「あなたはやりすぎた」と危険視され女神に排除された異能の騎士、取って付けた詫び転生の勧誘を拒否して女神を斬り殺してしまう   作:ますかるぽーね

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意思を宿す剣

「……おい、ヒューガ」

 

 てっきり眠りに落ちたと思っていたウィルがパッと目を開き、ベッドの傍らに立つヒューガを横目で見上げてた。

 

「はい、なんでしょう? もしかして喉が渇きましたか?」

 

「あー……いや、そうやって側仕えみたいにずーっと直立不動で見守られると却って落ち着かねぇっつーか……」

 

「――こ、これは失礼!」

 

「べつに俺はお前さんのご主人じゃねぇし、むしろ世話かけちまってるのはこっちなんだ。何かあったらちゃんと呼ばせてもらうから、好きにしててもらって構わんよ」

 

(あはは……近衛の職業病出ちゃってるねぇ)

 

(病人に気を遣わせてしまうとは、我ながら不甲斐ない……)

 

「――はぁ??? できんのかよ、んなこと?」

 

 突然、ウィルが脈絡のないことを言って壁に立てかけられた聖剣に視線をやった。

 

「ええと……()は何と?」

 

「おっと、すまねぇな……いきなりデカい声出して。なんでも、コイツがお前さんと直接話がしたいんだとよ」

 

「私と、ですか?」

 

 そう言われても、ヒューガに聖剣の声が聞こえない以上、セラを経由して間接的に意思疎通を図るしかないわけだが。

 

(あ、そっか! ヒューガが直接あの子を握れば、ボクの宿った腕輪を通じて直接おしゃべりできちゃうかも!)

 

 ――虎の子の聖剣も、元女神にかかれば〝あの子〟呼ばわりか。そういえば男児の声がすると言っていたな。

 

「ええと……いいのですか?」

 

 勇者ウィルの戦友たる聖剣に軽々しく触れていいものかと、遠慮がちに尋ねる。

 

「この俺が、そんなケツの穴小せぇヤツに見えっか?」

 

「滅相もないです!」

 

 慌ててブンブンと首を振ると、「では……失礼します」と一言伝えて布切れの巻かれた重厚な剣の柄を左手で握った。

 

『初めまして異世界の騎士さん、聞こえていますか? 僕は《クラウ・ソラス》、聖剣なんて呼ばれているこの(つるぎ)に宿る魂です。以後、お見知りおきを』

 

 ――これが、聖剣の声……!

 

 セラが「男の子」と言ったのも肯ける、声変わりもしていないようなとても透き通った少年の声が、セラの時と同じように頭の中に直接響いた。

 とても丁寧で柔らかい物腰の言葉遣い。聖剣という言葉から受ける厳かなイメージとは、むしろ真逆の印象だ。

 

「おっ、その様子じゃマジで声が聞こえたみてぇだな? ――んじゃ、そのおしゃべり骨董のお守りはお前さんたちに任せて、俺は今度こそ寝るぜ。さすがに、だいぶ熱もひどくなってきやがったみたいだしな……」

 

 そう言ってヒラヒラと手を振ると、また頭ごと布団の中に潜り、

 

「あー……ノア? 今さら何を話すななんて固ぇこたぁ言わねぇが、うっかり俺が〝恥ずか死〟でポックリ逝かねーように秘密のおしゃべりなら表でやれよ?」

 

 よほど大事なことらしく、しっかり釘を刺すように付け加えた。

 

『はいはい。ウィル……よく踏ん張りましたね。今は安心して、しっかり休んでください』

 

「へいへい」

 

『――では、うるさいマスターの注文どおり、いったん外に出ましょうか』

 

 意思を宿す聖剣はそう言って、ヒューガに自身を持ち出すように促した。

 

 

    *

 

 

(失礼ですが、ノアというのは……?)

 

 先ほどのウィルの呼び方に疑問を覚えたヒューガは、早速それを尋ねた。

 

『ハハ……そりゃ気になってしまいますよね。僕の本当の……というか、生前の名前です。やれやれ……一応体裁考えて《クラウ・ソラス》で通すつもりだったのに、僕のマスターって人は……』

 

 自身では微動だにできない鋼の塊であるにもかかわらず、ヒューガには聖剣がまるでかぶりでも振っているように見えた。

 

(ええっ!? 生前ってことは、つまり……)

 

『ええ。元々人間なんですよ、僕は』

 

(に、人間!? 最初から、聖剣として生を受けたわけではないのですか?)

 

 衝撃的な真実に、ヒューガは驚きを隠せない。

 

『幻滅させてしまったら申し訳ないですが、この《クラウ・ソラス》という剣に宿るのは、不浄を祓うために打ち手によって吹き込まれた聖なる意思なんかじゃない。ノア・マイヤードという、16歳で不治の病を患い、この世と愛する人への未練を断ち切れず、とある結晶体に魂を移して剣として生き長らえた1000年前の亡霊なんです』

 

 自嘲気味な言葉とは裏腹に、聖剣――ノアの声色からは、その選択がとても強い意志によるものであることが感じられた。

 

(せ、千年前っ!? カワイイ声して、君そんなお爺ちゃんだったの!?)

