フラダリカフェで雨宿りをさせてもらうけども、主人公セレナは浮かない顔で…?
フラダリさんって実際にお会いして話したら、
面倒くさそうなオーラぷんぷんだよなーとは思います。
ポケモンZA発売前、今より10年前に執筆したものです。10周年で此方にも投稿しました。
※pixiv、ソナーズ、AO3で投稿済です。
最悪だ。
今日は厄日だ、さっさと旅の続きに戻りたい。
あたしはそんなことを考えつつ、ついさっき起きたことを整理する。
その1、スタイリッシュになるために、ミアレであれこれしていた。そしたら空が曇り色になってきて、間もなくザーザーと雨が降ってきた。カサなんて、もちろん持っていない。
その2、あたしが偶然フラダリカフェの前にいたので、そこで雨宿りをさせてもらっていた。濡れなくて済んで助かったわ。
――…中に?入るわけないでしょうが。風はなかなかに湿り気を含んでいて、正直なところ寒い。すごく嫌な風だった、でも入りたくはない。
その3、手前にいたフレア団したっぱの女性が一緒に入らないかと尋ねてきた。これを機会に、エスプレッソにチャレンジしてみてはどうかと言われたが断った。
――…どう見たってあたし子供でしょ。子供にエスプレッソ勧めないでほしい。というかあんたらの勧めには絶対にノらない。
その4、オーナーのフラダリさんまでやって来た。カフェの様子を見に来たらしい……ウソかホントかわからないけど。
予想通り過ぎる真っ赤なカサをさしていて、よろしければ貸しましょうか?と言ってきたけど丁重にお断りした。――…この人に借りを作りたくない、カサなんて返さなきゃいけないし。
その5、そしたら今度はカフェに入るよう進言してきた。肌寒いし、ココアを淹れてあげようと。
いいです結構です恐れ多いですと断ろうとしたが、ちょうどわたしもキミとお話したかったのでと、いつもの真顔で押し切られてしまった。
今日は寒い日だ。風邪を引いてしまっては、ご家族やお友達、博士を心配させてしまいますよと言われちゃ反論できない。
その6。そしてあたしはフラダリさんを前にテーブルについている。何のバツゲームだよ、これ。
一応顔や口には出していないが、あたしはこの人が大の苦手だ。
カフェまで運営し、ホロキャスターを開発した成功者、王の弟の子孫だか何だかで生まれまでロイヤル、そのくせ驕らず謙虚で優しくて、利益をトレーナーに還元までする驚きの人格者――…実際、プラターヌ博士やカルムくんはこの人を大変評価している。あたしも実際に会ったこともなく、話したこともなければ「こんな超人が世の中に実在しているなんて」と良いおどろきを持っていただけだっただろう。
けれど、この人はそれだけでは済まない。端的にいうと、確実にヤバイ人だ。
言葉の節々に狂気が見え隠れ――…というか隠そうとしてすらいない。研究所でも話かけられて、会話の内容に違和感はあったけど、カルネさんとの会話で確信した。
「世界を一瞬で終わらせ、あらゆる美しさを永遠のものとするかもしれない」とかなんとか――…うっわぁ、関わりたくないという確信だ。
だというのにホロキャスターから連絡が来たり、博士との交友関係にあるからか呼び出しくらって一緒にいたりした。居心地は良くなかったけれど、別に2人きりで話したりするワケでもないから気にしないでおいた。
ただ。わかりやすい赤色の執着やら、世界がどうのこうの言ってたり、言動がとっても宜しくない赤スーツ集団、通称フレア団のしたっぱがホロキャスターの開発者を褒めていたり、カフェの様子があからさまにおかしかったり、ぶっちゃけ客にフレア団が今入ってるし!!
今までのことを考えるに、おそらくはフレア団関係者だと思われる。
うん、フラダリさんの発言と相まって、めちゃくちゃ関わりたくない。カンベンしてください。
――…で、今は不穏な空気の中二人でいる。
憩いの場であるカフェのハズが、ここはあからさまに異常だ。嫌な沈黙が、真っ赤な店内を支配していた。あたしは、ひそかに唇をかむ。
店員やさっきのしたっぱの女性が不審そうな目で見ている。なんでこんな小娘がこの御方と?みたいな感じかな。こっちが尋ねたいわ!
赤いテーブルにコップの白がよく映えている。目の前のココアからの良い香りが鼻孔をくすぐってきた。しかし飲もうとは思わない、毒が入っていても不思議じゃない。
窓から外を見る。空はやっぱり曇天の色、そこから大粒のしずく――…さっさと晴れてほしいものだわ。
強がってはいるものの、緊張で胸がちくちくと痛い。あたしの予想通りなら、ここは敵地で誰1人として味方もいないのだ。
周囲を改めて見てみると、さっきのしたっぱはエスプレッソを頼んでいたらしく、店員がそれを運んでいた。口をつけながら、やっぱりこっちを見ている。
チラと盗み見れば、店員も特に仕事をするわけでもなく、予想通りこっちを見ている。いいから仕事しろ。
「……ココアは嫌だったかい?」
不意に話しかけられ、あたしは焦りながらもフラダリさんを見る。彼は、あたしの前に置かれたココアに目を落としていた。心配するかのように、少しだけ彼の目が細められている。
「あっいや、すみません猫舌で冷めなきゃ飲めなくって……!」
「そうか……謝る必要は無いよ、ゆっくり飲みたまえ」
くうっ、真顔過ぎてなに考えてるかてんで分からない!さすがにいきなり毒殺はしない……と思うけど!
