Re:古明地さとりは覚妖怪である   作:ヒジキの木

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想天廻廊 8

 

こんなに沢山の天狗を見たのは初めてだった。

そもそも天狗の里ってところ自体初めて私はやってきた場所だった。

なんだか小さな京と言った雰囲気だったけど、今はそんな雰囲気を破壊するかのように殺気だった戦場になっていた。

 

負傷した天狗とかがどんどん運ばれてきて、あっちこっちで治療が行われていた。

その横で立派な服を着た鴉天狗が指示を出していた。

 

そんな怪我人の中には外傷はなさそうだけど苦しそうにしている人達もいた。

どうして苦しんでいるのか、治療をする天狗さんは良くわかっていなかった。

逆に私にはよく分かった。サードアイを通して苦しんでいる人を視ると、心の声がノイズがかかったように聞こえる。苦しい、痛いと言う声を形にしていくと崩れている部分が見えてくる。

 

崩れたところを元に戻すように、破片をつなぎ合わせて形を作っていく。

お姉ちゃんが言っていた心を治すって言うのは覚妖怪の能力としてはこう見えているみたい。

そうやって心の声を通して修復をしていくと呻く声も苦しむ表情も穏やかになっていった。

取り敢えずこれで良いかな。でも他にもそんな症状の妖怪は沢山いた。

悪霊によって魂自体に傷を負っているらしい。記憶を読み解いても悪霊が急に取り憑いてきて溺れるような記憶ばかりだった。

 

手当をしていた天狗さんからお礼を言われた。でも同時に気色悪いと言うか少し腫れ物扱いする複雑な感情も見えた。心を読むって便利なだけじゃなくてこう言う負の面も一緒に見える。それが嫌だなって感じないわけじゃないけど感じたところでそれは相手と全く同じ。自分もなんら変わりはないって気付かされる。

 

 

十人くらい治療をして行ったところで、ふと里の入り口が騒がしいのに気がついた。

外で他の妖怪の手伝いをしていた黒猫さんが慌てて戻ってきた。

「敵襲!!敵襲だよ!」

 

「ここまで突破されたの⁈」

驚くしかない。里が攻撃に晒されるなんて思っていなかった。命の危険が迫っていると言う恐怖とお姉ちゃんは大丈夫なのかなと言う不安が渦巻いていく。

でも同時に目の前で苦しんでいる天狗さん達を放って置けなかった。今逃げ出したら自力で動くのが困難な怪我をしている彼女達はどうなるのか。

 

「早く逃げないと!」

 

「でもここにいる天狗さん達を置いてなんて……」

もう一度天狗さん達に視線を向けると、既に何人か別の天狗さん達が怪我している妖怪達を避難させようとしていた。だとしたら私も、自分にできることをするしかない。

お姉ちゃんから万が一って言って渡された刀。それを手に持って騒ぎの中心に向かって走り出した。

「こいし⁈何してるのさ!」

黒猫ちゃんが追いかけてきてくれた。

「私も戦う!時間稼ぎくらいはできるでしょ!」

 

「ああもう!」

一瞬躊躇した黒猫ちゃんも腹を括った。

 

 

 

 

爆発が何回かして地面が揺れるのを感じた頃に、私はそれと遭遇した。

 

鼻の長いお面を被った天狗達が槍や弓で攻撃するのを簡単に弾き、黒い煙を纏った人型の何かを操っている男。

格好は京でみていた陰陽師と同じ白っぽい礼装をしていた。

「悪霊……とあれは」

一見すると陰陽師みたいな人だけど、陰陽師にしてはやっている印や術が違いように見えた。

「悪霊使いみたいなものだね。多分陰陽師なんだろうけど」

主流じゃない立派ってこと?黒猫ちゃんは詳しいね。

「へ、へえ……でも悪霊ってそんなに厄介なの?」

 

「覚妖怪は悪霊にとって天敵と言われてますけどあたいは覚妖怪じゃないですからね。詳しくは知らない」

 

話しているうちにも黒色の悪霊は天狗に襲いかかっていた。お面の隙間から入り込んで、体に入り込まれた天狗がそのままフラフラと地面に墜落した。

「まずい!」

 

地面に倒れ込んだ天狗に触れると、急に黒い煙が天狗から噴き出てきた。

そのまま私の口や鼻にまとわりついた。

 

