【完結】残火の太刀を持ってるタイプの禪院扇 作:照喜名 是空
そして、また少し月日が過ぎた。
一言で言うのならば……世は事もなし、だ。
街は順調に復興していった。まあほとんどがツリーハウスによる『新世代型都市』とやらだが。
そこら中に注連縄や鳥居が乱立する……まあ、高専のような建築様式が一般的になった。
それでも、繁華街などは枝にネオン看板をぶら下げたりして華やかだ。
式神による立体投影広告など目新しいものもある。
「この街も変わりやしたね……」
「世の習いというものであろうな。この車でさえそうであろう」
「呪具ハイブリッド車で私らには扱いやすいんですがね」
今日も信朗の運転する車で街を走る。
といっても任務ではない。七海君の結婚式の帰りだ。
まさかパン屋になるとはな……
「よい式であった」
「最近多いですわ。やっぱ乙骨さんが卒業してすぐ式をあげたせいですかねえ?」
「で、あろうな。与くんもあれからすぐに三輪君と入籍だからな」
私は小型コガネを操作して乙骨君とリカさんの結婚式の写真を眺める。
海に近い白い小さな教会で友人や家族を呼んでのこじんまりとした式だったらしい。
ウエディングドレスを着るリカさんと、タキシードを着て珍しく照れた笑顔を見せる乙骨君。
いつ見てもめでたい写真だ。
「乙骨さん今度2人目が生まれるそうで。何贈りましょ」
「やはりカタログギフトが丸かろう」
「へい、いつものやつを禪院家名義でやっときますわ……それにしても長男の依織くん、父親そっくり過ぎじゃありやせんか」
リカさんと乙骨君は半人半霊の子をもうけることができた。
まさに禍福は糾える縄の如しだ。
それが可能になったのも羂索の研究ノートのおかげだ。
加茂家がノートを掘り出し、九十九くんと夏油くんが頭をひねって解き明かしたのだ。
……羂索という邪悪であっても、一つでも徳を積めることができたのかもしれん。
地獄で冥助になることを祈る。
「……2,3歳でここまで人は父親に似るものなのだな……」
「びっくらポンですわ……」
信朗の声には若干の畏怖があった。たしかに……なんというか、血が濃いな……
「次はおそらく悠仁くんであろう。小沢……といったか。一般人だが、気立ての良い娘だった」
「10人家族ですから今から心配ですわ。小舅多すぎでしょう」
「気を使わねばなこちらも……ところで信朗、恵の付き合っている娘だが」
「ああ、来栖さんでしょ?調べときやしたよ」
うむ、恵も実は何やらいつの間にか彼女ができておった。
なんでもはるか昔に呪霊から助けた縁、だそうだが。
まことであろうか……?
「まあシロですわ。実際そういう呪霊案件あったみたいですし」
「そうだとしても、ハニートラップなどは……」
「こっちもシロっすね。強いて言えば共生型受肉なとこくらいでしょ」
私は大きく溜息を吐いた。そうか、よかった。
あとはいかな結果になろうと、真剣に恋をしたという経験は恵の強さになるだろう。
「……そうか。それはよかった……まあ、あの年頃というのは繊細だ。手出しは無用」
「っすね……馬に蹴られたくはありませんや」
高速道路を呪具ハイブリッド車が軽やかに浮かぶように走る。
この車は車輪はブレーキ用に地面に置いてるだけで、振動が実に少ない。
ふと外を見ると……電光掲示板に真依の姿が映る。
『呪具開発の
真依は今や真理と共に禪院お抱えの呪具師を束ねて呪具の研究所を立ち上げていた。
そこでできた試作品は特許を取って大手メーカーに製法を売りつけている。
真依はそのやり方で御三家の財力を立て直した。もう押しも押されぬ禪院の呪具師だ。
立派になったな、真依……
「立派になったものだな……」
「へい、若旦那もご立派に新当主になられて……ようやく御三家も安泰ですわ」
「うむ、兄者も安心して隠居できよう」
直哉は嫁を取り、新当主として華々しく呪術界に君臨した。
