「あなたはやりすぎた」と危険視され女神に排除された異能の騎士、取って付けた詫び転生の勧誘を拒否して女神を斬り殺してしまう 作:ますかるぽーね
「まったく世話の焼ける……」
「おう、おかえり。その様子じゃ、あいつらはちゃんと一緒に出発できたみてぇだな?」
診療所のドアベルがカラコロと鳴って扉が開くと、ウィルはベッドに寝そべったまま顔だけ向けてカカカと笑った。
「ええ、そりゃあもう村の皆さんの賑やかな声援に見送られて旅立ちましたよ」
エミールはベッド横の椅子に腰かけると、肩を竦めてため息をついた。
「……ったく、ヒューガのヤツが気配消してコソコソ出発の挨拶しに来た時にゃどうなることかと思ったが……ま、上手くまとまってよかったじゃねーか」
「寝坊なんかでお膳立て全部パァにされたら、さすがのオレも今頃膝抱えて不貞腐れてますよ……」
「それはそれで見てみてぇもんだが……にしても、エミール……お前が知り合ったばかりのヤツに積極的にお節介焼くなんて珍しいじゃねーか。どういう風の吹き回しだよ?」
「……まぁ、我ながら似合わないことしたとは思ってますよ。ただ、同じ医療従事者として未来有望な迷える若者の背中を少しだけ押してみたくなっただけです。実際、オレはちょっとばかしよろけさせただけで、そのあときっちりトドメ刺したのはロジーヌさんの方ですし」
「相変わらず、あの姉さんには敵わねーな……前よりパワフルになってやがる。ありゃ100年生きるぜ?」
ウィルはそう言って苦笑を漏らした。
「しっかし、迷える若者の代表格だったお前からそんな言葉が出てくるなんて、オジサンちっと目頭熱くなっちまうぜ」
「その甥っ子に向けるようなウザい顔やめてもらっていいですか……」
エミールは生暖かい視線から逃れるように足を組み直して横を向いた。
「まぁ実際、お節介抜きにしてもオレは正しい判断をしたと思ってますよ。彼女のような天才肌は一箇所に閉じこもって研究に勤しむより、若いうちに旅でも冒険でもして視野そのものを広げた方が、結果としてその後に得られる見識も格段に高まるはずだ。……それに、あなただって彼女がいない方が都合もいいでしょう?」
「……ま、ノエル先生はメチャクチャ真面目そうだから、一度1ヶ月って言ったら、ぜってぇ1ヶ月は村から出してくれそうにねぇもんなぁ……」
「オレはノエル嬢ほどの頭脳は持ち合わせてないが、彼女よりずっと勇者ウィルを知ってる。……間違いなく、あなたは1ヶ月なんて待てない」
その言葉に、ウィルの顔つき変わった。
「3週間で完全回復させて、空からの迎えなんか待たずに村から蹴り出します。できますよね?」
「ハッ! 誰に聞いてやがる?」
6つ下の親友の問いに、勇者は不敵に笑って答えた。
*
『それにしても、あんなにあっさり送り出してしまうなんて意外でしたよ。もう少し、いろいろと訊いておきたいことがあったんじゃないですか? だって、どう考えたって――』
ダントンたちの様子を見に行き、そのまま酒場でウィルの朝食を用意してもらうと言って再び出ていくエミールを見送ると、壁に立てかけられた大きな剣が意外そうな声で語りかけてきた。
「いいんだよ。ただでさえ、とんでもねぇ面倒事に巻き込んじまったんだ。あれもこれも言って負担ばっかかけるわけにもいかねーだろ?」
『それは、そのとおりかもしれませんが……』
「ところで相棒、この村から一番近い町ってどこか覚えてっか?」
『えっ? 急になんですか……えっと、プリュイの隣接都市というと、たしか毛織物で有名なレーヌブールが――』
そこまで言いかけて、何かに気づいたかのように聖剣は言葉を止めた。
「そういうこった。レーヌブールだけじゃねえ、もうこの近くに生きてる町なんかねぇんだよ……ひとつだけ除いてな」
『……ロシュドールですか』
「ああ。あいつらが街道沿いに帝都を目指すなら、旅の補給のために嫌でも途中であそこに立ち寄るしかねぇわけなんだが……ノア、あいつら何事もなく素通りできると思うか?」
『……あなたの気持ちはよくわかりましたよ、ウィル。たしかに、余計なことを吹き込んで負担をかけるべきじゃないかもしれない』
「だろ? なぁに、心配すんなって。俺がさっさと完全復活して合流しちまえばいいだけの話だ。積もる話なんてのは、あいつら3人の驚く顔を見るまでお預け――その方がリハビリのモチベだって上がんだろ?」
『……ふふ、それもそうですね。とはいえ、相当無理した反動で今は自力で立ち上がることすら叶わないはずです。焦って無茶は禁物ですよ』
「へいへい、法術の達人様には相方の健康状態も全部お見通しでございますか……」
『急に僕を振り回すような無茶苦茶なリハビリされても困りますからね。まずは、無理なくこんな目標設定からクリアしてみませんか?』
「あん……? あんまし地道でつまんねーのは勘弁しろよ?」
『自力で歩いてシスター・マチルダの墓前に花を手向けに行く……どうです? つまらないですか?』
「……お前も大概いい性格してやがんな、相棒。んなもん、気合い入れるしかねぇだろーが……」
そう言って、ウィルは聖剣の柄にグリグリと乱暴に拳を押し当てた。