「あなたはやりすぎた」と危険視され女神に排除された異能の騎士、取って付けた詫び転生の勧誘を拒否して女神を斬り殺してしまう   作:ますかるぽーね

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バカにつける薬はない

「うへぇ……その口ぶりじゃ、どこの世界の勇者様も苦労してなさんのな」

 

 人ごとのような軽さでわざとらしく肩を竦める勇者。

 そこには多分に同情と共感が込められているように見える。

 

 「《魔王》を倒すという偉業を成し遂げた勇者に望んだとおりの平穏が訪れるケースは、残念ながらとても少ない。旅で出会った仲間の女の子と結婚して、その子の故郷の田舎の村で静かに暮らす……そういった小さな幸せは、まぁまず叶わないわけさ」

 

「……ああ、元女神様の言うとおりだ。ま、良くも悪くも目立ちすぎたんだわな。――嬢ちゃん、俺が故郷の国を捨てて、なんでわざわざ帝国で暮らしてたか知ってっか?」

 

「理由までは知らないけど、革命の旗印に担がれるのを固辞して、爵位をやるって打診があったといわれる帝国に逃げた裏切り者……とだけ。まぁ、師匠――私の育て親は『そりゃ勇者だって愛想尽かすだろ……』って逆に呆れてたけど」

 

「なんだ、嬢ちゃんも共和国(あっち)育ちかよ。その親御さんとは美味い酒が飲めそうだぜ」

 

「ふむ……」

 

 ――……?

 

 医師エミールが、勇者と同郷というノエルを何やら思慮深く見つめているような気がした。

 

「――まっ、つまりはそういうことなんだよ、ヒューガ。勇者は魔王が死んでも勇者のまま、カリスマという名の業を死ぬまで背負わされる。権力者は勇者の威光を恐れ、口では媚びへつらいながら目の上にできたたんこぶみたいにとっても疎ましく思う。そして庶民は庶民で、勇者を『なんでもできる正義の執行者』と思い込んで、ことあるごとに正義のシンボルとして担ぎ上げようとしてくる。腐敗した王権打倒の旗印なんてのは、その典型例だ。……とてもじゃないけど、真面目に取りあってたら心の安まる暇なんてないんだよ」

 

「ったく、困んだよな……勝手に期待されて、てめぇの思い通りに動かなけりゃ裏切り者扱いなんてのはよぉ。俺はてめぇらのお困りごと相談所じゃねぇんだっつの! 役場行け、役場!」

 

 よほど参っているのか、勇者はまた思いきり砂を蹴って悪態をついた。

 その様子を見て、ヒューガもようやく〝生存戦略〟の意味が見えてきた。

 勇者は何も物理的に生命を脅かされるのではない。様々な利害の渦中に応否なく引きずり込まれ、板挟みの内に精神を磨り減らすのだ。

 

「すると、道化を演じるというのは……」

 

「『私は魔王討伐で完全に気力を使い果たしました。権力を脅かす野心もなければ、庶民の相談事の相手なんてめんどくさいことやってられません。命懸けで働かされた分、これからは一生ぐーたら遊んで暮らすつもりなんで、どうか警戒も期待もしないで一生ほっといてください』……そういう必死の抵抗(アピール)ってことさ」

 

「ま、俺の場合はどっかのお節介ババアの入れ知恵だけどな。『長生きしたけりゃバカになれ』だとよ? ――ったく、当たってやがったから余計腹立つぜ……」

 

「その人はかなりの知恵者だね。でもその言い方じゃ、せっかくの忠告を無視してコッソリ頑張っちゃった結果が今の君ってことになるのかな?」

 

「ご明察。バカにバカを上手に演じ切るのは最初っから無理があったっつーだけの話だよ」

 

 カカカと開き直りにも見える高笑いが響く。

 

「やめときゃいいのに、変装して偽名で探偵稼業なんてカッコつけたことするから……」

 

「そう言うなって、エミール。依頼人は悩みが解決できて嬉しい、俺は好奇心が満たせて嬉しい。これぞ、まさに一挙両得ってヤツじゃねーか」

 

 そこに反省の色は一切ない。もうそういう性分なのだろう。

 

「はぁ……これは処置なしね」

 

「ときに薬師のお嬢さん、特大のおバカにつける薬は扱ってたりしないかい? エルフ族に伝わる伝説の秘薬とか」

 

「そんなものあったら、とっくに学会で話題になってるでしょう……。それに、今この人に必要なのはバカの特効薬じゃなくて、解毒と清潔な服とベッドに栄養補給。話の途中で悪いけど、そろそろこの重篤患者をうちの診療所に運び込みたいんだけど? このままほったらかしにして、勇者の死に目にお立ち会いなんて冗談じゃないんだから」

 

 有無を言わさない医者の顔に、異を唱える者はいない。

 

「……君の言うとおり、バカを言ってる場合じゃなさそうだ」

 

 エミールは眼鏡を抑えて苦笑した。

 

「医者2人してバカバカ言いやがって……。ところで、さっきから村っつーけどよ、お前らいったいどこまで逃げてきたんだ? ババアの隠れ家に向かったんじゃねーのかよ?」

 

「いや、それが……ブロセリアンド方面は関所の検問が厳しくて、旦那隠して通るのはさすがにキツそうだったんで、とりあえず人気の少ない方に逃げなきゃってコトで、逆方向にはなるんすけど、いっそプリュイ村の方に――」

 

「ちょっと待て、今なんつった?」

 

「えっと、プリュイ村っす」

 

「プリュイだァ!? お、お前ら……まさか、プリュイ村の人たち相手にゴロツキムーブキメやがったのかよ!?」

 

 元々血色のすこぶる悪かった勇者ウィルの顔が、たちまちさらに青くなっていった。

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