「あなたはやりすぎた」と危険視され女神に排除された異能の騎士、取って付けた詫び転生の勧誘を拒否して女神を斬り殺してしまう   作:ますかるぽーね

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勇者の想い人

「騒ぎの仲裁に入ったら彼女の美しさにすっかり一目惚れしちゃって、どうにか気を引くために悪知恵はたらかせて一芝居打った……ねぇ?」

 

 ふたたび聖剣⇒セラ⇒ヒューガの工程を経て曝け出された情けない真実に、ノエルは幼い悪ガキでも窘めるような生暖かい視線で勇者を見やる。

 

「好きになった女の子にわざと意地悪するとか、さては思春期が遅れてやってきたタイプですね?」

 

「るせぇ!! べ、べべべつにそんなんじゃねーしっ! そもそも、あの胃袋ドラゴン女に声かけようなんて最初に言い出したのは、むしろコイツの方なんだからなッ!」

 

 ウィルは子供じみた態度でやたら早口に言うと、乱暴に聖剣の柄を掴んでこれ見よがしに指差した。

 

「そうなのですか?」

 

「コイツがエルの持ってる特殊な魔力を感じ取って、『仲間になってくれたら心強そうです』とか言い出したんだよ。元々旅してたのも、俺らと一緒に戦ってくれるような強ぇ仲間探しが目当てだったからな。――ま、最初に声かけた相手がまさかドラゴン使いの召喚術士で、おまけに天下無敵の槍使いとかいう規格外たぁ思いもしなかったけどよ……」

 

 「ったく、すっかり華奢な見てくれに騙されちまったぜ……」と大仰にため息をつく勇者ウィル。

 その調子では、召使いなどと言って彼女をこき使ったりなど到底できるはずもなかったのだろう。

 

「て、天下無敵ですか!?」

 

「ああ。普段はポンコツだが、槍持たせたら小細工抜きのガチり合いであいつより強いヤツを俺は知らねぇ。……いや、お前さんとなら案外いい勝負かもしれねぇな、ヒューガ」

 

 ウィルは冗談とも本気ともわからない顔で言ってカカカと笑う。

 

「……買いかぶりすぎです。おそらく私が勝てる相手ではないかと」

 

「だが、負ける気もしねぇんだろ?」

 

 ――!

 

「それは……」

 

「べつに気ぃ遣う必要はねぇって。それがヒューガ――お前さんの《異能》ってヤツなんだろ? たぶん、一生決着つかないんじゃねーか?」

 

(実際のトコ、どうなのさ?)

 

(おそらく、ウィルさんの見立てが正しい。私は元々戦場で大立ち回りをして覇を競ったり、決闘で相手を討ち取るような場面を想定した調()()は受けていない。むしろ、いかなる状況下においても深手を負うことなくその場をやり過ごし、与えられた任務を完遂して帰還するという目的に最適化されている)

 

(最初から勝ってやろうなんて思わないで上手くやり過ごすことだけに専念すれば、どんな達人相手でもやられちゃったりはしないってこと?)

 

(ああ、それが神の恩寵を受けた相手などでなければ、だが)

 

(ヒューガ……)

 

 ヒューガの武勲を支えてきた生存特化の異能、《超感覚》。

 しかし、あの黒衣の魔道士エリオットの持つ《奇跡》だけは、その力を以てしても感知することが叶わなかった。

 

「しかし、そのような武術の達人が行方知れずになるとは、いったい何があったのですか?」

 

「わかんねぇ……」

 

「え?」

 

「マジでわかんねぇんだ。……あークソッ! ったく、なんで何も言わずに消えちまいやがったんだよ、あのアホは!!」

 

 ウィルはガシガシと頭を掻き毟ると、諦観するように肩を落として再び落ち着いた様子で話し始めた。

 

 ――旅の果てに、エルミナを含む3人の信頼できるいずれも強力な仲間を集めた勇者ウィル。

 魔王軍と人類の戦い、のちに『人魔大戦』と呼ばれる戦争は、勇者チームの必死の呼びかけによって人類存亡の危機から転機を迎える。

 それまで他国に主導権を奪われることを嫌い、それぞれが独自に魔王軍の侵攻へ抵抗してきた各国は、ここにきてついに手を取り合い一丸となって脅威に対抗することを決断した。

 すぐさま選りすぐりの精兵たちからなる連合軍が結成され、エルミナの駆るリンドヴルムで世界各地の戦場へ駆けつける勇者チームと連合軍部隊の大規模反攻作戦によって奪われた領土を次々と奪還することに成功する。

 

 最後に残るはただひとつ。闇の魔法で生み出された孤島にそびえ立ち、あらゆる属性の魔法を無力化する結界に覆われた難攻不落の魔王城攻略。

 そして、混沌の盟主たる魔王ゼナリオの討伐。

 

