宮城県仙台市のとある高校。
真夜中にも拘わらず男女の学生が校舎内にいた。
男女の学生は一人の男子に抱えられている。
そしてそれを見るのもまた同じ年頃の子供だった。
一見すると何もない空間を必死の形相で見る少しおかしい少年。
しかし、それを見る二人の男子の目にははっきり化物の姿が見えていた。
ツーブロックのツンツンとしたピンク髪にほどよく整った顔立ち。
若干目がつり上がっているものの、普段の表情だけ見れば人懐こい男子だという事はよく分かる。
だが今は目の前の状況に焦りに焦っていた。
そしてもう一人の男子。
黒髪を逆立て、頭から流血している。
真っ黒な制服を着ていて両脇には真っ黒な犬と真っ白な犬が控えている。
「なんで来たと言いたい所だがよくやった」
黒髪の少年が少し偉そうにピンク髪の少年に言う。
「なんで偉そうなの」
そして黒髪の少年とピンク髪の少年がやり取りをしている最中、突如ピンク髪の少年の頭上にナニかが現れた。
黒髪の少年がそれを庇い「逃げろ」と一言。
吹き飛ばされた黒髪の少年をピンク髪の少年が追う。
「伏黒! 大丈夫か?」
「逃げろっつったろ」
「言ってる場合か。今帰ったら夢見悪いだろ。それにな――こっちはこっちで面倒臭い呪いがかかってんだわ」
ピンク髪の少年が黒髪の少年にそう言うと黒髪の少年を吹き飛ばした化物に相対し、人間とは思えない動きで化物の攻撃を飛んで避け、そして化物に蹴りを入れる。
少年の蹴りを受けてバキという音が響く。
しかし、化け物に効いた様子はなく、巨大な拳で少年を地面に殴り叩きつける。
「呪いは呪いでしか祓えない」
黒髪の少年がそう呟くと一拍間が空き、ピンク髪の少年が言う。
「早く言ってくんない?」
少年の言葉に黒髪の少年は立ち上がりながら言う。
「何度も逃げろっつったろ。今あの二人抱えて逃げられんのはお前だけだ。さっさとしろこのままだと全員死ぬぞ。呪力のねぇお前がいても意味ねーんだからよ」
黒髪の少年の言葉にピンク髪の少年は化物と少年を交互に見てふと聞く。
「なぁ、なんで呪いはあの指狙ってんだ?」
黒髪の少年はまさにその【両面宿儺の指】の回収の為にやってきていたのだ。
そして化物は何故か指を狙って襲ってくる。
「喰ってより強い呪力を得る為だ」
少年の返答にピンク髪の少年が何かに気づく。
「なんだあるじゃん。全員助かる方法」
すると少年は突然指をポケットから取り出し、口に入れた――。
「馬鹿! やめろ!」
黒髪の少年は指の凶悪さをこの場の誰よりも知っている。
指は両面宿儺という呪いの王のもの。
【特級呪物】なのだ。
しかし、その瞬間世界が歪む。
刹那、何もなかったかのようにピンク髪の少年が先ほどと同じように立っていた。
否、明らかに先ほどとは違う。
同じ人物である事は間違いない。
だが、先ほどの少年とは少し違う。
それは外見。
少し大人びているのだ。
それだけではない。
黒髪の少年は気づいた。
先ほどのピンク髪の少年とは明らかに違う。
【呪力】だ。
先ほどまでのピンク髪の少年には呪力は一切なかった。
故に指を食おうとした。
しかし、いくら特級呪物を喰らったとはいえ、目の前のピンク髪の男は呪力量があり得ないほど膨大になっているのだ。
指を喰らったからと言ってここまでは増えない。
しかも明らかに肉体が成長している。
ピンク髪の男が緊張して身構えている黒髪の少年を見る。
そして優しく微笑む。
「久しぶりだな伏黒。若いな」
ピンク髪の男は突然意味の分からない事を言い始めた。
久しぶりも何も今の今まで目の前で話していた。