 

『え、えぇ……?』

 

 セラの驚き方に、聖剣に宿る魂は困惑の声を漏らした。

 

(……申し訳ありません。今度この元女神が表に出てきたときは、よくよく鏡で自分の顔を拝ませておきます)

 

 ヒューガはバングルの太陽石を爪弾きにすると、剣に向かって頭を下げた。

 

(しかし千年前というと、まさか――)

 

(その時も、魔王が現れたんだね?)

 

『……ええ、そのとおりです。セラさんが、魔王を千年に一度の神々の切り札と言ったとき、僕はあなた方が真実を言っているのだと確信しました。僕の最初のマスター……ウィルから見たら先代勇者とでも言うべき人が魔王を打ち倒したのが、今からおよそ千年前だったからです』

 

(最初の使い手……ということは、ノア殿が剣に魂を移したというのはその時だったのですか?)

 

『はい、旧い文献をもとに再現した古代の禁呪によって肉体から特殊な結晶体へと魂を移し、それを当時世界最高の鍛冶師と言われたドワーフの職人に無理言って、彼の最高傑作である魔法剣に(コア)として接続してもらいました。今は完全に鋼に覆われて見えないと思いますが、ちょうど今あなたの握っている柄の真上……少し膨らみを帯びた鍔のあたりに結晶核(コア・クリスタル)が埋め込まれています。言わば、僕の本体のようなものですね』

 

(なんで君は、教会が禁呪指定するような魔法に手を出してまで剣に魂を封じ込めたんだい?)

 

『家族を……唯一の肉親である兄さんを残して死ぬのが怖かったんです』

 

(兄君……? では、その先代の勇者というのが)

 

『僕の兄さん……バックス・マイヤードという隻眼の剣士です』

 

 『見た目はちょっと強面で言葉遣いも乱暴ですけど、すごく心の温かい人でした』と、ノアは在りし日を偲んだ声で言う。

 

(ちょ、ちょっと待ってよ、ノア! 君のお兄さんが勇者ってことは――)

 

『……はい、兄さんも正真正銘この世界の生まれです。――つまり、セラさんの言っていた神々の定義から外れた勇者ということになります』

 

 またしても、定石を超えて神の《奇跡》を持たない土着の英雄が《魔王》を倒したことになる。

 当代勇者のウィルと先代勇者であるバックスという人物、二人の共通点。それは――

 

(……なるほどね、ダテに聖剣なんてカッコいい名前で呼ばれてるわけじゃないってことかな?)

 

 セラは確信したような言葉をノアに向けた。

 

(《奇跡》破りの本質は、ウィルさん本人ではなく、ノア殿――この聖剣 《クラウ・ソラス》が握っていたと?)

 

(うーん……端的に言えばそういうことになる……のかなぁ?)

 

 セラは遠慮がちに歯切れ悪い声で言う。

 

『自分で言うのもともて妙な気持ちですが、〝本質〟という観点ではおそらく状況証拠的にそれが正しいんだと思います。もっとも、僕自身だけでは魔法の1つさえ行使できない鋼の塊でしかない。僕の声が聞こえて、この剣に秘められた力を引き出し、そして何があっても最後まで戦い抜く勇気を持った使い手がいて初めて、僕の存在価値は生まれる。だから、たとえ魔王討伐の鍵が僕だったのだとしても、やっぱり兄さんやウィルたちこそが本当の勇者なんです』

 

(うん、ボクもそう思う)

 

(その言葉、ウィルさんが聞いたら、きっと喜ぶと思います)

 

『――! はい……っ! ふふふ、あなた方もとても心の温かい人ですね。――さて、僕の身の上話はこれくらいにして、そろそろ本題に入りましょうか』

 

 そう言って、ノアは話を切り替えた。

 

『お二人は、これからどうするおつもりです? ご迷惑おかけした立場でこんなことを言うのも変な話ですが、賊問題が解決してヒューガさんが用心棒をする必要がなくなったわけですし、やっぱり村を出て旅の再開を?』

 

(ええ、新たな情報を探すために帝都を目指そうと思っています)

 

 ノエルやプリュイ村の人々に別れを告げるのは寂しいが、背負う使命がある以上そんなことも言ってはいられない。

 

(帝都でも何も掴めなかったら、次は共和国の首都を目指す感じかなぁ)

 

『帝都……やっぱりそうでしたか!』

 

 ノアは確信していたかのような声を上げた。

 

『ヒューガさん、セラさん。帝都へ赴くお二人に、折り入ってお願いしたいことがあります』

 

 元々丁寧な物腰だったノアが、一段と改まった真剣な声色で申し出た。

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