Re:古明地さとりは覚妖怪である   作:ヒジキの木

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前史幻烈 18

 猫又が拠点にしていた建物に帰って来たのはあの戦いから二日後だった。

輝夜達は無事に目的の場所に辿り着いたらしい。迷いの竹林。いつの頃からかそう呼ばれている場所である。強い妖力の溜まり場だからか、あるいは霊道になっているせいか空間が歪みやすく内部は認知が難しい場所だ。月がどれほど超技術や超能力を持っていようとそう簡単には見つけられないだろう。

あそこはそう言う場所だ。だから私も、彼女に会いに行くのはしばらく無理そうだ。無理に会いに行ったら永遠に竹林を彷徨う羽目になりかねない。

 

「……気になりますか」

報告をしながらも、猫又は私のすぐ隣で寝かしつけられている少女の方に意識が向いていた。

 

「人助けですかい?」

 

「ええ、同族になったけれど」

二日間彼女は眠り続けていた。その合間にも、彼女の体はどんどん変化していった。

黒色だった髪の毛は薄い緑色の髪の毛になり、二本の管を持つサードアイが胸の上で形成されていった。体格は変わりはしなくても、体は確実に妖怪に変化していった。

「半妖ってやつかい?」

「いいえ、半妖は人間と妖怪の合間に生まれる子供。彼女は正真正銘の妖怪よ」

人間の時の失った血が多すぎて、彼女はもう人間ではなくなっていた。

 

「ふうん……随分とお人好しだねえ」

 

「今の都の混乱具合を見てもそう言えますか」

 

「でもそれは輝夜に狂った者達が起こしたことさ。確かにさとりは最後の一押しをしたのは確かだろうけど、そこに至るまでは彼ら人間の責任さ」

そうなのかもしれない。でもそれを利用したのは確かだ。その罪だけは私のものだ。

それに妹紅も、あの後姿を見ることはなかった。屋敷にも戻っていないようだ。

まあ、彼女は強いですしどこかで生きているでしょう。それに……いや、これ以上彼女に関わるのはやめておきましょう。

 

 

布が擦れる音がした。猫又と揃ってその方向を見ると少女が上半身を起こしていた。

 

「おはよう」

 

「おは、よう?」

まだ覚醒しきっていないらしい。まだ妖怪になった自覚もないのだろう。

「ええ、ようこそ。此方側へ深淵はいつでも貴女を歓迎するわ」

 

「えっと……」

 

「ああ、まずは名前をつけないといけませんね」

 

さて、彼女の名前をどうするべきか、女童の時は名前で呼ばれることはなく、彼女に個があるとは言い難かった。

そう思っていると、少女は、妹は一言だけ言葉を紡いだ。

「こいし」

 

「え?」

 

「私はこいし。よろしくねお姉ちゃん」

天真爛漫な笑顔で彼女は私を見つめていた。

 

 

 

 

 

そして後日談。

散々暴れた後の惨状を尻目に、私達は山に帰ることにした。ルーミアは気づいたら居なくなっていた。気まぐれに何処かに行ってしまうところは猫又と似ている気がする。

 

 

月の民は地上に残された自分たちの同胞と、持ち込んだ器材のうち回収できないと考えたものを破壊するつもりであの爆弾を落としたのだろう。

案の定地上にあった月の民のものと思われる道具は軒並み破壊されていた。

だけれど輝夜を追って森に入って死んでいった者達の道具はそのほとんどが破壊されることなく私の手元に残された。

これを得るために私はどれほどの人間を巻き込んだのか。これらに、それに見合う価値があったのか。

今はまだわからない。ともかく私にできることはソレを手土産に飯綱丸さんに会いに行くことだけだった。

まだ自由に飛び回ることも能力の使い方すらもわからないこいしを連れて行くため地上を歩いていったから軽く一月はかかった。

 

少し時間は経ったが、ともかく鹵獲できたソレらを飯綱丸さんに収めると、彼女は玩具を手にした子供のように喜んでいた。

無邪気で傲慢な、まさしく子供そのものだった。

 

だけれど、彼女にも面子があるからその事を指摘はしない。何より……彼女からの信頼を得られたのだ。それを無にするような事は言わないでおこう。

 

 

 

そういうわけで、私は家に訪ねてきた柳さんに一連の事の顛末を話していた。

どういうわけか柳さんには色々と話して大丈夫だろうと無意識に思ってしまう。柳さんは人垂らしなのだろう。魂がきっとそう言う形をしているのだ。

「随分と長い間居ないと思っていたら、随分とまあ……」

 

「ですが平和で良かったのではないですか?」

私はどちらかと言えばトラブルメーカーなところがあります。ソレが居ないだけ平和だったのではないでしょうか?

