Re:古明地さとりは覚妖怪である   作:ヒジキの木

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前史幻烈 15

 

 

八雲紫がこちらに接触してきてから二週間と経たずに、彼女は妖怪達の合間に噂を流した。狡猾なのはその噂が知性の低い低級の妖怪にのみ伝わるようにしていた点、知性のある相手には割に合わない相手。そう思わせているところだ。

その間に私はと言えば、妹紅の遊び相手をやってたり、輝夜の相談相手になったり月のことで色々と話し合ったり。かと思えば、妖怪として暴れたり暴れなかったり色々とやっていた気がする。

 

 

そんなこんなで輝夜が言っていた使者が来る日まで残すところ4日となった。

 

 

 

既に人間も妖怪も大騒ぎです。

都なんてもはや業務が滞りつつある。月からの使者なんてお祭り騒ぎにならない方がどうかしていますし、御門と庫持皇子は兵を集めて輝夜を守る気満々ですし。

そうでなくても野次馬根性働かせている人の多い事なんの。

 

そんな状態だけれど、あまり都で何かしていると怪しまれてしまうので最近は猫又達と家にこもっている。

 

妖怪の方もかなりの数が都の周辺に集まり出しているせいで陰陽師も警戒していますからね。

 

 

ただ、猫又もルーミアも月の使者に興味津々だった。

どうやら紫に吹き込まれたらしい。

私はそのつもりではなかったのですが、こうなってしまっては私から二人を誘わないと知らないうちに巻き込まれてしまう可能性が出てきてしまった。

 

 

私に出来る事は限られていますしルーミアさんみたいに強いわけでもない。

そんな私が自身よりこの子達のことを心配してしまうっていうのも変な話なんですけどね。

そう言うわけで、私が集められる戦力はなんだかんだ揃った。

 

 

 

 

 

そうして、満月の夜がやってきた。

 

 

 

 

 

輝夜が月からの迎えを予定通りにカミングアウトしたおかげで屋敷の周りは凄いことになっていた。

私達もまたその大挙する群衆に紛れ込んでいた。

ルーミアはそういうのが苦手だからと闇に溶け込んでいた。彼女はただ月の人間の肉を食べたいだけなのだろう。

 

 

 

 

「ところで、最近妖怪の合間に広がってる噂なんだけど…輝夜姫を月の迎えから奪った奴は輝夜姫の全てが貰えるって…」

 

「ああそれ、この前来ていた隙間妖怪に頼んで私が流させました」

 

「やっぱり……」

 

落胆したように腕の中で猫又がうなだれた。

だってなるべく戦力は多い方が良いじゃないですか。大体猫又は一体何を期待していたんですかね。

 

 

「それで、あたいらはどうするの?」

 

「私の合図で輝夜を回収します。後は森に逃げ込んで追手を撒くのと、月の使者にいる輝夜親協力者との合流です」

 

「なるほどね、詳しくは……」

 

「そこは高度な柔軟性と臨機応変な対応で」

 

「行き当たりばったりね」

 

「物は言いようですよ」

 

ふと群衆の中に見知った顔を見つけた。庫持皇子だ。貴族らしく周囲には付き人がいる。そして本人も含めて全員が武装していた。そういえば庫持皇子はこの時代の貴族では珍しく騎馬兵出身の貴族家系で鎌倉武士よろしく根は戦闘民族でしたね。

そして私が吹聴して来るように誘惑したのですが、やはりというべきか家族よりも姫を取ったのですね。

 

一度捨てられたとしても、恥をかかされたとしても惚れた女だから彼にとっては放って置けないのでしょうね。

私が望んだ結果とはいえ、なんだか後味が悪い。でも今更もう引けない。

 

 

 

 

頭上を見上げると、普段よりも空が鮮明に広がっていた。一等星から四等星までの様々な星々の輝き、月のやけに明るい光り。まるで地球の大気のフィルターが無くなっているのかのような不思議な感覚だった。

彼らがやって来る前触れにしては随分とわかりやすい。上空をずっと見ていた猫又も異変に気付いたみたいだ。でも大半の存在はその違和感に気づかないだろう。その程度の差だ。

 

「来たみたいだよ」

 

「そのようですね」

 

月を背にして白い物体が点のように見え隠れする。人間達の方もそれに気づいた人たちが騒ぎ出した。

ふと妖気が揺らいだ。おそらく妖怪の方も気づいたのだろう。

 

だんだんと大きくなってくるそれは聖書に出て来る方舟のような形をした平べったい何かだった。

その方舟の外側に二つの外輪船のようなパドルのついた輪っかが取り付けられていた。

外版の材質は金属だろうか。でもどこか漆塗りの木のような感じもする。

 

竹取物語では空を飛ぶ牛車とかなんだとか言われてるけどあれは牛車じゃない。エンジンノズルのような物はなく、それ自体がどのように浮いているのかは分からない。既存の技術体系から逸脱した存在であるのは間違いなかった。

「ほへ〜?なんだいあの牛車」

 

それが近づいて来るうちにその細部がよく見えるようになった。

 

