「あなたはやりすぎた」と危険視され女神に排除された異能の騎士、取って付けた詫び転生の勧誘を拒否して女神を斬り殺してしまう 作:ますかるぽーね
「――よし、わかったよ、エミール君。君の仲間たちを歓迎しようじゃないか。見てのとおり、村としても人手が足りていなくてね。とくに、力仕事のできる男手が増えるというのならば、わしらとしてもとても助かるのだよ」
「困ったときはお互い様がこの村の合言葉ですからねぇ。それに、ウィル君が信頼する人たちですもの。きっと心配もいらないでしょう」
村人たちへの謝罪回りを終えて村長宅にやってきたエミールは、通された応接間で廃教会で待機する仲間たち全員の受け入れを申し入れた。
帝都から逃げ延びて廃教会に住み着き、賊のフリをして村に食料をたかるに至った事情を、時折ノエルのフォローを交えながら釈明すると、村長夫妻は温かい笑顔で承諾してくれた。
「まっ、ややっこしい事情があったにせよ、今まで村のみんなが散々おっかない思いさせられたのは事実だ。きーっちりこき使わせてもらうつもりだから、そのくらいは覚悟しておくれよ? 働かざる者食うべからず。たくさん働いて、その分たくさんたくさん、おいしいごはんをお食べ」
ノエルから村のまとめ役と紹介されて謝罪行脚に同行してもらったロジーヌが、発破をかけるようにエミールの肩を叩いて気のいい顔で笑った。
「ありがとうございます……っ! みんな、真面目で働き者な人たちばかりなんです。今までご迷惑おかけしてしまった以上の仕事で、必ずこのご恩を返させていただきます」
エミールは深々と頭を下げて感謝の言葉を述べた。
眼鏡の奥の瞳には大粒の涙が浮かんでいた。
*
「ありがとう、ノエル君。君が一緒に事情を説明してくれたおかげで、なんとか村の皆さんの理解を得ることができたよ」
村長宅を後にすると、エミールは目尻を擦りながら言った。
「ま、それでも話が飲み込めない子どもたちはやっぱりちょっと怖がってたし、あとはこれからの働きで汚名返上してもらうしかないけど」
「ああ、オレも医師として力を尽くさせてもらうつもりさ。――しかし、君には本当に驚かされたよ。ヒューガ君から毒の特性を聞くや、即座に作用機序を割り出して実際に解毒薬の調合まで行なってしまうとは……我ながら医師顔負けと言うほかなかった」
「……たまたま自分の専門領域だっただけだし、一番のお手柄は毒の正体に気づいた助手の方。それに、これがもし胃に腫瘍ができてるからお腹切開して物理的に切除しないといけないなんて話だったら、逆に先生じゃなきゃ助けられないでしょう? わたしはメスなんて握れないもの」
「いや、謙遜する必要はないさ。専門性を抜きにしても、君の分析能力、そして決断力は常人離れしてる。――さすがだよ、ノエル・ノワイエ君」
「――っ!」
ノエルは思わず振り返ってエミールの顔を見上げた。
ノワイエ――義父からもらったファミリーネームなど、今日一度も名乗った覚えはないはずだ。
「シノープルの神童と呼ばれた君が、帝国の……それもこんな辺鄙な村で薬師をしているなんて何かの間違いじゃないかと思ったけど、やはり人違いではなかったようだね」
「なんで、それを……」
ノエルは蒼い瞳に警戒感を滲ませてエミールを見つめる。
「直接話す機会があったわけじゃないし、君はオレのことを知らないかもしれないが、オレは君のことをよく覚えてるよ。去年、教会主催の医療シンポジウムで講演に立たれたフォーブ教授と一緒に、助手の1人として帝都に来ていただろう?」
その言葉に、ノエルの長い耳がピクリと反応を示した。
「場違いなほど若いお嬢さんだから気になって話を聞けば、弱冠15歳にしてルミナント大に飛び入学した創設以来の才女だっていうじゃないか。嫌でも記憶に残るさ」
「…………」
「正直言えば、そんな未来を嘱望される人材が素性を隠して、しかも帝国領内の村でひとり診療所を切り盛りしていることについての疑問は尽きない。でも、一応安心してしてほしい。ウィルさんの命の恩人である君に何か企みがあるなんてゲスの勘ぐりをするつもりはまったくないし、もちろん他の誰かに言いふらす気もない。これは、同じ医療従事者としてのオレなりの敬意だと思って信じてほしい」
エミールが真剣な眼差しで言うと、ノエルは強ばった顔のまま、辛うじて頷いた。
「さあ、この話は一旦これでおしまいだ、一度診療所に戻ろう。ヒューガ君にもお願いして、教会で待ってるみんなを迎えに行かないといけない」
そう促して、エミールは歩き出した。