感想で気づかせてくださった皆様、本当にありがとうございます!
虎杖が領域を展開した。
その瞬間周囲は赤く染まり、特級呪霊の領域が上書きされ、コンクリートの地面は浮かび上がる真っ赤な液体に侵食される。
「血……?」
伏黒が赤い液体の匂いで血液だと気づく。
「あ、その血を傷口に当てないようにね。毒だから」
虎杖の言葉に伏黒と釘崎はビクッと背筋を伸ばす。
しかし釘崎は壁に激突した衝撃で背中に激しい痛みがあるようで、すぐに背中が丸まる。
「キェェェェェ!」
呪霊は虎杖の領域の中であろうと自分の術式を繰り出そうとするが、ここは既に虎杖の領域になっている為、少年院の建物を模したコンクリートの操作は出来ない。
それを理解した呪霊は口を大きく開けて呪力を吐き出す。
虎杖は剣指を地面と平行にし、指の腹を上に向けて指を曲げる。
すると虎杖の血に更に虎杖の呪力を加えられている血液が巨大な壁のように盛り上がり呪霊が吐き出した呪力の塊を完全に防ぐ。
続けて虎杖は剣指を縦横無尽に呪霊に向けて宙を書く。
瞬間、無数の穿血が呪霊の足元から現れて呪霊に突き刺さる。
「ギェ……ギギ……」
呪霊は既に息絶える直前であった。
「解」
止めの一撃で虎杖が斬撃を放つ。
突き刺さっている穿血と共に呪霊を真っ二つにし、更にサイコロ状に切り刻まれた。
これは呪霊がサイコロ状になっても再生するかもしれないという、「もしも」の為であり、可能性は低いものの、念のためというものだった。
しかしその必要もなかった。
既に呪霊は消えかかっていた。
呪霊の消失を確認し、虎杖は領域を解除する。
そして釘崎の背中に手を当てて反転術式を施す。
「ありがと」
釘崎は虎杖を見ずに俯いたまま告げる。
伏黒に外傷はない。ただ呪力を消費して弱っているだけだ。
「二人は先に外に出てくれ」
虎杖にはまだやることがある。
二人はそれを知っているし理解している為、無言で離れる。
二人が去ったのを確認して呪霊が祓われた場所へ歩く。
そこには指が一本落ちていた。
「やるか」
虎杖は躊躇なく指を飲み込む。
そして宿儺の生得領域へ入った。
「ようやくか……」
宿儺は苛立ちと好奇心の狭間で揺れ動く表情を隠すことなく虎杖へ向け、立ち上がる。
「やるぞ」
虎杖の掛け声とともに宿儺は掌印を結ぶ。
「領域展開――伏魔御廚子」
周囲が一気に薄暗くなり、地獄の門番のように宿儺が立つ。
そしてその後ろには巨大な赤い門。
「これも久々だ……」
誰にも聞こえない虎杖の独り言。
しかし、宿儺はそんな虎杖の何ともないような態度に更に苛立ちを募らせる。
「死ね虎杖悠仁」
宿儺は既に自分が勝ったと思っていた。
そう思うのは当然。
必中である捌が虎杖に絶え間なく襲うのだから。
しかし宿儺は異変に気付く。
虎杖に傷が付かない。
「簡易領域か」
必中効果を中和する簡易領域をいつの間にか張っていたのだ。
「小賢しい」
宿儺は自身の手で解を放つ。
だがそれも虎杖には届かなかった。
更に宿儺が放った解は虎杖がいつの間にか放った解によって打ち消され、それどころかそのまま宿儺に飛んでいき、右腕を斬り落とす。
一秒どころかコンマ一秒にも満たない間に。
『コヤツ、一体何なんだ……』
宿儺は初めて虎杖と対峙した時も感じた思いが再び湧き上がる。
呪いの王の攻撃が通用しない。
もちろん指の本数がまだ二本という事もあるが、それでも王としてのプライドが許さなかった。
そして――
「領域展開――血戦廻廊」
虎杖が突如領域を展開する。
『あり得ない』
宿儺は驚愕していた。
先ほどまで特級呪霊の中にあった指。その指から伝わって来た情報では先ほど虎杖は領域を展開していた。
そして宿儺の領域が展開されても簡易領域で対抗してきたことで術式が焼き切れていると判断していた。
にも拘わらず、虎杖は領域を展開した。
そして宿儺の領域は完全に塗りつぶされた。
『圧倒的な力』
「貴様……」
宿儺は既に負けを悟った。
そしてそれは事実だった。
血の海から無数の穿血が宿儺へ突き刺さり、調伏が完了する。
同時に宿儺との縛りが更新された。
領域を解除した虎杖は多少の頭痛に襲われた。
「やっぱり無理しすぎたな。五条先生はこれを三回だか四回だかやったんだよな? やっぱあの人最強だな」
それは未来の出来事にして過去の世界線。
五条と宿儺が行った焼き切れた術式を反転術式で強制的に治療する。
虎杖も練習したことなどない。
しかし長年の勘と知識と技術によって一応は完成した。
「帰ったら家入さんに診てもらおう」
