「あなたはやりすぎた」と危険視され女神に排除された異能の騎士、取って付けた詫び転生の勧誘を拒否して女神を斬り殺してしまう 作:ますかるぽーね
「う、オエェ……ッ! にっっっが!?」
薬包紙から粉末を口に流し込み、続いてヒューガから手渡されたぬるま湯を一気に煽ったウィルは、目尻に涙を浮かべて嗚咽を漏らした。
「まさか竜の牙の秘薬なんつーモン、マジに飲まされる日が来るなんて思わなかったぜ」
「良薬ったって限度あんだろ……どっちが毒だかわかんねぇよ」と愚痴をこぼす勇者の口元は、言葉とは裏腹に感謝を表すように穏やかに緩んでいた。
「こういうのは舌に乗せないように喉に直接流し込むのがコツなの。余裕を見てひと月分は作って小分けしてあるけど、くれぐれも飲み込む前に咳き込んだりして無駄にしないように上手にやってちょうだいね」
「うっへぇ……こいつと1ヶ月もお付き合いしなきゃならねぇのかよ」
「毎晩、食後にぬるま湯と一緒に必ず飲むこと。しばらくは服用後だいたい1時間くらいで強い発熱の症状が出てきてつらいでしょうけど、そのうち免疫機能の改善とともに身体に耐性がついて少しずつ楽になっていくはずだから、申し訳ないけどそれまでは辛抱してちょうだい」
「申し訳ないなんてとんでもねぇ。お前さんたちは俺の命の恩人だ……感謝してるぜノエル先生、ヒューガ。それと、そっちの元女神様もな」
ウィルはそう言って2人に頭を下げると、最後にヒューガの左腕のバングルに向かってニッと笑ってみせた。
(おっさん、いい顔するじゃん。ひとまず、これで解毒の方はどうにかなりそうだね)
(ああ……本当によかった)
尊敬すべき英雄の墓をこの手で掘るような事態にならず、ヒューガは心の底から安堵した。
「オレからも礼を言わせてもらいたい。ウィルさんを助けてくれて本当にありがとう」
静かに投薬を見守っていたエミールが眼鏡を外し、深々と頭を下げてきた。
「どういたしまして。でも、感謝ならシエルにも忘れないでちょうだいね。あの子の歯がなかったら、最悪神経麻痺の後遺症覚悟で一か八かの賭けになってたんだから」
本職の医師に頭を下げられて恐縮したのか一瞬目を丸くしたノエルは、ヒューガが砕いて半分になった牙の残りを見せて悪戯っぽく少し意地の悪い笑みを浮かべた。
「マジかよ……。そういや、ずっと気になってたんだが……リンドヴルムと契約してるっつーことは、やっぱりお前さんも召喚術士の一族の末裔だったりするのか?」
ウィルは再びベッドに仰向けになると、ノエルの方を向いて尋ねた。
「お前さんも」というのは、おそらく勇者の仲間の1人である、エルミナという同じくリンドヴルムを駆っていたという女性を踏まえてのことなのだろう。
「一族の末裔……? ぜんぜん違うわよ?」
問われたノエルはピンと来ないらしく、「一族って何のこと?」と言わんばかりに小首を傾げた。
「あー……マジ?」
(えっ、違うの!?)
ウィルのみならず、セラまでも驚きを隠せない様子だ。
「ウソなんかついてもしかたないでしょう? というか、わたし小さいときに山で倒れてるのを拾われてハーフドワーフの鍛冶職人に育てられたから、自分がどこの生まれかなんてぜんぜん知らないの」
「逆にこっちが訊きたいくらい」と、衝撃のカミングアウトとは裏腹にいつもどおりの小さなため息を漏らす我らが雇用主。
どうやら、本人はさほど自身の出自ついて気にはしてないようだ。
(ハーフドワーフというのは……?)
(ドワーフと人間の混血のこと。ドワーフほど頑固だったり気まぐれだったりしないし仕事熱心で真面目な人が多いから、人間社会にも上手く馴染んでインフラを支える技術者としての地位を確立してる場合が多いかなぁ)
(なるほど……)
「では、先ほどチラッと言っていた師匠というのが……」
「わたしの育て親のハーフドワーフ。なんだか父さんって呼ばれるのが照れくさいみたいで、自分のことは師匠と呼べって譲らないのよ……」
「いかにも職人らしいオッサンだな、ますます一緒に酒が飲みたくなったぜ……って、そうじゃなくて! ノ、ノエル……お前さん、召喚術士の血筋じゃないってんなら、いったいどうやってあの
ウィルは思わず起き上がり、食いかかる勢いで問いかけた。
(そ、そうなのか……?)
(おっさんの言うとおりだよ。それだけ、ドラゴンと契約できる存在はとっても希少なはずなんだ)
「どうやってって……ええと、卵から孵したら懐いたとしか」
「か、孵しただぁ!?」
ウィルの声がいよいよ裏返った。
(竜というのは、鳥のように刷り込みのような習性があるのか……?)
(いやぁ聞いたことないけど……)
元女神たるセラまでも大いに困惑気味だ。
「そ、その卵というのは、いったいどこで手に入れたのだ?」
「師匠がルミナント……ええと、共和国の首都ね――そこに依頼品を納品しに行った帰りに行商の女の人に声をかけられて、世にも珍しいドラゴンの卵があるって……」
「いや、絶っっ対怪しいだろ、それ!」
「わたしの師匠、珍しい物に目がないの……。普段はそれでもちゃんと自制できる人なんだけど、その日はたまたまお仕事の代金受け取ったばかりで……」
「懐厚く、心でっかくで、気前よくお買い上げしちまった……と」
(うわぁ、ドワーフの血の悪いトコ出てる……)
「弟子ながら恥ずかしいけど、お察しのとおり。……で、買ったらサービスとか言って手引書とかいう分厚い本も一緒に押しつけられたみたいで」
「手引書というのは?」
「『サルでもわかるドラゴンの孵し方&育て方』ですって。……帰宅早々、満面の笑顔でこんな意味分からないお土産渡されたわたしの気持ちわかる?」
さすがに、その場の全員が彼女に同情を禁じ得なかった。