呪術廻戦υ(ユプシロン)【作者入院の為休載】   作:ホシカワ

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第六話【特級の意義】

 伏黒釘崎両名の修行開始から早二週間が経っていた。

 伏黒は最初の乱取りから二時間を超える耐久だったが、それは単純に温存して戦っていたからにすぎず、虎杖の思う『最初から全力』には程遠く、それでは呪力量が伸びないと判断した虎杖は最初から全力で戦うように伏黒へ言い、結果として実質初めての乱取りとなった二回目は十五分。

 それから二週間毎日伏黒と虎杖の乱取りは続いた。

 結果として二週間目には伏黒の乱取り時間は一時間にまで延び、呪力量が大幅に上がった。

 

 そして釘崎は元々稚拙だった呪力操作が格段に上手くなり、精密な呪力操作によって術式運用の効率が大幅に向上した。

 共鳴りや簪の試行回数が大幅に増えたからだ。

 

 そして虎杖は自身の術式の精度や威力の向上だけでなく、各地の呪霊情報や呪詛師の情報を集めていた。

 その情報は五条や夜蛾などと共有し、また、五条や夜蛾からも情報が回ってくる。

 虎杖が事前に警告していた様々な件の情報を基に虎杖、五条だけでなく夜蛾も情報収集を常に行い、毎日情報の精度を高めあっている。

 そして喫緊で重要な情報である少年院の宿儺の指。

 これも五条が駆け回って情報を集めてくれた。

 どうやら元々指が少年院に安置されていて、それがもとで特級が発生した――というのが五条の推理。

 虎杖が前の時間軸で経験した少年院事件は、羂索の意図だけで成立したものではなく、偶然性も強い。

だからこそ、この時間軸でも同様の事件が発生する可能性は高い。

 しかし、今の段階で介入して指を回収するのと秘密裏に入院している少年たちを隔離し、特級発生と共に任務に出るのとどちらが良いかを議論した結果、現段階で介入し、指を回収するのは羂索に悟られる可能性と警戒心を高める可能性があるとの理由で秘密裏に工作するという作戦に至った。

 これが約一週間前。

 既に少年院にはいつでも少年や看守たちが避難できるようにされている。

 その為に高専の補助監督である新田明が二十四時間体制で監視をしているのだ。

 

 

 そして七月某日。

 「新田から連絡が入った。完全変態を遂げた特級呪霊を確認。既に全員避難済み。また、既に新田が帳を降ろしてるからさ。悠仁、恵、野薔薇、頼んだよ。僕は作戦通り動くから」

 早朝、突如伏黒によって叩き起こされた虎杖と釘崎は五条の説明を聞いて表情を締める。

 「悠仁、中での作戦を説明して」

 五条の質問は虎杖に現場の判断を任せるという意味であり、釘崎と伏黒にもしっかりと聞かせるためだ。

 「まず前提として特級呪霊ではあるけどまだ完全じゃない。建物自体も特級の領域になっている。これも不完全ではあるが、領域に変わりはない。だから中では常に呪力を纏っておくように。どこから特級が襲ってくるか分からない。伏黒は常に玉犬を出して索敵。釘崎は常に術式を撃てるように準備をしておいてくれ。俺は基本手は出さない」

 作戦を真剣な表情で聞いていた二人は虎杖の最後の言葉に「は?」と同時に声を上げる。

 すると五条の堪え切れない笑いが響く。

 「あぁ、ごめんごめん。うん、悠仁は基本手を出さない方が良いよね。悠仁が出れば一瞬で終わる。けどそれは若い術師の芽を摘む行為だ。それを望んでいないから悠仁は二人を鍛えたんだし、二人も修行を必死でやったんでしょ?」

 五条の言葉に二人ははっと自分を省みる。

 強くなるために修行をしていた。

 なのに全て虎杖に任せるんじゃ何の意味もない。

 「分かった。俺たちでやってみる」

 伏黒と釘崎は決意に満ちた眼で五条と虎杖を見る。

 「よし、行こう」

 そして伊地知の運転で少年院に向かう。

 伊地知は今回【特級討伐】の任務だと聞かされている。

 理解はしている。

 若いとはいえ、特級が居て、子供とはいえ呪術師として給料を得ている。

 だから任務に逆らうことは出来ない。

 しかし、伊地知は優しかった。

 いつも心に思っている。『何故子供を見送る事しか出来ないのか』と。

 だが、五条から言われた。

 『みんなの事は心配しなくていい』

 普段なら五条の言葉など聞き流すのだが、その時の五条の表情が真剣そのものだったから余計に頭に残っている。

 そして一年の中で一番の異色にして最年長の虎杖悠仁は【現代最強】の五条が実力を保証する【最強】だと。

 この一か月虎杖の補助で任務に付き添ったが、すべての任務が十分かからず終了する。

 傷ひとつ付かずに。

 だから謎の安心感もある。

 だからと言って子供を死地に送るというのは並大抵の精神ではいられないのも事実。

 「気を付けてください」

 現場に到着し、三人に告げる伊地知。

 「行ってきます」

 三人は伊地知に答え、帳に侵入する。

 