「別にさとり一人くらい居ても居なくても平和は変わらないさ」

あっけらかんと笑う柳さんに、なんとなく私自身も安心してしまう。

「しかしその妹紅という少女、この先どうするのだろうな?」

へえ、妹紅にも興味を持ちますか。確かに肉親を亡くした者は大勢いるけれど彼女の場合貴族、それも……父親は曲がりなりにも皇子。と言うことは御門の家系に連なる存在だ。

まあ大方ですけど隠し子か、あるいは愛人との子供でしょうけれど。

 

 

「どうなるのでしょうね?」

未来を知っているのは私だけ。

きっと彼女は今頃富士山だろう。そして彼女は薬を強奪して服用する。

変な神様に目をつけられてしまう彼女はある意味運がない。それでも彼女の永遠の人生に幸あれ。私はそう願う。

 

「いずれにしても、選ぶのは彼女達次第。柳さんも長生きしたら会えるかもしれないわ」

そう、いつの日か彼女達は表舞台に再び立つだろう。世界を知りたいお転婆娘は絶対に竹林で引き篭もりはしないから。

「……?」

 

「なんでもないわ。忘れて」

 

 

「お姉ちゃん誰と話しているの?」

襖の奥からこいしが顔を覗かせていた。彼女にもフードのついた外套を渡してはいるけれど、それを彼女は着用したがらない。私と違って覚妖怪らしい。

 

「柳さんよ。顔を出したのなら挨拶してね」

そう言えば山に帰ってきてからこいしは家に篭りっきりだったわね。人間から覚妖怪になったばかりだし、下手に能力を使えば彼女の心が保たないと本人も納得しての事だったけれど…柳さんなら大丈夫だろう。万が一の時は私もいる。

「う、うん。初めまして柳さん」

私もサードアイを少しだけ覗かせて柳さんの心を読んでみる。

「ああ、君がこいしか。よろしくな」

(なかなか、可愛い子供だな)

 

ああそう言えば天狗は種族的に子供に好意を持ちやすいんでしたっけ。

「可愛い?やったー!!可愛いって初めて言われた!」

 

(ああそうか、心が読めるんだったな。案外便利だな)

 

「そうだよね!でも読み過ぎちゃうところもあるから私達と話す時は思考は単純化したほうがいいよ。ほら、今剣術の事について考えてたでしょ」

こいしの方が覚妖怪に詳しくなってる。いつの間にそんな知識覚えたのかしら。

(ふむ、そう言うものなのか。こいしは体幹が良さそうだからな。鍛えていないだろう体でその体幹なら才能があると思ったのだが)

 

「ちょっと柳さん。横着しちゃダメですよ」

私達にとっては会話が成立していても第三者から見たらただ一方的に私達が話しているだけに過ぎない。他の人の目があるところではやめさせよう。

「すまないな。案外便利だったものでね。それじゃあ……せっかくだし剣術でも教えちゃおうかな」

 

「本当⁈わーい!」

 

「こいし、習う時は心を読まないでやりなさい」

 

「なんで?」

首を傾げるこいし。

「覚妖怪は種族として相手の考える事を模倣する能力が備わっているの。それの応用で相手の行動を先読みしたり動きに合わせて対応したり……トラウマを引き出したりしているのだけれど、それをしても体に身についているわけじゃないから術を習いたいなら意味の無い事になるのよ」

 

「あー……なんとなく分かったかな。要は模写してるだけみたいな感じ?」

 

「そうね。貴女にとってはそれが感覚的に近いかしら」

悪い事ではないけれど、型を知り、精神をも鍛える本来の考えからしたらただの真似っこか劣化コピーに過ぎない。だから私はあまり好きではない。

 

「おいおい、まさか私を師にするつもりか?」

 

「嫌ではないですよね?」

 

「そう言われたら断れないな」

苦笑する柳さん。まあ、師範向きなんですよね。本人は苦手だと思い込んでいるようですけど。

 

そう言うわけでこいしは妖怪としてのアレコレより先に剣を学ぶ事になった。

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