呪いの王と呼ばれた史上最強の呪い【両面宿儺】は困惑していた。
自身の指を喰らったはずの童。
その瞬間自身が童の体を乗っ取ってすべてを蹂躙するはずだった。
なのに、指を喰らったはずの童は消えていて、同一人物だが、明らかに別人のような存在が現れた。
それだけではない。
呪いの王である自分の生得領域に入り込んできたのだ。
不敵な笑みを浮かべて。
「貴様――何者だ」
宿儺は目の前のピンク髪の男に問う。
「指一本分とはいえ呪いの王がここまでだったとは――。まぁ良い。宿儺、俺がお前を調伏する」
男の発言に呪いの王としての矜持が騒いだ。憤怒が沸き上がる。
「調子に乗るなよ小僧……」
四つある腕がメキメキと音を立てて筋肉を盛り上がらせ、顔の模様も苛立ちを見せるかのようにピクピクと動く。
「解」
虎杖が突然呟く。
刹那、宿儺の上半身と下半身が割れた。
「なに……?」
宿儺は混乱していた。
目の前の男、虎杖悠仁が今行ったのは宿儺の術式である御厨子の【解】だ。
それも掌印や構えなど一切なく行った。
「宿儺、俺と縛りを結ぶなら生かしてやる。一つ、お前は俺の許可なく俺の記憶、思考、感覚を勝手に共有するな。一つ、俺の許可なく俺の体の全部一部問わず使用して表に出ない。一つ、何か聞きたいことなどがある場合は俺の睡眠中に生得領域に呼べ。これを受け入れるなら次の指を取り込んだ時に再戦してやる。これは指を取り込む毎に行われる。お前は俺と再戦が出来て、俺はお前を抑え込める。更にお前は一度でも勝てばこの縛りは解けて俺の肉体を乗っ取れる。どうだ?」
虎杖は真っ二つにされている自身と同じ顔の呪いの王、両面宿儺を見下しながら問う。
「貴様……まぁ良い。いつか必ず貴様を喰ってやる」
こうして呪いの王は一方的な縛りを受け入れた。
宿儺は強敵と戦うことが何よりの生きがい。
弱者を鏖殺し、蹂躙し、そして強者と戦う。
指一本分の今の状況ではある程度の呪術師であれば敵ではない。
しかし、一定程度以上の強者には通用しない。
虎杖悠仁が何者なのか。それは未だに解けていない。
しかし、自身と同じ術式を使っている事を見るに何かしらの関係はあるのだと悟る事が出来る。
だがそれは指を取り込んだ先、力を取り戻せばいつでも虎杖を喰らい、縛りを解くことで解決できる。
そう判断した。
それは間違いではない。
絶対的な強者として生きていた宿儺だから出来る判断。
しかし、相手が悪すぎた。
この時は知る由もないが、宿儺は生涯この時の判断を悔いる事になる。
「ここも久しぶりだ」
【東京都立呪術高等専門学校】
表向きは宗教系の専門学校であり、本当の目的は呪術師の育成。
虎杖悠仁、伏黒恵、五条悟が高専の門の前で立ち止まり、虎杖が呟く。
そんな虎杖の様子を訝し気に見る伏黒と何かを察している五条。
「行くよ悠仁」
五条は昨夜、「続きは高専で」と言っていたが、新幹線内である程度の事は聞いていた。
そして五条の判断で一部を伏黒にも。
更に東京校の学長である夜蛾正道にも伝える事を五条が決めた。
もちろん一方的に話しても信じてもらえるはずはない為、虎杖の実力を見てもらってから改めて判断する事になっている。
虎杖の話では過去、即ち前回の世界線では夜蛾学長に初めて会った時に試験と称して夜蛾の呪骸と戦ったという。
五条は夜蛾という人間をよく知っている。
故に夜蛾ならばそういう行動を取るという事も理解している。
伏黒は先に寮に戻り、五条と虎杖は学長が待っている部屋にいた。
「未来から来た――ねぇ」
サングラス姿の厳つい男。
その厳つさに似合わず膝元にはぬいぐるみが複数。
「どれをどう信じろと?」
五条は内心笑っていた。
夜蛾という男はこういう男だと。
既に五条の話を聞いて、信じているにも関わらず。
「学長、確かその呪骸たちはパンダ先輩みたいに自我はないんだよね?」
虎杖が聞く。
ピクリと動く夜蛾の眉。
しかし、すぐに返答する。
「だったらなんだ?」
分かってるくせに――。声には出さないが五条も虎杖も呆れていた。
「攻撃してきてよ。その方が早いでしょ?」
虎杖はポケットに手を突っ込んだまま夜蛾に言い放つ。
そんな一回り以上年下のような青年、虎杖の態度、言葉に苛立ちを見せる夜蛾だったが、徐に立ち上がり、言い放った。
「いいや、そんなことよりお前は宿儺を調伏したと言ったな? だったらその宿儺を表に出せ」
一瞬五条が焦る。
五条と虎杖は問題ない。
