「あなたはやりすぎた」と危険視され女神に排除された異能の騎士、取って付けた詫び転生の勧誘を拒否して女神を斬り殺してしまう 作:ますかるぽーね
「我々にお願いしたいこと、ですか?」
『もちろん、お二人が大切な使命を背負っていることは承知しています。……けれど、僕はウィルたちが必死に守ったこの世界の平穏が脅かされるのを黙って見過ごすわけにはいかない。お願いです、お力を貸してください!』
(なんだか穏やかな話じゃなさそうだね。もしかして、おっさんが暗殺されかかったことと関係があるのかな?)
(たしか、何らかの〝虎の尾〟を踏んでしまったのが原因だったとか)
『……はい、まさにその件についてです。ウィルが人助けと好奇心の充足のために別名義で探偵の
(あー……たしかに、あのおっさんならヤバそうな案件ほど躍起になって飛びついていっちゃいそう)
『本当なら、ウィルが無茶しすぎないように僕がちゃんと見張っていなければならないんですが……上手く変装して別人に成りすましているとはいえ、さすがに勇者のトレードマークみたいなこの剣を背負っていては探偵の仕事なんて務まりませんからね……』
(で、お目付け役がお屋敷で留守番してるうちに大変なことになっちゃてった……と)
「君も苦労してるね……」と、セラは剣の姿をした苦労人に労いの言葉をかけた。
(事の発端はなんだったのですか?)
『きっかけ自体は、本当によくある人探しだったんです。ある地方の村から探偵の噂を聞きつけてやってきた若い女性の依頼で、「父が帝都に出稼ぎに行ったっきり何年も村に帰ってこないので、どうにか捜し出してほしい」と』
(それだけだと、いかにも探偵の通常業務って感じだね)
(すると、調査を進めるうちに、別の――単なる失せ人探しに留まらない事実が浮き彫りなった……?)
ヒューガは顎に手を当て、推論を述べた。
『……ええ。父親に何かあったのではないかと身を案じていた依頼人には気の毒ですが、ウィルも僕も、最初は単にその父親は都会の暮らしに馴染みすぎて田舎に帰るのが嫌になっただけではないかと考えていました』
(家族ほっぽりだして都会生活エンジョイしちゃってるサイテーなオジサンを見つけ出して、どうにか説得して娘さんに引き合わせれば依頼達成……みたいな?)
『当初はそのつもりで、ウィルも「そんなクソ親父、俺の鉄拳で改心させてやらぁ!」って鼻息荒くしていたんですが……』
(実際は、そう単純な話ではなかったのですね?)
『はい。人口増加に伴って手狭になってきた帝都クロワゼリアの拡張事業に充てるために、他地域から労働力として動員されてきた人々が大勢いて、依頼人の父親もそのうちの1人だったんですが……調査を進めていくうちに、どうやら彼らの多くが2年の動員期間を過ぎても地元に帰ってこず、そのまま行方不明になっていることがわかったんです』
(帝都からの動員ですって!?)
(それって、まんまこの村の人たちのことじゃん! ――って、行方不明っ!?)
『……やっぱり、そうだったんですね。村に来てからヒューガさん以外の若い男性をまったく見かけなかったので、もしや……とは思っていたんですが、案の定でしたか』
(じゃあ、ボクたちへのお願いっていうのは、その消えた人たちの捜索?)
『もちろん彼らの行方も心配ですが、そのようなことでお二人の旅を妨げるようなお願いはできません。核心はそこではなく、重要なのは消えた彼らがどこで何をしているか……いや、させられているか、ということです』
ノアは努めて冷静な声で言った。
(そっか、それがさっき言ってた世界の平和を脅かすナニカに繋がるんだね?)
『……はい。どうやら、彼らはとある有力貴族の指示のもと帝都とは別の場所に連れていかれ、
(あるもの、ですか?)
『太古の時代……僕の生きていた千年前よりも遥か昔に存在したと言われる超文明が残した戦争兵器と、その動力源となるエネルギー体です』
(こ、古代の超兵器ぃ???)
『眉唾に思われるのも無理はありません。実際に調べ上げたウィル自身、最初は何かの冗談かと思っていましたから……』
(……しかし、現にウィルさんは毒によって暗殺されかけた)
『……ええ。おそらくタイミング的に、その動力源たる未知の力の名前を突き止めた直後から命を狙われていたのでしょう。それほどまでに機密性の高い情報だったということです』
(その力の名前というのは?)
