Re:古明地さとりは覚妖怪である   作:ヒジキの木

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前史幻烈 7

 

 

 

 

私と萃香の合間に奇妙な静寂が訪れていた。私が提案した弾幕ごっこはあくまでも非致死性の妖弾を使うものだ。それを当てるだけ。

でも流石に萃香さんに手本もなしにいきなりやれと言われても流石に難しすぎただろうか。

それじゃあ私から動くべきか、そう思い弾幕を展開しようとした瞬間だった。

一陣の風が体を通り過ぎて、気づいたら私の体は宙を舞っていた。

 

「…え?」

何があったのかわからない。

 

吹っ飛ばされる直前の視界には妖力弾を手に込めた萃香が一瞬で目の前にいたと言うことだけだった。と言うか妖力弾が至近距離で扇状に放たれていた。

お腹に被弾したのだと言うのは激痛からして分かった。

あれぇ……知ってる弾幕ごっこじゃないし非致死の妖弾ってこんなに痛かったかしら。

 

 

「…がはッ!」

 

何が起こったのか理解した瞬間、お腹が押しつぶされるような感覚に襲われ思わず血の混ざった唾を吐き出した。ああ、内臓が相当なダメージを受けたのだろう。すぐに再生が始まっているけれど内蔵は少し時間がかかる。

 

直ぐに私は弾幕を不規則に、でも色とりどりにして目眩しを兼ねて展開し体制を立て直す。

 

「ちょっと威力が強すぎませんか!?」

 

 

「強かった?悪いねえ、勇儀とのいつもの組手感覚で手加減してたわ」

 

「もうちょっと弱くて良いんですよ。当てるだけなんですから」

 

「とりあえず三回勝負の一回目は貰いだね」

 やはり曖昧な伝え方をしてはダメですね。ですが萃香さんの弾幕は直線的で回避そのものは慣れていると分かりやすい。

問題は別です。

 

「……!」

再び風が吹き気づいたら目の前に萃香がいる。能力…密と疎を操る程度の能力で私との距離を縮めたらしい。

至近距離での弾幕。今度は見逃さなかった。動体視力がようやく慣れてきた。こちらも萃香さんの顔面に向けて妖弾を放った。流石に反撃されるとは思っていなかったのか顔面に直撃した萃香さんがよろけた。

でもデコピンを食らった程度の衝撃くらいでしかない。

「このくらいで十分ですよ」

 

「はは、やるじゃん」

 

すぐそばで萃香さんの腕が視界からブレる。

同時に体を捻った。さっきまで体のあったところを風が通り抜けていった。

「流石に拳はダメですよ」

 

「おっと、悪いね。妖弾を叩き込もうとしたんだけど」

萃香さんは笑っていた。随分と戦いにのめり込んでいるようだ。

勝負になると鬼って怖いです。そうじゃなくても怖そうですけど…

 

 

 

弾幕はこう展開するのだと、教えるしかないようですね。

幾何学模様に弾幕を展開。無誘導と、その中に混ざる自機狙い……もとい誘導弾幕を混ぜたものだ。

数が多いのが取り柄だけれど実は非致死性の妖弾じゃなければこの量を展開するのは厳しい。

だけどそんな力の使い方なんて多分この世界にはまだしている者はいないだろう。

だから不意をつける。

 

誘導の弾幕を避けようとした萃香さんが幾何学模様の弾幕に突っ込んだ。罠がうまく発動したのだった。

「これで二回目、あと一回で私の勝ちですよ」

 

「ハッ!すぐに追いつくさ!」

 

大量の誘導性の妖弾が萃香さんから放たれた。流石にそんな力技をされてしまったら一方的に守りに没頭するしかない。

 

未だに治りきっていない内臓などが悲鳴をあげるけれど、弾幕に当たったら痛いだろうし避けるしかない。空に飛び上がる。地上を走るより空を飛ぶ方が早いけれどそれでも妖弾の方が速度が速い。

 負担がかかるのを承知でインメルマンターン。重力方向が変化するせいで予期しない方向に体が引っ張られて潰れそうになる。それでもその急激な動きの効果はあった。誘導のためには私を視界にとらえるか、妖弾に相手の妖力か何かを追尾させる特性を持たせる必要がある。

だから不意に急激な動きをすると目標を見失いやすい。案の定妖弾は全て明後日の方向に飛んでいって弾けた。

 