っていうかフラダリさんあんた、何も飲まないの!?ますます怪しい!
……「猫舌」、咄嗟に出たウソのわりには上出来かしら。ふぅーふぅーと息を吹きかけるフリをして、匂いを確かめても毒が入ってるか入ってないかなんてわからない。
あんまり不審な行為をして、この人をフレア団だと疑っているのをバレても厄介そうだしなぁ。あたしの杞憂だってことも無きにしもあらず。ちゃんとした物的証拠は無いのだから。
客にフレア団したっぱがいるのだって、フラダリさんがそういう不良(?)を差別せずに、客として招き入れる人格者ってことなのかもしれないし。
仕方ない。さっさとこの重苦しい空間から抜け出すためにも、話しかけてみるか……
あたしは唾を飲んだ。
「あの……フラダリさん、ここってあたしなんかが来て良い場所ではないのでは…?」
「ふむ、そんなことは無いのだが。一体、何故?」
「ええっと…以前博士とフラダリさんとここでお話したとき、店員さんに『スーツではないのですね…』と言われてしまったものですから…」
『フレア団みたいな赤いスーツなんて持ってませんしィー!!』と、挑発的に言いたくなるのをこらえつつ、続ける。
相変わらず、緊張がピリピリと走っている。ひざに置いた左手をぎゅっと右手で握った。
「お客さんがスーツで通わないといけないような、すごく格調高いカフェなんだーと思って……ホラ、あたしって普段着ですし」
「ああ……確かにスーツのお客様もいるけれど、必須ってことではないよ。博士だって白衣だっただろう?」
「そりゃあ、あれでしょう?博士はフラダリさんとお知り合いだから、VIP待遇みたいな…」
「……でしたらキミもVIPですよ、選ばれし者ですから」
――…出たよ、選ばれし者。
この人の大好きな言葉だよ。そしてあたしの苦手な言葉だ。
この人はよくあたしを選ばれし者として褒めてくれる。褒めてくれるんだけど……この人の定規で測られたという感じがして、あたしはあんまり好きではない。
人間は誰だって自分の定規を持っているものだとは思う。ただこの人はなんかそれを全面に押し出してるというか…あたしという個人を褒められている気が全然しないというか。
――…いい機会だわ、ハッキリ言ってやろうっと。あたしは相手をしかと見据えた。
「以前から思ってましたが、あたしはフラダリさんが思ってるほど大した人間じゃないですよ!すごい生まれってワケでもないし、博士から図鑑貰えたのだって、たまたまですし」
だからもう、あたしに関わらないでくれません?と言外に。
「ご謙遜を。たとえ図鑑が貰えたことがたまたまだったとしても、メガシンカを成功させたではありませんか。きみよりも長くポケモンといたわたしにすらそれは出来なかった。十二分に大した人間です、自信を持ってください」
厄介ね……親切心で言っているらしいところが、またタチ悪い。真顔のせいもあるからだろうか、声にまだ硬さが残っていて、あまり褒められている気もしない。
あたしは思わず苦笑した。心にのしかかる不安や緊張は消えない。
「それでですね、したい話というのが……以前の質問の回答、是非おきかせ願いたいのですが」
「え?えっと……」
「メガシンカはすべてのポケモンや人に可能性があるのか、選ばれた存在のみに秘められているのか……何を意味しているのか、その答えです」
「……ああ、あのホロメールの」
そんなもん、知らんがな!!!って思ったアレだね。
キズナの力がどうのこうのとか言っていた気がするけども、あたしの体感では流れに沿ってやっていたら、なんか出来たって感じだったから可能性とか意味とかまったく考えてないんだけど。
よくわからないけど、ノリでできました!って言ったら、失望してくれないかなぁ。それとも、ノリでやってしまうなんてさすが選ばれし者だ!って流れになるのかしら。うん、後者は嫌だね。
ふと雨音が小さくなったように感じて、再度窓を見る。空は曇ったままだが、少しずつ上がってきているのがわかった。
フラダリさんを見るのはやっぱり苦手だと、意味も無く視線を床に這わせる。どこを見ても真っ赤っ赤で、目に痛い配色だ。燃える情熱だかなんだか知らないが、やりすぎのように思う。
あぁ、あんまり視線が定まってないと、挙動不審かな……仕方ないか。よし、ココアでも見ておこう。
「……うーん、やっぱり今までの進化のことから考えて、一部のポケモンなんじゃないでしょうか」
「ほう」
「今までのポケモンも、進化しない子はいた。これから発見されるポケモンにも、進化できない子はいると思います……それと同じように、メガシンカする子もしない子もいるんじゃないですか」
「なるほど、それの意味していることは何だと思います?」
「え!……ええっと、みんな違ってみんな良い!です、かね……」