『えっと……聞いて驚かないでくださいね』
勿体ぶるような、それでいて本当に驚かないでほしいと気遣うような静かな声で、ノアは続けた。
『そのエネルギー体は、一部の貴族たちの間で密かにこう呼ばれていました。……真なる神の一欠片――すなわち、《アイオーン・フラグメント》と』
――神の欠片だと!?
『……これが、僕が折り入ってお二人にご相談しなければならなかった理由です。正直、急に神の欠片なんて荒唐無稽な単語が飛び出したところで僕たちも戸惑ってしまって、実際にそれがどういう代物を指すのか不明にせよ、少なくとも本当に神に由来する力なんてことは万にひとつもあり得ないと考えていました。精々、今は失われた古代技術への憧憬が生み出した誇張された〝尊称〟だろう……と。――今日こうして、お二人と出会うまでは、の話ですが』
そう思うのも無理はない。
彼らの世界は、十数年前にようやく人類の存亡を賭けた《魔王》との戦争にケリをつけたばかりなのだ。
ろくに世界の傷も癒えぬうちに、やれ今度は《神の欠片》だ、古代の超兵器だなどと無粋も甚だしいことを言われては、勇者や聖剣だって大概「もう結構」と願い下げたくもなる。
(真なる神の一欠片……その名はやはり――)
(砕かれたボクの神核……! まさか、最初に転移してきたこの世界にあるっていうのっ!?)
『お二人の話を伺う限り、《
たしかに《神の欠片》など、分割され封印されたであろうセラの神核の呼び名として、これ以上相応しいものもない。
何せ、比喩でも誇張でもなく実体そのものを表しているのだから。
『そこで、セラさんにお聞きしたいんです。神核というものは、たとえ欠片であったとしても、ゴーレムよりも遙かに強大な兵器を自在に操ることが可能なのですか?』
(結論から言えば可能……いいや、余裕でできちゃうって言った方が正確かもしれない。もちろん、神核から力を引き出して人の扱えるカタチにするには、すごく高度な技術が必要になるだろうけど……)
自身の人知を越えた力が悪用されるかもしれないからか、セラの声はどこか申し訳なさのようなものが滲む。
『やっぱり……欠片といえど、神の力は神の力ということですか。そうなれば、いよいよ今日こうしてお二人に出会えたのは僥倖と言うほかなくなってしまいましたね』
(では、ノア殿のお願いというのは……)
『魔王亡き世に新たな災厄をもたらしかねない《欠片》を見つけ出し、二度と人の手に渡らないようにお二人の手でこの世界から持ち去っていただきたいんです。……えっと、申し訳ありません。ウィルの命の恩人に向かって、こんな厄介払いみたいな言い方するべきじゃ――』
(いえ、ノア殿の……聖剣 《クラウ・ソラス》という立場からすれば、世界から潜在的脅威の排除を優先するのは当然だと思います)
(元はといえば、ボクがサラちゃんと喧嘩しちゃったのが原因なわけだしね……。むしろ、思わぬところでとんでもない情報もらっちゃって、こっちがお礼言わなきゃいけないくらいだよ!)
『お二人とも……えっと《殺神同盟》でしたっけ? まったく……本当に神を殺した大罪人同士なんて信じられないくらいのお人好しさんたちですね』
(むぅ……君のマスターだっていい勝負だと思うけどなぁ)
(それは私も同感だ)
『ハハハ、右に――いえ、前に同じ、ですかね。まったく……こんな会話ウィルには聞かせられませんね。本当に〝恥ずか死〟させてしまいます』
どれだけ理不尽な重圧の板挟みに遭っても、口では散々愚痴を吐きつつも、決して人助けがやめられないお人好しの勇者。
そんな男だからこそ、旦那と呼んで彼を慕う仲間たちが危険を冒してまで帝都からの脱出に全力で手を貸してくれたのだろう。
そして、そのおかげでこうして生まれた奇跡のような出会いがある。
『お二人とも、本当にありがとうございます。もちろん、僕たちもウィルの身体が回復次第、急いで後を追いかけます。いずれ帝都で合流して、協力して事に当たりしょう』
(それまで、ヒューガとボクとで勇者代行ってことだね! ……あれっ? でも合流するまではきっと情報収集メインだし、むしろ探偵代行……???)
――私が、ウィルさんの代役……!
(わざわざ荷が重くなるような言い方をするな……)
ヒューガは大きくため息をつきつつ、皇女アシュリーゼ救出に一歩近づいたことへ確かな手応えを覚え、強く拳を握り締めた。