 そんな中、大陸中の叡智が結集した結果、不可能と言われた結界破りの秘策が編み出され、ついに魔王打倒の最終作戦が決行されることとなる。

 最終決戦を前に、魔王城攻略の突撃部隊であるウィルたち勇者チームの4人には、1日だけ束の間の休息が与えられた。

 決戦前夜、ウィルは胸に秘めてきた想いを伝えようと宿屋の彼女の部屋を訪ねる。

 しかし、そこに彼女の姿はなかった。

 

「あいつがどこかに行くのを見たヤツは誰もいなかった。俺も、他の仲間も、フロントにいた宿屋のオヤジも見てねぇって言うし、もしかしたら部屋の窓からブーラスカを召喚して直接飛び乗って行っちまったのかもしれねぇ」

 

「唯一、灯台守の爺さんが『バカでっかい鳥がものすごいスピードで西の空に飛んでいくのを見た』って言っていたくらいでね。大戦の後、オレたちがどれだけエルミナさんの行方を探っても、未だに手掛かりのひとつさえ掴めていないんだ」

 

「では、敵本拠地の攻略というのは……」

 

「あいつを欠いたまま3人で乗り込むことになった。ブーラスカもいねぇから、急遽用立てしてもらった皇帝家の船でギリギリまで接岸してもらって後は小舟で無理矢理な。……いろんなヤツ巻き込んで一度動き出しちまった状況っつーのは、急には止められねぇのよ」

 

「やはり、そうでしたか……」

 

「中には、あいつを土壇場で臆病風吹かして逃げ出した裏切り者呼ばわりするヤツもいるが、本当にあいつを知ってる連中でそんな風に言うヤツは1人もいねぇ。何か……何か、俺たちの知らねぇ、そうしなきゃなんねぇワケがあったに違いねぇんだ……!」

 

 ウィルはギリギリと拳を握り締めて、自分に言い聞かせるように目を伏せた。

 

「彼女の事情はともかく、最終決戦で不在だったにもかかわらず今も『討魔の四英雄』の1人として扱われてるっていうのが、《竜槍姫》という人物の正当な評価なんじゃないかしら? 少なくとも、わたしは同族贔屓抜きでそう思ってるつもりだけど」

 

「ありがとよ、ノエル。そう言ってもらえると、あいつもきっと喜ぶだろうよ。――ったく! 人の気も知らねぇで、どこで油売ってやがんのかねぇ……」

 

「こちとらエルフ(おまえ)と違って、長生きじゃねぇんだ。ほっとかれるとジジイになって勃つモンも勃たなくなっちまうだろうが」と最低な愚痴をこぼすと、ウィルは布団を掴んで仰向けになった。

 

「あーあー! こんな湿っぽい話はやめだ、やめ! ガラにもなく昔話なんかしちまったせいで頭痛くなってきたじゃねーか……」

 

「よかった、ちゃんと薬が効き始めた証拠ね。そこの瓶に湯冷ましを貯めてあるから、喉が渇いたら我慢せず飲みたいだけ飲むこと。わかった?」

 

「まるでお袋に世話焼かれるガキみたいな気分だぜ……ああ、既にあの幼竜(パピー)の母ちゃんだったか、失敬失敬!」

 

 ウィルはカカカと笑うと、ジトーッとしたノエルの視線を躱すように、わざとらしく子どもの不貞寝みたいな仕草で頭から布団をかぶった。

 

「悪ぃがちっと寝かせてもらうわ。すまんエミール、後は頼んだぜ」

 

「委細承知しましたよ。老体は無理せず安静にしててください」

 

 エミールが慣れた様子で軽口を返すと、「誰がジジイだ!」とだけ吠えてウィルは眠りに就いた。

 

(10年以上経っても想いが変わらないなんて、そのエルミナって子はおっさんにとってホントに大切な人なんだね)

 

(そうだな。それに、私にはわかる。冗談めかした言い方だったが、ウィルさんは間違いなく今もエルミナ殿がどこかで生きていると確信している)

 

(君と一緒だ。必ず、お姫様見つけ出そうね!)

 

(ああ、必ず……!)

 

 ヒューガは人知れず強く拳を握り締めた。

 

「さて、ウィルさんの容態がひとまず落ち着いたところ早速申し訳ないんだけど、どちらか1人、今度はオレの用事に付き合ってほしい」

 

「用事ですか?」

 

「事情があったとはいえ、村にとんでもない迷惑をかけてしまっただろう? 言い出しっぺのオレが村の人たちに謝罪行脚して、教会に残ってるみんなを受け入れてもらえるようにお願いするのが、まぁ筋ってヤツだと思ってね」

 

(軽そうな顔して意外と律儀なおにーさんだよね)

 

(顔は関係ないだろう……)

 

「なら、ここに来て長い私の方が適任かしら。助手1号、悪いけどこの品のない中年患者の看病をお願いするわね」

 

 ――品のない中年……。

 

「あ、ああ! 任せてくれ」

 

 引きつった笑顔で返事をすると、ノエルは白衣のままエミールと共に診療所を出て行った。

 

 そうして、診療所のベッドスペースには赤毛の剣士と眠りに落ちた勇者、姿なき元女神、そして意思宿す大きな聖剣だけが残された。




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