ピンク髪の男は長年会えなかった友人を見ているかのような優しい眼差しで少年を見る。
しかしピンク髪の男の後方から化物が猛スピードで襲い掛かってきていた。
「虎杖!」
黒髪の少年が叫ぶ。
だが――。
「ったく。せっかく旧友との再会を愉しんでたのに水を差すなよ」
男は突っ込んでくる化物に対し、突っ立ったまま左手を振るう。
化物に左拳が直撃する直前に膨大な呪力が拳に集まる。
そして黒い火花を散らしながら化物に直撃。
化物は一瞬にして肉体が弾けた。
弾けた肉体は霧散し、化け物は消え去った。
「……黒閃――?」
黒髪の少年は今起きた出来事をただ茫然と見ていた。
黒い火花。
それは呪術師の間で【黒閃】と呼ばれている。
打撃の際、打撃と呪力の衝突が0.000001秒以内に起きた場合に起きるもので、黒閃の攻撃力は通常時の2.5乗もの威力になる。
黒閃を狙って出せる呪術師は存在しない――。
それほどまでに難しいものであり、黒閃が出た場合は一種のゾーン状態にあるといえる。
しかし、ピンク髪の男は先ほどまで一切の呪力がなかった。
にも拘らず狙って出したかのような素振り。
「伏黒、大丈夫か?」
ピンク髪の男はまるでずっと親しい友人かのように接している。
「お前は虎杖――なのか?」
黒髪の少年の言葉にピンク髪の男は一瞬「何を言ってるんだ?」という表情になったが、何かを思い出したかのように、笑う。
「悪い悪い。今の姿だと別人に見えるよな。いや、別人というよりは成長してねぇかって感じか。まぁ俺は虎杖悠仁だよ。けど、未来から来た虎杖悠仁だ。さっき黒閃見ただろ? 俺の呪力量もよく分かるんじゃないか?」
黒髪の少年――伏黒恵はピンク髪の男――虎杖悠仁の言葉を受けても表情が変わらない。
否、思考が停止しているのだ。
呪力、呪術というファンタジーな世界ではあるものの、未来から来たなどと言うふざけた事は出来ないはずだ。
しかし、虎杖は明らかに肉体が成長しているし、呪力量が桁外れになっている。
それこそ伏黒がよく知る【特級術師】よりも遥かに多い。
だから虎杖の言動をただの虚言だと断じる事が出来ないのだ。
そんな伏黒の心境を読み取った虎杖は笑いながら言う。
「信じられないのも無理はない。だからもうすぐ五条先生が来ると思うからその時に改めて話すよ。俺は自分で言うのもなんだけど頭悪いからさ。説明しても理解しにくいと思うし、伏黒が知らない情報も五条先生なら知ってると思うから、それで真偽を見極めてもらえば良いよ」
「何で――」
虎杖の言葉に伏黒が激しく反応する。
『五条先生』とは伏黒がよく知る特級術師であり、先ほど電話で話したのだ。
呪術界に全く関係のない虎杖が五条という人間を知るわけがない。
「んー、これはどういう状況かな?」
突然気の抜けた声が伏黒の後方で響く。
驚く伏黒は慌てて振り向く。
「先生……」
安堵したような表情の伏黒とは対照的に虎杖は悲しげな、哀愁ただよう表情で突然現れた男を見ていた。
そして伏黒が男に説明する。
今まで起きた出来事を。
「ん~。未来から来た――? 確かにいくら特級呪物でも食っただけでそんなに呪力が増える訳ないし、肉体的にも成長してるんでしょ? まぁ君の説明を聞いてから判断しようかな」
両目を布で覆っている男は虎杖を見ながら言う。
「先生、久しぶりだなぁ。まぁ先生からしたら初めましてだけどさ――。まず俺は虎杖悠仁。特級呪術師。あ、未来の話ね。信じてもらうには俺の事より先生の事と伏黒の事を話すか。あとこれから高専に来るもう一人の生徒の事も。まず伏黒恵は――これって今の段階で言っていいんだっけ?」
虎杖が何かを言いかけて止まる。
