呪術廻戦υ(ユプシロン)【作者入院の為休載】   作:ホシカワ

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第八話【新たな道】

 虎杖悠仁は鍛錬場で伏黒恵と釘崎野薔薇の正面に向かい合って立っている。

 「一昨日の特級戦の反省点と改善点は分かったかな?」

 虎杖の言葉に二人はしっかりと頷く。

 伏黒は呪力量と式神のレパートリー。

 釘崎は自分の機動力と身体能力。

 これらは自分たちで考えた反省点と改善点だ。

 敢えて虎杖は二人にそれを聞かず、自分で考えるように言った。

 事実二人の改善点は間違ってはいない。

 しかし――

 「伏黒、確かに式神のレパートリーはもっと増やすのは大事だし、呪力量も大事だ。だが、それでは意味がない。十種影法術とはどんな術式かよく考えてみてくれ。次に釘崎、機動力と身体能力。確かに必要だ。だが、釘崎の術式は近接向きではないし、伏黒のように近接を出来る術式でもない。俺が釘崎にやらせた呪力操作は自分の身を守る為の物。もしもの場合に備えての修行だった。釘崎に今一番必要な物は何だ? 自分の強みを一番活かせるのは?」

 虎杖はそれだけを二人に投げかけ、考えさせる。

 全てを教えてしまっては修行の意味がない。

 自分で考えて答えを見つける。

 その答えが間違っている場合は改めて教える。

 過去の世界線で東堂が虎杖に行った方法だ。

 というよりも虎杖にはその方法しか知らない。

 五条も全てを与えて教えるような事はしないし、そんなやり方をしてしまえば自分で考える術が身に付かない。

 それを理解しているから伏黒と釘崎は考えこみ、悩む。

 

 

 二人が自分の道を悩んでいる間に虎杖は自分の作業を行っていた。

 自分の領域内の血液を補充するために赤血操術の血を操る技で自分の領域内に送り込む作業。

 

 それから数分静寂な時間が流れる。

 釘崎は金槌を握りしめ、伏黒は自分の影をじっと見つめ何かを思案している。

 その時鍛錬場の扉が開く。

 「先生」

 五条は悩む二人を笑顔で見つつ、虎杖の方へ歩を進める。

 「やぁ悠仁。ちょっと問題――という程でもないけど、少し良いかい?」

 虎杖は頷き、五条の後に続いて鍛錬場を出る。

 廊下には夜蛾が居て、難しそうな顔をしている。

 「来たか。悟、報告を」

 夜蛾は既に聞いているようで、虎杖に聞かせるために五条へ報告を求めた。

 「まず羂索側に特に目立った動きはまだない。問題はここから。呪霊の数が爆増してるんだ。雑魚も居れば一級以上も」

 五条の言葉に虎杖は激しく反応を示し、五条と夜蛾を見る。

 「その表情を見るに過去の世界線ではこんな事なかったみたいだね」

 五条は虎杖の表情を見てそう言うと、夜蛾を見て頷く。

 

「恐らく――ではあるが、これは虎杖が現れた事で発生したイレギュラーだろう」

「どういう事だ……?」

 虎杖は激しく困惑していた。

 五条の言ったように過去の世界線でこの期間に呪霊の大量発生はなかったし、それが自分のせいという。

 

 「虎杖、この世界には一種の理がある。悟が六眼と無下限呪術を持って生まれた時も世界がバランスを取ろうと呪霊の数と質が上がり、同時に呪術師の数も増えた。そして今回本来いる虎杖が未来へ行き、未来の最強術師であるお前がこの世界に来た。それによって世界の理が虎杖、お前を一種の異物もしくはバランスブレイカーと断じてバランスを取る為に呪霊の数と質を増やした――という仮説だ。まぁ現状呪霊は他の術師や高専生で十分対処できるしな。一応お前には教えておこうと思って伝えた。念のため頭に入れておいてくれ」

 夜蛾の言葉に虎杖はショックを受けつつも頷く。

 しかしくよくよしていられない。

 そんな時間もない。

 そんな時間があるなら周りをもっと強くする。

 虎杖はそう誓い、鍛錬場に戻る。

 「強いな」

 夜蛾は虎杖を見送って呟く。

 「ん~、多分僕たちが思っている以上に未来でとんでもない悲劇が起きたのかもしれないっすねぇ。だから強くならざるを得なかったのかも」

 五条も寂し気な虎杖の背中と決意の表情を頭に思い浮かべて言う。

 

 

 

 

「式神以外にも呪具の出し入れが出来るからそれを利用する」

「私は遠くから釘を撃てるように呪力を圧縮して撃ちだしと同時に呪力爆発力で速さと正確さを高める」

 二人は戻って来た虎杖に自分で考えた改善点を告げる。

 虎杖は数度頷き、そして返す。

 「うん、伏黒はそれじゃあ足りない。理解が足りてないよ。釘崎はそれが正しい。釘崎の強みは直接接敵の必要がない事だ。だから呪力量と呪力の圧縮、解放、爆発力。そして撃ち出し速度、正確性、威力を上げて行こう」

