Re:古明地さとりは覚妖怪である   作:ヒジキの木

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前史幻烈 10

 

あたいはまだ人型を取ることは出来ない。ただの猫又だ。

多少生きていく上での戦闘技能とか、知恵とかは持っているけれど、それでもただの妖怪。

だからといってこのままでいいわけでもない。少なくとも…

 

「ほらいくのだー!」

 

 

目の前の常闇妖怪が投げる雪玉くらいは避けれるようにしないといけないわけだ。

こっちの動体視力を優に超えた速度で飛んでくる無数の雪玉。

こんなの雪合戦じゃない!

 

 

人の家に押し入って食べ物を貪った挙句そのまま眠ってしまった美少女常闇妖怪。そいつをそのままにしたさとりもそうだけど、そいつの近くで監視ついでに寝ていたあたいにも責任はあるのかもしれない。

 

寝起き早々に外に積もった雪を見て、あたいと雪合戦をして遊びたいなんて発想するほど幼いとは思わなかった。

 

最もそれを断れなかったあたいは妖怪としてのプライドをその時点で失っていた。

 

っていうかなんで猫のあたいと雪合戦なんですか!

あたいは寒いの嫌だって言ってるじゃないですか!え?猫の言葉なんてわからない?すいませんね!まだ人型になれなくて!

 

雪合戦しようという誘いに乗ってしまったあたいを呪いたい。

飛んでくる雪玉は圧縮されていて石みたいに硬い。それが妖怪の力で投げられるのだからたまったものではない。あたいが盾にしていた木はズタボロになってしまっている。

「ほらほら、さっさと撃ち返すんだぞー!」

 

「無茶苦茶すぎるわ!」

 

雪玉作れないって!あ!せっかく作ろうとしたのに壊すな!

 

「あははー!避けるな!」

 

なんだその理不尽な命令!従ってたまるか!

 

にぎゃー!たくさん投げてくるな!嫌だあああ!

回避の練習になるのはいいけどこれじゃ戦えないって!

 

「えーい!」

 

巨大な雪玉が宙を舞う。回避なんて無理なほど大きくて早い一発だ。

あ、これ死んだわ。

視界いっぱいに広がった雪の塊が体にぶつかるまでの時間であたいは走馬灯を体験した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遊んでますねえ…」

 

玄関先で猫又とルーミアの雪合戦が展開されていた。

 

二人とも楽しそうに投げてますね。一方的ですけど

初対面の相手なのにルーミアはあんなに呑気に遊んでられるとは…能天気なのか心が広いのかなんなのか。まあ悪い妖怪では無いです。

食に問題はありますけど。

 

 

雪玉の中からお燐が出てくる。

 

「あの、そろそろ雪遊びも終わりにして…」

 

「お?出来たのかー?」

 

朝ごはんの匂いに気づいたルーミアが一目散に近づいてくる。その際に猫又を踏んづけているのは見なかったことにしましょう。

満身創痍の猫又を回収すると、余程寒かったのか体がガクガク震えている。

体温も結構下がって来ている。ルーミアも少し震えているようだった。

「やれやれ…だから外で遊ぶのは控えた方がいいと…」

 

「言ってないよね」

 

言ってませんよ。

だって言う前にもう外にいたじゃないですか。私の知るところじゃないですし。

 

 

「……あったかいもの用意しているので、それを飲んで落ち着きましょう」

 

冷え切った猫又を抱き抱えて温めつつ、家に足を踏み込んだ。

団欒と言う言葉は私には似合わないですが、悪くはないのかもしれませんね。

 

そう思ったっていいじゃないですか。まあこっちから他人を信用しなければそんなことは一生出来ないってのは分かってますけど…

信用するって難しいです。特に私は臆病ですし怖がりですから。それでも求めたくなってしまうのは孤独に耐えきれない人間の性なのでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へえ、あの常闇妖怪と仲良くなってると……」

大天狗にあてがわれた屋敷で私は柳の報告を黙って聞いていた。

 

「はい、その通りでございます飯綱丸様」

最近山にやってきた素性不明の流れ者。さとりと名乗ったその妖怪の実力をこの目でしっかり見てみたくて、少しばかり遊戯をした。

 

あの鬼の萃香を相手に()()()()とは言え引き分けたその実力は確かに本物なのだろう。だがそれはあくまで勝負という範疇での話だ。実戦での力はよく分からない。私が気になったのはその実戦での力だった。

彼女が天狗に敵対するにしても、仲間になるにしても彼女の力が分からなければどうすることもできない。

 

 

仕掛けは単純。

山の近くを彷徨いては、何十年かに一回大量に人間を喰らう面倒な妖怪である常闇妖怪。彼女を利用した。

それとなくお腹を空かせた彼女を誘導するのは骨が折れた。勿論その努力に見合った成果は得られた。

 

 

