その帝国に村を滅ぼされ、大切なものを奪われた少年は復習を決意する。
―――――帝国が世界の太陽であるならば
―――――俺はその太陽を降ろすものとなろう
「釣れないね~」
「釣れないわね~」
大きな湖の端っこの方で木のベンチに座りながら同じく木でできた釣竿を湖面に垂らしているものの魚が食いつくことはなく、かれこれ2時間は経過したように思う。
隣で同じようにしている幼馴染もまた同じ結果だ。
ふと、村の入り口の方を見ると銀の甲冑を身に纏い、馬に乗った兵士たちが数人、村に入っていくのが見えた。
「最近、帝国の兵士さんたちがよく出入りしてるけど何かあったのか?」
「あれじゃないの。不思議な剣が出てきたとかで村が騒がしかったじゃない」
「あぁ~。怪剣か」
怪剣……大昔にあるしがない鍛冶屋が愛するものを護るための剣を想いをこめて作るとその剣に不思議な力が宿ったと言われている。そんな不思議な剣が世界には20数本存在するらしい。
で、そんな不思議な剣がこんな辺鄙で長閑な村に出てきたことで帝国が買わせてほしいともう、俺たちの村が一生普通に暮らせるくらいの金額を提示されたんだけど村長はそれを断ったんだ。
大部分の村人は金なんて多く持つものじゃないと親から教えられた影響で断ったんだけど今の若い連中、まあ俺たち世代の村人たちは売却すべきだと言って今、村が2つに分かれている状態にある。
「ジローは売るべきだと思う?」
「ん~俺は思わないかな。帝国なんてあんまりいい噂聞かないし、第一金を持ったら汚いものに変わるって親から教えられてきたからさ。今でもあんまりお金は持たないよ。サリナは?」
「私も同じかな~。あんまりその不思議な剣っていい感じしないし」
そう言い、目に髪がかかったのか片手で亜麻色の髪を退かしたとき、魚が強く引っ張ったのか彼女の手から木製の釣竿が離れてしまい、湖の中に消えてしまった。
あちゃ~。あの引き具合なら結構な獲物だったと思うんだけどな~。
「あ~あ。竿もないし、ジローの方も当たらないみたいだから今日はもう帰ろうか」
「そうだな。帰って晩飯の準備でもするか」
そう言い、垂らしていた糸を引っ張り、プチン! と噛み切ってくず入れに入れ、水だけが入っている木製のバケツを持ち、村へと向かって歩き始めた。
「ねえ、今日あんたんとこの晩御飯何?」
「さあ? 多分、野菜炒めとかだと思うけど」
「じゃあさ、今晩私ん家の肉もってくからちょっとちょうだいよ」
「珍しい。肉ばっかり食ってるのに」
「ま、まあちょっとね」
どうせ、太り気味なんだろと思ったけどそこは言うのを我慢し、何気に首を右の方へ向けると一瞬だけだが銀色の甲冑を纏った帝国の兵士と村の若者たちのリーダー格であるカザリが喋っているのが見えたけど特に何も疑問に思うことなく、そのまま家へと歩き続けた。
「じゃ、良いんだな」
「あぁ。こんな辺鄙な村なんかに留まりたくねえ。そっちへ行かせてくれよ」
「良いだろう……ただし、条件がある」
「分かってるよ。怪剣だろ? 俺がちゃちゃっと取ってくるからよ」
「抵抗にあえば殺しても構わん。誰も辺鄙で小さな村のことなど気にも留めん」
「ごちそう様でした」
「あ、ジロー。ちょっと家畜の様子見てきてよ。さっきからなんか怯えてるのよ」
「ん、わかった」
皿をテーブルに置いたまま、外に出て家の裏手にある家畜たちがいる場所へ入るといつもなら誰かが入ってくると牛なり豚なりの声が聞こえてくるんだが何故か今日は1頭の声も響かなかった。
明かりをつけ、様子を見てみるとどいつも端の方に寄り、仲間とくっついて動こうとしなかった。
確かに何かにおびえてる様子だな……でも、今日は別に天気が悪いとかそう言うのはなかったはずだけど。
「おい、どうしたんだ? お前らしくないじゃないか」
いつもなら俺が入ると一匹は必ず俺の足によって来るんだが今日は中に入っても誰も鳴くどころか近寄ってくることすらせず、ただじっと端の方で固まっていた。
家畜たちを撫でようと手を伸ばした瞬間!
「うわっ!」
凄まじい強さの風が小屋の壁を一瞬で壊し、俺の体を一瞬で持ち上げるが上から崩れ落ちてくる木材が俺に向かって落ちてきて俺の体を押し付け、風で飛ぶことはなかったが固い木材が全身に当たり、所々強い痛みが走った。
木材が落ちてくるのが止み、小さな隙間から外の様子を伺ってみると一本の剣を持った男と銀色の甲冑を着た帝国の兵士の2人が周りを醜悪な笑みを浮かべながら見ていた。
くそっ……体が動かねえ!
