「あなたはやりすぎた」と危険視され女神に排除された異能の騎士、取って付けた詫び転生の勧誘を拒否して女神を斬り殺してしまう   作:ますかるぽーね

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3章 勇者代行
旅は道連れ


(もうそろそろ、いいよね? いいよねっ?)

 

 村を立って、そのまま街道に沿って歩くこと半刻ほど。

 腕輪の中のセラが、もう待ちきれないとばかりにうずうずした様子で問いかけてきた。

 

(次の町に着くまでの約束だぞ。お前は人目を引きすぎるからな……)

 

 ヒューガは自分の目立ちまくる豪奢な格好を棚に上げて、相棒に釘を刺した。

 

(わかってるって♪)

 

 太陽石が眩く輝きを放ち、「カワイイって罪だよね」などと意味不明なことを嘯きながら愛らしい黄金髪の少女が顕現を果たした。

 

「ん~っ! 太陽石の中も快適だけど、やっぱ外の空気は新鮮で気持ちいいなぁ」

 

 セラは全身で開放感を表現するように、小さな身体を目一杯反らして伸びをした。

 

「おはよう、神さま。……前から思ってたけど、その格好寒くないの?」

 

「だいじょーぶ、だいじょーぶ! 女神は寒さなんかに負け……へっ……へぇっ――へぷちっ」

 

 自信満々の言葉とは裏腹に、憎たらしいほど愛嬌たっぷりのくしゃみが飛び出した。

 そろそろだいぶ秋も深まり、とくに朝晩は暖炉が欠かせないほどに底冷えする時期。

 季節感を完全に無視した袖なしのワンピースに身を包む彼女の姿は、見ている方が寒くなってしまう。

 

「どうやら寒さの勝ちみたいね」

 

「無理をするな、元女神……」

 

 本人曰く、生まれてこの方、本当に病気らしい病気を煩ったことがないとのことだが、やはり相棒にだけ寒い思いをさせるのは気が引ける。

 ヒューガは立ち止まって荷物を下ろすと、自身のマントを留めるブローチに手をかけた。

 

「はぁ……そんなことだろうと思ったわ。ちょっと待って、いいもの持ってきたから」

 

 ノエルはヒューガを制止すると、トランクケースを開けて畳まれた布を取り出した。

 

「わたしのお古で申し訳ないけど、はいこれ。一応、目測だけど神さまの身体に合わせて袖と裾は直してあるから」

 

 そう言って広げてみせたのは、彼女愛用の若草色のローブ。セラの幼い体躯に合わせて、丁寧な縫い目で袖と裾が詰められていた。

 

「いつの間に……」

 

「わぁっ! すごいよノエル。お裁縫までできるなんて、まるでお母さんみたい」

 

「……そう、いらないのね」

 

「――わっ!? 待って待って! いります、いりますってばぁ~!!」

 

 畳んでトランクケースに仕舞おうとするノエルを必死に引き留めてローブを譲り受けると、セラは嬉しそうに袖を通した。

 

「すごい、ピッタリだ……」

 

「よかった、調整の必要はなさそうね。風を通さない生地でできてるから見た目よりあったかいでしょう?」

 

「うん、軽いのにちゃんとあったかいや! ありがとう、ノエルっ♪ ……でも、ホントにもらっちゃっていいの?」

 

「もちろん。ほら、わたしにはこっちがあるから」

 

 ノエルは自らの身を包む濃紺のマントを摘まんで言った。

 

「もしや、そのマントや凝った召し物も自分で……?」

 

「まさか。これは師匠が知り合いの仕立屋に頼んで作ってもらったモノよ。フィールドワークの旅に出るって言ったら、余所の同族にバカにされないように上等な衣装用意してやるって張り切っちゃって……まったく、こんないい生地使っちゃって、いったいいくらしたんだか」

 

「いい御義父上(おちちうえ)じゃないか」

 

「これで、ちゃんと父さんって呼ばせてくれればね……」

 

 ノエルは小さくため息をつくと、ヒューガに向き直って遠慮がちにマントを広げてみせた。

 

「ええと……どう? 偉そうにマントなんかしちゃって、子どもが背伸びしてるみたいで変じゃないかしら?」

 

「いや、とてもよく似合っているよ。あまり見慣れない意匠だが、私が見た中で一番君の持つ魅力を引き出してくれていると思う」

 

 ヒューガは彼女のコーディネートを素直な言葉で称えた。

 自分にとって馴染み深い伝説に登場するエルフの賢者を彷彿とさせる若草色のローブも、薬師としての誇りを感じさせる仕事着の白衣も、無論それぞれ魅力的だ。

 しかし、どれかひとつを選べと言われれば、彼女のクールな知性と月のように繊細な美しさを損なうことなく高次元に両立した今の装いに軍配が上がるのは至極当然のことだった。

 

「…………」

 

