Re:古明地さとりは覚妖怪である   作:ヒジキの木

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想天廻廊 7

射命丸文の首を狙い澄まして振り下ろされた刀は、しかし彼女に届くことはなかった。

 

その刃を弾いたのは彼女のよく知る白狼天狗の刀だった。

 

犬走柳の、刀を持っていない側の手で射命丸を放り投げた。彼女の体が軽い石のように放り投げられ、敵から強引に距離を取らされた。

それでも射命丸の体は一定距離を飛んだ後、透明な壁にぶつかり地面に叩きつけられた。

痛みに顔を顰めながら射命丸は自分がぶつかったものの正体を探ろうとした。

すぐそばの石に貼られたお札があるのに気づいたのは柳だった。

 

「結界か。逃がさないつもりか……」

 

「妖怪風情に答える義理はない」

黒色の装束衣装を着た男は、そう言ってお札を袖口から取り出した。

そのお札に霊力が流され、淡く黄色い光を放つ。

すぐにお札は人形を形成し柳と男の合間に降り立った。

「ッチ、やっぱり式神か」

 

それは比較的小柄な鬼だった。肌は赤く、ツノが生えた異形の姿。

勇儀や萃香を知っている柳でも初めて見るタイプの鬼だった。

 

 

 

 

空を飛べる事がこれほど役に立ったのはいつ頃だろうか。

山肌を走っていくよりも何倍も早い。それはそれとして、星熊勇儀さんも、空を飛べるのが意外だった。

彼女曰く短時間なら飛べるらしい。萃香さんは割と簡単に飛んでいるけどあれは彼女自身の能力の応用なんだとか。本来ならそう言う能力や種族的に空を自由に飛べる妖怪でもなければ空を飛ぶと言うのは恐ろしく非効率かつ疲れるものらしい。

 

それに空を飛んでいると目立つからよく狙われるのだとか。でも地上もかなり敵が侵入しているので迂闊に降りたら良くないのではと思うのだけれどそれは考え方の違いらしい。私の考えはどちらかといえば天狗寄りなのだとか。

そう言うわけで地上に降りると、案の定式神が襲撃してきた。

黄色い光を纏い、水流に残る泡のように空間に軌跡を残して飛ぶ鳥が襲ってきた。

小鳥くらいの大きさと言っても、鉤爪は鋭く容易に体を引き裂きかねない。

ただ、勇義さんが全部蹴散らした。さすが鬼。

だけど私達を待ち構えていたのはそんな存在だけではなかった。

 

空気を切り裂く音がして、私の頬を何かが掠めた。

鈍い痛みが走り、引き裂かれた頬から鮮血が流れてくるのがわかった。

直後に小石サイズの妖弾がいくつも襲いかかってきた。

一緒に来ていた白狼天狗の1人がその弾幕に捉えられて吹き飛んだ。サードアイで心を読める状態にしていたから視界から消えても死んでいないのはわかった。

残ったもう1人の白狼天狗が吹き飛んだ仲間を回収するのを援護するため、私と勇儀さんは相手に突撃した。

隠れている様子はなかった。と言うか攻撃をしてきた時点で居場所はバレているようなものなのだ。

 

私と同じでフードのついた全身を覆うような服装をしていた。

その人物に対して勇儀さんが思いっきり殴り込んだ。私も同時に蹴りを叩き込んだ。

 

だけど相手は予想以上の存在だった。

私の蹴りと勇儀さんの拳を手で受け止めていた。そのまま押し返してくる。

体が飛ばされる直後に、サードアイがフードの中をとらえた。

 

(なるほど、確かに貴女ならこう言う事をするのも頷けますね)

 

拳を受け止められた勇儀さんの表情が驚きに変わった。

正体がすぐにわかった私と違って、彼女からすれば自分の渾身の一撃を真正面から受け止めた得体の知れないやつなのだ。

咄嗟に私が蹴りを入れると、その人影はバックステップを踏んで距離を取った。

私と同じくらいの背丈のそれはかぶっていた布を外して素顔を見せた。

「鬼がいるなんて聞いてないって言えばいいか?残念だけど知っていたぜ」

 

 

「さとり、あいつはなんだい?」

 

「…天邪鬼です」

服装は違うけれど、白地に赤と黒の模様。髪もそれに合わせて赤と白のメッシュが入った少女。紛れもない鬼人正邪、そのご本人だった。

 

奇しくも原作キャラの登場だった。ただし敵として。

 

「天邪鬼?」

おや、勇儀さんも知らないのですか。

「鬼の一種と思っていただければ……」

名前に鬼って入っているしツノもあるから鬼で間違いない。

「そう言うこと、詳しいなあ、流石、覚り妖怪ってところか」

 

「私をご存知ですか?」

 

「いや、初対面だ」

 

しかし,隙がない。私達2人を同時に牽制できる位置に常に居続けている。戦い慣れしているのは明らかです。でも向こうも攻めきれていないようですね。心はかなり焦っているようです。問題は……覚妖怪対策で思考を分散している事でしょうか。