もはや直哉の実力を疑う者は誰もいない。
御三家はどこも代替わりしてずいぶん呪術界も若返った気がする。
伝統の五条、実力の禪院、政治の加茂、と言われるほどだ。
「まさか大旦那様が手作りアニメをされるとはびっくらポンでしたわ」
「うむ、趣味に金をかけられる老後だ。兄者にふさわしかろう」
「激動の時代でしたもんね……」
「まったくだ。その中で舵取りをした兄者の苦労を思うとな……」
兄者はすっかり隠居して今では手書きアニメの会社のオーナーとなった。
ときおり自作アニメを動画投稿している。
この激動の時代で兄者は舵取りをして次に引き渡した。
その計り知れぬ苦労を思うと、どうか兄者に穏やかな老後があって欲しいと祈らざるをえん。
「激動と言えば夏油くんと五条くんはまだ海外を飛び回っているのか?」
「らしいっすわ。二人とも嫁とったのにようやりますわ。今、インドネシアですと」
「家族ぐるみで世界中を飛び回る、か……まあ、夏油くんは五条くんがついておらんとな……二人も嫁がいるというのに夏油くんは……」
「へい、私からは何とも言えやせんが、その方がいいんでしょうな」
コガネに新聞のニュース欄を見せてもらう。
ふむ、日車くんがまた法案を作ったらしい。うむ、妥当な内容だ。
日車くんはあれから政府から終身刑の判決をもぎ取った。
代わりに政府からの交換条件で刑務作業として法案作成の草案を作っているそうだ。
「なんというか、みな収まるところに収まったな」
「まったくですわ。命張った甲斐がありましたや」
「そうだな……戦った結果、守り抜けたのだからな」
色々あった。いろいろあったが、人類は生き延びた。世界は守られた。
私たちは家を守れた。ならばそれでいいのだろう。
さあ、帰ろう。家に……
≡
直哉はその夜、復興した京都の町を歩いていた。
いきつけの場末のスナック帰りである。墨を垂らしたような暗い静かな夜だ。
「さっきからバレバレやで。何なん君。ファンやったら色紙くらい持って来いや」
直哉の後ろから、ヒョウ柄のマントを羽織り、手足には手甲と足甲のように甲殻類のような殻がついている。肌の色はおよそ人間とは思えない灰色だ。長い白髪がさらりと風になびく。
「我々は『バウンス』!我が名は
直哉はため息をついて肩をすくめる。
「あー、またそういうノリなん?ええ加減にしてや。悟君も言っとったで。できもせんことを言い訳にチマチマチマチマ悪事を働くのクッソキショイってな」
我宇名が呪力から斬魄刀を生成して構える。
「聖・漏瑚は言った!この戦いは、百年後の世界にどちらの種族が生き残るべきかの戦いだと!」
「あ、そう。宗教もあるんやねご苦労さん」
「我宇名だ!私には名前がある。知性がある。だから、尊厳があるんだ」
直哉の狐目がさらに鋭くなる。
「さよけ。ところで日本には二千くらい無人島あるんやけど、そこで自活すんならだれも文句言わへん。なんでせえへんの?平和に暮らせへんから呪霊はカス種族や言われて狩られんねん。わかる?」
「わかっていないのはそっちだ!これは世界の主導権を奪いに行く戦いだ。薄っぺらい正義の押し付け合いだ!」
「今じゃ呪霊、あんま生れへんから精霊への格上げやってしてあげとるやん。それでええやろ」
「それは従属と何が違う!我々は人間なしで種族としてすでに成立しているのだ!」
直哉は腰に佩いた斬魄刀に手をかける。
「さよけ、ほんならもう言葉はいらんね。卍解―神死槍」
「
闇夜に二つの影が躍り出す。
「僕らの戦いはこれからやって言う所やね!」
呪術師は今夜も夜の帳の中で闇を祓う。
「残火の太刀を持ってるタイプの禪院扇」 完
ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!
書いてる私も楽しかったです!お付き合いありがとうございます!
また次回作でお会いしましょう。