少年院の特級呪霊は祓われ、建物も元通りになり、軽傷一人、死者ゼロという事で無事終了した。
「今何て?」
虎杖は正座をさせられていた。
高専に戻った虎杖は念のために頭を見てもらおうと釘崎と共に高専の医師として常駐している反転術式を他者へアウトプットできる家入硝子のもとへやって来たのだが、「焼き切れた術式を反転術式で治療した」と虎杖が発言した瞬間に「正座」と無表情の家入の言葉が飛んできたのだ。
そして説教が始まって十五分ほどが経ったのだが、何故か途中から五条もやってきて、同時に正座をさせられて虎杖と並んでいる。
「あのさ、特級ってホントにバカしか居ないわけ?」
家入の言葉に五条と虎杖は顔を見合わせる。
「先生みたいに奔放な人はそういないんじゃ?」
虎杖の言葉に家入の睨みが飛ぶ。
「そんなこと言ってんじゃないわよ。領域展開後に焼き切れた術式を反転術式で強制的に治療。これがどれだけ危ないことか分かってるわけ? まぁ今回は上手くいったようで特に異常はないけどさ。今の頭痛も反動によるものだと思うし」
それからも数分家入の説教が続き、逃げるように五条は虎杖を連れて医務室を去った。
「因みに焼き切れた術式を反転術式で治療するって未来では普通なの?」
五条は任務報告の為に虎杖を夜蛾の部屋に連れて行き、夜蛾、五条、虎杖の三人になったところで聞く。
夜蛾も一連の事は聞いていて、呆れ果てていた。
「いや、俺が知る限りやったことある人は五条先生と宿儺だけだよ」
虎杖の言葉に夜蛾は五条を睨む。
「え? いや、やったことないんだけど――少なくとも今までは」
夜蛾の睨みに視線を逸らし、おちゃらける。
「まぁあの時は宿儺との決戦だったし、仕方ないと思う。それで俺には経験と技術があったから出来るかなと思って試したら出来た」
虎杖の発言に今度は夜蛾の睨みが虎杖へ向く。
「二度とやるな。偶然上手くいっただけだと思え。脳に関しては未だに分からないことだらけなんだ。硝子も言っていただろうが、本当に偶然だ。現時点で最高戦力の虎杖、お前を失う訳にはいかん。未来が大幅に変わってしまうからな」
夜蛾の言葉に虎杖は反省し、頷く。
「分かった」
そして任務の報告が始まった。
「そうか、指二本分の宿儺も無事調伏か。そんで悟のほうも問題はなかったと」
夜蛾の言葉に虎杖と五条は同時に頷く。
五条の任務は少年院を監視している組織や個人、呪霊がいないか、居たとしたら祓うか監視をして尾行。
そして結果として居たのは指に釣られて集まって来た雑魚呪霊だけだったようで、監視などはいなかったようだ。
「だが少なくとも羂索は指を喰った呪霊が祓われた事と回収した事は把握しているだろうな。そう仮定した上で今後行動するように」
夜蛾の言葉に五条と虎杖の両名は頷く。
「悠仁、二人はどうだった?」
五条は興味津々で聞く。
「うん、流石に特級相手には無理があったけど、戦略と連携両方いい感じに動いてた。それに伏黒は呪力量、釘崎は呪力操作。これらがかなり上がった事で致命的なミスもなく無事に呪霊を弱らせることが出来てたよ。ただやっぱり決め手がね……」
五条は虎杖の言葉に数度頷き、口を開く。
「野薔薇に関してはサポートか止め要員そして伏兵として居た方が良いかもね。陽動、会敵なんかは恵が担当って感じで完全に分けた方が良いかも」
虎杖は同じことを思っていたのか、同意するように頷く。
「うん、俺もそう思う。やっぱり得手不得手はあるからさ。後は伏黒にもう少し修行を課して新たな式神を調伏するように言うつもり」
虎杖がそう言うと「そうだね。その方向で行こう」と五条が言う。
そしてこの会議は終了した。
「悔しいな……」
伏黒と釘崎は治療を受けて寮の広間に居た。
伏黒の重い言葉に釘崎は無言で頷く。
「もっともっと強くなって誰の手も借りなくて済むほど強くなってやる。そんで今度は私が誰かを守るんだ」
釘崎は決意を口にして立ち上がる。
「お前もライバルだかんな!」
釘崎の挑戦的な口調と表情に伏黒は笑みを浮かべて「当然だ」と自分の部屋に戻る。
悔しくないわけがなかった。
『基本手は出さない』
というのは少なくとも二人で何とか出来ると思われていたからだ。
なのに結局止めを刺すことが出来ず、二人ともダウンしてしまった。
結果良ければ全て良しではない。
悔しさを胸に強くなるという根本的な決意を新たにしなおし、二人はまた歩く。
明日【3月14日】より、一日一話更新とさせていただきます!
誤字報告や感想で自分の意味不明なミスを教えていただいて、推敲の大事さを知りましたwww
本当にありがとうございます!