 虎杖の言葉に釘崎は力強く頷き、室内に設置してある的の方へ向かう。

 伏黒は悔しそうにその場に立ち、俯く。

 「伏黒、固定観念に縛られ過ぎてるぞ。式神は全体を顕現させないといけないか? 式神は伏黒の影から出てくる。つまり伏黒の影、式神は繋がっているという事だ」

 虎杖はわざと言葉を濁して伝えた。

 未来では既にそれを行っている術師が居る。

 しかし、それをそのまま伝えても気づきや進歩が無くなる。

 だから敢えてぼかして伝えて、そこから本人に発展させる。

 そして伏黒は虎杖の言葉に衝撃を受けたように自分の影を見る。

 「それから俺が言ったことを思い出してくれ。伏黒の影は一種の領域のようだという事を。今はそれ以上考える必要はないけど、忘れないでくれよ」

 虎杖はそう言うと二人の修行を見ながら自分の修行を開始する。

 

 

 虎杖の言葉に考えこむ伏黒は自分の手をじっと見つめ、そして目を瞑る。

 玉犬の牙を想像し、呪力で再現。

 しかし、呪力が手に集まるだけだった。

 伏黒の後方では釘崎が一心不乱に釘と金槌に呪力を込めて出来る限り圧縮し、撃ち出している。

 虎杖の修行は変わったもので、掌印を結んで目を瞑り、じっと立ち、微動だにしない。

 傍から見たら何をしているのか一切分からない。

 しかし、ある程度の術師なら分かる。

 少なくとも五条なら。

 自身の生得領域内でイメージ修行、術式修行、瞑想などを行い、自分の精神力を高めているのだ。

 だが、虎杖のそれは少し違う――。

 虎杖の意識は今【心象領域】の中にあった。

 

 

  過去の世界線――その未来で行われた宿儺との最終決戦において、虎杖は未完成ながらも領域を展開した。

 だが、その領域では奇妙な現象が起きていた。

 宿儺はもちろん、術者である虎杖自身ですら、その領域を上手く説明することが出来なかったのだ。

 その後、虎杖は様々な勉強と実験、そして修行を重ねる中で、ようやく一つの結論に辿り着いた。

 あの空間は――自らの心象風景だったのだ。

 虎杖の故郷。

 安心できる場所。

 大切な思い出。

 そして、虎杖が好きだと思える景色。

 それらが形となって現れた空間だった。

 虎杖はその場所へ、分かり合いたい、分かりたいと願った相手――宿儺を連れて行った。

 結果として、二人が分かり合うことはなかった。

 しかし、その出来事を経て、虎杖にとってその空間は特別な意味を持つものとなった。

 そして更なる研究と修行の末、虎杖はもう一つの事実に気づく。

 あの領域は、術師が持つ【生得領域】ではなかった。

 それは――【心象領域】と呼ぶべき空間だったのだ。

 本来、術師は自身の生得領域を基に領域展開を行う。

 しかし虎杖の場合、それとは別に、自身の心象風景から形成された領域を保持していた。

 魂を知覚できる虎杖だからこそ可能となった例外的な現象。

 その結果、虎杖は【生得領域】とは別に、もう一つの領域――【心象領域】を修行場として扱えるようになったのである。

 こうして虎杖は、生得領域と心象領域という二つの領域を使い分ける、極めて特殊な術師となった。

 

 

 伏黒は悩みに悩んでいた。

 虎杖の言う事が全く理解できない。

 否、理解は出来ている。

 しかし、どういうことなのかが分からない。

 

 自分の影から玉犬の顔が覗く。

 その瞬間、突如伏黒の脳裏にとある可能性が浮かぶ。 

 「そうか!」

 突然伏黒が叫び、虎杖、釘崎が自身の修行を中断して伏黒を見る。

 「あ、すまん――。虎杖、一つ聞きたい。俺の術式は影から式神を召喚する。それは間違いではない。けど、何も”丸ごと”呼び出す必要はない。式神の能力、特徴を引き出して使用する――。そういう使い方があるんだろ?」

 伏黒の真っすぐな瞳が虎杖に刺さる。

 虎杖は何も答えず、口角だけ上がり、自分の修行に戻った。

 釘崎は何のこっちゃという表情だったが、虎杖の反応を見た伏黒は確信を得たのか、笑みを浮かべて集中する。

 伏黒の見据える自分の影。

 その先に新たな可能性が広がっていた。

 

 しかし対して釘崎は汗を垂らしながらブツブツと何かを呟きながら集中力を切らさない。

 「まだ遅い。弱い。こんなんじゃダメだ……」

 釘崎は舌打ちをしながらも必死にもがいている。




感想にて呪力量は伸ばせないと教えてくださった皆様、今後の第九話で明言されるのですが、一応の補足をさせていただきます。

虎杖が呪力量を伸ばす修行と言っていますが、正確には生まれてから決まっている器を完全に満たすための修行です。
総呪力量を増やすのではなく、器を満たすための修行です!
因みに独自解釈ですので、悪しからず・・・
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