そして先生――五条悟を手招きで呼び、五条はそれに応えて虎杖に近づき、耳を貸す。
「伏黒ってこの段階から自分が禪院と関係してるって知ってるんだっけ?」
虎杖の言葉に五条は激しく反応する。
否、表情には一切出ないが、明らかに困惑していた。
伏黒恵が御三家の一つである禪院家と関係している事を知っているのは呪術界でもほんの一部だけで、伏黒自身も知らない事だ。
「うん、今は知らないし、知る必要はないからそれは黙ってて」
五条は笑顔でそう言うと、虎杖は笑って頷いた。
「分かった。じゃあ次はこれから高専に来る生徒の事。名前は釘崎野薔薇。術式は――なんだっけかな……あ! 芻霊呪法だ! 釘を打って魂に攻撃するやつ! んで、伏黒の術式は十種影法術。式神使いだよな。あとは学長の術式はあんま詳しくないけど、呪骸を作るのと傀儡操術ってやつ。で、先生は六眼の持ち主で、五条家当主。術式は無下限呪術。領域名は無量空処。先生の親友は夏油傑。高専にはもう一人家入さんが反転術式を他人に施すことが出来る術師として常在。日下部さんはシン・陰流の使い手で一級の中で最強って言われてる。後は――ナナミン。この時期にはまだサラリーマンやってるのかな……もうすぐ高専に戻ってくるよ」
ナナミンと口に出した瞬間、虎杖の表情が明らかに暗くなった。
しかし、すぐに笑顔で高専に戻ると言う。
既に五条の中で虎杖悠仁が未来から来たという事が事実だと認めていた。
伏黒の出自、東京高専の学長、東京高専に転入手続き中の学生、五条の領域名そしてナナミンこと七海の事まで。
全て知っていなければ絶対に分かるわけがない事だ。
だからこそ目の前の男が未来からやってきたことが嘘ではないと分かる。
何よりも一瞬暗くなった表情。
あの表情を五条は知っている。
大事な人を亡くした時の表情だ。
「じゃあ質問。君はどうやって未来から来たの?」
五条の「君」という言葉に苦笑する虎杖。
「先生、俺の事は悠仁って呼んでよ。ずっとそうだったから。実は未来で東堂が術式のテストをしたいって突然言い始めてさ。術式の解釈を拡大しまくったって爺のくせにはしゃいでさ。そんでテストとして俺が呼ばれたんだけど、次の瞬間過去の俺と入れ替わったってこと。でも安心して。過去の俺は東堂がしっかり面倒見てくれるはずだし、修行も付けてくれるはず。取り込んだ宿儺に関しては俺が既に調伏した」
「東堂ってもしかして葵の事?」
「うん、そうだよ。東堂とはずっと仲良くてさ。老いない俺をずっと気にかけてくれるんだ。ウザいくらいに。でも嬉しいんだ。あ、東堂の術式は知ってるでしょ? それの解釈を広げまくったって言ってたんだ。それがこの有様でさ。でも結果オーライだ。この時代でやらなきゃいけない事が沢山あるからさ」
虎杖の眼が明らかに鋭くなった。
まるで怨敵を目の前にしたかのように。
「そっか。葵の術式で。じゃあ君――悠仁はこれからどうするの?」
虎杖悠仁の眼つきの変化に気づいていながらも敢えて流した五条は別の質問をする。
「うん、それを先生に聞こうかと思ってさ。俺って年だけは喰ってるけど頭は悪いからさ。下手したら本来の未来よりも悲惨になる可能性もなくはないから」
虎杖の言葉に五条は頷く。
「そうだね。じゃあこれから何が起こるのか全部聞かせてくれる? あ、それから悠仁は東京校に編入してもらうから」
後方で置いてけぼりになっていた伏黒に五条が笑顔で告げる。
「続きは学校に戻ったら聞かせてよ」
五条の笑顔に虎杖は満足気に頷く。
何となくこんな世界線もありかもと思い、最強主人公系が好きな主の妄想ですw