「あなたはやりすぎた」と危険視され女神に排除された異能の騎士、取って付けた詫び転生の勧誘を拒否して女神を斬り殺してしまう   作:ますかるぽーね

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勇者は頭が上がらない

「突然ノエル君に呼ばれて何事かと思えば、こりゃ驚いた……本当にあの時のウィル坊やだというのか」

 

「ウィル……あんたん中じゃ、死にかけたらこの村に来るって決まり事でもあるのかい?」

 

 村の入り口へとやってきた村長とロジーヌは、驚きと呆れの表情で勇者を出迎えた。

 

「坊やはやめてくれ……って言いてぇとこだが、返す言葉もねぇ。と、とにかく、いろいろ迷惑かけちまってすまねぇ! マルセル村長! ロジーヌ姉さん!」

 

 勇者ウィルは開口一番平身低頭、深々と頭を下げて謝罪を述べた。

 どうやら、彼は村の大人たちと旧知の間柄のようだ。

 

「あたしだってもう姉さんって歳じゃあないよ。しかし、あんた随分とやつれたねぇ……」

 

「そういう姉さんは、むしろあん時よりさらにたくましくなってねぇか……?」

 

「たくましくない女はこの村じゃやってけないのさ。そんなことより、あんた……今度はなんか変な毒にやられたんだって? そんな格好で診療所のベッドに寝かせるわけにもいかないし、うちの風呂貸したげるから診てもらう前に急いで綺麗にしていきな!」

 

「では、わしは酒場に頼んで精のつく物でも用意してもらうとしようかね。ヒューガ君、すまないが後で診療所に料理を運んでくれるかい?」

 

「承知しました」

 

 ヒューガは二つ返事で答えた。

 

「みんな……本当に恩に着るぜ」

 

「あんたも知ってのとおり、困ったときはお互い様ってのがこの村の信条だからね。ほら、そうと決まればさっさとついてきな! ついでに詳しい事情も〝しーっかり〟聞かせてもらうからね」

 

 ロジーヌは胸をドンと叩くと、有無を言わさず勇者を連行していった。

 

(あはは、あのおばさんにかかったら勇者も形無しだねぇ)

 

 再びバングルに戻ったセラが、太陽石の中から苦笑する。

 

(どうやら、ウィル殿……ウィルさんはこの村で恩義を受けたことがあるようだな)

 

(みたいだね。……ってゆーか、いい加減その呼び方慣れなよ)

 

(……善処はする)

 

 「呼び捨て……はお前さんみたいな堅物騎士にはまぁ無理よなぁ。よし! とりあえず気さくに『ウィルさん』でどうよ?」と提案され、ヒューガはそれを承諾した。

 正直、人々を守ることを生業とする騎士として憧憬の対象に他ならない真の英雄に対して、そんな馴れ馴れしい呼び方畏れ多いと恐縮してしまうのだが、当の本人がそういう距離感を求めているというのならば応えないわけにはいかなかった。

 

 

    *

 

 

「ふぃ~……生き返ったぜぇ」

 

 勇者ウィルは患者衣姿で診療所の療養ベッドに横たわり、風呂上がりの火照った顔で心底満足そうにオヤジ臭い台詞を吐いた。

 依然としてひどくやつれていはいるが、清潔になったその顔立ちは映える黒髪と相まって勇者と呼ばれるに相応しい精悍さを感じさせる。

 

「しっかし驚いたぜ、まさか嬢ちゃんがマチルダ先生の医院を引き継いでたなんてな……」

 

「驚いたのはこっちの方。まさか、あの勇者ウィルが若いころ遺跡のトラップで呪いにかかってマチルダ先生の治療で一命を取り留めていたなんて……」

 

 勇者ウィルにとって、この村の人々、そしてシスター・マチルダは命の恩人に他ならない。頭が上がらないのも無理はなかった。

 

「遺跡盗掘なんて罰当たりなことするからですよ……」

 

 ウィルと共に、村への経緯の説明と彼の治療のために同行してきたエミールが皮肉交じりに一蹴した。

 勇者の仲間の中では一番ゴロツキらしくないインテリな雰囲気で村人の警戒心を煽らないこと、そして何より仲間に賊として振る舞うことを進言した張本人として謝罪を名乗り出た形だ。

 

 ちなみに、他の人相だけは立派にゴロツキが板についてきた仲間たちは、村人に無用な混乱を与えないように、ひとまず村の理解が得られるまでそのまま廃教会でノエルの幼竜シエルとともに〝お留守番〟を任されることとなった。

 皆して「い、いってらっしゃい……できるだけ早く戻ってきてくださいね?」と顔を引きつらせていたのがとても印象的だった。

 

「トレジャーハントって言え! 学のねぇ田舎モンが度胸ひとつで一発当てるっていやぁ、昔はそういうのが鉄板だったんだよ……」

 

「まぁ、呪いで死にかけても懲りずにあちこちの遺跡に挑んで聖剣なんて手にしちゃったんだから、その命知らずにもちゃんと感謝しなければいけない……のかしらね?」

 

「おう、しとけしとけ! 感謝なんてして減るもんじゃねぇからな!」

 

 そう言って、勇者はまたカカカと大げさに笑ってみせる。

 

「精神的に減るからこの人にそんなものいらないさ、どうせ好奇心に任せて好きでやってただけなんだから。それより、食事ができる前に診察を済ませてしまおう。正直、外科専門のオレでは正体不明の毒薬なんてものは手に余る。ノエル君、薬師としての君の知見を借りたい」

 

「現役のお医者様に言われると荷が重たいけど、できる限りのことはするつもり。……ええと、意識を失ってから今朝目覚めるまでだいぶかかったって話だけど、その前後で特に症状の変化は見られないのよね?」

 

「そうだね、村から拝借した食料を煮てすり潰したものを湯に混ぜてどうにか飲ませていたような状態だから、栄養失調で身体はこのとおり見るも無惨な状態だけど」

 

 「無惨で悪かったな」と言いたげな不服そうな視線がエミールへと向けられるが、慣れているのか彼は無視して話を進める。

 

「とても変な言い方になるけど、不気味なほどに非常に悪い状態で安定している……というのがオレの率直な所見だ」

 

「悪い状態で安定? なんだか、まるで生かさず殺さず意図的に症状の段階をコントロールされているみたい。……たしかに不気味ね」

 

 ――段階をコントロール……? まさか――。

 

「ウィルさん、初めて自分の身体に異変を覚えたとき、どんな自覚症状があったか教えていただけませんか?」

 

 薬効についてなど門外であるはずの赤毛の剣士へと、2人の医療従事者、そして勇者ウィルの視線が一斉に集まる。

 

(ヒューガ、何か気づいたの?)

 

(……ああ)

 

 ――思い過ごしであればいいのだがな。

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