「あなたはやりすぎた」と危険視され女神に排除された異能の騎士、取って付けた詫び転生の勧誘を拒否して女神を斬り殺してしまう   作:ますかるぽーね

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R.I.P.

「自覚症状ねぇ……まぁ、最初はダルいっつーか熱っぽいっつーか、ただの軽い風邪みてぇなもんだと思ったんだよ。こちとら昔っから病気なんざ無縁の健康優良男児で通ってたからな、さすがに歳感じっちまって、ちっとばかしショックだったけどよ」

 

 ウィルはベッドに仰向けになったまま、無精髭を撫でてしみじみと言う。

 

「そん時はポーション飲んで寝てりゃすぐ治ったから気にも留めなかったんだが……」

 

「しばらくして、今度は別の変化が現れたんですね?」

 

「ああ、仕事でうっかり切った指の傷がジクジク膿んでいつまで経っても塞がらねぇし、口ん中のでき物が日に日に増えて飯の味までよくわからなくなってきやがった」

 

「……失礼ですが、全身の発疹や頻繁な下痢のような症状は見られませんでしたか? それも少しずつ、時間とともに徐々に悪化していくような感じで」

 

「見てきたみたいにズバズバ言い当てるじゃねぇか、ヒューガ……お前さんの言うとおりだよ。おまけに10も20も歳食ったみてぇに1日少し動いただけで身体が重くなって敵わねぇ……。だっつーのに、医者に行っても肝心の原因がわからねぇまま不摂生だの小言言われるだけだしよ……正直、勘のいいコイツが一服盛られた可能性に気づいてなけりゃ、俺はとっくにあの世行きだっただろうさ」

 

 そう言って、ウィルはベッド横の壁に立てかけられた聖剣 《クラウ・ソラス》の柄に拳を当てた。

 

 ――皮膚の修復能力低下に消化器系の機能不全、そして著しい体力の衰え……当たり、か。

 

「……R.I.P.」

 

 ヒューガは口元に手をやり、そう呟いた。

 

(ヒュ、ヒューガっ!?)

 

「オイオイオイ、お前さん見かけによらず意外とドライだな!? もう手の施しようがねぇから、せめて安らかに眠れってか?」

 

 まさか、この堅物騎士から面と向かって弔意を向けられるとは思わなかったのか、ウィルは目を丸くして驚く。

 冷静そうな医者2人も、さすがに唖然とした顔でヒューガを見つめていた。

 

「――ああ、い、いえ! そういう意味ではなく、それが私に心当たりのある毒薬の名前なんです。……正直、あまりにも症状が似すぎている」

 

 ヒューガは慌てて手を振り弁明した。

 

「心当たりというと、君の住んでいた世界で出回っていたということかい?」

 

「……はい。正式にはReactive Immunosuppressive Peptide(リアクティブ・イミュノサプレッシブ・ペプチド)――反応性免疫抑制薬、主に長期投与によって徐々に身体機能の低下を引き起こし病死を偽装する目的で開発された暗殺用の遅効性毒薬です」

 

 暗殺用――その言葉に場が静まり返る。

 

「そして最大の特徴は、投与量によって症状の段階を一定期間維持することができる点にあります」

 

 ちょうど、死にかけで安定している勇者ウィルのように。

 

「頭文字取ってR.I.P.……殺そうと思えばいつでも殺せるから、あらかじめご冥福お祈りしときますってか? 絶っっっ対性格悪ぃな、その薬作ったヤツ」

 

「そんなものを作る連中に性格のいい人がいたら、一度お目にかかってみたいものですけどね」

 

「違いねぇ」

 

「しかし、意図的に免疫を抑制することで身体を弱らせる薬か……たしかに、ウィルさんの症状に照らせば納得できる点は多い」

 

「ペプチドが免疫を抑制……まさか、受容体に結合して免疫細胞のシグナル伝達を狂わせている……? だとすれば、その結合を阻害する拮抗薬(ブロッカー)さえ調合できれば――」

 

 ノエルの瞳に蒼い炎が宿っているように見えた。

 

「助手1号、あなたの推測が正しければ、なんとか解毒薬が作れるかもしれない」

 

「本当か!?」

 

「ええ、先に工房に行ってるから、あなたも食事を運び終わったらすぐ来てちょうだい。手伝ってほしいことがあるの」

 

「しょ、承知した!」

 

 ノエルは善は急げとばかりに、助手の返事を聞くことなく慌ただしく裏の工房に消えていった。

 

「しかし、ヒューガ……お前さん、よくそんなおっそろしい毒薬のことなんて知ってたな?」

 

「一時期、貴族や商家の間で罪に問われず邪魔者を消せる《魔法の薬》として密かに出回って、帝国領内でも大きな問題になったんです。最終的に騎士団を上げて密売集団の掃討作戦が行なわれたので、少なくとも民間で出回ることはほぼなくなりましたが……」

 

「あー……詳しく聞かねぇでも、どういう使われ方したか想像ついちまったわ。上手くやりゃ、お家乗っ取りだってできちまいそうだわな……」

 

「おー怖っ」と、ウィルはわざとらしく身震いしてみせた。

 

「お察しの通りです……。では、私はそろそろ冷めないうちに料理を運んできます。空腹で食事が恋しいでしょうけれど、くれぐれも胃に負担を掛けないようによく噛んでゆっくりと食べてください」

 

 ヒューガはそう言うと、「オレがついているから安心してくれ」と言うエミールに会釈して足早に診療所を後にした。

 

(――で、ヒューガ……実際のところは?)

 

(……組織にいた頃、標的に用いたこともある)

 

(……ま、そんなことだろうと思ったよ。じゃあ、解毒薬についても?)

 

 責めるでもなく、かといって擁護するでもない。その元女神の視点故のフラットな言葉が、今はただありがたかった。

 

(……ああ、毒薬はあくまで殺しの道具のひとつとして扱っていただけだから、ノエルのように専門的な作用機序までは分からないが、少なくとも解毒薬の主成分は把握している)

 

 誤って標的以外の人物が口にしてしまった場合や、敵に捕まり逆に無理矢理飲まされるような最悪のケースを想定して、毒を用いる場合は解毒薬も併せて携帯するのが常道だ。

 

(よーっし! それじゃあ助手としてしっかりノエルの役に立ってあげなくっちゃね♪)

 

(無論、そのつもりだ。ノエルではないが、私もこの村に英雄の墓を掘らされるのは御免だからな)

 

 ――しかし、私の世界で用いられていた毒と同様の薬品がこの世界にも存在するとは……。

 

 果たして偶然なのだろうか――今考えても仕方のないこととはいえ、やはり不気味なものを感じざるを得なかった。

 

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