五条は最強の呪術師と呼ばれていて、虎杖は宿儺を宿している。
だからこの場で攻撃を受けるとしたら夜蛾しかいないのだ。
しかし、そんな一瞬の思考で五条は改める。
宿儺を調伏したという虎杖。
そして圧倒的優位な縛りを結んだとも言っていた。
すなわち宿儺が表に出たとしても問題はないという事。
先日初めて会った虎杖だが、その実力は本物。
何よりも未来から来たという話を五条は信じている。
「宿儺」
虎杖の一声で虎杖の左頬に口が現れた。
「何だ」
その口が喋った瞬間夜蛾と五条は驚愕する。
『まさかここまでとは――』
これが五条の偽らざる本音だった。
「学長、どう?」
虎杖は真っすぐ夜蛾を見つめる。
深くため息を吐く夜蛾。
「分かった。もういい」
夜蛾の言葉を受けて虎杖の頬の口は消えた。
「乙骨と同じように特級として、学生をやらせるのか? それとも普通に術師として任務を?」
夜蛾は五条に聞く。
「うーん、僕としては変に未来が変わるのが一番怖いから特級登録はして、学生登録もする。その上で恵や今手続き中のもう一人の子の指導も任せようかなって。それに悠仁が居ればどんな任務も問題ない。他二人を見てくれるだろうし、それに悠仁もその為に学生として居ようと思ったんでしょ?」
五条の言葉に虎杖は笑みを浮かべて頷く。
「その間に僕は悠仁の情報を基に色々動く。まずは例の特級たちだね。あと――羂索」
羂索は五条の親友である夏油傑の肉体を乗っ取り、使用している呪いだ。
「だがまずは情報収集なんだろ?」
夜蛾の言葉に五条は肯定の意味で頷く。
「うん、さっきも言ったように大きく変わっちゃうことは避けないといけないからね。それでさ、総監部の爺たちに悠仁の事を何て説明するか考えてたんだけどさ、憂太の前例があるから、野良で活動していた呪術師ってことで、宿儺の調伏と併せて、業界の事はあんまり知らないけど実力は本物っていう体で行こうと思うんだけどどうかな?」
五条の言葉に夜蛾と虎杖は悩む。
しかし、虎杖が何か思い出したように「あ」と声を上げる。
「そういえば総監部はダメなんだ。俺の情報をあんまり上げない方が良いかも。先生も知ってると思うけど総監部は腐りきってるからさ。内側から変えようとしてくれる人もいるんだけど、ほとんどが羂索と繋がってる連中ばかりでさ、未来で先生が皆殺しにしたんだよ」
虎杖の言葉に夜蛾だけではなく五条まで声を出して驚く。
五条は呪詛師を殺したことはあるものの、所謂人間を殺したことはなかった。
いくら腐りきった連中とはいえ、殺したいと思ってもそっち側へは行かないと踏みとどまっていたのだ。
「先生もかなり迷ったらしい。先輩たちも一緒にやるって言ったみたいなんだけど、俺がやらないといけないんだって言って一人で。その後の総監部は京都の楽巌寺さんに任せたんだよ。あの人最初は俺の処刑に大賛成だったんだけどさ、変わったんだよ」
楽巌寺という人名を聞いた瞬間五条と夜蛾の表情が一瞬曇ったが、虎杖の言葉に渋々納得する。
「じゃあ悠仁の事は宿儺関係なしに報告しようか。新たな特級として迎え入れるってことで」
五条の言葉に虎杖は頷いて肯定を示す。
「分かった。じゃあ虎杖、お前は今日から東京校の生徒として伏黒と共に動いてもらう。もちろん今手続き中の釘崎もだ。担任は悟だが、これから情報収集やら総監部関係で色々動くから実質的にはお前が仕切れ。任務関連も――ってそういえばお前年幾つなんだ? 不老とは聞いたが」
突然思い出したかのように虎杖の年齢を聞く夜蛾。
そんな夜蛾に五条はツボに入ったように爆笑している。
しかし、次の虎杖の言葉を聞いて笑いが止まる。
「84歳」
空気が凍る。
「マジ……?」
夜蛾は唖然とし、五条はそれに加えて虎杖の顔をまじまじと見る。
「うん、あと300年は生きるみたい。天元様みたいに不死ではないけどさ」
続く虎杖の言葉に夜蛾と五条は「へぇ」と感心しながら虎杖の顔や体を嘗め回すように見る。
「どおりで僕以上の呪力量だし指一本分とはいえ宿儺を調伏するはずだ……」
調伏とはただ倒すだけでは不可能だ。
屈服させなければならない。
いくら最強であっても調伏とは簡単ではない。
新たな特級術師が誕生し、実年齢84歳。偽りの年齢16歳の怪物が誕生した。
第十話前後までは一日三話投稿と致しますので、是非読んでいただけると幸いです!
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