何とかして外へ出ようとするが全身に重い木材がいくつも被さっているせいでろくに動くことができず、
ただただ小さな隙間から奴らの姿を見ることしかできなかった。
「なにをしているんだカザリ!」
その時、怒声が聞こえ、小さな隙間から外を覗いてみると斧や鎌を持った村の男たちが集まっていた。
カ、カザリ? まさか、これをカザリがやったってのか……まさか、あいつが持っているあの剣って先週に山の中から出てきた怪剣か!
「うるせえんだよ! 俺はこんな辺鄙で小さな村から出るんだ! こんな時代遅れもいいところの村なんかに一生いてたまるかよ! 俺は帝国に行って兵士になる! 兵士になってバッサバッサ斬りたいんだよ!」
「そんなふざけたことが通じると思うのか! 今すぐにこの剣を」
そこで男の怒声は止まった……いや、止められたと言った方が正しい。
何故なら怒声を放っていた男の首が宙に舞い、辺りに血しぶきをまき散らしていたから。
「黙れよクズ野郎。こんな村……消えればいいんだよ」
「そういうことだ……さっさと我らに売却しなかった君たちが悪い……よって君たちを帝国に反旗を翻した反乱分子として全員処刑だ!」
その時、凄まじい男どもの叫びと馬の蹄の音が聞こえてきたかと思えば左の方から馬に乗り、銀色の甲冑を身に纏ってその手に剣を持った男たちが次々と村の男たちを襲い始め、斬り始めた。
「ハハハハハハハ! オラオラオラオラ!」
その後はもう最悪の光景しか俺の視界には入ってこなかった。
カザリと帝国の兵士たちによって男どもは切り殺されていき、女たちは美しいものは男どもの性の捌け口とされ、美しくないもの、そして子供たちはすべて首を落とされていった。
俺は木材の隙間から様子を見ているが目の前の戦慄の光景に体は震え、額から変な汗が流れ出るとともに今までに感じたことがないほどの怒りが込み上げてきた。
「カザリ! こんなことやめてよ!」
「お前だけは助けてやるよ。ずっと俺の女として一緒に帝国で暮らそうぜ」
サリナは唯一、何もされなかったがカザリに捕まえられてしまった。
ふざけんなふざけんな! あの野郎! 俺がぶっ殺す!
どうにかして木材に埋もれている状況から脱しようと体を必死に動かそうとするが木材の重みをはじき返すほどの力が出せず、ただただ体力を使い続けるだけだった。
くそっ! くそっ!
体力がなくなり、体も動かなくなってきたところで奴らが引き返し始めた。
サリナは気絶させられたのかカザリに抱きかかえられたまま、村の外へと連れ出されてしまった。
「サリナ……ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!」
彼女の名を叫び、やりたくはなかったが小さな隙間を両手を使って全力で広げると微妙なバランスで積みあがっていた木材の山が崩れ、どうにかして外に出ることができたがすでに遅かった。
「ハァ……ハァ……」
男どもの体に首はなく、白い液体のようなものがかけられている美しい女たちは用済みとなったのか、
全員同じように首がはねられていた。
奴らが引き返す時に火でも放ったのかあちこちから火の手が上がっており、もう人の姿などどこにもなかった。
痛む体に鞭を打ちながら村を歩くが人の姿はなく、あるのは人だったものだけ。
そんな光景を見ながらまた俺は家があった場所に戻ってきてしまった。
「母さん……父さん」
首がないせいでどれが母さんか父さんかもわからず、絶望に打ちひしがれ、涙を流しながら地面に両膝をついた時、瓦礫の下に炎の明かりを反射している何かが埋まっているのを見つけ、瓦礫を手で退けていくとそこには鞘に納められた剣が埋もれていた。
鞘には俺の名前が刻まれていた。
「父……さん…………あぁあぁぁぁぁぁぁ! あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
父さんが作った俺の名前が刻まれている剣を抱きながら誰もいない村の中でただ泣き叫んだ。
なんでっ! なんでこんな平和だった村がこんなことにならなくちゃいけないんだ! サリナも母さんも父さんも村の人たちも何も悪いことしてえじゃねえか!
なんで……何であんな奴らに殺されなきゃならないんだ!
「許さねえ…………カザリも……帝国も…………全部」
剣を持ち、燃え盛る炎を背にして俺は立ち上がった。
何の罪もない村の人たちを殺したカザリと帝国の兵士たち…………殺す……カザリも……帝国の兵士たちも一人残らず俺が全部ぶっ殺す! あいつらにも村の人たちの痛みを味あわせてやる!
近くに落ちていた血で赤く汚れた布を上着代わりに羽織、剣を腰に刺して俺は燃え盛る村を背に帝国へと向かって歩き始めた。
「殺してやる……奴らを殺してサリナを助ける」
――――――――――帝国を太陽とするならば
――――――――――俺はその太陽を降ろすものになる。
なんとなく書いてみた。まあ、連載になんかしないけど