つぶやきギデオン   作:赤銀

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↓ギデオンの営む洞窟カフェで過ごす新作です。
トリッカル1周年。ありがとう。

https://syosetu.org/novel/423395/


小石3個目

 

 

ギデオンがいる。

 

何かを見ている。

 

木と木の間に、布が張られている。

 

ゆるく、揺れている。

 

「……これ」

 

少し間。

 

「ハンモック」

 

あなたはそれを見る。

 

「……寝るの?」

 

ギデオンは少し考える。

 

「寝てもいいし」

 

ぽつり。

 

「寝なくてもいい」

 

沈黙。

 

布は、少しだけ揺れている。

 

風はほとんどないのに、

 

ゆっくり動いている。

 

「乗るだけ」

 

ギデオンが座って、少し揺れる。

 

布が、ゆっくり動く。

 

「……こんな感じ」

 

あなたは少し困る。

 

「……何もしなくていいの?」

 

ギデオンはうなずく。

 

「うん。」

 

少し間。

 

「それが、これの使い方。」

 

沈黙。

 

あなたは立ったまま。

 

動かない。

 

ハンモックを見る。

 

少しだけ揺れている。

 

「……でも」

 

小さく言う。

 

「なんか、座りづらいよ。」

 

視線を落とす。

 

「乗ったら落ちそうだし」

 

指先が少しだけ動く。

 

「じっとしてるのも」

 

ぽつり。

 

「ちょっと、怖い」

 

沈黙。

 

ギデオンはすぐには答えない。

 

少し考える。

 

それから言う。

 

「……うん」

 

小さくうなずく。

 

「わかる」

 

あなたは少し顔を上げる。

 

ギデオンはハンモックを見る。

 

「ボクも」

 

少し間。

 

「ちゃんと休もうとすると、苦しくなるときあるし……」

 

ぽつり。

 

「置いていかれる感じ、するから」

 

沈黙。

 

布が、ゆっくり揺れる。

 

あなたはハンモックを見る。

 

まだ、揺れている。

 

ギデオンが言う。

 

「急に乗らなくていいよ。」

 

少し間。

 

「でも」

 

ぽつり。

 

ギデオンが端を押さえる。

 

「端、支えておくから。」

 

一拍。

 

「落ちにくいよ。」

 

沈黙。

 

あなたは、少しだけ近づく。

 

布に触れる。

 

やわらかい。

 

少しだけ、沈む。

 

「……」

 

まだ乗らない。

 

少し迷う。

 

それから、

 

ゆっくりと体を預ける。

 

ハンモックが揺れる。

 

少しだけ。

 

不安定。

 

落ちそうな感じ。

 

あなたの体が、少し強張る。

 

「……こわい」

 

ギデオンが言う。

 

「うん」

 

少し間。

 

「最初は、そうなる」

 

沈黙。

 

揺れは、少しずつ落ち着く。

 

一定になる。

 

あなたの呼吸も、

 

少しずつ、それに合ってくる。

 

「……ね」

 

ギデオンが小さく言う。

 

「なにかしようとしなくても」

 

少し間。

 

「時間は、進むよ」

 

沈黙。

 

洞窟の奥で、水滴が落ちる。

 

ぽつ。

 

ぽつ。

 

ハンモックが、ゆっくり揺れる。

 

あなたは、

 

何もしていない。

 

だけど。

 

しばらくして。

 

思い出してしまう。

 

頭の中がうるさい。

 

同じことが、何度も回る。

 

さっきの言葉。

 

あのときの空気。

 

「こうすればよかったかも」

 

「いや、でも」

 

止まらない。

 

少しだけ、眉が寄る。

 

ハンモックは揺れているのに、

 

中だけ、落ち着かない。

 

ギデオンがそれを見る。

 

少し考える。

 

それから、

 

静かに何かを置く。

 

小さな器。

 

ほのかに、香りが広がる。

 

あなたは少しだけ顔を動かす。

 

「……?」

 

ギデオンが言う。

 

「なんの匂いかわかる?」

 

あなたは少し考える。

 

鼻で、ゆっくり息を吸う。

 

やさしい匂い。

 

少し落ち着く感じ。

 

「……わかんない」

 

ギデオンは小さくうなずく。

 

「いいよ」

 

少し間。

 

「当てなくていい」

 

沈黙。

 

香りは、ゆっくり広がる。

 

ハンモックが揺れる。

 

「これ」

 

ぽつり。

 

「ラベンダー」

 

少し間。

 

「こっちは、ローズマリー」

 

もうひとつ、少し違う匂い。

 

「あと、レモングラス」

 

あなたはもう一度、息を吸う。

 

さっきより、少し深い。

 

「……」

 

頭の中の声が、

 

少し遠くなる。

 

完全には消えない。

 

でも、

 

さっきほど近くない。

 

ギデオンが言う。

 

「ぐるぐるするのって」

 

少し間。

 

「止めようとすると、強くなる」

 

沈黙。

 

「だから」

 

ぽつり。

 

「ちょっとだけ、別のもの入れる」

 

香りが、また少し広がる。

 

あなたは何も言わない。

 

ただ、揺れている。

 

沈黙。

 

ハンモックが揺れる。

 

水の音。

 

ぽつ。

 

ぽつ。

 

あなたは、

 

もう一度、息を吸う。

 

匂いが、少しわかる気がする。

 

でも、

 

ちゃんと当てようとはしない。

 

そのまま、流れる。

 

頭の中も、

 

少しずつ、流れる。

 

完全には止まらない。

 

でも、

 

さっきみたいに、引っ張られない。

 

ギデオンは何も言わない。

 

ただ、そばにいる。

 

ハンモックが、ゆっくり揺れる。

 

香りと、

 

揺れと、

 

水の音が、

 

まだそこにある。でも、

 

あなたはもう、

 

それを追いかけてはいない。

 

 

 

 

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