「あなたはやりすぎた」と危険視され女神に排除された異能の騎士、取って付けた詫び転生の勧誘を拒否して女神を斬り殺してしまう 作:ますかるぽーね
翌朝、ヒューガたちが診療所を訪れると、目の下に隈のできたエミールが眠たそうに目を擦りながら、ウィルの療養食を作ってもらうため宿酒場に行くと言って入れ替わるように出ていき、病床のウィルと、薬を処方するためにいつもより濃いコーヒーを飲んで無理矢理脳を覚醒させたノエル、そしてその助手2名が残された。
「あー……悪ぃなヒューガ、それに元女神様。コイツが勝手に厚かましい頼み事しちまったみたいで」
療養ベッドの上で昨日交わしたノアとの約束の話を聞かされたウィルは、傍に立てかけられた聖剣をジロリと一瞥しながら言った。
「とんでもないです。それが神核の断片という可能性が高い以上、我々としても捨て置くことはできませんから」
「むしろ、帝都に行く目的がハッキリしたし情報提供サンキューだよ♪ ボクたちでしっかり情報収集しとくから、おっさんは治療に専念して早く勇者として完全復活してよねっ!」
セラはビシッ! と人差し指を立てて発破をかけた。
「マジでありがとよ、お前さんたちならそう言ってくれると思ったぜ。んで、その俺の身体の話なんだが……」
頭を掻きながら礼を言うと、ウィルは例の強烈な苦さを誇る秘薬の袋を持ったノエルを見上げた。
「実際、回復までどんくらいかかる?」
「少なくとも3週間は絶対安静。その間にどうしたって筋力も衰えるから、そこから徐々にリハビリして元の健康な状態に戻るには、どうやってもトータル1ヶ月はかかるわね」
「……ま、そうなるわなぁ」
「私の立場から言わせてもらえば、本当なら3ヶ月は大人しくしててもらいたいとこだけど……そうも言ってられないみたいだし、ギリギリ妥協しての1ヶ月。それは忘れないでちょうだい」
ノエルは医者としてそれ以上は譲れないと、毅然とした声で釘を刺した。
「そうなると、おっさんと帝都で落ち合うのは早くても2ヶ月以上先になっちゃうのかぁ……」
プリュイ村から帝都まで荷馬車でおよそ1ヶ月という話だった。
徒歩のヒューガが帝都に辿り着くのは、どれだけ身軽を武器に強行軍を敷いても最短で1ヶ月後。そこからウィルが村を立って合流してくるのに、さらに1ヶ月は要することになる。
「致し方ないだろう、それまでは我々が責任持って事に当たるしかあるまい」
「あー……しゃーねぇ! 頭下げんのは癪だが、こうなったらやっぱあのババアに頼るしかねーかぁ……?」
ウィルは突然ガシガシと両手で頭を掻き毟ったかと思うと、ふぅと深くため息をついた。
「ヒューガ、頼んだ矢先ですまんが、ちょいと予定変更だ」
「変更、ですか?」
「お前さんたちには帝都で情報収集してもらうって話だったが、そいつはある程度で見切りをつけて、
「ある場所って?」
「自分のこと《魔女》とか名乗って森に隠れ住んでる偏屈ババアのアジトだよ……」
「魔女って……もしかして《魔女》エヴァ? 討魔の四英雄の」
どうやら、ノエルには聞き馴染みのある有名な人物のようだ。
「つまり、ウィルさんの仲間のお一人?」
「ああ、捻くれ者の嫌味なババアだが間違いなく世界最強の魔道士だ。元々、俺らはあいつの隠れ家に逃げ込むつもりだったんだよ」
「生憎と関所の検問に引っかかりそうになって、慌てて引き返したみたいだけどな」と、ウィルは続けた。
「つまり、その人に協力してくれるようにお願いすればいいってこと?」
「面倒かけちまって悪ぃが、そういうこった。あいつは飛行魔法が使えるからな。俺がプリュイにいるって伝えてもらって、空飛ぶ馬車馬になってもらおうっつーワケよ。……後でネチネチ嫌味言われんのは癪だけどな」
そう言って、ウィルは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「承知しました。では、帝都ではウィルさんの安否情報がどう広まっているかを中心に探りを入れ、ある程度情報がまとまったところで、その《魔女》殿の住んでいるという場所へ向かえばいいのですね?」
「ああ、そうしてくれると助かる。ババアの住処は陰湿魔法で普通じゃ辿り着けねぇようになってんだ、明日の出発までにはまとめてメモにしてやるから少し待っててくれ」
「随分と用心深い人なんだね」
「ま、あいつもあいつで苦労してんのよ」
ウィルはそう言って、仲間の《魔女》に同情するように苦笑した。
「――話もまとまったみたいだし、そろそろ私たちも行くわよ。今日中に村のみんなにお願いして旅に必要な物揃えないといけないんだから」
ノエルがドアを開けて2人の助手を促すと、セラは「はーい」と返事してヒューガの左腕のバングルに触れ、再び太陽石の中に身を隠した。