 ヒューガとしてはわざとらしくならない程度に自然な讃辞を送ったつもりなのだが、なぜだかノエルはジトーっとした視線でヒューガを一瞥すると、腰を屈めてセラの耳元に手をやった。

 

「ねえ神さま? 前から思ってたんだけど、この助手……純朴そうな顔して臆面なく人のこと褒めすぎじゃない? 女慣れしてるみたいでなんかムカつく」

 

 聡明なエルフの理不尽な物言いがヒューガを襲う。

 今ほど自分の鋭い聴覚を恨めしいと思った瞬間もない。

 

「あはは……あれで一応王宮務めの近衛だからね。クセの強い宮廷貴族サマたちのご機嫌損ねたりしないように、しっかりお作法叩き込まれたんじゃないかな? 平民上がりは剣を振り回すだけが能で、気の利いた台詞のひとつも言えないのか……なんてバカにされたら、護衛に抜擢したお姫様も立場がないからねぇ」

 

「ああ……そういうこと? 宮仕えって大変なのね……」

 

 ――全部聞こえているぞ……。

 

 相棒のフォローはありがたいし、実際作法を叩き込まれたのはその通りなのだが、「一応」だけは余計だ。

 

「それと、ボクも今の格好が一番カワイくてカッコいいと思うなっ♪ ヒューガだってお世辞抜きにそう思ったんでしょ?」

 

「無論だ。――背伸びをしているなんてとんでもない。落ち着いた雰囲気は君にとてもよく似合っていると思うよ」

 

 それでいて、マントの裏地の深紅はノエルの薬学に対する深い情熱を表しているようにも見える。

 彼女の師匠の意向なのか仕立屋のデザインなのかはわからないが、非常にいいセンスだと思った。

 

「……あ、ありがと。自分で訊いておいてアレだけど、二人揃ってまじまじと言われると少し照れるわね……」

 

 ノエルは面映ゆそうに前髪を弄ると、この話題はおしまいとばかりに再びトランクケースを持ち上げた。

 

「さてと……とりあえず2人に付いてきたはいいけど、これからの〝設定〟どうしたものかしら」

 

 ノエルは歩きながら口元に手を当てて、思案顔のままヒューガを流し見た。

 

「設定……?」

 

「あー……たしかに、エルフのお嬢様と武者修行の放蕩貴族じゃ、あんまり接点なさそうだもんね」

 

 間を歩くセラは、2人の姿を交互に見て苦笑した。

 たしかに、これから旅を円滑に行う上で周囲から自然に見える新たな立て付けは必要かもしれない。

 

「んー……じゃあ、こういうのはどう?」

 

 ノエルは人差し指を立ててニヤリとした。

 

「気ままに諸国漫遊中な資産家エルフのわがまま一人娘と、お金で護衛に雇われて引っ張り回される没落貴族の傭兵……とか」

 

「あっ、それいいかも♪ 地位も財産も失っても、一張羅と家宝の剣だけは手放せなかったって言えば、この目立ちまくりな格好も言い訳できちゃうし」

 

 棚上げしていた荷物が時間差でヒューガの脳天を直撃した。

 

「傭兵……」

 

 情勢や報酬の多寡によって敵にも味方にもなる風見鶏稼業。国や民のために剣を振るう騎士とは根本的に価値観の異なる人種だ。

 相手にするだけならば「そういうもの」と割り切って別段気にすることでもないのだが、己がその立場を名乗るとなると、やはり抵抗感が勝ってしまう。

 

「他に妙案があれば聞くけど」

 

 露骨に嫌そうな顔をするヒューガを見かねたのか、この堅物騎士にそんなものはないことを分かりきった上でノエルは意地の悪いことを言う。

 

「…………仰せのままに、ノエルお嬢様」

 

 ヒューガは渋い顔で観念して、胸に拳を当て敬礼した。

 

「うむ、苦しゅうない……なんて、今どき貴族でもこんな台詞言わないかしら。ま、とりあえず今度は傭兵として再契約成立ってことで、よろしくね……ヒューガ」

 

 「ああ、それと今までどおり呼び捨てでいいから。お嬢様って柄でもないでしょう?」と苦笑を漏らす再契約相手の雇用主。

 

「承知したよ、ご主人様」

 

「む……言うようになったわね」

 

 ノエルの肘がヒューガの脇腹を小突く。

 

「ねぇねぇ、ボクは? ボクは??? 上手く考えれば街の中でも一緒にいられるでしょ?」

 

「森で偶然拾った迷子の娘……にしては健康的すぎるな、却って不自然だ」

 

「やっぱり腕輪の中でお留守番かしら……」

 

「ガーン!」

 

 元女神は大層悲しそうに、若草色のローブに包まれた小さな肩を落とした。

    

 そうして誇り高き帝国騎士ヒューガは、没落貴族の傭兵へと身をやつすことになった。

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