 

 「確かにこれは領域だな」

 少年院の建物に入った三人は明らかに通常の建物とは違う構造を見て伏黒が呟く。

 虎杖の言った通り既に二人は呪力を纏っていた。

 「玉犬」

 伏黒が手で影絵を作り、二頭の玉犬を呼び出す。

 「探せ」

 伏黒の命令に玉犬は素早く反応し、呪力や残穢の痕跡を探し始めた。

 そして移動を開始する。

 

 釘崎も既に攻撃用の金槌と五寸釘を手に持って身構えている。

 虎杖はそんな二人を後方二メートル程離れ、付いていく。

 二人は知らぬことだが、虎杖は既に特級呪霊の居場所を感知していた。

 魂の輪郭を捉える行為を術式に落とし込み、拡大解釈し、使用する一種の結界術【魂致】を習得した。

 これによって索敵が非常に優位に進む上、魂の色によって対象の発言の真偽をある程度分かるようになる。

 しかしこの術式は生得術式でも刻まれた術式でもない為、口伝などによって伝承するしかない。

 そして虎杖はこの術式を補助監督に覚えさせようと思っていた。

 それによって補助監督が前もって危険を感知でき、更に索敵などによって術師をより補助できるようになる。

 何よりも自分の身を守る術を持たない補助監督に少しでも危険から遠ざかってほしいと虎杖は考えていた。

 

 

 数分間領域の建物を歩いていた一同だったが、玉犬が何かに反応し、白が走り出す。

 一拍遅れて伏黒と釘崎も走りだし、虎杖も付いていく。

 そして白が止まり、威嚇する先には広い空間に佇む呪霊だった。

 頭部にドレッドヘアのような黒い山。そしてその山に幾つもの眼。

 全身が気味悪い薄青。

 一同を見た瞬間に大きい口の口角が異様に上がり、笑う。

 ここに来るまでに数十の雑魚呪霊が襲い掛かってきたが、その悉くを玉犬によって祓ってきた。

 そして目の前の特級。

 ここに来るまでは伏黒だけでなく釘崎も楽勝だと考えていた。

 必死に修行し、呪力量や呪力操作を大幅に伸ばした。

 だが甘かった。

 元は三級から四級の雑魚呪霊で宿儺の指を取り込んだ結果変態を遂げ、特級に成りたて。

 だが、それでも特級は特級だった。

 「釘崎。奴を俺が拘束する。その間にお前の術式でやれ」

 伏黒は呪霊から目を逸らさず小声で釘崎に指示をする。

 「りょーかい」

 釘崎も伏黒と同様に緊張していた。

 虎杖が居るとはいえ基本手は出さないと事前に宣言している。

 即ち二人が戦闘不能になるまで手は出さない事を意味している。

 だから自分たちがやるしかない。

 その思いで呪霊を睨む。

 

 「大蛇!」

 玉犬の白を解除し、巨大な蛇の式神を召喚する。

 命じずとも伏黒の意図を理解しているようで、大蛇は呪霊を拘束するために呪霊を中心に蜷局を巻く。

 そして締め上げる。

 「キャッキャ!」

 悲鳴ではない。

 嘲りだ。

 しかし、呪霊が嗤っている間に釘崎は宙に飛び五寸釘を放り、金槌で撃ちだす。

 「簪」

 呪力を纏った釘が勢いよく特級呪霊へ飛ぶ。

 呪霊の首元に刺さる――と思った瞬間、呪霊は簡単に大蛇の拘束から抜け出し、宙に飛んだ。

 そして宙を蹴って釘崎の方へ向かう。

 「釘崎!」

 大蛇の尾で釘崎をカバーしようとするが、呪霊の速度に敵わず、呪霊の拳が釘崎に直撃する。

 十数メートル吹き飛んだ釘崎は壁に激突し、土煙が上がる。

 「釘崎!」

 釘崎と呪霊の間を分断するように大蛇が入り、玉犬が呪霊に攻撃を仕掛ける。

 しかし呪霊は腕をひと薙ぎして噛みつこうと飛んできた玉犬を吹き飛ばす。

 「キャキャキャキャ!」

 二人を嘲笑うように叫ぶ呪霊を伏黒は吹き飛ばされた玉犬を影に戻しながら釘崎を見る。

 その瞬間伏黒は何かを悟ったように別の式神を召喚する。

 「鵺!」

 呼び出された式神は全身に帯電し、呪霊に突っ込む。

 しかし、呪霊に直撃する寸前で方向転換し、宙で再び体勢を整えると再び呪霊に向かう。

 そしてまた方向転換し、体勢を整え、呪霊に向かう。

 そんな謎の行動が三回繰り返された時、ようやく鵺の体当たりが実行された。

 もちろん呪霊側は無傷で嘲笑っている。

 しかし伏黒の狙いは別にあった。

 「共鳴り」

 吹き飛ばされた釘崎の声が響く。

 そして呪霊の叫び声が響く。

 「ギェェェェェ!」

 伏黒が気づいたのは呪霊の拳にあった傷だ。

 抉られたような傷だったが、呪霊にとっては取るに足らない傷だったのだろう。

 しかし、それは釘崎の計算によって付けられたものであり、呪霊の一部を取った事で直接釘を打ち込まずとも術式を使用できる。

 その準備の為に伏黒は鵺を使って時間稼ぎをしていたのだ。

 

