さとりと魔法学校   作:hip

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#03:魔列車での邂逅

 ホグワーツ特急は、リズミカルな振動を石畳の振動から鉄路の轟鳴へと変え、ロンドンの喧騒を背後に置き去りにした。

 

 コンパートメントの室内には、古いビロードの座席から漂う埃っぽい匂いと、窓の外を流れる緑の匂いが混ざり合っている。

 逆光に透けるハリーの眼鏡が、線路の継ぎ目を越えるたびに小さく跳ねた。

 

 古明地さとりは座席の端に深く腰を沈め、窓の外を眺めていた。

 だが、彼女の意識は決して風景には向いていない。胸元で絶え間なく明滅する「第三の眼」が、狭い密室の中に渦巻く二人の少年の思考を、嫌というほど克明に拾い上げていた。

 

『本当に魔法の学校へ行くんだ。ダドリーも、バーノンおじさんもいない場所へ。でも、僕に本当に魔法なんて使えるんだろうか。もし、何かの間違いだと言われたら?』

 

『ハリー・ポッターと一緒のコンパートメントだなんて、家に帰ったらジニーに自慢しなきゃ。ああ、でも僕の杖、チャーリーのお古だし、服もボロボロだ。恥ずかしいな。お腹が空いた。母さんのサンドイッチ、やっぱり中身はコンビーフかな……』

 

 ハリーの純粋な不安と、ロンの卑屈なまでの家族愛と空腹。

 それらが、湿った霧のような質感を持ってさとりの脳内に流れ込んでくる。

 

「……心配しなくていいわ、ハリー」

 

 さとりが静かに口を開くと、ハリーは弾かれたように顔を上げた。

 

「あなたに魔法の才能がないのなら、そもそもあの壁は通り抜けられなかったはずよ。それに、ロン。コンビーフが嫌なら、私のところに回してちょうだい。地底にはそんな贅沢な保存食、めったにないもの」

 

 ロンは飛び上がり、膝の上に広げていたサンドイッチの包みを落としそうになった。

「ま、またやったな! 君、本当に僕たちの心の中に土足で入ってくるんだから!」

 

「失礼ね。土足じゃないわ。私の『眼』は、ただそこに流れているものを映し出すだけ。……ほら、それより、あなたのそのポケットの中にいる『彼』も、お腹を空かせているわよ」

 

 ロンのポケットから、太った灰色のネズミ——スキャバーズが顔を出した。

 ロンは顔を赤くしながら、ハリーとさとりを交互に見た。

 

「……こいつはスキャバーズ。見ての通り、一日中寝てばかりで何の役にも立たないんだ。父さんが、僕がホグワーツへ行くお祝いにって、お兄ちゃんのパーシーのお古をくれたんだけど……」

 

「僕には、お古をくれる親戚さえいなかったよ」

 ハリーが少し寂しげに笑った。

 

 その瞬間、車内を「車内販売」の甘い香りが満たした。

 

 ハリーがポケットから掴み出した金貨をすべて使い、座席が埋まるほどのお菓子を買ったとき、三人の間の空気は一気に和らいだ。

 百味ビーンズ、カエルチョコ、かぼちゃパイ。

 魔法界の色彩豊かなお菓子を口にするたび、ハリーとロンの思考からは緊張が消え、子供らしい好奇心が溢れ出した。

 

 だが、その平穏を破ったのは、激しく扉をスライドさせる音だった。

 

「誰か、ヒキガエルを見なかった? ネビルっていう子が失くしたんだけど」

 

 現れたのは、茶色のふさふさした髪をした少女だった。

 彼女が足を踏み入れた瞬間、さとりの脳内は未曾有の「情報の暴風雨」に見舞われた。

 

『変身術の基本。アロホモラ、ロコモーター・モルティス、あとで教科書をもう一度読み直さないと。もちろん、歴史の副読本も。「現代魔法史」に載っていた有名人のハリー・ポッターはどこかしら? 今年入学のはずだけど。 あら?このピンクの髪の子の服、魔法使いの伝統的な服装じゃないわ。非魔法族のファッション? それとも東洋の呪術師? 』

 

 ……うるさい。

 

 さとりはこめかみを強く押さえた。

 ハーマイオニー・グレンジャーという少女の頭脳は、整理された図書館であると同時に、数千台の羽ペンが一斉に書き殴っているような、圧倒的な「知識の飽和状態」だった。

 

「……グレンジャーさん。少しだけ、思考のボリュームを下げていただけないかしら。頭が割れそうだわ」

 

「え……?」 ハーマイオニーが絶句した。彼女の思考が、一瞬だけ「混乱」という色に染まる。

 

「あなた……今、私が名乗る前に名前を……? まさか、無言呪文による開心術? でも、まだ学校にも着いていないのに!」

 