「きゃ!!……あれ?」

一瞬空気が逆流して無理やり体の中に入ってくる苦しさがあったけれど急にその感覚が消えた。

乗っ取ろうとしていた悪霊が私に触れた瞬間、苦しそうにのたうち回っていた。

サードアイは悪霊が抱える悪霊になった所以の出来事が読み取られていた。

貧しい家で子を売りに出すしかなく、自分自身も疫病で倒れたものの記憶。気持ちのいいものでは無い。

 

記憶を読み終えると悪霊は完全に成仏寸前の、弱い霊体になっていた。

へえ、これが覚妖怪の力……

「な、なんだかうまくいってるね」

 

「よく分からないけど、なんか分かったかも!」

 

とりあえずなんとなく悪霊の対処の仕方は分かった。

服からサードアイを取り出して視野を広げていくといろんな人の考えや思いが全部入ってくる。

苦しいもの、怒り、悲しみ、その場に渦巻く全ての妖怪、人、悪霊の感情が入り込んできた。

 

その中から悪霊のものだけを選別して意識を集中させていく。

どれもこれも理不尽な暴力と破壊と恐怖で死んでいった魂ばかりだった。

 

それらをみて聞いていくうちに悪霊達が次々と力を失い始めた。黒い色が白く変色して行って段々と薄くなていく。

同時に思考の数も減っていって他の思考に意識を向けるのも楽になっていった。

陰陽師の驚き、怒りも全部視える。

 

黒猫ちゃんが私に意識を向けた陰陽師に飛びつこうとした。

「ふぎゃっ!」

それは陰陽師の意識の外、無意識の行動だった。

目の前に迫ってくる黒猫ちゃんに対して意識するより先に体が動いていた。

私が声をかける暇もなく、手に持っていたお札から黒い煙が放たれて黒猫ちゃんを直撃した。

 

 

 

「黒猫ちゃん!!」

私が陰陽師を蹴り飛ばして、黒猫ちゃんを抱き抱えた時には黒猫ちゃんは真っ黒な煙に覆われていた。

その煙の中で蠢く何かが、大きく膨らんだ。

猫の体じゃ無い、もっと大きくて質量のあるそれに変貌して行った。

 

持っていられなくなって思わず地面に降ろしてしまう。不意に黒い靄が消えた。

サードアイが読み取るより早く、それは収まってしまった。

でも中から現れたのは黒猫ちゃんじゃなかった。

 

「あ……あれ?」

 

「あらら?」

日焼けが少なく、健康的で発色が良いすべすべな肌。私より一回り大きいくらいの体格に大きく実ったたわわ、生まれたままの姿でそこにいたのは赤毛の少女だった。ただし黒猫ちゃんだった頃の特徴である黒い猫耳と二股になった先端の赤い尻尾はそのまま。なぜか人型になっていた。

「黒猫ちゃん大丈夫?」

 

「えっと…なんとか。あたいどうなって……」

視界がおかしいことに気づいて黒猫ちゃんが体を見渡した。ようやく自分に起きている異変に気がついて驚きと混乱が思考を埋めて行った。

 

「な、な、なんじゃこりゃあああ!!」

 

悪霊を使っていた陰陽師が他の天狗にタコ殴りにされている中に黒猫ちゃんの叫び声が響いた。

 

 

 

「ま、まあ良いや。取り敢えず……なんとかなったみたいだし」

一匹とんでも無いことになっちゃったけど、多分お姉ちゃんに任せたらなんとかなるんじゃないかな。

取り敢えず全裸のままにしていても可哀想だから、倒れている陰陽師から服を追い剥ぎして黒猫ちゃんに渡した。取り敢えずそれを羽織っていてね。

 

 

急に雰囲気が変わった。

何か空気が重たくなって、息苦しさが込み上げてくる。

ふと空を見ると、1人の陰陽師がいた。空に浮いている。人間なのに空を飛べるんだなって場違いな感想が出てきた。

でもそれが尋常じゃない雰囲気と気迫を纏っていた。

「あれが陰陽師の親玉?」

 

「みたい……だね」

なんだかやばそう。目線があったら殺されちゃうような恐怖すら感じる。

でもそれに立ち向かっていく影もいた。

それが天魔だって気づいたのは空中大決戦が始まった後だった。

 

 

 

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