識したことだろう。
「こ、このお嬢さんは、近くの村のお医者らしいんすよ」
「この教会裏の泉に薬草採りに来たって押しかけてきて、どうにか追い払おうとしてたんですけど……」
「俺たち、この話聞いててもいいんすかね?」と困惑顔で勇者の側で固まっていたゴロツキ――もとい勇者の仲間たちが遠慮がちに口を挟み、偶然その場に居合わせたヒューガに逆に追い払われてしまったのだと説明した。
「嬢ちゃんがアイツ呼び出す前にこのにーちゃんが首突っ込んできて命拾いしたな、お前ら……」
勇者は、ノエルの後ろに大人しく控えるリンドヴルムを指して言う。
「そんな物騒なことするつもりなかったけど……もし彼が横槍入れてこなかったら、あなたたちどうするつもりだったの?」
――そういえば、この男たち、ノエルに対してなかなかに過激なことを言って脅していたようだが……。
「どうするって、そりゃあ……なぁ?」
男たちは顔を見合わせて、当然のように答えた。
「そんなもん、根比べしかねぇよなぁ?」
「……え?」
「だから根比べっすよ、根比べ! さすがに日が暮れるまでああやって粘ってれば、お嬢さんだってさすがに諦めて帰ってくれるだろうって」
「脅しても逃げてくれねぇし、でもまさか本当に連れ去るわけにもいかねぇし……正直、剣士の兄さんが割って入ってきてくれたおかげで有耶無耶にできて助かったっす……」
「メチャメチャ痛かったっすけど」とあの時蹴飛ばされた顎下を擦りながら狐目の男は苦笑した。
どうやら、彼らは本気で非暴力の持久戦でノエルを諦めさせるつもりだったらしい。
「うわぁ……善人だけど滅茶苦茶ダサい」
思わずセラも呆れを漏らす。
「……まぁ、ダサくてもゴロツキよりは善人の方がずっと好ましいけど」
ノエルが小さく嘆息すると、男たちは改めてとばかりにおずおずと頭を下げた。
「――しっかし……神を殺した異世界の騎士に創造神の元女神様だってよ。世界っつーのは広いもんだな、相棒?」
勇者は聖剣の鍔をコンと小突いて悪戯っぽく問いかけた。
「いやな……最初俺は、ヒューガ――お前さんのこと、新しく生まれた勇者だと思ってたワケよ」
そう語りかけてくる勇者の眼差しは真剣そのものだった。
「新しく生まれた……というのは?」
「その元女神様の気配を感じた時、俺はてっきりその見たこともねぇ変わった形の剣に宿ってる魂なのかと思った。――ちょうど、コイツみたいにな」
そう言って、また勇者はコンコンと鍔を叩く。
「あの魔王野郎を倒すまでが俺の――当代勇者の仕事で、そっから先はこいつとは違う全然別の聖剣に見出された新生勇者様の物語。俺がこんな身になっちまったのは、俺の物語なんざとっくに終わっちまってたから……そういうもんだと割り切って、くたばる前に後進に勇者の心得のひとつでも偉っそうに授けてやろうかと腹括ってたつもりなんだけどな」
ボロボロの勇者の指がヒューガ指す。
「だが、話を聞く限り、お前さんは神に言いつけられた勇者の役目を拒んだ結果ここにいる。そもそも、勇者っつーのは聖剣に認められたからなるってもんでもねーみてぇだ」
「……ええ」
そして、勇者の目はヒューガの隣の金色の髪の少女へと向けられた。
「なあ、元女神さんよ? 知ってたら誤魔化さずに教えてくれ。――勇者って、なんだ?」