「私の家系は、少し特殊なの。……それより、あなたの探しているヒキガエルなら、隣の車両のゴミ箱の裏に隠れているわ。……『誰かに捕まるのが怖い』って、震えているわね」

 

 ハーマイオニーは口を半開きにしたまま、しばらくさとりを凝視していた。

 だが、すぐに自分を取り戻すと、早口で言った。

 

「……凄い。本当だとしたら、あなたはホグワーツ始まって以来の秀才かもしれないわ。私、ハーマイオニー・グレンジャーよ。あなたたちは?」

 

「ロン・ウィーズリーだ」

「ハリー・ポッター」

 

 ハリーが名を告げた瞬間、ハーマイオニーの思考が再び爆発した。

 

『本物だわ! 傷跡を見せて! いや、失礼すぎるかしら。本にはああ書いてあったけれど、実際はどうなの?』

 

「……ハリーの傷跡なら、本に載っている通りの形をしているわよ。でも、見世物じゃないから、今はそっとしておいてあげて」

 

 さとりが釘を刺すと、ハーマイオニーは顔を赤らめ、

「……失礼したわ。それじゃ、ヒキガエルを探しに行かないと」と言い残し、嵐のように去っていった。

 

 コンパートメントに、再び沈黙が戻る。

 

「……あいつ、何なんだよ。息が詰まりそうだった」

 ロンがパイを頬張りながら吐き捨てた。

 

「でも、凄く頭が良さそうだったね」

 ハリーの言葉に、さとりは苦笑した。

「……良すぎるくらいよ。あの子の頭の中は、教科書が爆発したみたいなことになっているわ」

 

 だが、安らぎは長くは続かなかった。

 再び扉が開く。今度の空気は「知識の熱気」ではなく、針のような「冷ややかな悪意」を伴っていた。

 

「本当らしいな。ハリー・ポッターがこのコンパートメントにいるっていうのは」

 

 現れたのは、青白い顔をしたプラチナブロンドの少年だった。

 ドラコ・マルフォイ。

 彼の背後には、クラッブとゴイルという、考えることを放棄したような肉の壁が控えている。

 

 さとりの第三の眼が、マルフォイの心に触れた。

 

『ポッターか。僕の味方につけておけば、父上も喜ぶだろう。ウィーズリーの汚いネズミと一緒にいるなんて。格というものを教えてやらなきゃな。……それにしても、あのピンクの髪。東洋の珍しい呪いか何かか? 奴隷として飼うのにはちょうど良さそうだ……』

 

 さとりの瞳が、氷のように冷たく凍りついた。

 

「……あいにくだけれど、私は誰かのペットになるつもりはないわ。マルフォイさん」

 

「……何だと?」

 マルフォイが目を細めた。

 

「あなたのその、剥き出しの選民意識と……『誰かに認められたい』という震えるような臆病な心。……あまりに騒がしくて、反吐が出るわ」

 

 マルフォイの思考が、一瞬で「屈辱」という真っ赤な炎に変わった。

「……貴様、誰に向かって口を利いている。その不気味な目を抉り出されたいのか?」

 

「やってみればいいわ。……ただし、あなたの『ボディーガード』たちが動くより先に、あなたの脳内に、あなたが一番恐れている『父親の失望した顔』を直接叩き込んであげるけれど、いいかしら?」

 

 さとりの第三の眼が、鮮血のような赤色に輝く。

 マルフォイは息を呑み、思わず一歩後ずさった。

 彼の心にある「恐怖」という感情が、さとりの冷徹な意志に完全に掌握されていた。

 

「……っ、行こう。こんな連中、相手にする価値もない」

 

 マルフォイは捨て台詞を残し、逃げるようにコンパートメントを去っていった。

 

「……ふぅ。……騒がしい連中ばかりね、この学校は」

 

 さとりが椅子に深くもたれかかると、ロンとハリーは呆然とした顔で彼女を見つめていた。

 

「……さとり。君、本当にかっこいいな」

 ハリーの純粋な称賛の思考が、さとりの脳に心地よく響いた。

 

「……当然よ。私は地霊殿の主なんだから。あんな子供の脅し、怨霊たちの叫びに比べれば、そよ風のようなものよ」

 

 列車はスコットランドの山々へと差し掛かり、窓の外には夕闇が降り始めていた。

 目的地、ホグワーツはもうすぐそこだった。

 さとりは、隣で眠り始めたロンの寝息と、ハリーの静かな期待の思考に包まれながら、これから始まる長い「調査」に思いを馳せた。




さとりは第三の目と能力を隠さず、わりと積極的に披露します。
それは、隠していた秘密や事実が致命的な局面で発覚した場合、
取り返しのつかない事態になるのを知っているからです。
同時に、その稀有な能力は彼女自身の誇りで、覚り妖怪としての本能です。

とはいえ、地霊殿の主になる前はその能力を知られた時は、
殺されそうになったり迫害されたりしました。
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