監視していた柳からの報告は私を楽しませるものだった。

他の妖怪だったらそうはならないだろう。天狗なら相容れない相手としてどちらかが死ぬまで戦う事になる。

人喰いという行為そのものから生まれた妖怪だ。人の畏怖から生まれた天狗とは根本的に性質が異なる。

大抵の妖怪はそうなるだろう。例外は同じく人を喰らう事を生業とする妖怪だ。ではさとりは人を喰う妖怪なのかと言われたら否だ。

さとりからは人喰い妖怪特有の匂いが、血の匂いがしなかった。

 

相容れないはずの妖怪同士が仲良くなる。それは異質で、異常で、異端な私には必要な力だった。

「面白いじゃないの。やっぱ追い出さないでおいて正解だわ。あれは使える」

さとりという妖怪に私はシンパシーすら感じていた。ぜひさとりとは仲良くしたいものだ。それに敵に回すと厄介だ。もしさとりが本気を出したら妖怪の山が二分しかねない。

 

 

「そうですか」

どことなく柳もホッとしていた。どうやらすでに柳も陥落しているのか。あるいは、彼女に対する憐れみ故か。

 

 

 

さて、さとりの事も知れた事だ。本題は当初の予定通りに進めて大丈夫だろう。このことは他言無用。人除けの結界を貼らせてもらう。

 

「人除けの結界ですか……」

便利だよね。陰陽術って意外と妖怪との親和性が高い。人間にとっては妖怪や悪霊への切り札だけど使い方次第では妖怪も扱える。

 

「ここからは他言無用。個人的に信頼している君だから話すよ」

そう伝えると、柳も剣を畳の上に置き、私の前にひざまづいた。白狼天狗が忠義を示す時の格好だ。

「柳、最近都の方に何かが落ちたらしいと言うのは知っているか?」

 

「ええ、流石に噂は流れています」

事の発端は一年前。雪を降らす重い雲を切り裂くような赤い光が西へ抜けていったのを大勢が目撃した事に端を発する。

最初こそ隕石が降ってきたのではないかという話だった。大抵空から星が降ってきても地上まで落下する事はまずない。

この時も地面に落下したかどうか定かではなかった。少ししてそれが都近くの山間部に落下したのではないかと言う噂が立っていた。

 

問題は落下したものだった。

「とある情報筋だが、どうやらそれは月の民らしい」

最近都では顔を中々見せない絶世の美女の話が噂として流れている。どうやらそれと関係があるらしい。

「胡散臭い隙間妖怪ですか」

 

「胡散臭いのは事実だが言葉を慎め」

 

あの妖怪はどこで聞き耳を立てているか分からないからな。あまり口が悪いとアレの怒りを買いかねないしな。

 

「そうですか。生憎月に生命体がいると言う事自体が俄かには信じられないので」

 

「白々しいな。まあ本題はそこじゃない。私が興味があるのは月の技術さ。月の民は別にどうでも良い」

正直月の民が一人くらい地球にいようが何も問題はないだろう。だが何も持たずに地上にいるとは考えづらい。私がほしいのは月の民の卓越した科学技術。断片でも良い。

「はあ、河童の技術力があるのにですか?」

 

「分かってないな。河童の持つ技術の数世代先の技術だぞ。あの空高くに輝く月に住む異星人だ。現状では科学技術を独占している河童ですら、足元に及ばないだろう。その技術の鱗片だけでも保有できれば我々の権力は安泰だよ」

全ては天狗社会の安定のためだ。勿論成功してもしなくてもどちらでも構わない。元よりそう簡単にいくとは思っていないからな。

 

「そうですか、では調べにいった方が良いですか?」

 

「まあ待て。何も白狼天狗である君に行ってほしいなんて、一言も言っていないぞ。大体、あの妖怪の言うことはあまり信用できなくてね。そんなところに大事な部下を送り込むわけないだろ」

 

「では誰を……あ、そう言うことですか」

察しが良くて助かるよ。でも上司に対してその反抗的な目は頂けないな。確かにさとりを捨て駒にするようにも思えるが、彼女こそ穏便に事を進めるのに適った妖怪はいないと思うな。

 

「さとりなら十分力になってくれるだろう」

 

「……人が悪いですね」

 

「使えるものはなんでも使う主義なだけだよ。別に私がこの立場を放り投げて都に行っても良いんだぞ」

実際私が動けるならそれに越した事はない。だが立場上それが難しいと言うのも事実だ。

「それはおやめ下さい」

 

「……そう言うことだ。動き回るには今の立場は堅苦しいからな」

全く、大天狗なんてなるんじゃなかったよ。ただの鴉天狗ならどれほど良かった事やらだ。だから私はさとりが羨ましい。

 

「それにさとりにとっても悪い話じゃないだろう。何せ月の技術だぞ。さとりだって興味が無いわけないだろう」

彼女への報酬は技術の供用とするか。もっと別のものを望むのならそれでも良いけれどね。

「では私が伝えてきますか?」

 

「お願いするよ。それと監視もよろしくね」

 

「監視ですか?特段彼女が裏切るとは思いませんが……」

 

「いやいや、監視と言ってもさとりを見張るんじゃないよ。さとりが危なそうになったら助け出すための監視さ」

 

「素直じゃないですね」

 

 

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