Re:古明地さとりは覚妖怪である   作:ヒジキの木

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想天廻廊 10

戦いは一方的だった。

というか数で囲んで殴るがようやく通用したという感じだった。

 

確かに鬼の四天王を凌駕する力を道満は持っているのだろう。

だがあくまでも一対一の時のみ。それに伝承にある通り鬼の多くは酒で酔わせて泥酔したところを不意打ちするのが主流なのであって真っ向から対抗するのは現実的じゃ無い。

 

そして道満自身も複数の妖怪、それも対処法が異なる相手を同時に相手して勝てるほど彼は強くなかった。

だからこそ隙間に連れ去られた時点で道満は己の失敗を悟って激しい怒りと焦燥に囚われていた。

結果的にそれが原因で一対一という状況を作り出すこともできず……

 

しかも隙間妖怪が全力で支援している。隙間で瞬間移動なんて序の口。攻撃で吹き飛ばしても地面に叩きつけられそうになっても隙間で逃がしてくれるから回避を考えなくていい。

私が手を下さなくても道満という男は負けていた。

 

彼らの戦いの余波は遠くからでも感じ取れるのだから誰か助けにでも来るかなと思っていたがそんなこともなかった。

正邪くらいは助けにでも来るのでは無いかと思っていたけれどそれも来なかった。

正邪に関しては勇儀曰く負けそうになったら逃げたらしいけれど、彼を助けい来ない時点で正邪は道満を見捨てたのだろう。悲しいことだ。

でも正邪らしいと言えばらしい。誰も信用せず誰も頼らず。本来妖怪というのはそういう存在で、彼女こそ最も妖怪らしい妖怪だと言える。

 

 

 

目の前で滅多打ちにされ、鬼の拳を、蹴りを何度も浴びた道満は、護符の効果も虚しく顔を赤く腫れ上がらせ、腕をへし折られてボロ雑巾のように地面にひれ伏していた。

 

「なんだ、弱いんだな」

勇儀さんが拳についた血を拭いながら道満の顔を見下ろした。

弱いと言いつつ、伊吹さんを吹き飛ばして萃香さんの能力を完全に封じ込めているあたり実力としてはあるのだろう。

「き、 きさま……ら……卑怯な」

 

 

片腕の骨が粉砕した伊吹さんが、それでも澄ました顔で道満を煽っていた。

「勘違いしないで、これは闘いよ。勝負じゃないの」

鬼にとってそれは最重要なのだろう。

 

「大体、決闘したらあんた卑怯な手で勝ってこようとするじゃないか。そんなやつと勝負するくらいなら本格的な闘いで決着つけるのも道理だろ」

 

鬼は総じて嘘や卑怯なことを感じ取る力がある。だから彼女達も心は読めなくても気づいていたのだろう。

実際紫さんが撃退された時もかなり卑怯な罠で嵌めたらしいですからね。

 

まだ何か言おうとしていた道満だったけれど、口の端から血の泡を吹いただけで終わった。

 

 

私には道満が何を考えていたのかもちろんわかっている。呪詛にも近い怨念と、怒りの混ざったその感情を最後まで彼は手放さなかった。

これは悪霊になったら相当やばいですね。

でもそれは今じゃ無いし、アレにとっての最大の敵は安倍晴明だったはずだ。

 

「彼が死んだら侵攻している悪霊も妖怪も、陰陽師達も統制が取れなくなります。あとは確固撃破してけばよろしいかと」

そろそろ妖怪の山に戻らないと。

「そうね、少し熱くなっちゃってるから体を冷ますためにも……ね?」

 

「そうだねえ、能力を封じられた影響も取っ払いたいし……暴れてくるかなあ」

 

さすが鬼だ。恐ろしい…

1人黙っていた勇儀さんだけが人間に対しての嫌悪感を募らせていた。

道満がなぜ山に踏み入ったのか。その理由を考えていたからだった。

 

結局道満にとっては政争の一環だったわけで、そう考えると人間の身勝手な都合に振り回されたとも言える。

 

 

それでも、彼女達は生き残ることが出来たのだった。

 

 

 