 「満象!」

 伏黒は鵺を解除し、巨大な象を召喚する。

 そして魂に痛みを感じている呪霊に満象の全体重が乗っかる。

 痛みと圧力によって二重に苦しむ呪霊だが、満象はどんどん巨大化していく。

 伏黒の呪力によって巨大化しているのだ。

 以前は満象は単独でしか呼べなかった。

 しかし、修行によって大幅に呪力量が増えた今では複数で呼べる。

 だが今回は特級呪霊を確実に祓う為に満象のみに呪力を使っている。

 「共鳴り消える!」

 釘崎の声が必死の形相の伏黒に届く。

 焦る伏黒だったが、今は呪霊を抑え込むために集中すべきだと思いなおし、呪力を送り続けている。

 だが、健闘虚しく満象は呪霊によって吹き飛ばされてしまった。

 「はぁはぁ――クソ……」

 呪力をほとんど使い果たし地面に膝を突く伏黒。

 呪霊も釘崎の術式と満象の重量圧力によってやや弱っている。

 釘崎も壁に高速で激突し、大怪我を負っている。

 伏黒もこれ以上の継戦は不可能。

 今なら二人は確実に殺せる。

 呪霊はそう判断しているが、何故か本能がそれを止めている。

 否、理解している。

 この場で最も恐れるべき存在を――。

 二人とは一線を画す強さでありながら一切手を出してこない。

 しかし、呪霊がどちらかを殺そうと思い立った瞬間特級呪霊が恐怖するほどのオーラを受ける。

 「よく頑張った。反省点や何かは今度にしよう。今は俺の戦いをよく見ておけ」

 虎杖が歩き出す。

 対して呪霊はジリジリと後ずさりをする。

 呪霊の意思で後ずさりしているのではない。

 特級呪霊ではあるが、絶対的な強者を前にして雑魚呪霊だった時の【逃げの一手】を本能で選択してしまう。

 いくら宿儺の指を喰らったからと言って元の呪霊が雑魚だった事を考慮すれば残虐非道で何でもできるような万能感に陥るのは仕方のない事。

 しかし、そんな特級呪霊は特級になって初めて恐怖をしている。

 だがその恐怖が呪霊の寿命を延ばすことに成功した。

 極度の緊張と極度の恐怖によって【呪い】が開花した。

 瞬時に違和感を悟った虎杖は一秒も経たずして壁に倒れてこちらを見ていた釘崎と地面で膝を突いている伏黒を抱き上げ、自分のすぐ後ろに待機させた。

 「何をしようと……?」

 釘崎と伏黒ももう戦えない。

 そんなボロボロの状態の釘崎がキャキャと笑みを浮かべる呪霊を見て問う。

 「領域が完成した」

 虎杖の衝撃の言葉に伏黒と釘崎は「嘘だろ……」と絶望の表情となる。

 「安心しろって。俺の傍を離れるなよ」

 突如呪霊が立っていた場所が盛り上がり、そして柱のように伸びて行く。

 十メートル程度で止まり、虎杖たちを見降ろしてニタリと笑う呪霊。

 そして柱からは大量の砲が出現する。

 その砲からは純粋な呪力の砲弾が一斉に三人に襲い掛かる。

 

 

 土煙が舞う。

 柱の上で下を見る呪霊は笑みそのままに更に笑い声を上げている。

 先ほどまで絶望的なまでに恐れていた人間が領域の完成によってこんなに圧倒する事が出来た。

 宿儺の指を喰った事で感情や思考も宿儺に似て、残虐で容赦を知らず、甚振るのが大好き。

 それに愉悦を感じる。

 だが呪霊は変化に気づいた。

 まだ三人分の呪力を感じる。

 しかも二人は先ほど通り弱った感じだが、当の男の呪力に一切乱れがない。

 

 手に呪力を纏い、周囲をひと薙ぎする。

 土埃が払われ、三人が姿を見せる。

 無傷だった。

 虎杖は両手両足に赫鱗躍動によって超強化した防御力と表に出した血の鎧、盾によって呪霊の攻撃を完封した。

 「流石に特級相手じゃ学ぶ暇がないよな。仕方ない。領域展開――血戦廻廊」

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