人差し指をピンと立てて言ってみる。あんまり難しい質問をしないでほしい。
あたしだって今他の緊張や考え事でアタマがいっぱいいっぱいなのだ。主にフレア団とかフレア団とか、フラダリさんのせいで。
あたしの推理上、めちゃくちゃ怪しいフラダリさんはやっぱり真顔。なにを言えば正解なのかわからない。
「ポケモンの多種性によるもの、ですか……確かに、変化の無い所に発展は無いものだ」
フラダリさんは腕を組んで、真剣に考えているようだった。
適当に思いついたまま言っちゃっただけに、この人怪しすぎるとはいえなんか申し訳ない…
「うーん、我ながらしっくりこない、ですね……すみません、やっぱり博士とか、専門家に…」
「いいえ。メガシンカを成功させたのはキミなので。キミの意見が知りたかったのです」
どのような言葉が正解だったのか?それは重要じゃない。大事なのは、何を言えばこの人が納得したか?だ。
眉をひそめたり、いぶかしげな表情はしていなかったからおそらくトンチンカンだとは思われなかっただろう。
雨音はもう聴こえない。空はまだ灰色だったけれど、とりあえず雨は上がっていた。
よっしゃあ!いち早くあたしは反応する。勢い良く立ち上がった拍子に、ガタッと赤椅子がうしろに下がった。
「あっ、雨やみましたよフラダリさん!あたし、もう行きますね!」
窓を指させば、フラダリさんの青い視線もまた窓へと注がれる。少々驚いているようにも見えた。
「そうですね。ですがまだ曇っている……念の為にカサを」
「いえ、今日は近くのポケモンセンターで休むつもりですから!お気遣いありがとうございます!あっ、あとココアごちそうさまでした、美味しかったです!」
あたしはさっさと床に置いていたバッグをひったくるようにして手に取る。精いっぱいの愛想笑いを顔にひろげ、フラダリさんに一礼をした。
フラダリさんは一瞬あたしから視線を外す。なにを見たのだろうか?いいや、気にしている場合じゃない。
「………それは良かった。お気をつけて」
「はいッ!」
フラダリカフェから足早に去っていく。
整備された道に溜まった雨が、走るたびにビチャビチャと跳ねているのがわかった。
さっさと、ポケモンセンターに向かう。軽く呼吸が上がったが、ここまで来ればもう大丈夫。
中に入ったらジョーイさんが笑顔で声をかけにきてくれた。ほんのわずかな距離だったけど、日常が戻ってきたように感じて心からあたしは安堵する。
・・・・・・・・・・・・・・
フラダリカフェは、再び静寂を取り戻していた。
その静寂をうちやぶったのは、客として入ってきていたフレア団のしたっぱの女性だ。
「ココアがおいしいなんて!ワタシはエスプレッソを勧めたのに!」
ぶー、とわざとらしく頬をふくらませ、店員に向かってそう愚痴を吐く。
黙りこくっていた男性店員も、そこでようやく口を開いた。
「はっ、あはははー!ココア美味しかったんだって。当然ですね、オレの入れたココアなんだから!あんな子供なんて滅多に来ないし、このオトナの味わかるかなーと思ったんだけど…」
男の店員――…フレア団したっぱがそう自慢気に話すと、それに呼応するかのように女の店員も笑う。ウェイトレス姿の彼女もまた、れっきとしたフレア団したっぱだ。
さきほどの少女がいなくなった今、店内にはフレア団しかいない。
「確かに此処ってココアもちょっと苦めだものね。あの味が良いだなんて、あの子もなかなかスマート……」
「お前たちは何を言っているんだ」
目線を誰に向けることもなく、フレア団のボスが語る。
「彼女にココアの味がわかるハズが無い」
男は、1度も口をつけられなかった其れを見つめていた。湯気はもう、たってはいない。―――…最後まで受け取られなかった、彼の施しだ。
どうやらウソをつくのは下手らしい。わかりやすく両頬がこわばっていた。目に見えて、自分を不審がっている。
けれども心は落ち着ききっていた。動揺や吃驚など、何も無い。まるでさざ波1つ立たないかのように……そう、決して予想外では無かったのだ。
「え!?ええっ、フラダリさま…あの子供のお世辞だったってことですか……そんなぁ……」
「やっぱりエスプレッソが良かったのね!うんうん。遠慮しなくても良かったのに!」
「何なのあんたの謎のエスプレッソ推しは……確かにサイコーだけどさ」
トンチンカンなことをのたまい続けている部下たちを尻目に、彼は冷めきった其れを見続ける。
1つ、思うところがあるとすれば。決定的な対立する前に、選ばれし者かもしれぬ彼女の意見を、もう少しきいてみたかったのだが――…これもわたしへの1つの答えなのだろう、致し方ない。
「さて」
男は立ち上がる。カサはテーブル付近に置かれたままだ。
向かう先は、異様な存在感を放つ、あの食器棚の前。
「アレの調整に入るとしよう」
【完】