そして生き残れなかった人もいるわけで、残された側の悲しみもまた山には蔓延していた。

戦いという名の残党処理は続いていた。だけれどそこまで戦いに人数が必要なわけではなく、山全体では負傷者の救護や死者の弔いの段階に進んでいた。

 

死を弔うのは人間も妖怪も何も変わらない。

 

「柳さん……」

綺麗に並べられた遺体の中に柳さんを見つけて、改めて死んでしまったのだという実感が湧いてきた。

始めてなんかじゃ無い。生まれ変わってからずっと何度も死を見てきた。

寿命だったり病気だったり、怪我や戦いだったり。

 

もちろん仲が良かったりそうでも無かったり。

でもその度に感じるのは何かが抜け落ちるような空白感と欠落感。

 

何度経験しても慣れることはない。だけど妖怪になってしまったせいか、涙も流すことはない。

人は泣いて、涙を枯らして化け物になる。私はその典型らしい。

 

「御免なさい」

今はただそういうだけだ。妖怪の魂がどうなるかと言われたら、私はよく知らない。あの世に行って輪廻の輪に組み込まれるのか、あるいは浄土に行くのか。

閻魔様に聞いても本当のことはわからないだろう。

 

でも少なくともここに柳さんの魂は居なかった。

 

 

私の横に誰かが立つ足音がした。

振り向けば、射命丸が立っていた。その目はすでに赤く充血していた。

 

「間に合わなくてごめんなさい」

 

「さとりさんは悪くない……」

絞り出した声は、震えていた。

私が間に合っていれば柳さんが命を落とすことはなかった。でもたらればは通用しない。過去を変えることは出来ないのだ。

 

「大丈夫……大丈夫だから!!私は弱くないもん」

サードアイが一瞬開け彼女の心の中を覗き見た。

そう、貴女は強いのね。これから先どんなことが彼女に待ち受けているのかは分からない。だけど、貴女なら負けない。

 

そういえば彼女の首にあるものって……

「そのカメラは……」

射命丸の首から柳さんのカメラが下げられていた。

本体に少し傷がついているのは、柳さんが生き抜こうとした証だ。

ああ、柳さんから託されたんだ。

「柳さんの……持っていろって」

「大事にね」

そしてその写真で幻想郷を記録していってね。未来の最速さん。

 

 

 

 

天魔様が指揮を取る天狗達の働きがいいからか、あるいは汚名返上をしようとしているのか、鬼や私に共に戦ってくれという誘いは起きなかった。

 

だから私は家族のところに向かった。他の天狗たちの心をこっそりのぞいて、こいし達が怪我人の救護をしていたというのは分かっていたからきっと急患が運ばれている所にいるのだろうと当たりはつけていた。

 

そのおかげで彼女達とはすぐに合流することが出来た。

「あ、あの……さとり。これは……」

 

1人と1匹が、2人になっていた。

赤毛の長い髪を雑に下ろし、とりあえずそこら辺にあったのであろう天狗の服を借りた猫耳の少女。それが猫又なのだと気づくのに少しかかった。

そしてその姿があまりにもにていた。

 

「おr……じゃなかった。猫又ね」

 

「あ、姉ちゃん!無事だったんだ!」

こいしが真横から飛びついてきた。脇腹に接触があって体が横に転びそうになるのを踏ん張りながらこいしの頭を撫でた。

「ええ、貴女達も無事で良かったわ」

 

「あたいは無事とは言い難いんですけど……」

困惑した表情の猫又。まだ慣れていないのか体の動かし方がぎこちない。

「良いじゃない。人型になれたのよ。貴女もお祝いね……」

 

「せっかくだから黒猫さんにも名前をつけようよ。人になれるようになったんだし」

「……え?な、何を急に言って!」

猫又が慌てるけれど、せっかくのこいしの提案だから今ここで決めてしまおう。

 

彼女は…そう。彼女は……

「そうね、それじゃあお燐」

それは私の本心からなのか、あるいは()()()()()()と世界がそう定めていたのか。

 

 

「お燐…」

少なくとも彼女は、猫又はその名前を気に入っていた。

きっとそれが答えなのかもしれない。

 

 

「そうよ。貴女はお燐。おめでとう」

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