方舟の上甲板にはタンカー船のような横長の低い艦橋がありその上には二つの球体が乗っているようだった。全長は目算で250メートル前後だろう、相当でかい。

この時代にはこれに匹敵するような建造物は存在しない。正しく名前の通り世界最大のものだ。

どんどん地上に迫ってきたそれはものすごいブラストを地面に当てながらホバリングを行った。真下にいた人間が風で立っていられずその場に倒れた。

春一番とか比べ物にならない突風が吹き荒れる。

その風が収まると、船底に当たる所の一部が観音開きのように開いて中から人間が降りてきた。降り方がアブダクションの逆再生のようだ。数多の宇宙人の登場の仕方そっくりそのままだった。

そんな人間に続き、人間一人か二人が乗るような小さな多脚歩行戦車とバイクのようなものも降りてきた。

 

周囲の人間達が突風から立ち直った頃には既にそれらは戦闘配備を整えて警戒をしていた。

 

 

しばらくは様子を見ることにしましょう。

人間達も何かの術のようなもので身動きが取れなくなっているみたいですし…

 

「早く行かないの?」

 

「まだです」

 

輝夜からの合図が出ていない。それに私の目標はあれらのバイクもどきやタチ◯マ擬の奪取。それを間違えてはいけない。

 

輝夜が人間達の中から現れて月の使者の前に出た。何かやりとりをしているようだったが月の使者が壺のようなものを輝夜に手渡した。

なるほど、あれが蓬莱の薬の壺なのか。って羽衣着ないんですか?まあ着たら色々とまずいみたいなので放っておきますが…

そのまま式みたいなものはどんどん進んでいく。

ふと、両手を前で組むような姿勢をしていた輝夜の左腕が垂れ下がった。

合図が出た。

 

 

「今です!」

 

動き出したのは私と、もう一人いた。

外套のボタンを外し、サードアイを引き出した私と、月の使者の中に紛れ込んでいた一人の女性。

 

月の民の術式にかかり安易に動くことができないでいる全ての生物。

それら全ての記憶と情報を読み取り、術に陥った意識を強制的に覚醒させる。

サードアイが怪しく赤い光を瞳から放ちながら、人間達が我に帰ったかのように動き出した。

妖怪も人間も、弾かれたように輝夜達に向かって駆け出した。

女性の方はもっと過激だった。すぐそばにいた月の使者の首を懐にしまっていたナイフで引き裂いた。

それに気づいた別の月の使者を、懐から出した拳銃のようなもので吹っ飛ばした。

轟音が響き人間と妖怪が余計に殺気立って暴れ始めた。

あっという間に統率が取れなくなり、戦争が始まった。

 

 

戦車が火を吹き、バイクが騎兵の役割を果たすべく駆け出した。

全員銃のようなものを持っているためか、その表情に急はないようだった。閃光が銃から上がり、十数人がまとめて薙ぎ倒される。

 

そこにどこに隠れていたのか妖怪も加わった。大半は人間の形を取らない異形の妖怪だったが、彼らは人間より耐久力も力も数段上。必然的に打ち砕かれる人間達の前に出てタンクのような役割を話していた。

結局乱戦状態だ。輝夜は、どうやら女性の方と合流したらしい。

と思ったら突然その女性が動いた。

 

背中に背負っていた弓を素早く取り出し、真上に向ける。

突然のことで月の兵も反応できてない。と言うかコンマ数秒の早さで背中に背負ってた弓を構えるって凄すぎるんじゃないですか?あんな人相手にしたく無いですよ。

 

矢があろうところはまるでレーザー砲の様に淡い黄色に光っている。なにやらやばそうな雰囲気を放って……あ、発射した。

手が少しだけ動き光が弓から消える。少し遅れて空気を切り裂く音が聞こえた。

直ぐに飛ばされた矢を目で追う。

真上に打ち上げられたそれは数秒ほど飛び続けた後に…

 

 

「まずい!」

戦場を俯瞰しようと飛び上がった直後の私達はそのまま駆け出している人間達の中に潜り込んだ。

 

 

 

 

直後、物凄い閃光と轟音が辺りに響く。聴力が失われ無音状態になる。

少し遅れて地上でいくつもの爆発が起こる。当然私達の近くにも数発落っこちたみたいだ。

 

爆風で体が煽られ、近くにいた人間がそれに煽られて血を撒き散らしながら空高く舞い上がった。

 

爆音が止んだので頭をあげる。

 

すごい穴ぼこだらけな上さっきまでいた月の兵の半数の姿が見当たらない。戦車も二台程破壊されたのか。黒煙を吹き上げて活動を停止している。

それよりも巻き込まれた人間や妖怪もそれの倍以上が転がっていた。

 

 見渡すと輝夜は女性と共に森に逃げ込んでいた。当然のように追撃の部隊がそれを追いかけて森に入った。当初の計画通りだ。

 

「追いかけますよ」

 

「ああ、そうだね」

 

輝夜を追って森に入り直前後ろを一瞬だけ振り返ると、残っている月の民が懸命に妖怪や人間を迎撃していた。

 

 

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