萃香さんに向き直りたかったけれど萃香の姿は霧のように消え、そこには既にいなかった。

「やっぱり、そう来ますか」

 

不意打ち狙いで能力を使って自らを空気に拡散させたようだ。

勿論能力をこちらも使えばそれなりに位置はわかります。ですがそれをするわけにはいかない。覚妖怪とバレるわけにはいかないのだ。

 

 

瞬間、私の周りに弾幕が大量に生成される。

一拍置いてそれらが私に襲いかかってきた。体を捻って、飛び上がって、どうにか回避はできた。

でも一発だけ、真上から放たれた弾幕だけは回避できなかった。背中に重たい衝撃が走った。これで私も二回の被弾。だけど居場所はわかった。

「拡散していても、気流の流れまでは誤魔化せませんね」

 

気配の濃厚なところに弾幕を撃ち込んでいく。霧化していて殆ど命中はしないだろうがエネルギーの余波みたいなものは食らうだろう。

なんせ、物質は同次元空間に存在しているのは間違いないのだから。それに空間に広がっている合間は被弾…と言うか攻撃には弱いはずだ。

 

 

ですが、いつまでも霧化されては困る。早く戻ってくれませんかねえ。

 

 

「⁉︎…後ろ!」

 

「アハハ!一歩遅かったな!」

 

戻って欲しいと思った瞬間私の真後ろで殺気がした。振り返り際に萃香を直接視界に捉えた。

ほぼ至近距離、だけど弾幕を放ったのは同時だった。少なくとも私には同時に見えた。左腕から放たれた弾幕と萃香の弾幕がほぼ同時に命中する。

爆煙が上がりその中に僅かに血飛沫が混ざる。

 

「やるねえ!こりゃ、引き分けかな?」

 

非殺傷のためダメージは無いに等しいが当たったと言う情報が欲しいだけの弾幕に威力は載せない。そっちの方が体力消費が少なくて済む。

 

ボトッ……

 

あまり離れていない地上に何かが落ちる音がした。同時に、何人かの悲鳴と呻き声。

右腕の感覚がなくなっていた。

事態に気づいた萃香さんも息を呑んでいた。

私だけがあまり事態を理解していなくて、右腕に視線を落としてようやく気がついた。

 

 

「ああこれですか?気にしなくていいですよ。また生えてきますから」

 

千切れた所の肉片と布が血を含んで垂れ下がっている。どうやら萃香さんは加減を間違えたらしい。普通に腕が吹き飛んでいた。

心臓の動きに合わせて腕のあったところから大量の血が流れ落ちていた。

すぐに妖術で傷口を塞ぎ血の流出を止める。

ああ、結構血が流れてますね。

 そう言えば私の身体はある一定の怪我の場合痛みがしないんでした。

 

「兎も角、私は戦闘を続行することはできません。萃香さん、貴女の勝ちです」

 

この状態なら負けということで話はつく。それに山の大将に挑んで奮闘したとなればソコソコの実力があるとみられある程度の安全が確保できる。

 

まあルールはこっちが指定したようなものですからこの結果は知る人が知れば卑怯に感じるかもしてない。そこはある程度情報操作すればなんとかなるだろう。噂というのは伝わりやすい上に事実が歪曲されやすいものですし。

「いや、攻撃は同時に当たっていた。引き分けだよ」

 

「そう……ですか」

 

「大体、すぐに傷の手当てをしないと!」

 

「大丈夫です。止血なら終わっていますから」

それとあまり体を見られたくない。万が一サードアイが見られてしまったら……恐ろしく感じてしまいます。

「兎も角気にしないでください。二、三日すれば生えてきますから」

 

「ま、まあさとりがそう言うなら……」

 

でもあちらの大天狗様や柳さんには事情を話さないといけませんね。

あと……勇儀さんにも。

 

しかし、片腕を失うと歩くときにバランスがとり辛いですね。よろけてしまいます。

そう思っていると、片腕を萃香さんが肩に回してくれた。

「歩き辛いんだろう?手伝ってやるよ」

 

「わざわざありがとうございます」

 

「いやまあ、やっちゃったのは私だからな」

「優しいのですね」

「急になんだよ」

「いえ、鬼の方が人間より優しい気がしたもので」

それは嘘偽りない本心だ。

「そっか……なんだかむず痒いからやめろよ」

 

結局私の怪我は「命に別状はない」言うことで大騒ぎにはならずに済んだ。

そのままその日は解散になったけれど、後日私の住処に尋人がやってくることになった。

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