「あなたはやりすぎた」と危険視され女神に排除された異能の騎士、取って付けた詫び転生の勧誘を拒否して女神を斬り殺してしまう 作:ますかるぽーね
「オイオイオイ……まさかとは思うが、そのクッソ怪しい入門書片手に独学で卵を孵化させて、あそこまで育てちまったとか言わねーだろうな???」
「自分でも滅茶苦茶言ってる自覚はあるけど、本当にそのとおりなんだからしかたないでしょう……」
(うっそーん……)
悠久の時を生きる元女神までも、情けなく感嘆の声を漏らした。
それほどまでに普通ではあり得ないことなのだろう。
「ははは……ノエル、どうやら君も
「しかも両足ズッポリな……。しかし、よくそんなトンデモ本、真面目に読んで実践する気になったな?」
「『サルでもわかる』なんて、まるでできなかったら『あなたはサル以下』ってバカにされてるみたいでとっても腹立つじゃない? 幸い、ふざけたタイトルのわりに中身は信じられないくらい真面目で具体的だったし、何よりエルフ文字で書かれた本なんて初めて見たからちょっと興奮しちゃって」
「エ、エルフ文字だぁ!? 悪ふざけにしちゃあ随分と手が込んでやがるな……」
「実際ああしてすくすく育ってるんだから、悪ふざけじゃなかったということなんでしょう……」
エミールがまたズレかかった眼鏡を直しながら、驚き半分呆れ半分の声で言う。
(エル――)
(エルフの血族にしか解読できないようにプロテクトがかけられた魔法言語だよ。エルフっていうのは秘密主義の種族だから、他の種族に知られたくない知識なんかはそうやって秘匿する習わしがあるのさ)
事あるごとに質問しすぎたせいか、ついに先回りで解説させてしまった。
(魔法言語……では、つまりその書物を書いた人物というのは――)
(十中八九、優れた魔力を持つエルフだろうね)
「ひと月くらいで本当に卵が孵って小さな翼を持ったあの子が生まれてきたときは、さすがのわたしも師匠と一緒に大はしゃぎしちゃったわ……」
ノエルは昔を懐かしむように天井を見上げて頬を緩ませた。
「――まぁ、わたしとシエルの話はそんなところね。師匠もそれっきりその行商とは会えてないって言うし、もし今も行方不明っていう《竜槍姫》の手掛かりが知りたかったのなら、期待に沿えなくてごめんなさい」
「うおっ……なんだよ、気づいちまってたか」
ウィルはばつの悪そうな顔で頭を掻いた。
「ウィルさん、その《竜槍姫》というのは……?」
たしか、エルミナというリンドヴルムを駆る勇者の仲間という話だったが。
「この人の初恋相手だよ」
「ばっ――エミール、てめぇ! エルはそんなじゃ――」
「散々初恋拗らせて他の女性とお付き合いする気が起きないとか言って、名だたる名門家との縁談躱しまくってきた口が今さら何言ってるんですか……」
「ぐ、ぐぬ……」
涼しい顔の反論に、勇者は唇を噛んで押し黙った。
「ウィルさんが聖剣に見出されて魔王討伐の旅を始めてから最初に仲間になった人で、ドラゴンの召喚術士にして槍術の達人っていう、とんでもなく強くて美しい女性だよ」
「とんでもねぇ大飯喰らいで、底なしのザルで、陸に降りた途端信じられねぇほどポンコツになるオマケ付きだけどな……」
(なかなか愉快そうな人だね)
(とてもギャップの激しい人物のようだな……)
ヒューガの中にあった、知的で落ち着き払った賢者のような種族というエルフ族のイメージが揺らぎそうだ。
「その方は、今は行方知れずなのですか?」
「……ああ、ずーっと前にな。まぁいい、薬が効いてくるまで中年のオヤジらしく昔話でも垂れてやっか」
苦笑とともに語り始めるウィルの顔は、どこか寂しそうだった。
《竜槍姫》エルミナ。
『討魔の四英雄』と呼ばれる、勇者ウィルを筆頭に魔王討伐の中核を為した人物の1人として数えられる若きエルフの麗人。
リンドヴルムに乗って颯爽と戦場に駆けつけ、流麗な槍捌きで魔王軍の敵陣に飛び込み次々と滅多刺しにしていく姿から、いつしか兵士たちの間で《竜槍姫》の異名で呼ばれるようになっていったのだという。
そんな美しくも強い女性と勇者の出会いなど、さぞ劇的で絵になるものだったのだろうと想像するヒューガだったが、現実はそうでもなかった。
「む、無銭飲食ですか?」
「あいつ、有り金スられて文無しなの気づかないまま酒場でゴキゲンに一人宴会とか始めやがってな……ありゃメシも酒も5人前くらいあったんじゃねぇか?」
「…………」
ノエルが居たたまれない顔で目蓋を伏せた。
「俺が晩飯食おうと酒場に来たら、食い逃げがどうのってえらい騒ぎになってたんだよ。エルのやつ、店のおやっさんが呼んだ町の自警団連中にクッソ詰められて涙目になってやがった」
ノエルはついに顔を逸らした。まるで同じ種族として見てほしくないとでも言いたげだ。
「では、ウィルさんが仲裁に入って彼女を助けたのが出会いだったんですね?」
さすがはのちに勇者と呼ばれる男、日頃から人助けにも余念がない。
ヒューガはそんな純粋な尊敬の視線をウィルに向けた。
「お、おう……そ、そうだともよ! なんつったって俺は聖剣に認められた勇者だからな! 困ってる女のメシ代のひとつやふたつ肩代わりしてやるくらい――」
(えっ、なになに??? 本当はそのエルフのお姉さんがスられたお金、その日おっさんがとっちめた小悪党から巻き上げた中に入ってて……? 騒ぎの流れで彼女のだってわかったけど、知らないフリして全部自分のお金でお勘定肩代わりしてあげたことにして? しれっと恩着せがましく借金背負わせて美人で便利な召使いとして旅に連れてくことにした???)
「ウィル……さん?」
ヒューガは聖剣に視線を向けながら、とても落ち着いた声で尋ねた。
「バ、バカッ! 余計なこと言うんじゃねぇ、おしゃべり骨董! そっちの元女神様も当ったり前みてぇに通訳すんなっ! あ、あとヒューガ、その真顔怖ぇからやめろ!!」
駆けだし勇者の武勇伝から一転、己のセコい悪行を相棒の聖剣に暴露され、ウィルは激しく動揺した。
「……助手1号、神さまはなんて?」
「オレも気になるね。ウィルさんがあんなに慌てるなんて、オレの知らない〝真実〟でもあるのかな?」
ヒューガがセラを通じて聖剣 《クラウ・ソラス》から得た正しい〝歴史〟を伝えると、2人の医者はゴミを見るような目で病床の勇者を見下し――
「……最低」
「最低ですね」
口を揃えて軽蔑の言葉を浴びせた。