先読みがしにくいし本心がどこにあるのかわからない。

「2体1ってのは公平じゃねえなあ?」

安直な挑発。でも勇儀さんには効きますね。

「戦いに公平もないもあったものでは……」

 

「いや、相手が鬼なのならここは譲れない。さとり、先に行け」

案の定勇儀さんは挑発に乗ってしまった。

「よろしいのですか?天邪鬼は厄介ですよ」

特に彼女の能力「なんでもひっくり返す程度の能力」は相当に面倒です。

重力もそうだし、何より相手の動きも、実力差さえも逆転させてしまう反則級の能力。

だからこそ理外の怪物である鬼を冠しているのだ。多分実力だけなら萃香さんと同等でしょうね。

「問題ない。なんか鬼のくせにどうもこいつはぶん殴らねえと気が済まねえくらいムカつく」

ああ、確かにそうかもしれない。正邪の性格も有りますし、天邪鬼は嘘を嫌う普通の鬼とは相容れない存在でしょうし。

「おいおい、怖いこと言うねえ。まあ覚りも、大事な仲間が今頃どうなっているか心配だろ?」

 

「痛いところを突いてきますね。では、せっかくですし貴女にとってはハンデということで」

ただ一つ言えることは、自ら望んで妖怪を裏切り配下に加わった貴女が彼女に勝てる要素は何一つないんですけどね。

 

 

私が空に飛び上がるのと、勇儀さんが正邪をぶん殴りにいくのは同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

通常の結界は外から中を認識することも、中から外を認識することもできない。

しかし結界が張られている空間があるという認識だけは持つことができる。

目の前にはちょうどそんな結界で隔離された空間があった。

途中で逃げてきた河童の話では結界に天狗が囚われているらしい。

 

まだ結界が展開しているということは戦っているのでしょうけど問題は山積みだ。

 

「しかし結界をどうやってこじ開けるか……」

サードアイがあっても結界を解くなんてことは出来ない。

想起で出来るのは人の心を読み解き再現するだけ。

 

いや、方法はある。

 

 

八雲紫の能力があればなんとか出来る。私の記憶から彼女の能力を読み取って再現する……けれども彼女の能力をしっかり見たわけではない。でもやれるとしたらそれしかないか。

 

サードアイを自分自身に向け、声を読み取る。自分の記憶を全てひっくり返し、必要な記憶を読み取らせる。

 

あとはイメージ。目の前で起こっていた事象を自分の能力で読み起こし、現実に上書き、能力の根幹を引き出してそれを応用に回す。

 

自分の能力ではない他人の能力の再現だからか、ごっそりと力が持っていかれる。体が一気に重たくなり意識にモヤがかかり始めた。

それでも自分の左手の指先に空間の切れ目を作れる力が出来上がっているのがわかった。

 

その指先を結界の表面に当てて、縦になぞってみる。するといきなり空間がパックリと開いた。

 

 

同時に漂ってくる血の匂い。

慌てて裂け目に飛び込むと、凄惨な光景が広がっていた。

 

地面のほとんどは捲れ上がり土を剥き出しにしていて、まだ煙が燻っている。

その破壊の中心で白狼天狗が1人、白い着物を赤く染め上げて黒装束の男と対峙していた。

 

その白狼天狗の顔は私にとって見間違えるはずがない人物で、その足元でうずくまっている幼い鴉天狗も、誰なのか知らないはずがなかった。

「柳さん!!射命丸!!」

 

私の声に黒装束の男が咄嗟にお札を投げてきた。

妖怪の動きを縛る束縛の術式が組み込まれたものだ。

それを妖弾で弾き落とし、男にそこら辺の石を蹴り飛ばした。

石といっても妖怪が蹴り飛ばせば音速を超える速度で飛ばせる。さながら弾丸と変わらない。

それを理解していないわけではないのか男も結界を盾のように展開して石を弾いた。

だけど相手にとっては致命的な隙になる。

柳さんが男に飛びかかり、刀を叩きつけながら蹴り飛ばした。

流石に耐えきれなかったのか男は吹き飛んで地面に叩きつけられた。

 

柳さんも限界だったのかその場に倒れ込んだ。血が地面に広がっていく。

柳さんと射命丸を抱えてすぐに逃げ事にした。

 

男はまだ生きているし、穴の空いた結界を閉じようとしていたからだ。

私の力も大分削られてしまっている。

人1人が通れそうな程の隙間はさらに小さく縮んでしまっていた。

2人を抱えて通るには大きさがどうしても足りなかった。

 

咄嗟に射命丸と柳を隙間に放り投げた。

柳さんはお腹を突き抜かれているせいかどこか軽かった。

「さ、とり……」

 

「死なないでください、必ず生きて……」

 

2人を投げ込んだ直後に隙間が割れた。結界を維持する力に負けたのだ。

まあ私たちが逃げ出したとしても結界を解いて追ってくるでしょう。

そうなったら余計に追い詰められていたと考えたら、私1人が結果以内に取り残されるこの状況は都合がいいのかもしれない。

「さて、第二ラウンドといきましょうか」

 

 

一瞬、男の思考がああの中に入ってきた。

「陽動……まさか!」

 

 

賽は投げられた。

 

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